2018年05月15日

弱キャラ友崎くん(1)

弱キャラ友崎くん Lv.1 (ガガガ文庫)
弱キャラ友崎くん Lv.1 (ガガガ文庫)

小学館::ガガガ文庫:既刊情報
弱キャラ友崎くん Lv.1 | 小学館

なにこれめちゃくちゃ面白いじゃん。

なにを隠そう、1巻発売時に試し読みで切った記憶がはっきりとあります。序章が、こう……スクールカーストものをよく出してたイメージのある一時期のガガガ文庫とか講談社BOXあたりの作品を思い起こさせるところがあったというか。ああいうのを苦手にしてた自分にとって、この序章はそれだけで回れ右させるのに十分なものがあったんですよね。けど、いつのまにかだんだんと人気が出てきて、気づけばガガガ文庫の次期主力級の人気になってるっぽいのを目にするにつけ、しだいに気になってくるものがありまして。そうしてものは試しにと読んでみた結果が冒頭の感想でございます。いやー、これは、自分の直感もまだまだだなと思わされるところ。こんな面白い作品を見切っていたとは。反省しきり。

というところで、今年になってから読んだ中で思い返してみるとわりとベスト級だったのではとも思える本作。内容としてはやっぱりスクールカーストものではありまして。ただ、そのジャンルの中ではやや変則的な印象を受けるというか、スクールカーストの存在は前提にしながらも、それをネタにして、それを土台にすえつつ、カースト底辺のゲーマーがまさにゲームのごとくそれを攻略していくことになる話。平たくいってしまえば、スクールカーストものにビジネス書的なノウハウ論をくわえた学生生活攻略指南小説とでもなるでしょうか。

これがくりかえしますけどめちゃくちゃ面白かったんですよね。リアルでスクールカースト底辺の陰気なキャラになるにはそれなりの理由があって、どこがダメで、それをどう直していくべきかが具体的に描かれてて、ちょっとした失敗を重ねながらも、すこしずつ成果があがっていき、底辺のままでは縁のなかっただろうクラスメイトたちとの思いがけない交流が生まれるようになっていく。振り返ってみればわりととんとん拍子ではあるんですけど、そこがまたよくって、読んでる人に成功にいたる明るいビジョンを示してくれるのがうまいんですよね。やればできるんだと思わせてくれるというか。

でも、読んでる最中にはとんとん拍子でうまくいってるとは思わせなくて。それどころか、失敗しながらでも挑戦すればするほど効果が出る感じというか、まさに経験値を積んでレベルを上げていく感じがとても楽しいんですよね。これがゲーマーから見た人生の進め方なのかと、また別の種族である本読みとしては目からうろこが落ちるような世界観の提示に目を見張らされるものがあって。最初はちょっとした用事を作って声をかけるにもうじうじ考えてしりごみしそうになりながらやっとのことだったのが、そのうち身構えることなく会話ができるようになっていき、後半には二人きりでのイベントなんかが生じる相手もできてくる。やった分だけ着実に成果が出てるのが目に見えてわかるこの感じ、ダイレクトに手ごたえのつかめる挑戦をしている感じがとても楽しいんですよね。

しかも、階層上昇のお供にはとびきりの美少女つきとくるんですよ。(ライトノベルの体裁としては)最高ですよね。まあお供というか、師匠というか、コーチというか、そんな感じですけど。ともあれ、本来はスクールカースト底辺であるはずの主人公がそんな挑戦できわめて効率的に成果をあげられている理由としては、同じメソッドの先達として役割づけられている彼女の指導とフォローの存在が大きくて。メンターなしでまねするのはやや危険がつきまとうのではという気もするのですが、それはさておき、カーストのトップ層に位置する彼女のバックアップがあるからこそ、同じく上層に位置する人たち(かわいい子もたくさんいる(ここ大事))とも風当たりなくお近づきになれるし、挑戦して失敗してもトラウマ級の傷を抱えることなく円く収めてくれるしで、めちゃくちゃ頼りになること。

そしてなにより、メンターであるところのその日南さん、とてもかっこいいんですよね。勉強も運動もできる完璧な美少女として認識されていても、普段の言動はクール系とまではいかずに愛嬌のある美少女で、どちらかというとかわいいという形容詞が似合いそうなキャラであって。でも、ちょっとした経緯で師弟関係っぽくなった主人公にだけ見せる同じ「ゲーマー」としての彼女の姿は、尊敬の念すら覚えるほどのトッププレイヤーぶりであって。これはもう本当に仰ぎ見たくなるレベルであって。だからこそ、主人公が目標に据えるのにもわかるものがあるというか。ラストのふたりのやりとりは、なんというかもう、主人公ならずとも高揚感に襲われるものがありますよね。1巻でここなら、2巻では、さらにその先では……と、期待させてくれるシリーズですね。次の巻を読むのも楽しみです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:51| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

とりかえ・ばや(4)

とりかえ・ばや(4) (フラワーコミックスα)
とりかえ・ばや(4) (フラワーコミックスα)

とりかえ・ばや 4 | さいとうちほ | 【試し読みあり】 – 小学館コミック
とりかえ・ばや 4 | 小学館

ちょっと石蕗さんすごすぎませんかね……。まだ確定ではないですけど、もし本当ならこれはもうおそるべしですよ。

ただ、そうして後戻りのきかない事態への発展においてはとんでもなさを見せつけてくれる石蕗さんだけど、手が早いという印象では特にないところがあって。本当に好きになった人としかそういう関係になってはいないように感じるんですよね。沙羅とのやりとりはどこまでも焦がれるような想いに満ちた愛情の発露ですし、四の姫とのやりとりを見てても気持ちが通じ合っているところは十分にうかがえる。喜怒哀楽の感情が激しいからこそ見ていておもしろい人ではあるし、他人の感情への共感力も高いからその場その場で見れば好ましい人物に思えてしまうこともあるのはわからなくないというか。けど問題は、その情熱の対象がひとりには限られないということですよね。あちらへの恋情も本物。こちらへの感情も本物というわけで。そして心を通わせることと体を重ねることがわりと境目なくつながっていくタイプなものだから、結果として沙羅があてこするような人物像ができあがるというもので。まあそうはいっても、ラストの展開はすごすぎですけど。

これいったいどうなっちゃうんでしょうね。ものすごく気になってきましたよ。めちゃくちゃ下世話な興味心ですけど。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:31| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月09日

アリスマ王の愛した魔物

アリスマ王の愛した魔物 (ハヤカワ文庫JA)
アリスマ王の愛した魔物 (ハヤカワ文庫JA)

アリスマ王の愛した魔物 | 種類,ハヤカワ文庫JA | ハヤカワ・オンライン

傑作。表題作「アリスマ王の愛した魔物」は東京創元社から出ている年刊SF傑作選にて既読の作品で、いまあらためて読んでもやっぱりとんでもない。そのほかの話は、「アリスマ王〜」に比べればSF色が強めの話が多いけれど、人と人、人と物、物と物が心を通わせあう交流を描いた話がやさしくも心に訴えかけてくるものばかりで。ベテラン作家の確かな手腕を感じさせてくれる一冊でした。

以下、各話感想。


「ろーどそうるず」

バイクの統合制御ユニットと、そこから送られてくるリポートを受信する担当ユニットとのやりとりという、人が登場せず物と物の話をいちばん最初に持ってくるこの飛ばしよう、嫌いじゃないです。人ではないにもかかわらず人間らしい思考をする彼らがどこかおかしく、けれど読み進めていくうちにだんだんと感情移入させられて、統合制御ユニットに待ち受ける苦難についつい読み入らされてしまう。うまいですよね。ラストが希望を持たせてくれる終わりかたで、これひとつでもある程度の満足感を得られてしまうくらいで。短編小説のよさですね。


「ゴールデンブレッド」

「タタミ・マット」なんていう、サイバーパンクな世界をイメージしてしまいそうな出だしからはじまって、けれど話としては、農村っぽい和風異星界に不時着した欧米風主人公が、その星から旅立っていこうとして果たせないでいるうちにそこの人たちと交流を深めていくという、人と人との文化の話。というか、これは姉さん女房との馴れ初め話ですかね。けんかっぽいやりとりをくりかえしながらも、なんだかんだでお互いのことを受け入れていく。ええ話やね……(しみじみ)。知識はともかく食の好みはそうそう短期間では変わらないだろうから、苦労しそうだけど。


「アリスマ王の愛した魔物」

森羅万象ありとあらゆる数を数えあげる性癖を有した小国の末王子が、戦乱の中から途方もない犠牲の上に覇業を築きあげる、ひとりの人の話。あるいは、異常な執着を持つ人と、その望みを叶える術を知る魔物の話。人を人と思わぬ人の話。くりかえしになりますが、傑作。幼いころから物事の数を数えることに取り憑かれてきた王子が、その数字を駆使し、数字と数字を組み合わせ、数字と数字を掛け合わせることで頭角を現していく物語。ファンタジー風の外見のなか、骨子にあるのは数学で、物語世界中では異常な領域にまで到達した数学力によって、ありとあらゆる可能性の中からあり得べからざる結果を引き出していく覇業ぶりができすぎなくらいに爽快で。けれどその過程において多大な犠牲ももたらされるんだけど、そんなことには無頓着に、ただただ数字を数えあげ、数字から数字を導き出し、数字をもとに覇道を突き進むことしか眼中にない王子(とその従者)がめちゃくちゃクールに狂ってて。敵も味方も情け容赦なく死屍累々にして、その上に築かれる国家の盛衰はすさまじく、凄絶の一語に尽きる。読んでてにやにやと気持ちの悪い笑みが収まらなかったことといったら。己の欲求に従い楽しみを追うがまま地獄のような覇業を成し遂げる王子、決定的な知識をもたらして王子をそそのかした魔物のような従者の物語、最高に面白かったです。読後呆然とした虚脱感に襲われてしまうようなすさまじい話。けれどきわめつけは、これだけとんでもない話を描いておきながら、ページ数としてはこの本のうちの40ページくらいの分量でしかないということで。こんな話を読まされたら、短編小説というものに魅了されずにはおられませんわ。文章の語り口としては、語り手が聞き手に昔ばなしとして語って聞かせるという体であって。ところどころに下卑た冗談が混じったりして、そのせいで話自体も猥雑とした印象になってしまうんだけど、そうであるからこそ荒唐無稽なまでのアリスマ王の覇業のすさまじさがいやまして感じられるところがあって。もうなにからなにまで、とんでもない一作でした。


「星のみなとのオペレーター」

小惑星の宇宙港で管制官を務める人と、彼女になついた謎の生き物と、ときどき彼女の気になる人の話。主人公の女性が彼らと交流を深め、お近づきになったりなられたりする話。読みながら「ウニと和解せよ」なんてフレーズが思い浮かんだり……というのはともかく、居住圏の拡大を求める地球外生命体とのコンタクトがあったりして、読みかけの同作者の別作品を思い浮かべたりもしましたが、こちらはどこまでもほのぼのとした雰囲気の話で。いくつかの話が最後の展開につながっていくつくりでありながら、それでいてこれも100ページなくすらすら読めてしまうというのが、やはり短編小説のおもしろさであり。


「リグ・ライト――機械が愛する権利について」

亡くなった祖父の遺産として自動車を相続した女性と、その車に必須の付属物として付随してきた女性型AIの話。あるいはタイトルにあるとおりの話。収録話中では最長で、100ページをわずかに超える長さ。とはいえこれもすらすらと読ませてくれるものがある話で。というか、主人公が同じ職場の女性と付き合ってる女の人という百合設定のおかげで、ふたりの関係と、そこにいわく主人公の好みのタイプな外見の女性型AIがくわわって、どんな関係模様になっていくんでしょうねとか、いろいろ気になってどんどんページをめくっていってしまうという、とてもわかりやすい百合好き読者の図と化していたという。とはいえ、話としてはもっとSF寄りな部分に焦点が当たるもので。機械が心を持つということ、機械が誰かを愛するということについて、現実世界以上の技術水準ではありながらそれでもなお発展途上の子どものようなAIを通して、それがどんな感じのことなのか、雰囲気をうかがわせてくれる話でありまして。この辺、もう少し詳しく描いた話も読んでみたいかなーと思わせてくれるものがあり。地味に関係が進んでるシキミと朔夜のふたりのやりとりももっと見ていたい気分にさせられるものがありましたし、長編化もぜひどうでしょうか。


という感じで、「アリスマ王〜」がとにかくすごくて、この話ひとつのためだけにもオススメしたいくらいですが、ほかにもしっかりまとまっておもしろい話がいくつもある短編賞作品集なので、気になる人には全部ひっくるめてぜひぜひと勧めてみたいところです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:24| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月02日

境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神

境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 (MF文庫J)
境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 (MF文庫J)

境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 | 境域のアルスマグナ | 書籍 | MF文庫J オフィシャルウェブサイト
境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 - パルプピロシ/絵戸太郎(MF文庫J):電子書籍ストア - BOOK☆WALKER -

小さなころから懐いてくれてた妖魔の蛇が、契約主である主人公の命の危機に際して半人半蛇の姿を得て、主人公LOVEの暴走ぎみな妖魔妻として愛を叫びまくる話。ではなく、おじさまLOVEな養父一家の双子の問題児妹たちにからかわれふりまわされたり、かつての幼なじみと再会したりして、かわいい女の子たちに囲まれてどたばたとした交流を深めていく話。でもなく、亡き両親から受け継いだ力によって、情け容赦のない切った張ったの闘争社会に巻き込まれていく話。でもなく、その辺を全部まぜこぜにして勢いのままに読ませてくれる、近未来異能アクション。

最近あんまり読んでなかったタイプの話ですけど、異能バトルはやっぱりこういうゴテゴテとした設定がバンバン出てくるのがいいですね。ワクワクしてきます。たしか3巻まで出ているということで、次の巻を読むのも楽しみにしたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:43| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月27日

不器用愛の侯爵とあどけない若奥様

不器用愛の侯爵とあどけない若奥様(ガブリエラ文庫)
不器用愛の侯爵とあどけない若奥様(ガブリエラ文庫)

ガブリエラ文庫|不器用愛の侯爵とあどけない若奥様

父の死後、経済的に困窮したエリスのもとに、伯父の紹介によって社交嫌いで知られる侯爵オーガストが現れ、援助と引き換えに後継ぎをもうけるための結婚をすることになる話。

エリスがいじらしくてかわいかったですね。愛のない結婚だと頭ではわかっていても、オーガストのことを好きになってしまって。嫌われたくないからこそ、初めての夜の営みで恥ずかしいことを求められたり口にさせられたりしても応じずにはいられない。それどころか、好きになった人にそんなことを求められているのだと思うと、羞恥がよりいっそう体を敏感にさせて、オーガストにそんな姿をさらしているという感覚にさらなる快感の扉を開いていく。純真であどけないエリスであるからこそ、羞恥と快感にもだえる姿はたまらないものがあって、オーガストのほうではとある事情から彼女に必要以上に心を許さないようにしているのだけど、それでももっとエリスのことを可愛がりたくなる気持ちを抑えきれなくなってくるのもわかるというか。

それにからんで、その辺りのオーガストの事情に関しては、読者のほうにはなんとなく察せられるところがあるように描かれてはいるものの、エリスからしてみれば交換条件として結ばれた婚姻であるからこそ、オーガストから愛されてはいないんだと思ってしまって、そのことをしかたないと感じながらも同時にさびしさを抱え、それでも愛すべき妻としてふりむいてもらいたいと葛藤する心情がいじらしくもよいもので。報われてほしいと思ってしまうからこそ、最後にはすれ違いも解消されて、幸せな姿がみられたことに、満足のいく読後感でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:27| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月22日

社内恋愛禁止 〜あなたと秘密のランジェリー〜

社内恋愛禁止 ~あなたと秘密のランジェリー~ (蜜夢文庫)
社内恋愛禁止 ~あなたと秘密のランジェリー~ (蜜夢文庫)

蜜夢文庫編集部ブログ

表紙ではタイトルの後半部分のほうが明らかに大きく表示されてるんですけど、正式のタイトル表記を見てるとそっちはサブタイトルっぽくも思えたり。

それはともかく、ティーンズラブ作品です。下着メーカーに勤めるOLで、人には秘密でセクシーな下着をつけるのが趣味の主人公・愛花と、下着のデザイナーで彼女の会社の社長になったお相手・高瀬のお話です。

初対面からしてセクシーな下着を買おうとしていたところにそのデザイナーの男性と出会ってという、人には見せられないような一面を知られてしまったことによるもので、そんな地点からスタートすれば、いろいろさらけだして大胆な関係になるのも早かろうという感じのふたりの話。女性向けとしてはかなりえっち度高めというか、前半はとくに気持ちの交歓よりも行為を楽しむタイプのえっちが多く、このペースだとほかのTL作品の倍くらいそんな場面があるのかと思ったりもしましたが、中盤以降は恋のライバルとなるキャラの登場で気持ちのすれ違いからきずなの深まりが描かれていってと、恋愛面もしっかりしてて。えろとらぶの二側面をそれぞれの要素を打ち消すことなく描きわけつつ最終的にひとつにまとまる感じはいかにも、ではないですがTLらしさをつきつめたひとつの形のようで印象的だったり。

……というところなんですけど、感想としてはどうしてもえろかったというところになってしまうという。大胆な下着をつけて、好きな人のことを思っていたら、それだけで体が疼いてきてしまったり。そんな状態なものだから、彼女を見かけたお相手のほうもすっかりその気にさせられてしまって、会社にいるのに周りからみたら明らかに不自然なスケジュールの空白を作ってまで行為に突入して興じあったりとか、ちょっと女性向けにしてはえっちすぎませんかね。個人的には大歓迎ですが。

そして、前半のえっちな場面はそういうところもあるのに、最後のえっちはちゃんと気持ちが深まる幸福感を感じさせてくれる描写になってるからまたいいんですよね。波乱があったことで心情の整理がついて、自分にはこの人しかいない、この人だからどんなことでも許せるという、何物にも代えがたい安心感に包まれる感じがあるというか。

以上、えっち度高めで手堅いお話ということで、男性のTL作品入門としてもすすめられるのではないかと思ってみたり……いやどうなんでしょうね?
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:41| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月20日

魔導の矜持

魔導の矜持 (創元推理文庫)
魔導の矜持 (創元推理文庫)

魔導の矜持 - 佐藤さくら|東京創元社

姉弟子が序盤で退場してしまって悲しい……(前書き)

それはともかく、シリーズ第三作。

今回もすごくいいテーマでした。誰かにとっての普通なことが誰にとっても普通なわけではなく、むしろその人以外には誰も理解できないことだったりする。けれどそれはその人にとっては当たり前のことすぎて、むしろそうじゃないことがどういうことかもわからないくらいに「普通」のことであって。誰かに説明しようとしても、子どもの頭では自分にだけわかる感覚というものをかみくだいて説明するなんてことはできるはずもなく。知識のある大人ならば、より専門的な知識のある先達ならばと期待をかけてみるも、これっぽっちも理解を示してはもらえない。それどころか、ほかの子どもたちならば普通にできることができないことから単にやる気がないのだと疎まれていき、しだいに落ちこぼれの烙印を押されてることに諦念すら抱くようになってしまう。それがどれほど人から希望を奪っていくことか。普通とされる才能だけが認められ、そこからはずれる素質がなんの価値もないものとして顧みられない社会が、普通からはずれた人たちに対してどれほど希望に欠けた社会として映ることか。だからこそ、理解できないながらも他人とは違う何かを持つ人だと肯定的に認識しようとしてくれる人物に出会えることの、なんとうれしいことか。普通ではないことがすなわち劣ったことなのではないのだと、本人にとってはまぎれもなく「普通」のことであるその感覚を育んでいいのだと言われることの、なんとありがたいことか。それはほとんど無価値同然に思われていた自身の存在そのものを肯定してくれることであって。まるごとそのまま理解されたわけではないけれど、少なくともそのままの自分を受け容れてくれる場所がある。まったく同じではないけれど、特異な存在は自分だけではない。ならば、いずれ何かの役に立てる日も来るのかもしれない。そう思えることが、どれほどの希望と安心感を与えてくれることか。弱い立場に置かれている人をあたたかく、力強く包みこんでくれる。とても素晴らしいテーマの物語でした。

なんですけど、ストーリーのバランスがややよくないような気がするというか。一作目でも思ったんですけど、ラバルタにおける魔導士と非魔導士の対立情勢はどうにも荒削り感があるんですよね。その影響か、そことエルミーヌとにまたがる話になると、どうにも物語の雰囲気がそちらに引きずられてしまうところがあるんだろうかというか。

今回の話でも、エルミーヌ組のキャラクターはすごくいい感じでした。アニエスの自由さはあいかわらずで、リーンベルにまでいろいろ影響を与えたりして、なんだかこの世界ではすごく特異な自由さを感じさせる魔導士養成の場を形成してたりして。カエンス君もそんな自由人やら負い目のある妹やら目を離すとぶっ倒れてそうで気を抜けない旧友やらに囲まれて、あいかわらずの苦労人ぶりがほほえましかったり。殺気だった雰囲気がただようラバルタと比べてこのほのぼのとすら感じられる空気ですよ。そこに今回のデュナンもくわわって、今後はどんな空気が醸成されていくことになるのかと考えると、それだけで次も楽しみになってくるところがあります。

次の巻は6月予定とのことで、くわえてシリーズ最終巻との予告もあり。もっとこのシリーズの話を読んでいたかった気もしますが、ともあれ次も期待したいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:37| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月13日

先生とそのお布団

先生とそのお布団 (ガガガ文庫) -
先生とそのお布団 (ガガガ文庫) -

ガガガ文庫既刊情報へ
先生とそのお布団 | 小学館

読んでて心が痛い。なんだこれは。なんというものを書いてくれるんだ、石川博品は。めちゃくちゃ私小説風の話じゃないですかこれ。タイトルは私小説つながりで明治の某作品から取ってきてますか? でも、なまじ石川博品作品を全部ではないにせよそれなりに読んできた読者としては、この作品はつらい。たぶん一応ファンである作者の売れない現実をまざまざと目の当たりにさせられるのは悲しいものがある。面白い話を書ける人だと知っているだけに。実力はある人だとわかっているだけに。作者の商業的な成功を喜ぶことができないのが悲しい。そのために自分がなんの助けにもなれないことがくやしい。

そんな、なかなか斬新な読書体験をさせてくれる一冊でしたけど、なんだかんだいってやっぱり面白かったんですよね。「石川布団」という架空の作家の物語として描きつつも、固有名詞はいろいろ変えてるけど、これはあの作品のことだよねとか、作者の作品をいろいろ読んできた人ほどふつうにわかっちゃう部分があって。誇張があるにせよないにせよ、商業的にはぼろぼろで、つらいつらい言ってる布団さんだけど、ときに成功の予感にぬかよろこびしたり、やっぱりダメでどうしようと悩んでみたり、売れない作家の悲喜こもごもぶりが、くすりとさせてくれる面白さにあふれてるんですよね。

あと、相棒の猫。猫はいいですよね。布団先生以上の「先生」ぶりを発揮するしゃべるお猫様との作家生活は、景気のいい話とは無縁でありながらも、コミカルなやりとりが癒しを与えてくれて。

そして、ラストが、石川博品らしい、青春っぽさをを感じさせてくれるしめ方で。これまたいいんですよ。細々とでも物語書きつづける。そんな作者をこれからも応援していきたいなと思わせてくれる、いいラストだったんですよ。作者の持ち味をしっかり感じさせてくれる一冊だったと思います。

鳴かず飛ばずな布団先生とはふしぎなことに縁がつづいてる売れっ子作家の美良との関係とか彼女のキャリアが今後どうなっていくのかとかも気にはなってるので、ぜひともつづきを……と言いたいところですけど、話の性質上、早くても数年後になっちゃいますかね。というか、そもそもこの本も売上的にはどうなってるんだろうかとか気になってきてしまうけど、まああまり考えすぎないようにしましょうということで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:16| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月12日

蜘蛛の巣(上)(下)

蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫) -  蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫) -
蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫) -  蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫) -

蜘蛛の巣〈上〉 - ピーター・トレメイン/甲斐萬里江 訳|東京創元社
蜘蛛の巣〈下〉 - ピーター・トレメイン/甲斐萬里江 訳|東京創元社

七世紀のアイルランドを舞台にしたミステリー。ローマ・カトリック教会への移行がはじまりつつも、まだ多くの部分でケルトの要素を反映したアイルランド教会の文化・様式がはっきりと存在する辺境のキリスト教世界。学者としても注目すべきキャリアの持ち主だという著者ならではのケルト的アイルランド社会のあざやかな描写に目を奪われる。議論癖を持つ主人公のフィデルマによって対比されるローマ式とケルト式の違い。罪には相応の刑罰を与えるのではなく金銭の対価で贖うという法慣習など、新鮮な社会の様子が面白い。ケルト側が劣っているというわけでは決してなく、この地域ならではの文化を豊かに発展させてきながらも、王クラスの決定によってローマ式の導入が社会の趨勢となりつつあるところにうっすらと哀愁を感じさせるところもあり。

あと、この話の舞台は当時のアイルランド内でもわりと地方の村落的な居住域が舞台なんですけど、そこに登場する男性キャラクターの「〜〜なんですわ」という口調が、ひどく田舎くさくならない程度で、でも絶妙に地方のおっさんっぽさを感じさせるところがあって、とても印象的だったり。

日本ではこれが最初の刊行作だけど、本国では実は5作目にあたるということで、前後のことがいろいろと気になってくる記述もあり、もっとこの世界の話を読んでみたいと思わせてくれる話でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:59| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月01日

めがはーと

めがはーと (ビッグコミックススペシャル) -
めがはーと (ビッグコミックススペシャル) -

めがはーと | 小学館

夫婦や大切な人どうしで、寿命が譲渡できる世界を舞台にした読切短編マンガ集。いろんな愛の物語。

こういうの好き! っていう話がいくつもあって、かなり満足度の高い一冊。

もともと名前は聞いたことのある作家さんで、少なからず気にはなってたんですが、なかなか機会がなく。そんなときに新刊情報をチェックしてたらちょうどこの本を見かけまして。どんな話なんだろうかと試し読みを読んでみたら、もう即座に購入決定させてくれる話の雰囲気でひきこんでくれることといったら。

そんな、いきなりこちらの好みを打ち抜いてくれたのが「episode01」、大学生の男の子とその大学で働く年上のおねえさんの話。アザミさんが激烈にかわいかったです。観覧車のなかでの言葉が、もう、とんでもない殺し文句でした。お互い好き合ってて、付き合ってもいるふたりだけど、男の子のほうは自分の気持ちに自信がない。そんな男の子があんなこと言われたら、そりゃもうゴールイン直行ですわ。相当なものですよあれは。ひとつめの話ということで、舞台となる世界の紹介もかねた短めの話という感じもありますが、それもあって一直線に好みな展開を描いてくれてる感じがよかったですね。

そんな感じのピュアなひとつめの話から、ふたつめは都合のいい女の子の、傷つきながらもどうしようもない気持ちの話になったりして、けっこう雰囲気の温度差がすごかったんですが、青年コミックだとこんな感じにもなるのかなという偏った印象で納得してたりするところで。

一話読み終わったときの満足感がいちばんだったのは、次の「episode3」かもしれません。小さなころからかわいくてトップアイドルにまでなった妹と、そんな妹と比べたらどこまでも普通で平凡な兄の話。そんなふたりの許されない気持ちと、その行く末の話。重たいですね。タイトルにも含まれているようなメガトン級の気持ち。でも、だからこそ、最後の1ページにすごみがありますよね。あとがきを読むと、作者の目にはアイドルってこんなにもまぶしく映るものなんだなあと、そういう意味での新鮮な驚きもあったり。あと、そういうキャラとして造形されているだけあって、妹、かわいいんですよね。単純に顔がいい。そして、回想シーンでの、お兄ちゃんへの一心な想いがあふれ出る妹はかわいかったですね。バカだったあのころの自分みたいな思い出し方をしてるせいか、それが妙な隙を感じさせるというか。

けれどなにより、いちばん好きなのは、最後の話、「episode4」。キャバクラの嬢から漫画家のアシスタントになった女性と、その師匠にあたる漫画家の女性の話。つまりは百合なのでした。椎名さんがかわいい。ひとめぼれした心愛視点で描かれてるものだから、最初からすごくかわいい。同じ女性どうしだからどこか無防備だったりして、とにかくかわいい。偶然の出会いから、仕事仲間になって、関係性を深めていって……と、もう完全にお幸せにという雰囲気で、まさかこんなところで百合分が補充できるとはと意外な出会いに感謝の念を抱いたくらいでしたね。ただ、冒頭やら途中の挿入やらから、不穏な前フリされてたんで、結末としてはわりとお察しくださいというか。思えば最後のほう以外、全部、椎名さんがかわいさがいとおしくて、椎名さんの漫画の才能を尊敬する心愛視点での描写でしたからね。椎名さんを追いかけるように漫画を描きはじめて、無邪気に椎名さんを慕いつづける心愛に対して、椎名さんがどう思ってたかは、決定的な瞬間が訪れるまで気づけないでいたんですよね。見て見ぬふりをしていたというか。大好きな椎名さんといっしょに暮らしながら、大好きな椎名さんが教えてくれた漫画家としての道を進んでいくという、なによりも幸せで満たされていた時間が、一転して地獄のような苦しみにもがく日々へと転落する。その苦悩の隘路からふりかえるからこそ、過去の幸福な日々がどれだけあたたかで満ち足りた時間だったかを痛感させられることといったら。けれど、それでも、椎名さんが示してくれた道を進みつづけるしかない。進みつづけなければならない。なぜなら、その結末は自分自身の愚かさが原因なのだから……。そんな泥沼のような苦しみのなか、それでも椎名さんとの縁(よすが)にすがって生きあがく心愛の姿は、それゆえになによりも尊い想いの発露であると思うのです。重たいですよね。けれど、だからこそ素晴らしいと思うのです。とてもよい百合でした。

そんな感じで、内容的に読み応えのある話もいくつかあり、満足度がかなり高い一冊でした。こういうの好きなんですよねえ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:09| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする