2019年07月28日

異世界国家アルキマイラ 最弱の王と無双の軍勢

異世界国家アルキマイラ ~最弱の王と無双の軍勢~ (GAノベル)
異世界国家アルキマイラ ~最弱の王と無双の軍勢~ (GAノベル)

めちゃくちゃ熱かった。突然に転移してしまったゲームのようでそうでもない異世界で、けれどだからこそ、その世界で出会った人々はゲームのNPCのような存在感のうすさではなく、一個の生命を持った存在として認識され、記憶されていく。であるならば、その身に降りかかる不幸は決して機械的なイベントとは捉えられず、身近な人物に起きた重大事件として、巨大な衝撃を伴って伝えられることになる。まして、平和な日本で生まれ育った三崎司(プレイヤーネーム:ヘリアン)からしてみれば、見知った人の命が奪われるというのは、受け入れることを拒みたくなるような悪夢でしかない。つい一、二日ほど前まであれほど健気に笑顔をふりまいていた少女が、無残にもその命を絶たれてしまった。その喪失感。理不尽な振る舞いに対する憤り。けれどそれ以上に、それを防げるだけの“力”があったはずなのにという後悔と怒り。それらすべてが渾然となった激情に端を発して出される復讐の号令。それはまさに、王たる者の怒り。シミュレーションゲーム世界からの転移らしい、万を超す臣民たちを前にした激情の表明、ものすごく熱い気持ちを伝染させてくれることで。

けれどそれをしてのけた主人公のヘリアンというのは、平和な日本で生まれ育った一般人でしかないのであって。まして、人を率いた経験もあるわけではない学生の身。あるのはただただVRのシミュレーションゲームで王としてプレイしてきた数年の経験のみ。それだけでこれほど心に響く演説をしてのけるのだからすごいというか。

でもそれは、なによりその演説に乗せられた感情が心の底から沸き立ってとめどないほどの身を焦がすような思いであったからで。

この世界に転移させられてきたヘリアンは社会経験のない学生の身でありながら、臣民たちの上に立つ王としての立場で振る舞うことを余儀なくされた。ゲーム世界からヘリアンともども連れてこられた臣民たちは、リアルでのヘリアンのことなど知る由もなく。けれどゲームのくびきからはずれたキャラクターたちはプログラムの制約からはずれて生身の人間のようにイレギュラーな立ち回りを見せるようになって。

ゲームの世界での記憶を持っているので、ヘリアンへの忠誠はあり、信頼して命を預けてもいる。けれどその信頼は絶対ではないのであって。ヘリアンが仕えるに足る王とはみなされなくなってしまえば、リーダーシップなんてよく知らない学生としての素が出てしまえば、その信頼はどこまで崩れてしまうかわからない。まして、ゲームでは所詮バーチャルな世界のこととしておそれることのない苦痛や死についても、ここでは現実世界のような恐怖がつきまとう。

臣下だからこそ弱みは見せられない。それでいて、仕えるべき王としての威厳や正しさを失うわけにもいかない。異世界に転移させられたことを受け入れるや、そんな孤独な苦しみに疲弊していくヘリアンの心理はとてもいいものではありまして。

けれどだからこそ、王としての崇高さにとらわれずに接することのできる、国の外の人間というのは、この状態のヘリアンにとってはかけがえのない存在ではあって。王と臣下といった絶対的な関係ではない、対等な友人のような存在に出会えることの、なんとありがたいことか。

そしてそれだけに、そんな存在が不当に害されることの、なんと許しがたく憤ろしいことか。

ヘリアンごと転移してきた都市って、今回登場してきた勢力と比べればめちゃくちゃ強力で、復讐の様相はまさに虐殺と呼ぶにふさわしい展開ではあったんですが。そこに最強もののような爽快さは微塵もなく、ただただ生かしてはおけない仇敵をひとり残さず屠らずにはいられない怒りと哀しみが同居する蹂躙戦。はたから見ればどっちが悪役かわからなくなってきそうなくらいなんですけど、そうせずにはおけない心情もわかってしまうのではありまして。

ただ、それでもやっぱり復讐では失ったものを取り戻せるわけではなくて。どれほどの力を持っていようと、覆せないものは覆せない。親近感を持った友のような人物の喪失が、王として以前のヘリアンにとって、どれほどの罪悪感をもたらしたことか。償いのために文字通り命を削って〈秘奥〉を連発する姿はもうやめてくれと懇願したくなるような痛々しさではありました。

正義をなすのが王であり、己の口にした約束は命を削ってでも果たすのが王であるというのが、ヘリアンの拙くも譲れない王のあり方であるというのが、これでもかと伝わってくる展開。ただでさえ孤独で精神的に疲弊していっているのに、身体までこんなに痛めつけてしまっては、体がいくつあっても足りるものではないでしょうよ。けれど、そこまでしても自らの思う王としての正しいあり方を貫こうとする姿は、それこそまさに人の上に立つべき者の理想像をかいま見ずにはいられない思いを抱かされてしまうんですよね。本当に、熱い気持ちを抱かされる“王”ですよ。

そして、それほどの思いが報われたかのようなラストは、もううれしくてありがたくて、こみあげてくる熱いものをとめようがありませんでした。男泣きのヘリアンのイラストが最高に素晴らしかったです。

最高に、最高に熱量のこもった物語でした。こんな物語を読んだら、好きにならないなんてありえませんよ。

そのほかにも、キャラでいえば、ヘリアンの側近であり第一軍団長のリーヴェもなかなかに気になるキャラではありまして。主のヘリアンを敬愛し、転移直後の動揺するヘリアンにいつにない身体的接近・接触をされてこちらも内心動揺しまくってる様子がかわいかったですね。人狼系種族らしく忠犬ぶりを発揮して、ヘリアンの指示や判断をあれこれ裏を考えては持ち上げてくる感じもくすぐったいような、けれど憎めない感じが悪くないところで。

前半は内向的なヘリアンの心理と持ち上げ系忠実臣下たちのキャラクターがおもしろく、後半は物語の熱量にあてられるようにして一気に読みきってしまう、そんな感じの話でした。ものすごくおもしろかったです。この一個前に上半期ベストな小説作品に出会いましたが、これもベスト級な作品でして、こんなたてつづけにものすごくおもしろい作品に出会えていいんだろうかと、幸せすぎて不安になってくるぐらい。

ともあれ、オススメできる戦記作品。ぜひ二巻以降も期待したいシリーズですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:15| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月27日

ルミナス=ブルー(1)

ルミナス=ブルー(1) (百合姫コミックス)
ルミナス=ブルー(1) (百合姫コミックス)

作品紹介 | コミック百合姫 | 一迅社

写真を撮る側と撮られる側、その間に幼なじみや転校生、先輩や元カノといったいろんな関係性の影がただよう四角関係百合、的な。

「楽しくて明るくてアニメ化も狙えるような作品」(あとがきより)とは。前作『透明な薄い水色に』も読んでますけど、そちらで切ないぐらいの思いがゆえに傷つけあうようにしてしまう女の子たちの話を楽しませてもらった作者さんらしく、いまはまだ明るくかわいらしい女の子たちの姿が中心に描かれているようではありながら、そこかしこにシリアスな予感をひしひしと感じさせてくれる様子にワクワクさせられてるんですがこれいかに。いやむしろ、それこそが楽しみという感があるので、かわいい女の子たちの楽しいお話にはなりそうな? なんかニュアンスが違いそうではあるけれど気にしない気にしない。

それに、前作でも思ったけれど、切ないほどに思いつめてる女の子の表情がめちゃくちゃ魅力的な作者さんではありまして。今作でももうすでに、昔付き合ってたけど、今は別れてしまっていて、けれどまだそれぞれに残る一方の熱意と他方の冷淡な感情に思いつめるあまねの様子がそれはもういいものでありまして。さらに、そんなあまねをカメラ越しに観察する先輩の心理はたいへんに気になるところではありまして。それらがほかのあれこれも含めて、次の巻ではこれ以上に楽しめるものになっていくかと思うと、とても楽しみですよね。

一読ではまだ核心にいたらずややあっさり風味ながらも、関係性がつかめてくると非常に味わい深くなってくる。期待の百合シリーズですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:26| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月26日

オペラ座の恋人(5)・(6)

オペラ座の恋人(5) (オパール文庫) オペラ座の恋人(6) (オパール文庫)
オペラ座の恋人(5) (オパール文庫) オペラ座の恋人(6) (オパール文庫)

オペラ座の恋人D |オパール文庫
オペラ座の恋人E |オパール文庫

よかった……とは言えない部分も多々あったけど、でもひと言で表すならこの言葉になる。よかった……。

落ち着くべきところに落ち着くところを見届けられた安堵感。けれどそれ以上に、見違えるほどに立派になった結花の成長を思い返す感慨に。

思えば、クラシック音楽が好きすぎるだけで、自分に誇れるところがあるわけでもなく、友人らしい友人も大学に一人しかいなかった女の子が。ベルリンの歌劇場で果たした運命の出会いをきっかけにして、どれほど大人の階段をのぼっていったことか。

もともとクラシックつながりで覚えのあったドイツ語は長期休みに連れまわされるようにヨーロッパの各地をめぐるなかですっかり実用レベルになり、英語や礼儀作法もいろんな上流階級の人たちと接することで自然と使いこなせる水準で身についていき、それに関連してビジネス関連での興味や知識の幅も広がって、そしてなにより女性としての美しさも磨き上げられていって。

シリーズ後半と初期の頃を比べれば、もう違いは歴然ですよ。とりたてて言うところのなかった垢ぬけない女の子から、スキル面でも人脈面でも引く手あまたで目をひかれる魅力的な女性へと。その間、わずかに2〜3年。それだけあれば変化には十分ともいえるんでしょうけど、それでも大学生という可能性に満ちた期間を思わせてくれる見事なまでの成長ぶりですよね。こういう話は本当に胸をしめつけられるような、それでいて憧憬を抱かされずにはいられないような魅力で、心をわしづかみにされてしまうものがあります。

3・4巻からひきつづきの、結花の心の深い部分に巣くっていた恐れとの対峙については、微妙に解決してないような気がしてならないんですが、それでも結花本人が出した答えは、そうであるからこそ祝福せずにはいられない尊さがあって、いつまでもふたりの関係がつづくことを願わずにはいられない気持ちにさせてくれるものがあります。それに、何もかもを相手に預けきったペットと飼い主の関係(だけ)ではなく結花自身も積極的になるからこそ選び出すことができたふたりの形だと思うと、このふたりの夫婦の姿というのは、もう本当に、どこまでも祝福したい気持ちにさせてくれるんですよね。

愛する人ができて、賑やかな友人たちに囲まれて、幸せな家族と出会えて、一生ものの決意をして、一生ものの枷で縛りつけられて。そうして最後の最後にしみじみと幸せを実感する結花の姿が見れたのは、シリーズの結末としてなによりうれしかったです。

そしてそうなってもまだ貴臣の前で初々しく赤面したりする姿はあいかわらず男をそそる危うい魅力に満ちていて。この5・6巻だとふたりとも多忙でなかなか顔も合わせられない時間がつづいたりしていたことから欲求不満を募らせたり、会えた時間にその気持ちをぶつけるように互いに貪欲に体を求めたり、結婚するとなれば避妊も解禁で子どもができても構わない、むしろ早くにほしいくらいだよねな感じの浮かれたような行為の数々は、やっぱりとてもエロティックだったと思います。

結花本人としては、貴臣を中心とした周りに流されるようにして過ごしてきた結果。なので、本人としては自分がすごい人であるなんて(この期に及んでなお)微塵も思ってないんだけど、結婚式に集まったメンバーがもう本当にすごいんですよ。本人にはどれだけ自覚がないとしても、もうとっくに平凡どころではないですよね。

結花以外では、やっぱり絵里とラリーのカップルがよかったですね。ラリーからの公開プロポーズに取り乱す姿がすごくかわいかったです。エリー、お幸せに……。

それと、貴臣の姉の千煌さんも。貴臣が頭の上がらない存在として、基本的にどこでも我が物顔で振る舞う貴臣がやりこめられる姉弟のやりとりはそれだけでいいものでしたが、それにくわえて弟同様に結花の庇護者を自負する姿がとても頼れる女性ではありました。最終的には、結花とも家族としての絆で結ばれて、幸せの形をより広げていくことになって。この辺は本当にできすぎなくらいではあったんだけど、でもやっぱり幸せに満ちあふれた家族の姿というのは見ているだけでよろこばしいものがあります。

本当に、思えば遠くへ来たもので。全6巻、あとがきによると3840ページ。書籍のティーンズラブ小説としては異例の大作ながら、それでもあちらこちらとまだもっと見てみたかった場面がいくつも思い浮かんでくる。それほどにどっぷりと浸れる物語でした。

平凡な女子大生だった結花の、めまぐるしいまでの三年間の物語。素晴らしいシリーズでした。このシリーズを読んでいたここ二週間ほどはずっと、幸せな微睡みのなかで過ごしているような、幸せな読書の時間でした(読み終わった直後は頭がぼーっとしっぱなしで、なんだかまだ地に足がついてない感じもしますが……)。

素晴らしい物語をつむいでくださった作者さんに心よりの感謝を。


(以上、6月11日)

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(以下、7月26日追記)

ここ5・6巻の感想も、やや抽象的でいまいち思い返しの役に立たないので、もうすこし詳細に立ち入った感想を追記していきます。


5巻は前の巻からひきつづいて、第七幕の途中からの開始。

プロポーズされたと結花から聞かされて盛り上がる絵里とカレンに対し、ずーんと沈みこんでる結花の対比がおもしろい。

そうそう、貴臣のプロポーズの言葉って、「結婚してほしい」でもなく「結婚してくれ」でもなく、「結婚しなさい」だったんですよね。問いかけというよりも命令とか指示とかそういった感じの調子で。でもそれが貴臣らしいと思わせてくれるところでもあって。

その一方で、プロポーズが全然うれしくもない結花のほうでは彼氏の実家訪問というとんでもないイベントがやってくるわけだけど、お迎えの準備とかなにやらで飛び出す小道具がいちいち桁の違いそうな高級品ばかりで、それを普通のものとして扱う絢子夫人の純粋培養セレブぶりにはもう笑うしかない。

ただ、そんな浮世離れした女性にも、会話のなかで千煌さんや貴臣の母親らしいふたりとの共通点を見出されて緊張がほぐれていく様子はさすがというか。それどころか、久世家のなかでもタブー化してた千煌さんとの縁を取り持つような話題の広げかたをしていくものだから、結花の型破りな好印象キャラぶりにあらためて驚かされる思い。本人無自覚だけど、こういうところがセレブな人の間でも好かれるポイントなんですよね。


と、先走って結花四年生の四月の話が入って第七幕終幕となったわけだけど、その後に入るのは短編集。時間はやや戻って春休みの終盤、三月下旬から四月の頭にかけて。舞台はアメリカ。

この短編集になると、ふたりの雰囲気はもう、年甲斐のないハネムーンのようなイチャイチャな感じというよりも、ちょっぴり背伸びしながらも新鮮な体験に満ちた恋人同士の感じというよりも、すっかりふたりそろってあちこちに顔を出す姿が板についた、連れ合いのパートナーという感じになってましたよね。結花の心のうちはともあれ、婚約者といわれても違和感がない。それだけに、周りからも当然そういう扱いを受けてしっかり立場が固められていく様子が、単純に海外で開放的であることに加えて、いい感じの雰囲気ではありましたね。

海外では人前でいちゃつくのも当たり前と教えこまれてきた結花が、自分以外の男を牽制して独占欲むき出しに結花とキスする姿を見せつけたりするのに、これくらい普通のことだよねとばかりにしっかり甘えた態度でそれを受けいれている様子がたいへんかわいらしいこと。

そんな地で出会ったのは、スイスのマナースクールの同級生でもあったアメリカの資産家の令嬢ギャビー。彼女の両親は久世家よりも巨大な資産の持ち主であるというから驚きだけど(貴臣をしてウチはあれほど金持ちじゃないと言わせるんだから、まじでもう笑うしかない)、ディララ然り、あそこの同級生って、わりと本気で世界的にも有数の令嬢ばかりだったっぽいんですよね。リストを見た久世家の人たちは当時から騒いでましたけど、そのほどを実例つきで複数見せつけられるといやでも実感させられることで。

「……ねえ貴臣さん、自家用機って、そんなに誰でも持ってるようなもの……?」(5巻118ページ)

なんてセリフも出てくるくらいには、親ではなくご令嬢個人で自家用機持ってる人が友だちに何人もいる状態になってきてて、結花の交友関係もいよいよとんでもないことになってきてるよねという。実はもうこの面では貴臣すらしのぐレベルだったり? つりあわない、とは……。

まあそんなギャビーに買い物に連れまわされてきゃいきゃい言いあってる様子はとてもかわいらしいものでしたが。その結果、貴臣から渡されたカードであれこれ買い物してしまったと罪悪感で震えている結花の姿(とはいっても貴臣的には絶対大したことない額だけど)はとてもとてもかわいかったんですけど。

そうこうしながらもその一方で、資産家つながりで保護者同士、コネクションを構築しにかかる貴臣さんの抜け目のなさはさすが。ただ、

「私がこれまでアメリカで出会った中で一番頭の悪い連中は、八割方アイビーリーグ出身だよ」(5巻149ページ)

というのは。そりゃ、貴臣さんが接したことのあるアメリカ人はそういうエリートコース出身者ばかりだから、そんなことにもなるんでしょうよという、実に高度なジョークであった。笑える(真顔)。

まあでもそんな一面をさらっと見せつけてくれつつも、結花との間は当然のようにお熱いところを見せつけてくれるのはさすがというか。

結花に絵里との約束をぶっちさせてまで致しはじめる貴臣さんというのは、もう本当にやってくれるというか。まあ結花と一緒にいながら二晩連続でおあずけをくらうなんて、盛りのついた貴臣さんにそれ以上の我慢を求めるのは酷というものか。

でも、いくらなんでも、怒りの電話をかけてきた絵里に包み隠さずこれからするところだから待ってろと告げるのはそれは本当にどうなんですか、貴臣さん。約束ぶっちして致してたカップルって、結花まで巻き添え食って白い目で見られちゃうじゃないですか。対面するだにあの時間からつい今しがたまでねえなんて不機嫌に勘繰られる羽目になった結花さんは泣いていいと思う。いやでもそこで羞恥心から縮こまる結花はとてもかわいかったので、個人的には許したい。絵里的には知らない。

そんな絵里とラリーのカップルも、結花と貴臣のような甘々さはないものの、こちらはこちらでこのふたりらしく関係が進展しているようで? 絵里、傍目には構いたがりのラリーをうっとうしげにはねつけてる感じではあるけれど、どうもその実はツンデレであるらしく、きつめな態度の裏にある照れ隠しを結花もラリーもしっかり見て取って、かたや生ぬるく、かたやいとおしげにそんな絵里の様子をながめているふたりがたいへんにいい雰囲気ではありました。

貴臣の昔の女との邂逅(半年ぶり2回目)では、貴臣の恋人としてすっかり覚悟を固めた結花の態度が目をみはらせてくれるところではありましたね。千煌さんに贈られた薔薇の香りの香水の効果も相まって、ひと回り以上年上な妖艶な美女に囲まれながらもひるむことなく、自然と湧き出てくるような自信に満ちた態度で対峙をしてのける姿はまさに千煌さんを彷彿とさせるものがあって。頼もしさすら感じさせられるものがありました。結花、もうすっかり、押しも押されもしない、立派な貴臣の恋人になれてますね。そんなことをしみじみと感じさせてくれる一コマ。素晴らしかったです。

かと思えばその裏でどっぷり酔いの回った絵里が、普段のツンツンぶりもどこへやら、ラリーにされるがままにスキンシップを受けいれてにへらとしてる様子が最高にかわいかったです。ラリー、やるじゃないですか。このふたりのカップルって、結花と貴臣とはまた違ったニヤニヤ感があっていいですよね。まあさすがに酒を飲ませすぎたっぽいけれど。しっかりついてたオチには笑った。これはリベンジ必須ですよねえ。その場面はどこで読めますか?

婚約指輪を用意だけはしたものの不安に駆られてる貴臣、あの貴臣が不安な心情を表に出すなんてと驚かされるけど、それは結花との関係をそれほど真剣に心の底から考えていることの証左であり、なんだかとてもほほ笑ましい気持ちにさせられるものがありますよね。まあもともと結花にプロポーズすることは一種の挑戦ではありましたからね。

物質的には結花を呆然させられるレベルの贈り物を用意することはできる。けれどそれは必ずしも結花が喜ばせることができるものではなくて。でも、本人が望むところが極端に少ない結花が相手では、そんなことでしか自分の気持ちの強さ大きさを表現する方法を思いつけなくて。己の愚かさに自嘲しながらもそうせずにはいられないほどの結花への想いを伝えてくれる心情がいいものではありましたね。

加えて、時期を考えれば就活で盛大にすれ違った直後だけに、なおさら失敗の許されない緊張感が存在しているわけで。似合わないはずの自信のない感情がふっと漏れる様子すらいとおしい。そんな発言がいいものではありましたね。

そういえば、その就活に際して、結花の足からはさすがにアンクレットははずされていたわけだけど、ここであらためて贈られるアンクレットがダイヤモンド製って……貴臣さん、ああた、相変わらずさらっととんでもなくお高いプレゼントをくりだしてくることで。しかも本人的には高級さよりも足枷の強固さを象徴するための頑丈さを追求したらそうなっただけとか宣うからものすごい。ここまでくると貴臣以上の大富豪も珍しくなくなってはきたけれど、そうはいってもやっぱりすさまじい。

まあそれを受け取る結花のほうも、それほどに強く感じ取れる執着心にうれしさを感じている様子がかわいかったりして、やっぱりお似合いなふたりではあるよねと思わせてくれることで。


以降の第八幕・第九幕・エピローグに関する言及はわけることなく一括で。

言及すべきポイントといえば、まずはやはり結花の誕生日。一年前もそうだったけど、結花の誕生日にかける貴臣の意気ごみはすさまじいものがあるよなあと、あいかわらず驚かせてくれるもので。

結花としては、日ごろからあれこれ贈り物はされているし、それどころか生活全部の世話も至れり尽くせりなレベルで見られているくらいなので、はっきり言って誕生日だからといってとくにほしいものがない。けれど貴臣としては、結花に贈り物をする絶好の口実なのであって。自分にとって結花がどれほど必要な存在なのか。ほかの誰でもない結花のためならどれほどのことをしてあげられるのか。それを結花本人に示してあげられる一年に一度の機会なんですよね。

だから、欲しいものがないといわれると、それならそんな結花でも喜べるものをどれほど手をかけてでも見繕って用意してみせなければとより力が入るのが貴臣であって。そしてそうなることが目に見えるだけに、何か欲しいものを見繕わないといけないと考えるのが結花であって。まあ、何が贈られるかあらかじめ予想がついていたほうが心臓にやさしいのは確かですからね。ただし、それでも生半可なものをお願いすればその最上級品を用意されるのは明らかなので軽々しく決めることもできないという。

なんだろうか、この、誕生日プレゼントがうれしいようなこわいような、なんともおかしな気持ちにさせられる不思議な攻防は。

しかも、そうして悩んで悩んでやっと結花が誕生日に欲しい手ごろなもの(変に話が大きくなったりしないはずのもの)を見つけられたと思ったら、それでもやっぱりとんでもないレベルでスケールをでかくしてくれるのが貴臣さんであって。結花の望みの物を調達すべく某所に電話をかけだしたひと言めのセリフを見た瞬間に笑わずにはいられませんでしたね。その手があったか!って、むしろ感心してしまうぐらい。

いやまあ言葉上はたしかにそういう解釈も可能ではあったけど、いくらなんでも、いくらなんでも……。結花への贈り物は意地でも最上級のグレードをとでもいうかのような、貴臣さんの面目躍如ではあったでしょうか。意表を突かれて呆然とする結花がめちゃくちゃにかわいかったです。そんな結花の顔を見るために、ではないんだけど、でもそれすらも贈り物を用意するべく奔走した貴臣への報いになるんだろうなと思うと、つくづく結花に入れこんでるんだなと思わせてくれることで。


加えてはずせないのは、結花のひとりエッチシーン。長期休み期間ではない、お互いに多忙な時期だからこそ、逢瀬の時間を、夕食デートでの意味でも夜のベッドでの意味でも楽しみにしていたにもかかわらず、急な予定で都合がつかなくなったとなれば、高めていた期待のぶんだけがっかり感がいや増さずにはいられない。そしてそれは、結花への抑えきれない欲望をかかえた貴臣だけではなく、ここまでくるとそんな貴臣に与えられる快楽への期待を貪欲なまでに教えこまれた結花にとっても当てはまるものであって。

会えるはずだったのに会えないのがさみしい。ひとりで摂る夕食の時間が味気ない。貴臣に埋めてもらえるはずだった空白感を埋めてくれるものがないのがさみしい。膨らむだけ膨らんだ期待を満たしてくれるものが手に入らないのがもどかしい。そうした満たされないもどかしさに耐えられなくなって自分の体に手を伸ばしだす結花のなんといやらしかったことか。

疼く部分に手を伸ばして、下着のうえからでもわかるほどにひとり変化しているそこに羞恥を感じずにはいられない様子。けれど自分がそれほどにいやらしい姿になれることを貴臣から何度も突きつけられて知ってしまっている結花には、それさえもそうしてくれる相手のいないさみしさを加速させるものにしかならなくて。

こんな程度では満たされないと、さらには敏感なところに直に指を這わせていって、耳もとで貴臣にいやらしく言葉攻めされる妄想までして、おさまらない疼きをやり過ごそうとする。けれど、どれだけ自分で自分を慰めても、絶頂に達しようとも、自分の手では貴臣のいない空白を埋めきることはできなくて。涙さえこぼしながら、それでも満たされない自慰を止められずに自分自身をもてあます。

もう、こんな結花、本当にやばい。やばいぐらいのいじらしさ。やばいくらいのいやらしさ。こんな卑猥な場面を、どうにかこうにか都合をつけてやってきた貴臣が目撃しようものなら、そりゃあもう欲望全開になるのは必然というもの。いやらしいところを見られた羞恥に真っ赤になる結花の表情すらも堪能して、これでもかと愛を注ぎこみたくなる。そんなたまらなさでしたね。

「……一人は、寂しい、な……」(5巻462ページ)

思えば、これが膠着状態に陥ったふたりの関係の突破口になる糸口ではあったでしょうか。結花としては貴臣と一緒にいられればそれでよくて、貴臣としては結花と結婚して一生自分のもとに縛りつけたくて。ふたりの希望の妥協点は結婚以外には存在しない。けれどそれに待ったをかけているのは結花のほうで。久世の家に入る覚悟が固まらないからではあって。

貴臣としては、それならそれで久世家と関わり合いにならないところで一生自分が飼い養うことも可能ではあるしいざとなればそのつもりではあったはずなんだけど、それでもあえて結花の意思による歩み寄りを待ったのは、ひとつには就活時のような関係破綻一歩手前の状況にいたることをおそれて。でもそれ以上に、自らの意思で将来を選んでもらったほうがより幸せな関係になれると思っているからではあり。結花がまだ学生の身ではあることをお思えば、まだ猶予期間があるわけではありますし。こうした葛藤の期間も、そうした期間だからこそのよさを感じさせてくれる作品なんですよね。

ただし、既述の部分でも書いたように、葛藤の末に結花が出した答えは、予想していたものとは違いましたね。

永遠の愛を信じられない、結婚に希望を持てない。それが結花の心に巣くう最大の障壁であるのなら、永遠の愛を信じられるようになることこそがその答えだと思っていたんですよ。でも、そうはならなかったんですよね。予想外なことにというか。

ただ、よくよく考えてみれば、トラウマレベルで染みついた恐怖を、それほどあっさり克服できるだとか、一、二年で克服しなければならないなんて考えるほうが、見ようによっては酷というものではあったでしょうか。もっと長く時間をかけてでも、根気よく向き合いつづけることでようやく克服できるものなのかもしれないし、それどころか一生つきあいつづけていかなければならないほどに根深いものなのかもしれない。恋や愛は素晴らしいものではあるけれど、万能の魔法ではないのであって。

けれど、その代わりに結花が出した答えは、既述分で書いたように、もっと素晴らしいものだったんですよね。貴臣が一生涯自分を愛してくれるのかはわからない。それは結婚したとしても、なお。でも、それならばそれで、いずれ飽きられてしまうそのときをおびえながら待つのではなく、むしろ結花のほうから、飽きられてしまわないよう、気に入りつづけてもらえるよう、貴臣に愛されるべく努力をしつづけることで、貴臣に捨てられる日がくるおそれを小さくすることはできるかもしれない。

それは、ただ貴臣から与えられるがままに愛を受け取るだけの関係ではなく、結花からも愛を与えあっていく関係。一方的なペットと飼い主の関係ではなく、好きでいられればそれでいい恋人の関係でもなく、互いになくてはならない存在だからこそそばにいて支え合う関係。つりあいがとれないならばふさわしい存在になれるように己を磨きつづけ、互いにいっそう目が離せなくなっていくような関係。だれになんと言われようとまどわされない、ふたりが望んでふたりで決めた、ふたりだけの関係。

こうした関係を目指すと決めた決意をして尊いといわずに、ほかのなにを尊べるのか。最高に素晴らしいカップルですよね。まわりにあれこれ言われて苦しんだり、つりあわなさに悩んだり、恋人として自信を持てずに泥沼にはまってしまった時期があっただけに、それを越えて、よくぞここまでたどりついてくれましたと、拍手すら贈りたくなってくるレベル。

特に結花。はじめてのひとり旅なヨーロッパでのどこか心配になる雰囲気を醸しだしていたことを思うと、よくぞここまで強くなったものと感慨深い気持ちにさせられるものがあります。ここまで至るには結花ひとりの力だけでは到底ムリで、数々の友人や知人、なかでも貴臣と過ごした時間なくしてはなしえなかったことではあるけれど、それだけに、その後の人生をすっかり変えてしまうほどの出会いというものに、涙が出てくるようなありがたさを覚えずにはいられないんですよね。

ここまでいたって、ようやくふたりの結婚を祝福することができる。1巻のうちからすでに既定路線に見えていた結婚をおだやかに祝えるようになるまでにどれほどかかったことか。プロポーズでさえ頭抱えさせられるものがありましたからね。本当に、長かった……。けれど、待たされただけのことはあったという結婚への決意。結花と貴臣、最高に祝福したくなるカップルになってくれました。

「……ん。わたしは、貴臣さんの、もの。でも」
「でも?」
「貴臣さんも、……私のものだって、思って、いい……?」(6巻400ページ)


このやりとりで、もう、感無量にされてしまいましたね。対等な関係としての愛を自分から口に出して、それをまちがいなく保証されて、泣きたいほどの幸せに顔を染める結花。主に3・4巻の苦しい展開を読んできただけに、どれほどそうして幸せをかみしめる結花の表情を待ち望んでいたことか。

そうして覚悟を固めてしまえば、第七幕であれだけ人生賭けるレベルでがんばった就活もあまり意味がなかったのかもという感じになってしまうのではあるけれど、でもそれしかないという道を否応なしに進まされることになるのと、いくつか選べる中でしっかり自ら考えて選んだ道に進むのとではわけが違いますからね。

それに、就活も含めて、そうした可能性をつかみ取ったのは、まぎれもない結花の実力によるものであって。それもまたこれまでの過程を経てきた結花の成長を思わせてくれるものではあるんですよね。喜びもあって、悲しみもあって、けれどそれらのすべてに意味があったと思える終盤の結花の姿。本当にまぶしいほどの成長ぶり。

ちょっと家出したと思ったら、そこでもまた久世家以上の世界的なセレブとのコネができてしまったりして。それすらも将来の選択肢のひとつにできてしまってるあたり、本当にとんでもない成り行きではありまして。

「しばらくは、フリーターということに、なるかと思います」(6巻455ページ)

そんなハイレベルなフリーターとか聞いたことないんですけど……というレベルでオンリーワンな高度人材ぶりを見せてくれる結花さん。いっそそのままフリーランス化していけそうなレベルじゃないですかね。

それに結婚祝いには貴臣から財団なんてものまでもらっちゃったりして、あいかわらず度肝を抜いてくれるからすごい。しかもバチェロレッテパーディーでその話をしたら、参加メンバーが大富豪の娘たちばかりすぎて、彼女たちの実家も巻き込んでどんどん話が膨らんでいく様子とか、もう本当に笑っちゃうレベルの異次元空間ぶり。話の流れについていけずに呆然としてたりもする結花の様子がおかしくもあるんだけど、でも結花さんもすっかりそんな世界の一員になってしまったんだよなあ。

6巻の終盤はもう結婚ムード一色で、祝福気分をこれでもかと盛り上げてくれるのがたまりませんでしたね。6巻の表紙がもう万感の一コマ。初夜であいかわらず卑猥なことをしでかそうとする貴臣さんは貴臣さんだったけど、それに応えて変わらぬ執着心に幸せを覚える結花の様子はなによりいとおしいものではあって。

それに、エピローグで簡単に描かれるその後でも、変わることなく愛しあい恋しあうお似合いのふたりである様子が描かれているのが最高に最高すぎて。もう本当に、最高な物語でしたね。1巻でハマって、2・3・4巻と呼んでいくうちにどうしようもなく好きになった物語が、期待にたがわぬ素晴らしいラストを迎えるところまで見届けることができた。そのことに、心からの感謝を覚えずにはいられません。本当に、素晴らしい作品でした。


結花と貴臣のふたり以外のキャラでいえば、絵里とラリーのふたりがやはりこの二冊ではとてもいい雰囲気ではありましたよね。

このふたり、特に傍目にはじゅうぶん伝わってくるラリーとの甘い関係を指摘されて耳や頬を赤く染める絵里がとてもかわいかったんですよね。そのくせして絵里は絵里で必死に熱い関係を否定しようとするあたりが、古式ゆかしきツンデレとしてとてもかわいいかわいい。

絵里って、ベタベタするのがそこまで好きなタイプではないようなので、結花や貴臣ほどのわかりやすいお熱いカップルぶりを見られることはほとんどないんだけど、それだけに、素直じゃないながらもラリーの好意をしっかり受け止めていることが見て取れる場面は本当にいいものではありまして。いっそ一作書くぐらいの勢いでこのふたりの話をがっつり書いてほしい気もしますが、まあ言ってみるだけということで。

既述分にもありますが、ラリーから絵里へのプロポーズはたいへんににやにやしくていいものでした。ふたりとも末永く幸せになってほしいものですね。

そうかと思えば、結花から半年遅れの結婚式ですでに泣きが入ってるっぽい様子なのがまたにやにやさせてくれるんですけど。まあ、ラリーも貴臣に負けず劣らずの資産家一族の直系なので、あきらめて受け入れるしかないですよね。合掌。


ほかにもはずせないのは、千煌さん。千煌さんといえば、ここまでかっこいい女性というイメージが中心だったんですけど、終盤になるとかわいいイメージもかなり追加された感がありまして。

結花の家出に際して頼ってもらえなくてすねる千煌さんは最高にかわいすぎましたね。身重の体で結花のことを心配して、片手間のように貴臣をこき下ろして、その貴臣の目の前でしっかり結花は自分ものアピールしていく千煌さん、ホント最高すぎませんか。

それに、結花の結婚準備を進める姿もたいへんにかわいくて。旦那の家に伝来のティアラとか持ち出してきて結花をどん引かせているのがおもしろかったり。あげくの果てにこんな時にしか使わない久世家のツテを「もしもし、嶋田?」なんてカジュアルにコールしてみたり。わがことのような浮かれぶりがおかわいいこと。まあ貴臣に取って代わらんばかりの勢いで結花の庇護者を自認してる人ではありますからね。まさに娘を嫁に出す気持ではあったでしょうか。

エピローグでは自分よりも先に死んではダメと言われたりもしてて、これはもうプロポーズではとか思ったり(百合脳)。ここまでくると、千煌さん家の子どもになった結花というのも、見てみたかったですねという。いやまあそんなことになったら話が完全に別物になっちゃうんですけど。


既述分の冒頭でよかったとは言えない部分も多々あったと書きましたが、こまごまと書いても余韻に水を差すだけのなので、本筋にあまり関係ない箇所を二点ほど。

まず一点目は、アナルセックスは取り入れないでほしかったかなというところ。これは完全に個人的な性癖に合わなかったというだけの問題なんですけど、男キャラの尻に挿入するぶんにはまったくかまわないものの女性キャラのお尻は、やっぱりどうも……というところで。

二点目は、ビルバオでのテロ事件。あの時点での作中の年代は2014年3月だったと思うんですけど、その時期のビルバオでテロが起こる必然性はなかったように思うので、なんらかの背景説明がほしかったですというところ。そうでないと、ビルバオにいたずらに危険な都市という悪印象を与えている感があるので……。


まあそんなこんなもありましたが、あらためて最後まで読んだうえでの感想としてはやはり、最高に素晴らしい作品だったということで。個人的な2019年上半期のベストは文句なしにこのシリーズです。

1巻から読みはじめて、順番に感想を書いてから次の巻にという普段のペースでは辛抱しきれずに一気に読んでしまったこの3840ページ。期間にしては半月ほど。既述分でも書きましたが、最高に幸せな読書の時間が過ごせた日々でした。

結花と貴臣のふたりをはじめとした、さまざまなキャラクターたちが織りなす極上の物語を紡ぎだしてくれた作者さんに、心からの感謝を捧げます。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:59| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月23日

カノジョになりたい君と僕(1)

カノジョになりたい君と僕 1 (1) (アース・スターコミックス)
カノジョになりたい君と僕 1 (1) (アース・スターコミックス)

カノジョになりたい君と僕 - GANMA!(ガンマ)

これ、めっちゃおもしろいことになってる話だ。ラストがもうめっちゃやばい。

体は男の子で心は女の子なヒロインがいて、主人公はそんな彼女と幼なじみの女の子。体と心の性の不一致でいじめられたり無神経な扱いを受けたりするヒロインをパワフルに守ってあげてきた関係性のふたりだけど、主人公はそんなヒロインのことを小さなころから男の子として好きな気持ちを抱きつづけているという、実らない恋の予感をばんばん感じさせてくれる話。

主人公はヒロインのために、彼女が女の子として周囲に打ち解けられるように体を張って奮闘しているわけだけど、けれどふたりの好意の向きは決定的に交わらない。それどころか、なまじ彼女が女の子としての一面を表に出していけることを応援してきただけに、好きな人ができてしまうと、その恋心を応援しないわけにはいかなくなってくる。主人公のほうが、もっとずっと前から彼女のことを好きでいたにもかかわらず。喜ぶべきだと思うのに悲しくて仕方がない。葛藤する気持ちに泣きながら笑ってる表情が最高によかったです。これ、この先どう言う展開になってくんですか。めちゃくちゃ楽しみなんですけど。

この主人公、とてもかっこいい女の子ではあるんですよね。男の体なのに女子の制服を着ることにしたアキラちゃんがひとりでつらい思いをしないように、自分も学ラン着ることにしたり、彼女のために周りにぶつかっていくときもいつも真正面から全力だし。それがいちばんアキラちゃんのためになってるかというのはまた別問題ではあるし、そこを指摘されて素直にあーそーじゃんとなれるところは好感のもてるところでもある。

けれど、アキラちゃんに対する気持ちだけは、ままならなくてややこしい。一挙手一投足にドキッとさせられたり、そんな自分におちこんでたりする様子はとてもかわいいところではあるんだけど。それだけに、ラストの展開はなかなかにしんどいよねという。

これは楽しみな作品になりそうな予感。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:37| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月21日

ヒロインはじめました。(1)

ヒロインはじめました。(1) (KC デザート)
ヒロインはじめました。(1) (KC デザート)

『ヒロインはじめました。(1)』(天倉 ふゆ)|講談社コミックプラス

小さいころから格闘技ばかり習ってきた女の子が、高校で同じ学年のイケメン男子に気に入られて、ボディーガードをはじめることになる話。

まじめなんだけど押しに弱いヒロインが、お調子者だけどいやな感じというわけでもないイケメンに巻き込まれてドキドキする感覚を体験していく感じがいいですね。

これまで柔道とかレスリングとか、女の子らしくないことばかりしてきたから、高校生では恋とかしたりしてみたいと思っていたところに出会った芹沢君。これがまあ軽い調子で女の子につきあっちゃったりするような男子なわけではあるけれど、ヒロインのことはそれとは別枠で妙に気に入ったようで。たびたび声をかけてきては壁ドンしたりお姫様抱っこしてみたり、その場の流れもあるんだけどイケメンならではのしぐさでヒロインをドキっとさせてくれるのがいい感じではありまして。そのたびに調子を狂わされてドキドキした表情になってるのがとてもかわいい。

ヒロインのほうでも、こいつ、実は素で女子に愛想ふりまいちゃうアカン男なのではと思いつつも、引っぱられているうちにあこがれの「恋」というものを体験的に感じさせてくれる芹沢君に悪い感情は持ちきれないでいる様子で。あれこれツッコミ入れつつもいっしょに過ごす時間をだんだん楽しむようになれてきているのがかわいいかわいい。

個人的なイチオシポイントは、かぜを引いた芹沢君をお見舞いに行った場面。男子の部屋にお邪魔するドキドキ感もさるものながら、そこで披露される料理下手な逸話の数々がたいへんにかわいい一コマでした。

本人、女の子らしい高校生活を過ごすのが目標言ってますけど、現時点で芹沢君にふりまわされながらばっちりかわいい表情してますよね。けれどこの調子でさらにかわいい表情を引き出してほしい所存。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:33| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月20日

オペラ座の恋人(3)・(4)

オペラ座の恋人(3) (オパール文庫) オペラ座の恋人(4) (オパール文庫)
オペラ座の恋人(3) (オパール文庫) オペラ座の恋人(4) (オパール文庫)

オペラ座の恋人B |オパール文庫
オペラ座の恋人C |オパール文庫

「……貴臣さん、ベルリンへ、帰ろう?」(4巻、558ページ)

3・4巻もすっっっごいよかった。もうボロボロ泣かされてしまった。特に3巻ラストの、結花から貴臣に初めて好きと告げることができた場面。2巻での「すきなひと」発言以来、どれほどその場面を待ちわびたことか。さかのぼれば1巻のときからすでに、自分の想いに蓋して、貴臣に愛されるときだけその気持ちに応えることを自分に課してきた結花が、初めて自分から気持ちを告げた瞬間。もう感無量でしたね。いや、これだけで感無量になってたらこの先どうなっちゃうのって感じでしょうけど。

ほかにも、上に抜粋したセリフの場面でも。普段は遠慮しいしいな結花が、体を重ねているとき以外の場面で心の底から貴臣にすがる瞬間というのは、もうそれだけで感慨深いものがあります。一方的なまでに歪んだ関係でよしとして、心の奥深くに切ない想いを隠している結花の心情を知っているだけに、なおさら。

結花が貴臣に対して感じるうれしさに、安堵に、こわさに、何度も感情を高ぶらされずにはいられない。物語に引きずられて、感情を揺さぶられて、泣いて、笑って、表しきれない感情を吐息とともに排熱して。ああ、本当にハマってるんだなあと、そのたび実感させられる。いやもうまじで好みすぎる作品です。

そんな3・4巻の話ですけど、1・2巻に比べて、シリアス度が上がっていたように思います。というか、基本的に東京中心の本編はシリアスな雰囲気中心で、幕間の海外中心の短編集は明るい雰囲気中心な気がするんですけど、今回はその短編集が3巻の初めのほうではじまって中盤過ぎくらいで幕引きになってしまったため、以後ずっと晴れやかになりきらない展開つづきだった印象になっている部分もあるように思います。なので余計にベルリンに込められた思いが響いてくるものがあったというか。読んでてなかなかつらい場面もありましたね。

でも、どれもこれも結花と貴臣のふたりには必要な場面なんですよね。住む世界が違うとはいえ、ここまで分かちがたいほどに互いを欲しあっている間柄を、「ペットと飼い主」の関係のままとどめ置くのはさすがに歪にすぎようというもの。まして、「飼い主」の側がそんな関係ではとうてい満足できなくなっているのであれば。

ただし、まがりなりにも「ペットと飼い主」の関係でうまくいっていたところに変更を加えることになるとなれば、波風が立つのは避けがたい。そして、そこで立ちふさがる障害は、やはりというか、結花その人なのであったというところが悩ましい展開なのであって。

結花さん、自分は普通の女子大生だから、貴臣さんの恋人(ましてや結婚相手)としては不釣り合いな女だからという自己卑下を頑ななまでに手放さない人で、そんなところがかわいらしい人でもあるんですけど、そうはいってもこれほどまでに貴臣から溺愛されていれば向けられる愛情の深さを認識できてもよさそうなもの。でも、結花にはいまだにその気配がない。貴臣との将来を信じることができない。結婚というものに希望を抱けない。

ここまでくるとちょっと普通ではないものを感じるというか、貴臣や友人たちとの間では明るく素直な一面を思うと疑問にも思えてくる。けれど、それはあくまで大学入学後の友人・知人や貴臣との出会いが彼女のそういった面を引き立てていただけで、それ以前に結花が抱えたトラウマやコンプレックスがきれいさっぱり消えてなくなっているわけではないんですよね(大学落ちたコンプレックスは貴臣に吹き飛ばしてもらえてましたけど)。

貴臣が目指すふたりの関係のゴールであるところの結婚が、それまでとこれからの結花のまるごとすべてを受け容れるものであるならば、本人も無自覚なレベルでその心に根深く巣くう暗い影を追い払ってやるのは必要不可欠な事項であることでしょう。

その意味でというか、この3・4巻の話をざっくりひと言でまとめると、対決、とでもなるでしょうか。 そのひとつは、結花の両親と。もうひとつは、結花本人と。

結花の両親。明るく素直な結花が舌打ちまでかますのにまずぎょっとさせられる人たちではあったけど、実際出てきてみるとそこまで悪い人たちという印象は受けませんでしたね。かといっていい親ともとてもいえなさそうだったけれども。そして、その点において結花に決定的なトラウマを与えた人たちであり、結花としてはその傷が癒えないかぎりは許せる人たちではない。ならば貴臣としても、最初から十二分にギルティな存在ではあったでしょうか。

個人的に、嫌なことをされた人たちに目にもの見せて溜飲を下げるという展開は嫌いなんですけど、でもこのシリーズの貴臣クラスになると、報復もスケールが段違いなんですよね。金とコネを使いまくって叩き潰す感じがもう笑っちゃうくらいの徹底的ぶりで。世界的企業の御曹司の持つ「力」というものを見せつけてくれること。そしてそれとともに、それほどの業の深さと裏腹の結花への愛の深さを感じさせてくれること。

けれどその一方で、結花本人との対決は、貴臣も相当に苦戦しているようで。こちらはなかなかコメディチックに笑える展開にもなってたりして、そういう意味でも楽しませてもらったりしたんですが。でもこれも、根っこはつながってるだけに決して笑ってばかりもいられないというか。むしろふたりが結婚というゴールを迎えるにあたってはここが本丸だけに、貴臣にもしくじれない余裕のなさが漂うのがハラハラさせてくれること。

どれほど入れこんでいるかを自覚しているからこそ結花を自分のものとして一生囲ってしまいたい貴臣と、まるですりこまれているかのように体のつながり以上の関係を信じられないからこそ貴臣の庇護の外の世界も欲する結花という、頭抱えたくなるような悩ましい構図。そんな話が本格展開される七章のタイトルが「人生選択の自由」というのは、重い章題ですよね。

このまま七章が5巻に続いていってるのかどうかはわかりませんが、どちらにせよ結花との対決はまだ尾を引きそうな感じなので、いったいどんな決着のつき方をするのかというのはたいへん気になるところ。3・4巻のときと同様、このまま5・6巻に突入したいですね。それで完結なので、どんな結末なのかというのも含めて、楽しみにしたいです。

シリアスなところ以外だと、短編集というか海外編で、結花が自覚のないままどんどん普通の女子大生の枠からはずれていってるのがおもしろくもありました。観劇などに伴う社交の場で貴臣や千煌さんに迷惑をかけないようにとヨーロッパ滞在中にマナースクールに通わせてもらうことにしたら、通った先が選りすぐりの学校すぎて交友関係が各国エリートの関係者ばかりになったり、そこでしっかり礼儀作法も身につけてきたものだから、貴臣によって用意されてる衣服と合わさって、わかる人には上流階級の子女としか見えない立ち居振る舞いになっていたりとかするそうで。いやー無自覚っておそろしいですね。

というか、交友関係については大学のほうでも仲のいいのは絵里とカレンくらいなので、東京でも大概なのが実情ではあるんですけど。というか、いつのまにか絵里とラリーの関係ができあがってる気配があってたいへん気になるところなんですけど、本筋とはあまり関係ないせいかあまり描かれてる部分がないのがさびしい。

というか、たぶんだけど、そもそもWeb版はもっと分量があったのを、書籍化にあたって重要度の低い部分はそれなりに削られてますよねという。おもわせぶりな描写があるわりにはそれそのものの場面がないというのがちょくちょく見受けられる気がするので。もういろいろ気になる部分があるんですが、これは書籍を読んだあとでWeb版にも手を出すべき流れなんだろうかというのがたいへんに悩みどころ。

1・2巻に比べて体を重ねている場面がかなりすくなかった気がするのも、それに関連して、なんでしょうかね。いやまあ1・2巻は、これ男性向けかよってレベルの量だった気もするので、女性向けのティーンズラブ作品ならまあこれぐらいかという気もしなくはないですが(だとしても描写のエロティックさは際立ってる気はしますが)。

まあさすがに1・2巻の貴臣さんが、40手前にもかかわらずがっつきすぎだったということで? キスマークをあちこちつけられすぎるせいで着る服が制限されるとかいうレベルですからね。キスマークは標準装備するものじゃないんだけどなあという。つけてるのは貴臣なのに、まるで結花のほうがいやらしい子のように見えてくる理不尽ぶり。まあ所有の証として、結花にとってなにより貴臣に愛されていることを実感できる印ではあるんだけども。

まあ貴臣ががっつく気持ちもわからないではないというか。キスマークをつけられて、足に鎖をつけられて、首からはネックレスをさげて、腕には男物の腕時計をはめて。そうして貴臣のものである証を形として感じられることにうれしさを見出すのが結花であり、余裕もなくすほどに体を貪られることでまだ気に入られていると実感できるのが結花であるので。いじましいほどの態度で、どこまでも男をその気にさせる素質を持つ子ではあるんですよね。

とはいえそれが歪んだ関係性なのは前述の通り。5・6巻でそのあたりのことにきちんと決着がつくことを願うばかりですね。

あと、表紙絵について。挿絵がないのでイラストは完全にこれだけなんですけど、おしゃれでムードもあっていい雰囲気の表紙ですよねというのが一見した印象なんですけど、実際に中の話を読んでみると、2巻も然り、これもそれも実はいやらしい場面のひとコマだったりするから、知ってしまうと正視しがたくなってしまうものがあるというか。いやまあよくぞイラストにしてくださいましたという場面ではあるんですけどね!

とりあえずそんなこんなで。いちお、この記事も、これ以前に読んだ本の感想が書けたらその後ろに移動する予定ですということで。

(以上、6月7日)

――――――――――――――――――――

(以下、7月20日追記)

1・2巻の初期の感想に比べれば、おおざっぱな感想はすでに必要なだけは記述済みではあるのですが、あちらで詳細感想を追記したらこの感想ではやや物足りなくなってきてしまった感があり。なので、こちらでももうすこし詳細な感想を。


3巻は2巻からひきつづいての第五幕でスタート。2巻のラストでちょっとした波乱じみた展開はありましたが、うまく回収してみせる貴臣はさすがというか。

でもその際の貴臣の内心をうかがってみると、あれこれ言われたりもしているけれど、貴臣自身の結花に結婚を受けいれさせるまでの想定コースというのは、結花への配慮のこめられた無理のないものであったことがわかるんですよね。まあ恋人としての立場を受けいれさせたきっかけにしてもきちんと場をセットしてではなく想定外のハプニングによるものであったように、無理をさせない結果として進展が危ういものになっていた感はあるんですけども。

これは結花の気持ちがあまりにも頑なすぎるというか。貴臣と自分が恋人としてさえあまりに釣り合わないと思うからこそ、ましてそれ以上の関係になるとなれば、その立場に付随する面倒事への対処がまるで想定できないことによるもので。飽きればそのまま捨てられてしまうような浅い関係こそが、心理的にもっとも気楽ではあるんですよね。かといって本当に捨てられてしまえば立ち直れなくなってしまうほどに貴臣を好きになってしまっているのも結花なのであって。さらに強い結びつきの関係になりたいと思っているはずなのに、こわくて歩を進められないでいる。この二律背反的な心理が、いいですよね。

それに、そんな葛藤がありながらもペットと飼い主の関係でいられる間のいちゃいちゃぶりはやっぱり相当なものなのであって。

他人に服を見繕ってもらったらガーターベルトなんてなんだかいやらしさを感じさせる装備を身につけることになって恥ずかしがる結花に、自分の目の前でスカートをたくし上げてそれを見せるよう命じる貴臣さんはさすがわかってらっしゃいますね。羞恥で涙声にまでなってくる結花をじっくりたっぷり鑑賞して愉しむ貴臣さん、実にいい趣味である。

それに対する結花も、羞恥から真っ赤になって逃げまわる姿はとてもかわいらしいウサギぶりだし、いっそのことひと思いにたいらげてほしいなんて告げてくるのは、反則級な誘い文句であると思いますよということで。

そんなこんながあった第五幕の終盤で印象に残った一文としてはこれ。

「――夏が、来る。」(3巻28ページ)

これ自体はセリフでもなんでもないんただの地の文なんですけど、なんでしょうね、これが、じりじりと焦燥感じみた期待感を煽られるフレーズであったことで。

夏休みになれば、いやな思い出をいくつも残した春の東京を離れて、またベルリンでの楽しい日々が待っているという期待感。それは当然あるんだけど、それ以上に、なんというか、こう……いやらしい期待感をもふくらまされる気がしてくるのはなんでなんでしょうかねというところ。

東京にいた間は逢瀬もままならず、飼い主に気に入られていると実感するための体の交わりもかなり限られることになって。そうした抑圧された日々があった末の「夏が、来る」だからでしょうかね? ただでさえ東京でも、飼い主がペットをかわいがるようないやらしさを感じさせるセックスをしてるのに、この状態で開放的な夏がやってきたらどうなってしまうんだ的な? こんななにげない一文でもドキドキワクワクさせてくれることといったら(どこかまちがってる気もするけれど)。

いやでもだって、「太ったの! だって最近、なんだか胸がぱつぱつだし……」(3巻21ページ)なんてやりとりもあったりして、すっかり貴臣の手で育てられてることがバレバレになっていたり、いろいろいい服をそろえてもらってもあちこちキスマークをつけられまくるせいで着る服が限定されるレベルになってることを困り顔で訴えたりしてるくらいなので、変な想像が働いてしまうのもいたしかたなく……はい、その……すいませんでした。

「見た目の問題じゃなくて! 困るんですあの、クリーニング代とか馬鹿にならないから!」(3巻42ページ)

それはそれとして、衣食住すっかり貴臣にお世話されて、すっかりウサギ小屋のウサギ状態になったはずの結花の生活に意外な問題点が発覚したこのひと言。まあたしかに、大量生産ではない、素材からなにからこだわりにこだわって選ばれてきた結花の服たちだけど、そうであるだけに、日々の手入れが大変なことになってくるという。

ましてや、すでに発覚済みなように家事スキルに乏しいといういとおしさを持つ結花さん、クリーニングで割増料金にバイト代が消えていく日々に途方に暮れるという、まさかそんなおそろしいことになっていたとは……。必死に悩みを言い募る結花さんがとてもとてもかわいかったです。

そして、半年ぶりに顔を合わせたというスタイリストの目から見ての結花の変貌ぶり。素直であどけないかわいらしさが目立った当時から、身体的には女性らしい丸みを帯び、面差しにもかわいらしさのなかにうっすら陰の差す部分が見受けられて。一面的でかわいらしいばかりでない、大人の女性の雰囲気が漂うようになってきているのをあらためて描かれると、その変化には目を見はらされずにはいられないものがありますね。

つらい出来事の重なった東京。けれどそれは決して悪いことばかりではなく、結花をペットと飼い主の関係では終わらせない、周りから見ても貴臣の隣に立つにふさわしい女性へと磨きあげていく、そのための一助となっていたんでしょうね。こういうのもいいですよね。


さて、ここで次に第六幕……に行くかと思いきや、ここで二度目の短編集。まあ夏休みですし、ね。春休みのときのようなハネムーンばりのイチャイチャとまではいかなかったように思うものの、またしても並みの文庫の一冊分、すっかり恋人同士のように、ヨーロッパのあちこちの劇場に連れ立ってオペラを観に行く様子がたいへんお似合いに見えて、並んだ姿が様になって印象に残る話ではありました。

ふたり並んだ恋人ぶりに関していえば、ヨーロッパならこれほど自然に貴臣の隣に立てるんですけどねというところ。日本にいると、貴臣がどういう男かわかる人がたくさんいるし、結花では住む世界が違うことをわかってしまう人もたくさんいるし。そういう人たちに見つかったら何を言われるかわからないという、そんな見えざる恐怖におびえずにはいられない。なんとももったいないことではありますよね。

とはいえこのときのヨーロッパでは、そんなこわさを乗り越える心の支えを手に入れることができたのではありまして。それはひとつには、スイスでのマナースクールで身につけた本場の礼儀作法。そしてもうひとつは、千煌さんから贈られた薔薇の香りの香水。これらが、この先の展開で、おじけづきそうになる結花の背中を支えてくれるようになるんですよね。そう思うと、楽しいが中心になりながらも感慨深さも感じさせてくれる旅行であったことで。

そんな旅行も、冒頭はまた笑わせてくれるもので。普通の女子大生らしくエコノミークラスのチケットを取ったはずが、いい身なりとセンチュリオンのブラックカードの効果によって、受付であっさりとファーストクラスにグレードアップされて一流のサービスをされてしまう結花さん。

「――自分の人生、何かがずれてきている。」(3巻61ページ)

その考えはとてもいい線を突いていると思います。が、思うだけじゃ方向性はそのままなんだよなあ。

それにしても、東京と比べたヨーロッパでの解放感はやばいですね。着いて、空港でキスを交わした瞬間に欲望のスイッチの入ってしまうふたり。予定を変更して空港の近くのホテルに直行する合間にも気が高ぶりすぎて会話らしい会話をする余裕もなく、部屋に入った瞬間にどちらからともなく、服を脱がせ合う間ももどかしげに濃密な交わりあいがはじめられていく。

なんですかこれなんですかこれ。いくらテスト週間中は会えてなくて久しぶりだったからって、会って早々盛りすぎじゃないですか。貴臣さん、あなたいくつだと思ってるんですか。しかもゴムなしで。結花のほうから求めさせて。ありえないくらいの快楽を思いっきり堪能して。やばいぐらいの場面であった。いいぞもっとや……いややっぱりこれっきりにしてください。このタイミングでもし妊娠しちゃったら結花が幸せになれないので。結花さんも、貴臣を煽るのはほどほどにしていただきたく……。

といっても難しい話か。結花って、貴臣が仕事してる姿を見てても、自分にだけ向ける甘い言動とのギャップのかっこよさに見惚れてしまったり、そんな彼が自分にだけ甘い言葉をささやいたりいやらしい手つきで体のあちこちに触れてくれるんだと想像してしまっては頬を染めたりして、男の欲望をかきたてずにはおかないような人なので。

ここはむしろ年上らしく、貴臣のほうに自制を求めたいんだけど、貴臣もそんな結花の姿を見てると欲望が際限なくなっちゃう人なので……。まあどうしようもないですねというところ。

この短編集における、のちのち重要な意味を持ってくる話といえば、スイスで花嫁学校に通うことになる話。既述の通り、当初は英国貴族と結婚してる千煌ともども音楽祭に出席するために、すこしばかり西洋式のマナーを学びたいという希望だったはずが、一流のツテを通しているうちに本格的な花嫁修業でもするかのような学校に通う展開になっていくから笑えてくること。

けれどその一方で、そこは千煌さんも出身の学校でもあるということで、そういったつながりもあって結花と千煌さんの結びつきが強くなっていく流れはよいものであり。未来の義妹のためにせっせと入学準備を整えてあげてる千煌さん、とても楽しそうでしたもんね。実際にふたりに会っても、やっぱり弟の貴臣には手厳しくて結花のことは仔ウサギちゃんと呼んであれこれ世話を焼く様子なんかも、それはそれは楽しそうで。とってもいいキャラですよね。

かと思えば、結花にこっそりラテン語の格言を残したりなんかして、その気品のうちに備えた教養の一端をうかがわせてくれたりして。もう本当に、どれだけかっこいい女性なのかと、ため息がこぼれてきますわ。

そんな千煌さんから娘のようにあつかわれて、貴臣のフィアンセなんて紹介される場面の場違い感たるや。でも千煌さんの持つ雰囲気って、それを既定の事実にしちゃうところがあるからすごいもので。結花としてはびっくりしすぎて訂正しそこねただけなんだけど、それもあって学友たちにすっかり花嫁修業にきたと認識されてからかわれたりしてるのは、もはやあたたかく見守るしかない感じでたいへんにやにやさせていだきました。

というか、この短編集で結花が会うことになった人たちって、そろいもそろってどこそこの重要人物やそのご家族ばかりなんですよね。貴臣自身がそんなVIPな資産家のひとりである以上、そうなるのも必然というものなんでしょうけど。

けれどその極めつけがこのフィニッシングスクールでの学友たち。いろんな国の資産家や貴族のご令嬢たちがズラズラと並んで。これが、貴臣にも千煌さんにもない、結花だけが持つコネクションになるというのだからすごい。結花は自分のことをただの庶民だと強調していたけれど、これほどのコネを持つ庶民とは……。大学出たら財団立ち上げて慈善活動でもしたいなんて言いだすような人が普通にいるんですけど……。

また、もうひとつの薔薇の香水が登場するのは、短期のマナースクールの卒業後。

結花がつけている香水といえば、貴臣から贈られた桃と蜂蜜の香りがトレードマークだったはず。おいしそうな香りをまとったかわいらしい女の子というイメージとセット。それは結花にとっても貴臣から贈られた香りに身を包まれていることを実感して幸せを感じられる証のひとつでもあったわけで。

けれど千煌さんはそこにさらにもうひとつの香りを付け足すことで、愛らしいだけではない、気品のある女性のイメージを結花に上乗せするということをしてのけたんですよね。ポイントは、貴臣から贈られた香水と千煌さんから贈られた香水の二者択一にすることなく、前者のうえから後者を重ねがけすることで、貴臣に愛される結花としての安心感と、失態が許されない場で背筋を正させる自負心とを併立させてみせる点。背中を支えてくれる庇護者の存在をこの上なく感じさせてくれる、重ねづけの香りの魔法ですね。

上流階層の社交の場でも美の女神のような気品とともに結花を護ってくれた千煌さんと同じような、威厳すら感じさせる薔薇の香り。この後に待ち受ける対決の場で、ここぞというときにその香りをまとう結花の背後に千煌さんの庇護を感じられることの、どれほど心強いことか。それを思うと、美しく色づいた咲きぞめの薔薇、そのイメージのなんと結花のことを考えて選ばれた香りであることか。何度も書いてるけど千煌さん、本当にかっこいいひとですよね。まあ、自称庶民にはいろいろと心臓に悪いセレブぶりな人でもあるんだけど。

そして、この夏休みのヨーロッパで結花のなかで見いだされた感情といえば、貴臣に対する独占欲。

貴臣の昔の女と鉢合わせたのち、もやもやとして収まらない感情に押されるようにして、貴臣の口から昔のその女との行為の流れを話させながら、それをなぞるように自分から貴臣にのしかかっていく結花。3巻表紙の場面はおそらくここ、ですよね?

すっきりしない気持ちが先走りながらも拙い技術によって貴臣にはくすぐったいようなもどかしいような刺激しか与えられない様子がものすごくいとおしくて。けれど同時に、それでありながら普段とは逆に一生懸命に貴臣を追い詰めようとする意志がはっきりと感じられる結花はめちゃくちゃにいやらしくて。翌朝冷静になっての思い出し羞恥までふくめて、とてもやばかったです。はい。

というか貴臣さん、今まさにぞっこんな女性がいることを示すために、結花の胸もとのキスマークをわざわざチラ見させるのはやめましょうよ。やられるたび色気のかけらもない叫び声をあげそうになる結花さんがかわいい、もとい、かわいそうで……。

そんなこんながありながらも、千煌さんのもとで過ごす時間で千煌さんが旦那さんにしっかり愛されてるのがわかるのはとてもいいものでしたね。数えきれないほどの人からされているだろうに、旦那さんに美しさを賞賛されるとうっすら照れてるらしい様子とか、とても貴重な一コマで、そんな場面が見れただけでありがたさに感謝してもしきれないところ。

そんな結花を構いたがって上機嫌な千煌さんともども、その旦那さんやなにより貴臣から、滞在中に迎えた誕生日で、これでもかとプレゼントを贈られまくってる結花さんの仔ウサギぶりもなかなかいいものでしたね。みんなセレブだから、贈り物の価値がわりと半端ないものばかりで。でも、高級品の価値がわからない結花はそのすごさに気づいてなかったりするのは幸せなのかなんなのか。でも、後日実はすごいものもらってたとわかって青ざめるエピソードはやっぱり笑う。本当にかわいがられてますよね。

あと、そんななかでも、貴臣の力の入れようは頭一つ抜けてるというか、力の入れようといい、金の使い方といい、結花のためにかける気持ちの本気度がうかがえるプレゼントに、しばし呆然とした後で笑うしかなくなってくる感じがさすがの入れこみようではありますね。それに、呆然としながら、夢のような幸せをかみしめてる結花の心情のなんといいものであることか。

けれど、けれど……なんですよね。貴臣から幸せな気持ちを与えられれば与えられるほどにこれでもう十分だと、ふたりの関係が終わるときへの覚悟を固めなおしにかかるのが結花なのであって。幸せな気分のまま体を重ねているかと思いきや、「すき。すきです。ごめんなさい。すき。」(3巻287ページ)なんて独白にいたっている結花の内心を知ると、あまりの落差に愕然とさせられるものがありますよ。

なんでこれほどの愛情を注がれて、貴臣に気に入ってさえもらえていればほかに何もいらないとさえ思えるのに、それでも頑なに幸福な時間が終わるときの到来を信じつづけられるのか。いっそ疑問に思えてくるくらい。その時にはおとなしく身を引くから、せめて今だけはなんて思考はたいへんいじらしくはあるけれど、それは裏返せば、どれほどに熱い気持ちも結花の冷え切った心の奥底の氷を溶かすにはいたっていないということで。もどかしい。でもこればかりは、次の第六幕以降の展開をを待つほかないところ。

まあその一方で、貴臣にはもちろん、千煌さんにもあちこちで貴臣の婚約者としてふれまわられ、既成事実的に婚約者としての立場が固まりつつあるのだから、おもしろいところでもありまして。結花としては貴臣の女除けくらいのつもりで半ばあきらめの境地で隣に立っているだけなんだけど、そうしているうちにその立場がどういうものかと自然と慣らされている感じなのは、当人的には知らぬが仏というやつだろうか。

マナースクールの教えを実践の場を通すことでしっかりと身につけ、貴臣に与えられ教えられたことしっかりとその身に吸収し、そうして自然体で貴臣にぴったりくっついてる姿がつりあいのとれた恋人っぽくて。とてもいい感じのふたりでしたよね。

こんな楽しい二か月を過ごしてたら、それはもう日本に戻るのが億劫にもなってこようというもの。夏休みの終わりが近づいていることを思わされる場面は、2巻の東京での重苦しい日々を思わされて、読んでいるこちらまで「夏休みの終わり」のような、もの悲しい気持ちにさせられるものがありました。逆にいえば、それほどまでに楽しいヨーロッパでの日々だったということなんですけれども。

うってかわって、絵里とラリーのほうは順調に進んで……はいないようでしたね、こちらも。ラリーにあちこち連れまわされて、すっかりデートも重ねてる印象にはなってるんだけども、絵里の照れの壁が高いというか。ラリーがあれこれ構おうとするたびに絵里がうっとうしがってる様子がとてもほほえましいもので。関係の進展自体も本当にほほえましい程度ではあるようなんだけど、それがまた絵里も大事にされてる感があっていいものなんですよね。ひと息に体の関係になったはいいけどそこからだんだん泥沼にはまってきてる結花と貴臣の関係と比べると癒されるところでもあり。


そうして楽しさに満ちあふれた夏休みが終わると、東京に戻って第六幕となっていくわけですが、ここからが本当の泥沼のはじまりだ……という感すらある話になっていくわけだからもうたまらない。

3・4巻は過去との対決と人生選択の巻、とは別の記事でも書いた紹介ですが、それはまさにこの第六幕と次の第七幕に該当するお話になるわけでして。まずこの第六幕では、過去との対決。結花が恋人との将来に希望を抱けない理由、その背景に存在する両親との対峙が行われるわけでありまして。

冒頭、いきなりの父親登場に驚かされるとともに、かと思えばあれよあれよという間に修羅場へ突入していく展開にびっくりさせられること。直前までの短編集が、飼い主兼恋人との甘い空気に満ちていただけに、東京に戻って早々の落差がひどい。

けど、それもある意味ではしかたないというか。ふたりの関係にやましさのないことは、自分のような読者としても、ここまでの経緯を知っているからこそ納得できている部分もあるんですよね。それらをすっ飛ばして、いきなりこんなゴージャスな「ウサギ小屋」で「普通の女子大生」が暮らしてるなんていわれたら、なにか裏があるのではと思わずにはいられないところ。まあ実際に裏はあるといえばあるんだけど、すべてはうしろ暗いものではなく、幸せなゴールへとつながるような、誰に恥じるところのないものではあるんですけど。

とはいえ実の親からしてみれば、いきなりそんな現実を見せつけられてしまえば、うしろ暗い想像から子どものことが心配で心配でしかたなくなって、きつい言葉でとがめ立ててしまいたくもなろうというもの。その意味で、初登場の結花の父親に関しては、どうしても悪い印象を持ちきれない部分があるんですよね。だって、大学への進学以来、二年半ぶりに会った娘がいきなりあんなになってるんだから。子どもがあと戻りのきかない不幸な道を進みだしてると思ったら、平静ではいられないでしょうよ。

ただ、もうすでに、その実の娘からは縁を切りたい、むしろもう切れてるよねなレベルで冷ややかに嫌われきっていたという事実と組み合わさると、いかにも詰問の態度・言動がまずかったというところ。突然現れたと思ったらあれでは、あまりにも一方的すぎますね。生まれたときから築きあげられていった父親への信頼はすっかり崩壊していることが、これまでの言動でばっちり理解できてしまってましたから。特に短編集内での発言が象徴的でしたね。

「それはね、帰りたいって思う場所がある人の発想。私別に、帰りたくなるような“家”はないから」(3巻436ページ)

遅れて来た反抗期のようなものかもしれないけど、だからこそ、一方的な態度は相互理解を決定的に阻むものでしかないのであり、貴臣的にも父親の存在はリスク要因でしかないと判断するに十分なものだったでしょう。いやまあ、貴臣としてはもっと頭に血が上って、「殺」の一字がくっきりと頭に浮かんでたんだろうけども。

とはいえ、そうした修羅場のあとで結花を慰める貴臣の様子はとても甘やかで。結花の体を心配しながら、ぽつぽつと愚痴をこぼす結花に対して、結花がすでに親の手から離れ、ほかの誰でもない貴臣のものであることを思い出させるやりとりは、すごくいい雰囲気でしたよね。

もう二十歳は超えているとはいえまだ学生の身、この状態で親と絶縁するとなれば、どれほど心細く感じられることか。けれど、結花には貴臣がいる。ほかの誰との関係が消えてしまっても貴臣が結花を庇護してくれる。これがどれほど心強いことか。親と対決するなんていう重大イベントを前にして、その実感が得られることの、なんと力強い心の支えになってくれることか。ありがたいことですよね。

ここの、『BMW228』「BMW508」というごくごく短い文面でのメールのやりとりが、もう最高に素晴らしかったです。信頼と激励と……それらがこんな符牒めいたやりとりで、けれど直接的な言葉を使う以上に心に響いて伝わってくる。これほどお似合いなふたりの仲を阻める者なんて、いるはずがありませんね。

そして、どれほど期待していなかったとはいえ、血のつながった父親との決定的な決裂という、まだ年齢的につらいイベントをこなした後で、それでも貴臣があたたかく包み込むようにしてそばにいてくれることの安心感ときたら。泣きたくなってくるようなありがたさでしたね。

わかっていたことだけど、肉親はすでに無条件で結花の味方になってくれる人ではない。けれど、それでも、結花はぬくもりを欲していた。誰かに愛情を与えられたいと、心の底では欲していた。そして、いまの結花にとって、無条件でそれを与えてくれる存在こそが、貴臣であった。

張っていた気がゆるんで、恋人としてのつり合うつり合わないで気をもむ余裕もなくなって、そうしたところに貴臣のまっすぐな好意が向けられて。そうして初めて結花の心の奥底から出てきたのが、「好き」という言葉。3巻のラスト、617ページ。ここにきて、ようやく結花から貴臣に好意を告げることができた。これが、どれほどまでに涙腺を刺激してくることか。

出会った時点で、すでにお互い相思相愛……とまでの強度の感情ではなかったとしても、第二幕の時点では否定しえないほどにお互いへの感情は明確であって。けれど、世間体やらなにやらを気にしているうちに、好きのひと言も告げられないうちにどんどん関係がいびつになっていって。切ない想いもこれでもかと膨らませていって、その果てに、ついに、ついに……なんですよ。

結花から貴臣に好きと告げる。言葉にすればただそれだけのことに、どれほどの想いがこめられていたか。その背景にどれほどのドラマがくりひろげられてきたか。そのひと言を発するために、どれほどの勇気がふりしぼられたことか。それを思うにつけても、もう胸がいっぱいになってくるような場面でした。3巻のクライマックスは、文句なくこの場面でしょう。

そのまま、互いに互いの気持ちを確かめあうように肌を重ね合っていく展開になだれこんでいく流れにいたるまで、心からの祝福を贈りたくなる場面でした。

しかも、そんな導入だから、いつも以上に貴臣を感じ、貴臣を自分だけのものにしようとする結花の様子が、たいへんにいじらしいことで。

貴臣には世間的な立場もあれば、見識もあれば、お金もあれば、結花にないものをなんでも持ってるというレベルですごい人で。一方の結花は、自分から貴臣に差し出せるものといえば、貴臣の気に入っている自分の体だけという思いこみはいまも変わっていなくて。だから、貴臣に感謝を伝えるために、貴臣から教えこまれた手管をフルに活用してその気にさせにかかる。

けれど、このときはそれにくわえて、貴臣にほかのなにも考える余裕もないほどに、自分に夢中になってほしいと、普段以上のいじましさを発揮してくれること。もともといつもだって、結花の相手をしている貴臣にそれほど余裕なんてあったわけではない。でも、貴臣に本気で余裕もなくなるほどに自分を欲してほしいと願う結花のしぐさ、そうして気を遣う余裕もなくなるほどにめいっぱいの欲望をぶつけられて幸せを覚える結花の、なんといやらしかったことか。これも含めて、最高に素晴らしい場面でした。ただただ感謝。


巻が進んで4巻になっても、話としては変わらず第六幕。結花にとっての父親との対決は3巻部分ですでに結論の出たところではあるけれど、貴臣にとってはまだまったくもって落とし前をつけれていない状態であって。ここからが真の報復だというところなんですけど、わりと真面目にそこまでやるかというレベルで、呆れを通り越していっそすがすがしいレベルでの怒りの表明ぶり。というかそれ以上に、そんなことまでできるのかというレベルで資金からなにから用意してくるのがすげえよ貴臣さんというところ。

そこまでして、けれどこのときの貴臣による行動は、すべては結花に手を上げた人物に対する過剰なまでの報復行為でしかないんですよね。そのためにここまでやるかというのがすごいところではあるんですけど、その相手が結花と自分の間で法的その他の障害となりうる父親であったということで、この段階でより徹底的に排除してしまおうという心理が働いている部分もあったのではないかという気がするところ。なにせ再婚先もろともひっかき回してダメージを与えまくり、当人にいたっては社会的に抹殺するレベルで動いてましたからね。世界的なスーパーセレブの怒り、とんでもないですね。

そんなことがありつつも結花にはそれをおくびにもにおわせないところはさすがだけど、そうしながらふたりでしている会話もさすがというか。

「ねえ貴臣さん、お誕生日に何が欲しいか、決まった?」
「結花が欲しい」
「だーかーら―! 私はもうとっくに貴臣さんのものなんだから、それ以外で!」(4巻40ページ)


こんなやりとりしてて、結花さん、いまだに貴臣との将来を信じられないんですって。それこそ信じられますかというくらいの甘々さ。とはいえ結花がどう思おうと、着々と外堀は埋められているのであって。結花から逃げる気はないとしても、実際に逃げようとしても逃げられるものではないと気づく、その瞬間を座して待てと期待させてくれる感じ。

その裏でラリーも暗躍してたんだけど、その一方で、絵里の予定をちゃっかりを把握してちょっかいをかけていくのはさすがというか。結花にはどこかお姉さんっぽくあれこれ注意したりする絵里だけど、ラリーにはすっかり手玉に取られてかわいがられてる様子がかわいいことかわいいこと。欲を言えば、ここは当日の場面も見たかったところではありますね。

貴臣の誕生日当日の場面は、恋人同士で祝う初めての誕生日という甘い雰囲気もよかったんだけど、それ以上によかったのはいやらしい場面でありまして。まず結花の部屋の玄関で顔を合わせて早々、それまで二週間会えずじまいでため込んでいた不足感を一気に解消しようとするかのように、熱いくちづけをかわしだして。そのまま靴も脱がずに行為がはじまってしまうんじゃないかという予感に、とまどいよりも期待に体を疼かせだす結花があまりにもいやらしい子に育ちすぎててやばいこと。

そのうえ、なぜか把握されてる生理周期によればこの日はできないつもりでいたにもかかわらず、ピルを飲んでまで貴臣に抱かれたくてしかたなかったのだと知らされれば、もうたまりませんねというところ。貴臣のほうも、そんなことを言われれば優しく穏やかな夜を過ごすつもりでいたとしても期待にはちきれんばかりに膨れあがる欲望を抑えるのは難しく。そうして欲情した視線を向けられてうっとりと幸せを覚える結花ともども、ふたりで特別な夜を過ごす熱い雰囲気、たいへんよかったですね。

しかもこのときは、結花がピルを服用しているということで、これまでは避妊が絶対としてゴム着用を基本としていた貴臣にとっても、堂々と直接結花と深いところでつながれるまたとない機会になるのであって。胎内の奥深く、子宮に向けて、貴臣の熱い飛沫が注ぎこまれる瞬間を想起させて、結花の口からもはっきりとそれをおねだりさせる流れは、もう、こんなされたら、どっちも止まらなくなってしまいますわ。

貴臣に快楽を与えてもらいたくて、貴臣に自分をむさぼること以外考える余裕もないくらいに夢中になってもらいたくて、そうして溺れるくらいに自分の体を堪能する貴臣の様子を見てうれしさを覚える結花。ほんと、やばいぐらいにいやらしいですわ。

貴臣のほうからも、そんな結花に応えるように何度も何度も結花を抱いて。お腹の中がいっぱいになってしまうくらいに熱い精を注がれて、何度も何度も数えきれないくらいに好きの言葉を浴びせられて。ふたりともに最高に幸せな誕生日の夜を過ごしている様子が、とてもとても素晴らしい一夜でした。いいよね。うん。

そして、父親への復讐は、どう見てもやりすぎなレベルでやり尽くされてようやく幕引きとなるのですが、貴臣さんさすが自分の女のこととなると容赦ねえわと思っていたら、最後に貴臣だけでなく千煌さんまで介入してたことが発覚するから変な声が出そうになってしまうことで。いやたしかに場所的に千煌さんのコネクションの発揮しどころではあったけど、さすがにあれは後で知るとひやっとさせられるというか。

もう本当に、すがすがしいまでに人ひとりの人生を木っ端微塵にしていきましたよね。実にえぐいくらいの報復ぶりなんですけど、それだけに、結花の千煌さんからの愛されぶりが伝わってきていいものいいものというところであり。

母親のほうも、すでに父親との対決の時点で結論は出ていたも同然でしたね。まあもともと円満な解決なんて期待できるような思い入れはないと結花に認識されていたのではありますから。ほかの誰から見捨てられようと、貴臣が護ってくれる。捨てられてしまうそのときまでは、誰よりも頼りになる貴臣という存在がいる。そう思える結花は、強かったですね。

捨てるべきものと選ぶべきものを自ら選んで、そうして親よりも飼い主の与えてくれる檻を選び、自分のその先の人生を見すえていく。強いですよね。人生なんて、なにが正解かわからない。そこで迷いのない決断が下せる意志力は、尊敬に値すると思うのですよ。それもこれも、貴臣と過ごした時間を作りあげた信頼によるものなんでしょうね。母親から渡された餞別を、包みを開きもせずにゴミ箱にシュートする姿がとても輝いてました。

このとき、結花は大学三年生で二十一歳。本当に、強くなりました。当初のひとり旅には頼りなささえ感じさせた姿を思えば、見違えるような成長ぶり。いろいろと感慨深くなってくることで。

けれど、その強さは貴臣にとって想定外の展開をもたらすことになるのであって。この第六幕のラスト(というより第七幕の前奏曲ですね)で、ここまでで最大の爆弾が落とされることになるんですよね。

発端は結花。大学三年生の12月(作中年的にはおそらく2012年、明けてすぐに2013年?)を迎えるとなれば、待ち受けているイベントといえば、そうです、就職活動です。

前々からちらほらそんな話も出てたような気もしますが、結花って、大学出たら普通に就職するつもりなんですよね。貴臣のほうは、大学卒業を待って結婚なんて、内々でそんな計画を立てているんだけど、そんなことは露知らず。

ただ、まさか本当に就活がはじまろうとしてるなんて、読者のこちらとしても寝耳に水であって。いやだって、いくら貴臣との将来を信じきれないからって、これ、どう考えても完全に永久就職コースになる話じゃないですか。そう思っていたのに、おかしな方向にずれていこうとする展開に、貴臣ならずとも焦る焦る。

まして、結婚から遠のいて、それどころかペットの頸木から自立の道を歩もうとするかのような結花の考えに、貴臣がどれほど焦燥感に駆られたことか。

けれど貴臣さん、ここで決定的に選択を誤ることになってしまったんですね。

「貴臣さん。あのね。――私、ケッコンは、一生しないって決めてるの」(4巻212ページ)

こんな発言が結花の口から飛び出してきたときの衝撃といったら。直後のリカバリーにも失敗して完全に「結婚」の二文字が禁句になっていく展開ときたら、絶望感に押しつぶされそうになってしまうくらいの悲惨さでしたね。

いやまあ読者的には、そつのない貴臣には珍しい失態は、喜劇さながらのおもしろさも感じられたのではありましたが。

「それはそれは、貴臣君らしからぬ不手際だな」(3巻130ページ)

こんなセリフも思い出されたりもしましたが、まあそうでもして笑いにしないと、ちょっと衝撃的すぎて立ち直れなくなりそうな展開ではあったでしょうか。

確かに、結花は誰のものかと聞かれたら、結花自らもそう答えるように、貴臣のものではある。その点は揺るぎない。けれど、それはふたりの道が将来にいたるまで完全に重なったことを意味するわけではなく。むしろ、いまだに結婚による幸せを信じられないでいる結花としては、まさにその不幸な実例に邂逅してきたばかりだけに、愛情の破綻に備えることを考えずにはいられない。

すべてをすべて貴臣に頼りきっていては、その備えは皆無に等しい。であるならば、自分ひとりでも生きていけるだけの力はつけなければならない。貴臣といることを選ぶのは、結花の心理的には。その上でようやくとりうる選択肢なんですよね。

第六幕で結花の両親との対決は済んで、誰も邪魔するもののなくなったところで、晴れて結花を正式に貴臣のものにすることができると思った矢先、今度はその結花自身と対決する必要性がはっきりしてきたのがこの前奏曲。そして、大失敗を演じていきなりあとがない状況に追いこまれてしまったのがここでの貴臣であって。焦燥感にじりじりとした気分にさせられながら迎えることになるのが次の第七幕。ひとつ苦しい展開を抜けてもまだまだ苦しい展開がつづくことで。


そんな第七幕のタイトルは、ずばり「人生選択の自由」。お話としては結花の就活の話になるんですが、それがそこまで重大な意味を持つのがいかにもこのふたりらしいところというか。

貴臣に任せていれば永久就職だって可能だし、一大企業家久世家のグループ会社のどこであろうと就職先を用意してあげられると伝えられてもいる。

けれどそれは貴臣や久世家の用意する鳥籠でその後の人生をすべてをすっかり世話されるコースを意味するのであって。貴臣に好きでいてもらえる間だけ彼に尽くして、飽きられれば静かにフェードアウトする心づもりでいる結花としては、その後にも貴臣の庇護なしでは生きられないという、針の筵のような生活が待っていることを意味する。結婚生活はいつか破綻するものと信じずにはいられない結花としては、それは必ず起こる未来としか思えない。

そうはならないために、貴臣に飽きられたその後にもひとりで生きてはいけるように、自分で自分の稼ぎ口を作っておくことは、結花にとっては必須事項なんですよね。大学を卒業したらなんとなく就職して……という「普通」のレールに従うという次元をはるかに超えて、今後の人生をいかに生きていくかを見据えた悲壮なまでに差し迫った感情に背を押されながらの就職活動。これをしてすなわち、職業選択ではなく人生選択と呼ぶことは、なんらおおげさなものではないことでしょう。

けれどその一方で、哀れなのは貴臣で。結花から親の手をすっかり遠ざけることに成功したと思ったら、その矢先に結花自身が貴臣の用意した檻から出ていくようにしてずんずんと自立の道を進みだしていく。一生養うつもりだと口にしても真に受けてもらえないし、先走って結婚を申し出れば冗談じゃないと切り捨てられる始末。本当に、どうしてこうなった、どうしてこうなった……笑

悔やむ気持ちをかみしめながら、ただただ結花の就活の進捗を見守る様子に哀愁がただようこと。恋人の決断に寛容で理解のある大人の余裕を演じる裏で、それをひきとめてしまいたい願望をどれほどやせ我慢して押し殺しているのかと思うと、そして貴臣ほどの男が女性に対してそれほど弱りきった対応に終始せざるをえない様子が、最高に笑える見ものではありました。

「でもっすよ。お嬢様のこの先の一生は、とっくに売約済みじゃ……」
「届け出してないんだから、まだ契約前だろ」(4巻271ページ)


まあでも、これまでの積み重ねの成果ですからね。ろくに気づかれないままに対処されずにきたすれ違いの総決算みたいなものですから。わりと自業自得というか。いっそ喜劇的にながめてるとものすごくおもしろい展開ではありまして。頭抱えるもよし、腹抱えるもよしな、最高におもしろい話が展開されるのがこの第七幕なのではありました。

ただ、これは結花の心理、貴臣の思惑の両方を知ることのできる読者ならではの楽しみなのかもしれないという気もするところ。一方しか知ることのできない立場だと、この第七幕の真野さんみたいな誤解が生じるのもやむをえないところだとは思うので。その程度には複雑で、だからこそにおもしろい状況ではありますよね。

そんなこんなの結花の就職活動は、まず格好から入ることになるわけなんだけども、そこでリクルートスーツを選ぼうとして早々に、貴臣によるあれこれで増量してしまったお胸のせいで体に合う既製品が見つからないという壁にぶつかりだすものだから、なんかもう笑うしかない感じ。

結局、個人用に一式仕立ててもらう流れになるんだけど、そこでもシャツの素材選びで貴臣のと同じ素材にすることになって、貴臣に抱きしめられてるような気分になりそうと想像してたりする結花さんはなんかもうかわいいですねというほかない感じだし、髪型はどうしようかという段になると、まとめてみようとしたら髪の影からうっすらキスマークが顔を出してきたりするのはちょっと貴臣さん……とため息つくしかない感じだしで、しょっぱなからおまえら大概にせえよと思わせてくれるのはさすがというか。

OB訪問では、会社の財務諸表を見せてもらいながらその場でつっこんだやりとりをしはじめていくのを見てると、いつのまにそんなスキルも身につけてたのかとびっくりさせられるんだけど、貴臣に教えこまれてたと言われるとそういうこともありそうだなと思わされるものがあったり。以前にちらっとだけそんな場面もあったような気がするけれど、膝の上に乗せた結花にあれこれいたずらしたりしながら甘々な雰囲気でささやき合う様子が目に浮かぶようではありますね。

まあでも第一志望の企業を選んだ理由がどうも、メセナの音楽活動に力を入れてるからであるっぽいというのは(すくなくともそういわれると納得できてしまうのは)、とても結花らしいというか。ここまでも、クラシックやオペラのことになると親子以上に年齢が離れてても、本来住む世界が違うはずの人とでも、熱気のこもったおしゃべりで打ち解けてきた実績がありますからね。

インターンがはじまると、ここでついに結花さんの非凡なところが明確になってくるんだけど、貴臣に連れられてドイツを中心にヨーロッパで二か月過ごしたりなんてことをもう二回もしていることもあって、英語もドイツ語も日常会話はふつうにペラペラなんですよね。外国人のチューターと一日マンツーマンで過ごすって、並みの日本人にはかなり高難度なイベントだと思うんだけど、それを「楽しくお喋りして終わり」と平然と言ってのけれるのだからさすがというか。こういうのを見せつけられるにつけても、大学生というのは可能性に満ちあふれた期間だよなあと思わされますね。

まあでも、ほかの分野でもそうだけど、結花さん、教えられたことを吸収して自分のものにするぶんに関しては、目をみはらされるものがありますからね。ヨーロッパにいる間、あれほどいろんなイベントこなしつつも吸収するべき知識教養はしっかりばっちり身につけられているあたり、この点に関しては結花の非凡さは否定できないと思う。

インターン期間中でもバレンタインにはしっかりデートの予定を入れこまれて、睡眠時間も足りないままに翌日のインターンに行くことになってたりもしたけど、そんな状態でさらに朝からぺろりといただかれてもしまっていたけど、それでもインターンの日程をしっかりこなすのは就活にかける思いの表れのようでにやにやしかったですねというか。

個人的にはリクルートスーツ(オーダーメイド)にそそられた貴臣の欲情にあてられてそのまま無断欠勤コースになだれこむ展開も悪くないなと思ってしまう部分もあるんですが、そこはやはり結花的にも人生がかかってる就活なのでいたしかたなし。まあそれでも、スーツ姿でありながら身の内にくすぶらされた熱をもてあましてる結花さんはとてもいいものだったと思いますけど。

そんな結花のスケジュールの隙を突いてデートをねじこもうとする貴臣だけど、ままならない感じになってる不満を全力で押し隠して包容力のある大人のふりをしてる貴臣さんという構図。藤崎さんならずとも盛大に笑ってしまいそうになりますよね。

とはいえこれに関しては河合さんが正論で。

「恋人とはいえ赤の他人に、人生の行く末を左右する問題に意見する権利があるとお思いですか。だからさっさと結婚すべきだと申し上げたんですよ」(4巻439ページ)

ぐうの音も出ないとはまさにこのこと。まあでも何度でもいうけどこれに関してはこれまで積もり積もったあれこれによるものでもあるので、たとえ「さっさと結婚」してたとしても、それはそれでまた別のところで齟齬が生じてたように思うんだけども。

就活するくらいなら久世家のグループのどこにでもポストを用意してあげられるとの申し出を言下に却下される貴臣というのはそれはそれでおもしろいんだけど、その一方でこの方面に関して貴臣の兄の唯臣さんの着眼点はなかなかにいい線を突いていたというか。

貴臣のコネで入社するというのは、コネ入社にまつわるイメージの悪さからいってもとうてい承服しがたいものではある。けれど、コネはコネでも、恋人の持つ権力がゆえではなく、自分自身の実績がお偉い人に評価されての担当部門へのスカウトであるならば、それは縁故というよりも実績採用と言ってさしつかえないものでしょう。この辺は、政治家の孫を妻に持つという唯臣さんならではの攻め口といったところだったでしょうか。ぐらっときてる結花の様子には期待させられるものがありましたね。

とはいえ、結花がなんで久世家のグループへの入社を拒否しているかというと、それは何度も書いてきたように、貴臣に捨てられてしまった後で、貴臣と関わり合いを持たないで済む程度には遠くでひっそりと嘆き暮らしていくための糧を得る場所が必要であるからで。いくら実績採用だからといって、久世家のグループにいるかぎり、その中枢で存在感を発揮する貴臣と関わり合いに持たずにいることは難しい。

だから、この切り口からでも結花に承諾されることはない……はずなんだけど、それでもなんだかんだと粘って、承諾はされないものの拒否もされずに保留のままその場を納めてみせる手際はすごいというか。この辺、有無を言わせずデメリットを上回るメリットで殴りつけてくるようなタイプの貴臣とは違った唯臣さんらしい交渉術なのかなと思ったりもするけれど、唯臣さんは言ってしまえば端役でそれほど出番も多くはないキャラなので、よくわからないのが惜しまれる。

そしてすこしだけ明らかになる「隠れ家」のお高さ。まず「税サ込み」ってなんですかってレベルなんですけど、なにはともあれ、うん、一般人が気軽に利用できる価格帯ではないですね。そんなところを値段気にせず頻繁に利用する貴臣さん、すごいー。

なにはともあれ、やきもきする貴臣をよそに、結花さんの就活はあっけなく終了してしまって、それもまた結花さんの非凡さゆえだよねと思うわけだけど、その一方で貴臣のほうは結花が自分から離れていくかのようにして就活優先でデートの時間もままならないのにフラストレーションをためている様子がおもしろいところではありまして。

それが募りに募った末の展開がこの4巻終盤の事件ではありましたね。その前段がなくてもあれだけのことがあれば、貴臣ならいてもたってもいられなくなっていたとは思いますが、そうであっただけになおさら、予定をすべて放り投げてでもヨーロッパから結花のいる東京まですっ飛んでこずにはいられなくなる感情が伝わってくるようで。

結花に自分から離れていくかのような就活を許していたら、あやうく今生の別れが訪れるところであったというのは、洒落にならに事態ではあるわけで。一歩たりとも自分のそばを離したくないとばかりに焦燥感じみた独占欲をさらにエスカレートさせていくのにはおおいいに納得させられるものであり。

結花のほうでも、おそろしい出来事があった直後で頭がまだはっきりとしていない状況では、どれほど貴臣がそばにいてくれることがありがたく思えたか。心強く思えたことか。貴臣には自分にかまけてばかりもいられない仕事がある。さらには自分のせいでその仕事にも支障をきたさせている。それでも、貴臣に自分のそばから離れてほしくない。貴臣のそばにいる安心感から離れたくない。そんな感情がこれでもかとばかりにこもったセリフが記事冒頭に引用したものだったでしょうか。

弱っていたからこそ言える本音。貴臣が望んでやまなかった、迷惑をかけてでも欲してくれる甘え心。それがついに結花の口から発されたというのは、場面が場面なわけではありますが、それでもこれまでの泥沼のすれ違いを招いた葛藤を思えば、感慨深い気持ちにさせられないわけにはいかないんですよね。すごくいい場面。3巻のクライマックスが「好き」の告白であるならば、4巻のクライマックスはまちがいなく、貴臣を、彼といるベルリンをこそ帰りたい場所と呼んだこの場面でしょうね。すっごくよかったです。

その後のベルリンでの場面でも、おそろしい悪意にさらされた直後だけに、優しさのうえに優しさを重ねるように、結花の心と体を大事にしたいと願う貴臣の心情はとても結花への愛と慈しみに満ちあふれていいものでしたね。まあそんな気分を粉みじんにしてくれるのは結花のほうではあるんですけども。

結花さん、愛情というものを理解できずにいる女の子ではありますからね。真綿でくるむような優しさにはくすぐったいようなうれしさを覚えるんだけども、結花が望むのはそれとはすこし違って。貴臣のそばにいたい。そばにいさせてほしい。それが結花の望みであって。それに対する最上の返答は、焦がれるほどの自身への執着だと、この期に及んでもまだ思っている。

だから、欲望をこらえながらのセックスは、この場面においては結花の不安を解消しきってくれるものではなくて。余裕もなくなるほどに自身の体を欲してほしい。そのためなら、いやらしい姿だってさらしてみせる。そうして、優しくしたい気分の貴臣の欲望に火をつけて、それで満足げに意識を飛ばす結花さんというのは、最高にやばい姿ではあったんですけれど、それと同時にたまらなく健気でいとおしさも感じずにはいられなかったんですよね。

そんな感動的な場面はあったけど、その後、滞った仕事をこなすために河合さんにムチ打たれることになる展開は、お約束とはいえ笑うよねという。まあ貴臣さんも結花でたっぷり癒されながら楽しくお仕事してるようなので、これはこれでwin-winの関係ともいえるでしょうか。

そしてラストは恒例のぶっこんでくる展開。いちおう第七幕としては次の巻にもつづいているのではありますが、引きのインパクトは断然ここ。

とうとう、とうとう貴臣さんからプロポーズの言葉が出ました(まあ二回目ではあるんだけども、一回目はさすがに目も当てられない代物だったので……)。でも、それが全然ドラマティックな場面にならないのがこの作品なのでありまして。

結婚とはすなわち永遠の愛の誓いであるわけですが、あらためてふりかえるまでもなく、「好き」はわかっても「愛してる」という感情を理解できないのが結花であり、まして男女の仲が永遠につづくなど信じられないのが結花である。その原因の根本はふたりのどちらにもないわけではあるけれど、その一方で貴臣としてもその状態を覆すことができているわけではない。

それだけに、結婚を求められたところで承諾などできるわけがない。それどころか、そんな永遠の愛の誓いを向けてくる貴臣の気持ちまでわからなくなってくる。なんでそんなことを言ってくるのか、今のままではだめなのか。自分に不満があるということなのか。わけがわからなくて、考えもまとまらなくなって、呆然と首を振るしかなくなる姿が痛ましい。

なんですか、このプロポーズは? なんでプロポーズの場面呼んでこんなに頭抱えることになるんですかね。どうしてこうなった、どうしてこうなった……。

でも、貴臣の気持ちもわかるんですよ。あやうく結花が永遠に手の届かないところに行ってしまうところだったということを思えば、形のうえでもさらに結花を自分のもとにしばりつけてしまいたくなる気持ちは。けれど、この結花の反応を見てると、神経質なくらいに慎重を期して結花にセレブな世界に身を置く感覚に慣れさせていったこれまでのアプローチがやはり正解だったんだなと思わされる。

ただしその一方で、そうしていれば結花はある程度まで流されていってくれるのではあるけれど、決定的なところでは頑固なまでに拒否の態度を翻さないできたのも結花であって。こうなると、どこかでむりやりにでも自覚的に立場を変えてやる必要があるのは明白で。そしてそのタイミングこそがほかでもないこの瞬間であったということなのでしょう。立ち居振る舞いは洗練されて、容姿だって立派に磨きたてられて、親もとから自立したひとりの人間としての喜びも試練も経験して。すっかりセレブな世界に連れだされても恥ずかしくない女性になったこのタイミング。

それだけに、貴臣としてもようやく結花に正面から自分と対峙させる機会を得たともいえる展開。今はまだ、結花としても覚悟を固めて答えを探れる状態ではない。けれど、いつまでもこのままでもいさせてはもらえない。貴臣にとって、すでに結花のいない人生なんて考えらえれないものになっている。そんな貴臣のそばにいつづけることを願うならば、結花としてもその気持ちに真摯に答えなけらばならない。

この問題に関しては、従順に貴臣に従うペットではいられない。好きの気持ちがつづくかぎりの恋人としてのつもりでもまだ逃げが否定できない。さらにそれ以上の存在となることを真正面から受け止めて、そのうえで返す答えを考えることが求められる。二十一歳とはいえまだ大学生な結花には、正直とても重たい問いだとは思う。けれど、これこそが結花の人生選択における究極の問い。あとまわしにしてほかの問題に先に答えることはできても、最後にはやっぱりここに立ち返ることになる。避けては通れない問い。ついにここまで、たどりついた。

果たして、結花はこれになんと答えることになるのか。通常ならYes一択でハッピーエンドなんだけど、そんな簡単に安心させてもらえないのがこのシリーズではありまして。答えにいたるために必要なピースは、まだ不足しているように思えてならない。そうした鍵を握る出来事と、どこでどう出会っていくことになるのか、それが結花にどんな影響を与えていくのかなど、いよいよもって目が離せない展開になってますよね。


いや本当に、素晴らしいシリーズです。ストーリーがぐぐっと進展して、ふたりの恋の、いちゃいちゃしてる裏での泥沼感が大増量で、たいへんにおいしい展開になっている3・4巻ではありました。もう本当に、こういう話、大好物すぎます。気になってる方は今すぐ読むべきと、あらためて全力でオススメします。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:34| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月17日

定時にあがれたら(1)

定時にあがれたら 1 (フィールコミックス FC Jam)
定時にあがれたら 1 (フィールコミックス FC Jam)

ふとした縁から知り合った綺麗系の同僚が気になる営業部のOLと、そんなふんわり甘め系な彼女をかわいいなと思う企画部のOLによる社会人百合。

相手に好意を抱いても、相手の迷惑になったらと思うと一歩を踏み出すのがこわくって、でも相手のなにげない態度の一つひとつがうれしかったりつらかったり、それだけで気持ちがいっぱいいっぱいになってしまうほどにその人のことで頭がいっぱいになってしまう。好意を告げられると、そんな気持ちはなかったのに友だちとして以上に相手のことが気になって、ふとしたしぐさの一つひとつに自分の相手への気持ちの答えを探るようにして、ぼんやりと相手のことで頭がいっぱいになってしまう。

勢いまかせではなく、劇的でもなく、けれど互いの言動の一つひとつに一喜一憂して、そうして恋人になっていく、素敵な雰囲気の社会人百合でした。これは1巻とのことで、わりときれいに話がまとまってる感はあるんですが、ここからどういう展開になっていくのか。いずれにせよ、この一冊、いい話でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:29| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月11日

リボーンの棋士(3)

リボーンの棋士 (3) (ビッグコミックス)
リボーンの棋士 (3) (ビッグコミックス)

リボーンの棋士 第3集 | ビッグコミックBROS.NET(ビッグコミックブロス)|小学館

熱い。

一度は奨励会からはじき出された人間だからこそ、譲れない思いがある。将棋しか取り柄がない人種として、勝つことでしか取り戻せないものがある。元奨励会の三段で、年齢制限で退会を余儀なくされた安住と土屋。プロ編入への道を賭けたふたりの対局は、めちゃくちゃに熱かった。

意地と渇望と執念と……それらのすべてが指す手筋となって、息の詰まるような迫真の対局がくりひろげられる。すごかった。特に土屋。将棋に人生を捧げてきて、まだなお将棋でしか人生を取り戻せないほどの諦めの悪い男。アマチュアを見下すプライドの高さもあるんだけど、それすらも復讐心じみた将棋への執念のなせる業であって。安住のような爽やかさはないけれど、これほどの思いを見せられたら、嫌いにはなれないですよね。「俺にとって将棋は楽しむものじゃない」(143ページ)。ものすごく熱かったです。

次回は新しい才能の登場ということで、アマチュアの世界も熱そうですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:12| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

オペラ座の恋人(1)・(2)

オペラ座の恋人(1) (オパール文庫) オペラ座の恋人(2) (オパール文庫)
オペラ座の恋人(1) (オパール文庫) オペラ座の恋人(2) (オパール文庫)

オペラ座の恋人@ |オパール文庫
オペラ座の恋人A |オパール文庫

「私は、貴臣さんのものです。貴臣さんの、ペットのウサギですから」(2巻199ページ)

最高すぎる。最高すぎる……。読みだしたら止まらなくなった。それどころか、読めない時間にもあの場面その場面が思い出されてきたり、つづきではどうなっていくんだろうという思いが浮かんできて日常生活に支障をきたすレベルにまでなってしまった。夢にまで出てきた気がする。こんなにまでのめりこむような読書体験はどれくらいぶりだろうか。すっかりハマりこんでしまった。

ちょっと尋常じゃないくらいのおもしろさ。読んでる間、顔がにやけまくってやばいこと。ほとんどずっとにやけっぱなしになるから、30分・1時間ほども読んでいると顔が疲れてきて休憩をはさまないとしんどくなってくるとかいう意味不明なレベル。外で読むとか絶対ムリ。不審人物まちがいなし。でも読んでいるとこの物語の世界が最高に素晴らしくって、時間も忘れて雰囲気に浸りきってしまうんですよね。

この物語の魅力はなんだろうかと考えてみると、大きくはふたつであるように思えるんですよ。高級感も次元が違えばただただ呆然とさせれてしまうレベルの桁違いのセレブ感と、そんなお相手に選ばれたのが普通の女子大生であるという不釣り合いさから生じる歪さを抱えたふたりの関係性と。

物語の主役となるヒロインは、クラシック音楽が大好きな普通の女子大生・鳴海結花。お相手となるのは、ひと回り以上も年上で世界的な企業の御曹司である独身貴族・久世貴臣。普通に生活していれば出会うこともなかったはずのふたりが、同じクラシック趣味の日本人同士、ベルリン国立歌劇場の公演で偶然に席が隣り合ったことから関係がはじまっていく物語。

この作品、セレブのディティールがかなり具体的なんですよね。身につけているもののブランドや高級な食事のメニュー、ラグジュアリーなホテルの様相など、自分には縁遠くてピンとこないものばかりなんだけど、具体名を出して描写されるとそれだけでなんだかすごいものという気がしてくる。一つひとつはまるで呪文のようなんだけど、ずらずらと並べ立てられることで脳裏に浮かびあがってくるイメージは燦然とした格の違いを伝えてくるようで。

しかもお相手が桁外れの御曹司なものだから、実家の応援も相まって平然と超高級品をこれでもかと繰り出してくること。ホテルでのVIP待遇のなんたるかを体験させられるわ、文化財クラスの着物が出てくるわ、普段の食事がまずく感じられるほどの食べ物の味を覚えさせられてしまうわ……。おまけに、諸事情あったとはいえ大学受験に失敗したことで抱えていたコンプレックスも、日本の大学なんて目じゃないレベルの貴臣の学歴を示されればなんだかどうでもよ思えてきてしまうという。

ここまでくるともう笑っちゃうレベルというか。普通の女子大生である結花が肩身の狭い思いをするのもわかる。いちお、派手派手しいものではなく落ち着いた品のいいものを選んではいるようだけど、よく見ると実はすごくいいものであると他人の指摘で知らされるのは、ひと目でわかる高級品を贈られるよりインパクトが強いんだよなあ。

貴臣と付き合っていくうちにセレブなお友達やお知り合いもできたりしてるけど、みんなそれぞれに強烈だからとんでもない。読んでるうちにだいぶ自分の中での「リッチ」の感覚がずれてきたような気はしてるけど、でも周りの人の話を見てる感じ、貴臣さんまだ本気を出してはいないみたいなんですよね。もともと金に糸目はつけてないけれど、慣れない結花を驚かせすぎないようにだいぶ加減してるっぽいというか。そんなところでも桁違いのセレブぶりを感じさせてくれるからやってくれること。

けれどその一方で、住む世界が違うレベルでの貴臣のセレブぶりを実感すればするほどつらくなってくるのは結花のほうであって。

はたから見れば、目も当てられないほどの溺愛ぶり。数多の女から好意を寄せられながらもそれをうっとうしくはねつけていた氷の独身貴族がついに恋人を見つけた、過労死も危ぶまれていた仕事人間が仕事もそっちのけにしかねないほどのお気に入りぶりに逆に悩まされることになったなんていう実家周辺のコメディカルなやりとりにも象徴されるように、わりとすぐに結婚一直線なほどのイチャイチャぶりになってはいるんですよね。

けれど、その最大の難関は結花のほうであったという。

最初は貴臣がどこの誰かわからなかったからこそ、異邦の地で会った同好の士でありかつ互いにいいなと思いあう男女として、思いきって一夜の関係を持ててしまったりもしたんだけど、彼が誰だかわかってしまうと途端に一歩身を引いてしまわずにはいられない。普通の女子大生である自分が隣に立てる相手ではないと思えてしまう。それでも彼に引っ張り出されて逢瀬を重ねるにしても、おもしろおかしく噂にされるのを避けるためには人目をはばかる関係にならざるをえない。そうしてできあがるのは、表面的にはセレブな彼の愛人以外の何者でもないという関係であって。

結花本人としてはそれでもかまわないと思ってはいる。もともと釣り合わない相手だと思っているから、彼がそばに置いてくれるならその関係はなんだっていいとも思っている。彼がいつまで自分を気に入っていてくれるのかだってわからない。でも貴臣に愛されていれば、貴臣に愛される自分でさえいられれば、そこに何物にも代えられない幸せを感じることができる。

なんとも歪ですよねえ。お互い相思相愛で、貴臣のほうは結婚だってじゅうぶん意識している。けれど、結花のほうがその未来を期待していない。むしろ必死になって否定してさえいる。自分はただ気が向いたときだけ貴臣に愛されるペットのウサギでいいと、貴臣相手だけでなく口にしさえする。この切ないほどの想いがたまらない。ジャンル的に現代ものであるはずなのに、ある種の主従ものめいた感覚すら感じられてしまう関係性。こんな、こんなの大好きに決まってるじゃないですか。

そのうえ、そんな関係でセックスだってしてしまうからもういろいろとやばい。体を重ねる行為だって、貴臣がまったくの初めての相手だったというわけではないけれど、これっぽっちも知らなかった感覚を次々に教えこまれ、貴臣相手にはすぐにその気にさせられてしまう体にさせられて。今だけ愛してくれればそれいいからと刹那的なまでの快感に奉仕することに喜びを見出したり、焦らすような責めに耐えられなくなってささやかれるがままに(むしろそれ以上に)いやらしい姿態でのおねだりを意識することなくするようになっていたり。愛する人に開かれ塗り替えられていく快感ですよね。

お嬢様学校の出身ではあるけれど本人としては取りたててお嬢様という育ちでもなく、ただ他人よりクラシックが好きというだけの純粋な女子大生だった結花が、別世界の住人であるかのような貴臣に出会って愛を知り、香水をつけることを覚え、お酒の味を知り、愛を交わす幸せを知り……。本人はあまり気づいてないけれど、極上なまでの御曹司によってすこしずつ引き立てられ、美しい女へと磨き抜かれていく変化の過程を見ていると、この先の展開がものすごく楽しみになってくることといったら。

帯の惹句の「運命の出会いはベルリン――」とか「極上の男に躾けられる快感」とか、買う前に見かけたときはあんまりピンとこなかったんですけど、この1・2巻を読み終わった後で見直してみると、ものすごくしっくりくるフレーズに感じられますね。

あと、この作品、600ページというページ数も関係ある気がするけどそれ以上に、もとがWeb小説だからか、一冊のうちに山場的な盛り上がりを感じる場面がいくつもある。章的な区切りの入る部分はほとんど盛り上がって終わるというか、読んでるこちらの感情曲線を振り切るようにして小休止を入れてくる感じがものすごくよくって。上げて上げていったん幕、みたいな感じになるからもう次が気になって気になって、でもちょっと休憩ほしいみたいな心地いい疲労感を何度も感じさせられる読書体験という、なんとも素晴らしいひとときを楽しませてくれること。

特にベルリン。貴臣とイチャイチャして、セレブなお友達とワイワイして、貴臣とイチャイチャして……。ひたすらに幸せいっぱいな時空が展開されっぱなしなものだから、にやにやさせられっぱなしで、そのうえで場面の区切りは思いっきり後を引く余韻を残してくれるような感情の振り切りをしてくるものだから、何度放心状態に陥らされそうになったことか。

控えめに言ってやばい。普段ならとりあえず同月刊行の本はまとめて読んで、その次はまたダイス振ってその目が出たとき読むかという流れになるところなんだけど、ちょっとこの作品へのハマり具合は尋常ではないので、もうこのまますぐに3・4巻に突入する所存。その前に、取り急ぎこの感想だけ書いて投稿しておきます。

ただし、本の感想は前に読んだ本があってこそ次の本の感想があると思っているので、いずれこの本の前に読んだ本の感想が書けたら、ブログの投稿日時か公開日時かをいじってそちらの後ろに移動させる予定。

(以上、6月3日)

――――――――――――――――――――

(以下、7月11日)

予告通りに順番入れ替えを行おうとしたんですが、あらためて感想を読み返してみると、どうにも記述が漠然としてるというか、あの場面、この場面、いい場面がいっぱいあったにもかかわらず、これでは思い返す役にも立たないので、もう少し追記してみることに。

ただし、一冊で話に区切りをつけつつなんて考えられてないだろうWeb小説の書籍化なので、1・2巻でまとめての感想を書くというのが個人的に難しく。なので、読み返しながら、ここと思った端から書き出していく感じで。


まず、なんですけど、この作品、出だしの場面からして引きこまれるものがあったんですよ。羽田の空港で流れるおしゃれなアナウンス音声からはじまって、観光よりも仕事でその場を行きかう人々の様子が記され、それから、そんな人たちに混じって海外へと飛び立とうとするヒロインの姿が描かれだす。これだけでもう期待感を高めてくれるに十分なハイソな雰囲気が伝わってくること。

ヒロインは上流階級の出身ではないけれど、そんな雰囲気とも相性抜群のクラシック音楽やオペラ観劇の趣味は筋金入りなのが伝わってきて。曲名とか、()で補足されるくらいの略称をバンバン使ってくる感じはとても通っぽい。そして、そんなところからも感じ取れる、念願のヨーロッパ旅行(遠征と言ったほうがニュアンスは伝わるかもしれない)に出かけるワクワク感がその雰囲気と合わさると、こちらまで浮き立つような気持ちにさせられる、そんな素敵な冒頭でした。

ダメ押しでファーストクラスの様子(by貴臣)も描かれるものだから、いやでもテンションが上がるというもの。自分、どうもこういう、ハイソな感じというか、エリートな感じの雰囲気、好きみたいですね。この作品の場合、それがシリーズ全体にただよってるわけなので、やばいことやばいこと。

そして、ベルリンの国立歌劇場でふたりが出会い、同好の士として打ち解けたところで出てきたセリフがこれでしたね。

「……あの、もしかして……、ちょっと夜食に女子大生でも食べてみようかなとか、思ってますか……?」(1巻22ページ)

後々においてもそうなんですけど、結花さん、基本的には初心で恥ずかしがりやな女の子なのに、たまにすごく大胆になる瞬間がありますよね。この場面だと、シチュエーション的に完全に男の前に据え膳出した格好なんですけど、本人たぶんそこまで深く考えてはなかったんじゃないかというか。思い切って一夜の関係を持つのに勇気を使いすぎて、そこまで気が回ってなかったのではないかという気が。

でも、これがあったからこそ、ハマりこんでしまうような魅力に満ちあふれたセレブな恋愛物語を楽しませてもらうことができたのであって。それを思うと、結花の勇気にいっそ拍手さえ贈りたい気持ちにさせられることで。

1巻の表紙絵は、この場面ですね。貴臣の膝の上に腰かけて、見た目的にも自分の体を差し出した格好。

ここであらためてふたりの初めてを読み返してみると、最初かららしさ全開の関係性だったんだなあと思わされておもしろいものがあったり。初心な結花の体に快感というもののなんたるかを教えて、快感が募っていく感覚にこわくなってくると(後にはもどかしくなってくると)焦らして自分からさらなる刺激をおねだりさせて、真っ赤になりながらそれでも我慢しきれず懇願してきたところで煽られた欲求を上乗せして悪い子の体を味わい尽くしにかかる感じ。

このシリーズにおける行為描写のうまいと思う部分は、この、男の欲求が煽られる瞬間をしばしば描いてくれるところにあると思うんですよ。ただ体を重ねていれば、絶頂に達していればエロいかというとそんなことはなく。理性が吹き飛んで欲情や快感に押し流される、その瞬間のぐらっとくる感じのエロさというのは、読んでいるこちらまで当てられてしまいそうな魔力のある一瞬だと思うのです。

それをもろに被る貴臣としては、思いがけず部屋に連れこむ形になってしまった結花から誘いまでかけられて、どうしたものかと頭を抱えかけてた当初の様子もどこへやら。一度どころかたっぷりと「夜食」を味わわずにはいられない気持ちになってしまうのもうなずけようというもの。いやまあ結花に煽るようなこと言わせたのは貴臣自身なんですけど。そりゃこんなプレイばっかりしてたら貴臣さん、毎度のごとく年甲斐のないがっつきぶりを発揮することになってしまいますわ。

そして事後の朝にツヤツヤしてる貴臣に対して、ぐったりしてるけどゆっくり休んでもいられなくてお眠な結花という、これもこの後に何度も見たような記憶のある構図も最初のころから。ほんとこれ、社会人というよりも学生のそれではという気が……。これはこれでなかなかいいものではあるんですけど。


第二幕になると(正確にはその前奏曲から)、舞台は移って日本。ここでふたり以外のキャラクターが何人も登場してくるんですけど、結花との逢瀬にウキウキな貴臣を見る秘書のリアクションがまずめっちゃ笑わせてくれるのでして。

ハイスペック・ハイステータスすぎていたるところで女に狙われまくって嫌気がさした結果、ここ最近は周りから心配されるくらいに女っ気のない生活を送っていたという上司が、ひと回り以上も年下の女子大生相手に甘ったるい声でご機嫌を取っているのを見たら、そりゃまあ人が変わったのかと驚愕もしようというもの。秘書の運転する車の中で甘いやりとりをはじめる貴臣も貴臣なんですけど、そんな上司の姿に気味の悪いものを見るような目で心中ツッコミ入れまくる野元も、たいがい失礼なやつだよねという。

そしてここからが貴臣の住む世界の違いぶりが結花の面前にまざまざと現れてくる話でもありまして。ベルリンで会った彼がどんな人物かと調べてみれば、世界的な企業の創業家の直系にして、グループの会社で役員を務めるというエリートぶり。デートをするにも運転手付きの車で迎えにあがり、超高級ホテルでVIP待遇を受けながらとなるほどの上流階級ぶりをいかんなく見せつけられるんですよね。

貴臣本人としては、結花を委縮させたくないためにあまり仰々しくしたくはないんだけれど、ビジネス界での知名度・影響力的にあることないこと噂の種にされることを避けるためには致し方のない措置であるというのがポイントで。これはどちらかというと貴臣よりも結花を護るための措置ではあるんだけども、それでもそんな配慮が必要になってくる関係というのは、一般人にはプレッシャーを感じるなというのが無理な話でありまして。その意味で、ふたりの関係性がこじれていくのは必然ではあったでしょうか。

でもそのVIPな待遇それ自体は、すごくセレブ感にあふれてておもしろかったんですよね。読者としても、別世界をのぞき込んでいるような気分になれるというか。特別なお客様のための特別待遇の、なんと快いことか。なんだかプチ旅行気分にでも浸れるようではありました。

そしてそんな超高級ホテルでの密会のご様子としては、人目をはばかる「密会」という状況も手伝ってか、初めて体を重ねたときと比べて段違いにいやらしい雰囲気がただよっていたのでもありまして。

口移しでお酒。とてもアダルティーですよね。最初は互いに舐めるように。くちびるに、舌に、口内に、残るウイスキーの味を楽しむように舌が這わされ、食んで吸われ、酔いと快感でとろりと表情がとろけてきたところで、たまらなくなってどちらからともなく行為に移っていく。愛を交わすというよりもただただ快感を求め合うかのような流れが、まだ二度目なのにと思うととてもいやらしく思えたことで。

しかも、結花さん完全に酔いが回ってるから、羞恥心なんてどこへやら、貴臣に促されるまま自分で快感を探って、それどころか無意識のうちに自身の内に納めた貴臣を煽りたてるような動きを見せたりもして。経験豊富な貴臣をして余裕のない声をあげさせる魔性の片鱗ぶりを見せつけてくれたとでもいえるでしょうか。これまたぐっとくる場面でございました。

あと、このころから、貴臣によるプレゼント攻勢もはじまってたんですね。デートのときのお酒や紅茶をはじめとして、服やバッグなんかも贈られたりして、気づけば身の回りに貴臣やその周囲から贈られたものがあふれていき、塗り替えられていくという。囲い込みの第一弾というか。その変化が起こる以前を知る友人の目に映る変化の様子が生々しくていいですよね。

そしてそんなこんながあった話の中で飛び出てきた貴臣さんの名言(迷言?)がこちら。

「気にしないでいい。あれはヒトではない、秘書だ」(1巻146ページ)

こんな傲慢なセリフが気取ることもなく飛び出してくるのが貴臣であって、けれどこんなセリフも似合ってしまう選ばれし人間なのも貴臣であって。結花に対しても、人に命じることに慣れた様子で指示を出す姿はまさに支配する側の人。それがさまになっているからこそ、出される指示が的確であるからこそ、だんだんとそれに従うことがなによりの選択だと思わされてしまう支配者気質の持ち主。

……なんですけど、これはさすがにシチュエーションがアレすぎますよねというところ。あー、貴臣様、困ります! 車運転してる秘書の視界の内でいちゃつきだすのは、あー! 事故が起こりかねません、困ります! 結花のほうだって、そんな気にするななんて言われても、全然安心できませんから!!

さて、この作品、幕のラストとか前奏曲とかでわりとシリアスな展開をぶっこんでくることが多かった気がしてるんですけど、その最初の象徴的なひと幕は第三幕の前奏曲だったでしょうか。

結花と貴臣の関係、住む世界が違いすぎて、連絡先がわかっていても、結花のほうから連絡を取る気にはなれないほどに気後れを感じてしまう、忙しく働きどおしている貴臣の邪魔をしてはと思うと必要以上を求めることはおそれおおく感じられるほどの立場の違いが立ちはだかる間柄。

とはいえ、それでも結花としては貴臣とのつかの間の逢瀬を楽しんではいたんですよね。ひと目で惹かれた相手ではあるし、求められることにはうれしさを感じられる。それまで見たこともないような高級な世界のそれこれも、貴臣といっしょに体験するなら楽しく受け入れていくことができる。

貴臣としても、必要以上に遠慮はしない、引き替えに何かを求めてもこない結花と過ごす時間に安らぎを感じていた。年齢的にはちょっと離れているけれど、ほかの誰にも代えられないお似合いのふたりと、この時点ですでに見えていたんですよ。実家のほうもおもしろおかしくしつつも歓迎姿勢ではあったし、最短ならこのままゴールインもありえるように見えた。そのはずだったんですよね。

にもかかわらず、そこで厄介な仕込みをぶっこんでくるからたまらないわけでして。ひそやかにではあれどよろこびに満ちた逢瀬を重ねていたふたりのうちの結花のほうの心の奥深くで、自分なんかがいつまでもこんな幸せを味わい続けられるはずがないという、まるで呪縛のような気持ちが芽生えていく。

ふたりの住む世界の違いを思えばわかるものはあるし、こういう内向きに沈んでいくタイプの心理は大好きなものではあるんですけど、ここから関係性がいびつにこじれていったことを思うとどうしてこうなったと頭を抱えずにはいられませんね。いやまあくりかえしいいますけど、こういう、いい子を演じながら心の痛みにひとりそっと蓋をしていく展開は本当に大好物なんですけれども。


第三幕では、それがさらに加速する。

結花と貴臣の関係は、すくなくとも日本では、おおっぴらにはできない。なぜならそれは、ふたりの住む世界がまるっきり違っているから。貴臣本人には隣に立つことを許されても、周りがそれを許してはくれない立場なのが結花だから。言葉にはされずとも理解できてしまうそれを、はっきりと突き付けられるとなれば、どれほどのショックを伴うことか。それは貴臣になぐさめられてもすぐに気分を入れ替えれる程度のものではなく。けれど、ふたりがまじめにその壁の向こうに進んでいくことを望むなら、避けては通れない問題でもあるんですよね。

ただ、そんなときであるにもかかわらず、いや、むしろそんなときであるからこそ、夜の場面はより一段といやらしさを増して感じられるからたまらないのでして。気後れしてしまうほどの立場の違いを一定以上に痛感しだしたことで、リードする側とされる側、導き導かれる関係はさらに一歩進んで、快楽を与える側と与えられる側、ペットと飼い主の関係へと移行する。

ここにいたると、それまででさえエロさにあふれていたふたりの関係に、さらに倒錯的な雰囲気がまとわりついて、めちゃくちゃにいやらしい場面が目の前で展開されること。足にアンクレットという名の鎖がつけられ、首にはネックレスという名の首輪がつけられ、背には鬱血痕がつけられ。目立たない部分からではあるものの、結花の体のそちこちに所有の印がつけられていく。

それは貴臣による結花への欲望の証であり、束縛と独占の証でもある。結花だけでなく、貴臣のこの執着心の強さも健全とはいいがたいものを感じる部分ではあるんですけど、結花からしてみればそれは飼い主からの寵愛の証であって。それに心の底からうれしそうな表情を見せてくれるものだから、男の側はまたたまらない気持ちにさせられるところであって。

セレブ感が見どころの恋愛ものだと思ったら、ずんずんソーニャ文庫もびっくりな歪んだ関係性に入りこんでいくことといったら。もうね、やりました! こういう展開、大好物です! と、ひとりガッツポーズしそうな勢いで、ページをめくる手が加速していくこと。

一般的には引かれそうなプレイであっても、貴臣にされるものなら恥ずかしがりながらも受け入れて、与えられるがままに快感を受け取ってしまう結花と、そんな結花の快感に対する正直さやそうして快感に浸りながらも一心に自身を求める健気さに欲望を煽られる貴臣という組み合わせもあって、一度倒錯的な方向に進みだしたらふたりだけでどんどん転がりだしていってしまう様子は、ふたりの相性のよさのいいところというか悪いところというか。ちょっと悩ましいところではあるけど、これがまたいいものでして。

なんといっても結花って、このあたりから大人の階段を一段また一段と登っていく様子が折に触れてわかるようになってくるものだからたまらない。それはエロい方面に限ったことではなく、むしろそれ以外の面で、貴臣と食事をしながらすこしずつお酒の味の違いを学んでいき、貴臣に贈られた香水によって愛らしい香りをまとうようになり、世間知らずな女の子として素直なかわいらしさが目立っていたその表情にはときに憂いの陰が差すようになり……。気づけばすこしずつ大人っぽさを身につけていくものだから、だんだん目が離せなくなっていくことで。


そんな空気で短編集のベルリンの章に突入するわけですが、この章は既述の通り、東京での重苦しさから解き放たれて、どこからどう見てもお熱いカップルぶりを見せてくれるんですよね。ペットと飼い主の関係はさらに明確化された感がありますが。でも、そんな関係でもふたりの様子はなんの不足もなく幸せそうで。この章は基本的に読んでいて本当に楽しかったですね。

シリアスな先行きの心配をすることもなく、ヨーロッパのそちこちの歌劇場や市場へデートに出かけ、滞在先のホテルでは何度となく朝晩愛しあって。そんな生活を、結花の大学二年の冬の最後の講義が終わった翌日から、三年の春の最初の講義がはじまる前日まで、二か月にもわたって、並みの文庫の一冊分も使って延々と見せつけてくれるわけですよ。これもうただのハネムーンかな? 最高でした……。

しかも、それだけの期間が描かれるわけだから、いろんなイベントが発生するわけですよ。貴臣始点だったり、結花始点だったり。けれどそうした何もかもがふたりの関係をさらに深くして、結花をさらに成長させていく。この前後を思えば本当に理想的な時間だったと思います。そりゃあ出会いの地であることに加えて、ひときわ思い出の地にもなりますよね。

まあ、着いて早々朝っぱらからいやらしい行為に及んでいるのはちょっとどうなの貴臣さんと思わなくもないですが。でも、空港で熱烈なキスを交わしているうちに顔も体もとろとろになっていく結花さんというのは、相当にそそられるものだと思うので、わからなくもな……いや、やっぱりアカンでしょ。

追記分の冒頭部と合わせて思うのは、このシリーズ、作中における外国語の扱いがうまいなあというところ。うまいというか、好みに合ってるというか。フランス語とかドイツ語とか、もろにその言語でつづられると理解できなくなってしまうところはあるんだけど、それでも伝わってくるのは、そうした言語に精通し流暢に意思疎通できるキャラのエリート感。そして高級な(イメージのある)言語が作中の随所で登場することによる、作品全体の雰囲気に与えるおしゃれで洗練された空気感。特定の人だけで通じ合う言葉で秘密のやり取りをしたりとか、いかにも洒脱で好みのツボを押さえまくったような雰囲気ですよね。

そして御登場するセンチュリオンのブラックカード。これをポンと渡してくる貴臣さん、すごすぎる……。さすがに無駄遣いできないように制限もされてると言うけれど、むしろその制限のかかる項目のレベルが高すぎて、金銭面での住む世界の違いが理解できてしまうからもう笑うしかない。

登場といえば、カレンの登場もここ。ベルリンの章に入る前に現地でできた友だちにふりまわされているという記述はあったけど、どんな女の子かと思ってみれば、結花からすればやっぱり住む世界が違うレベルの資産家のご令嬢であったというからびっくり。日本での唯一の友だちである絵里もなにげにお嬢様ではあったけど、結花さん、なにかそういう層の人たちを惹きつけるオーラでも発してるんでしょうかという。

貴臣の姉である千煌さんもこの章。千煌さん、本当にいいキャラなんですよね。綺麗で、かっこよくて。「姉がいるというのも悪くないものだ」(1巻533ページほか)とはまさにその通りの独白。貴臣にとってほとんど唯一といっていいくらいに頭が上がらない存在。名家に生まれて海外の社交界を渡り歩き、磨き抜かれた気品を備える凛とした美女。けれど結花にとっては親身になってくれる大人の女性でもあり、貴臣の姉ということは義姉になるはずの人なのでもあり。そんな結花との関係を見るにつけても、姉がいるというのはやはりいいものですよねというところ。

そんなセレブな人たちとの出会いを通して、絵里には高校出たてのあか抜けなさをそれなりのところまで引き上げられたというし、貴臣もなにかと甘やかす、という言葉では伝わりきらないほどのスケールでなにくれと世話を焼きたがるし、カレンも日本好きの女の子として日本人の友だちを引っぱりまわして自家用ジェットまで持ち出してあちこち連れ立たせてみたり、千煌は千煌で貴臣とすら対峙しうる存在として結花の庇護者を自認しだしていったりと、上流階級の人たちに愛される存在としての結花の様子がうかがえて。

本人としてはやたらパワフルな彼ら/彼女たちに一応の抵抗は示しつつも流されるままになるほかない境地なんでしょうけど、でもそうしてかわいがられてる姿は、やっぱりかわいいですよねという。

「結花に家事能力はない」(1巻390ページ)と、地の文でいきなりdisされてたりもしたけれど、ここで唐突に、世の中には二種類の人間がいると思うわけですよ。ヒロインの家事能力の高さに高得点をつけるタイプと、逆にその低さに高得点をつけるタイプと。そして、あえていうならば自分は後者であるということで。そんなエピソードにもいいものいいものとにやつかせてもらったり。

ことこの点に関しては、貴臣さんもどうやら類似の嗜好の持ち主らしく(?)、飼い主に失望されないかとびくついていたところになけなしの家事能力を発揮することを求められて涙目になっていく結花をながめて目を細めている様子に、いいご趣味ですねとひとりうなずいてみたりするのもいいものであり。

桃の香りの香水も、ベルリンにいる間にすっかり結花を象徴するアイテムになりましたよね。結花といえば、愛らしい、おいしそうな香りをまとった女の子といった具合に。もとはといえば貴臣から贈られたものであり、貴臣としては自分の証を結花にまとわせる行為の一種。けれど結花にとっても、それは貴臣から与えられた寵愛を身にまとう行為の一種であって。その匂いをただよわせていることがすなわちふたりの結びつきの象徴にもなるという、なんとも思い出深いアイテムになったことで。それゆえのすれ違いもあったりしましたが、だからこそに感じられる思い入れもあり。いいですよね。

一方で、一度傾きかけたペットと飼い主の関係が、決定的に強化されていったのもこの章ではありまして。熱く愛を交わしまくるふたりではあったけれど、そんなふたりきりで過ごすベルリンでの時間というのは、観劇の時間を除けば、恋人同士がともに同じ時間を過ごす穏やかで心地いい時間よりも、貪るように体を重ねたり快感を通して所有の関係を確かめあう時間のほうが多かったように思うんですよね。

当人たちの自覚はともあれ、恋人同士ならセックスしたりもするでしょうというのはいえることだと思うけど、それにしたって愛をささやき合うよりも快感を求めあう時間が勝ってた印象になるのは、まだこの段階では何か違うんじゃないかという気がするというか。いやまあそれはそれで好きなんですけどね。がっついた関係、いいですよね……。

ただ、それはともかく、貴臣としては、住む世界が違うことを思えば恋人という関係性を受け入れさせるのにもそれなりのステップが必要と考えてたのではあるだろうけど、その後を思えばやはりこの段階でもっとステップを進めておくべきだったかなとは。

表面的にはふたりで楽しく満ち足りて過ごしてたように見えるけれど、いっそ婚前旅行気分の貴臣に対して、いつ終わりを迎えるかわからない関係でありその原因は自分の恋人としてのつり合わなささにあるとして自虐的なまでの思いを成長させていく結花というすれ違いが水面下で進行していたのがわかるのは、割と手遅れになってからなのでありまして。

これも、ぶっこんできたのはベルリンの章の終盤なんですよね。とても楽しいハネムーン旅行記をどうもありがとうございました、と思っていたら……ですからね。結花だって貴臣と楽しく過ごしてたように見えていたのに、どうしてこうなった、どうしてこうなった……と、頭を抱えずにはいられませんでしたね。

まああとから思えば、結花のほう、いつフェードアウトしても構わないように、関係性の継続の可能性を探るよりも即物的に求められることにこそうれしさを見出していた感があったとはいえるでしょうか。そしてそんな結花を前にすると、貴臣としては年甲斐もなく旺盛になって流されてしまわずにはいられなかった面も否定できなさそうな。となれば、「夜食」に夢中になってた貴臣の落ち度ということもできそうな?

まあでも、その深刻さを周りで気づいてる人はいても指摘する人は誰もいなかったようなので、後々致命的な事態に陥るのもしかたないことだったのかもしれないということで。

いや、でも、乱暴にされるくらいに求められるならむしろその方がいいって思考の結花の誘い方は本当にやばかったと思うんですよ。いっぱいいじめてやろうという気でいたら優しく甘やかしてやりたい気にさせられて、優しくいたわってあげたい気になったところでいやらしい行為を懇願される。男の気持ちの振りまわしかたが半端なくて、優しくていたわりのある大人の仮面をかぶっているのがばからしい気持ちにさせられることといったら。

けど、貴臣も貴臣で、優しい大人の仮面をかなぐり捨てたうえで、そんな悪い子におしおきをするように、結花のさらなる色気を引き出すことにかけての手管の優秀さを見せつけてくれたりするのでして。それに羞恥を覚えずにはいられない結花の様子もあって、そんなふたりのプレイときたらとてもエロティックな光景でありまして。そのうえで体の疼きをこらえきれなくなった結花に自分からさらなる刺激をおねだりさせたりなんかするものだから、そりゃまあ貴臣のほうも我慢がきかなくなってしまいますよねというところ。いやもう本当に最高な流れですよ。

そして体を重ねるごとに増えていくキスマーク。このころから標準装備になっていったんでしたっけ。おそろしや……。

それにしても久世家のプライバシーのなさよというのを象徴する使用人たちのやりとりもあったりして、自分のあずかり知らぬところでプライベートな場面が漏れてる結花の気持ちはいったい……というところでもあるんだけど、その一方で、使用人や秘書の目から見た、それ以前を知るからこその、貴臣の常軌を逸したまでの浮かれぶりがつづられるのも、またそのたびに笑わせてもらえるものがあって。やっぱりたいがい失礼なんだけど、第三者目線から見て、気味が悪く思えるくらいの溺愛ぶりが伝わってくるというのは、それはそれでいいものであり。

ベルリンにいる間、何度も体を重ねて、そのたび新しいシチュエーションが描かれていくわけだけど、それが毎回新鮮なエロティックさを提供してくれるのもまたすごいところであり。

夜にして、寝たと思ったら起き抜けにもまたしだすのは、本当に若すぎると思うのだけど、でも誰のせいか朝に弱い結花が、ねぼけていつもの恥ずかしがる様子もなく素直にもっとと快感をねだる姿は、貴臣ならずとも逃すには惜しいと思わせるものがあり。ただ、その……ですね、貴臣さん、だからといって、おはようの挿入はさすがにドン引きものですよという。いやまあ、起きて早々の快感に、わけもわからないまま一気にのぼりつめて息も絶え絶えになる様子が最高にそそるのは否定しませんけれども。

ロンドンでの衝撃的な一夜でも、激昂する貴臣におびえながらも、それでも懸命に飼い主に奉仕する姿はいじましい淫靡さを感じさせて、それでいてどれほどひどくされても貴臣に与えられる快感には反応を示さずにはいられない体の素直さはいとおしいほどのいやらしさに満ちていて。

まあさすがに貴臣も冷静になったところで反省してくれたのではあるけれど。仲直りはしっかり甘々で、けれど外野の仕込みによる意趣返しのような趣向がたいへんに秀逸な焦らしプレイだったからたまらないのであり。お預けにお預けをくらわされたうえで、くすぐったいくらいの愛撫をこれでもかと施されるというのは、貴臣にとってはなんと拷問的な仕打ちであることか。そうしながらの結花の態度がいつになく甘えたであるからなおさらに焦らされている感がやばい。裏で某人ともども笑ってしまうよねという。まあ最終的にはいつも通りになったんでしょうけど。

けどその一方で、特典SSでその凌辱的な行為から発展させたプレイをちゃっかり習熟させていってるのを見せつけられると、転んでもただでは起きないというか、ちゃっかりしてるというか、もうどんなリアクションをしていいのやらというところ。しかもそれが純粋に快楽を追求する行為、描写になっているものだからぞくぞくするような官能的な場面になっていて。あんな行為すらもお楽しみな記憶によって上書きされていくのなら、もうなにをかいわんやというラブラブぶりであることで。

というか、これに関しては、貴臣さん、その場であれこれと意味不明な理屈を並べては結花に恥ずかしい行為を覚えこませるの好きすぎるでしょうとツッコまざるをえないところ。そして、逆らわずに貴臣の要求通りの痴態を取る結花の姿というのは、隠しえない恥じらいもあいまって、とんでもないポテンシャルを見せつけてくれるのであって。そりゃまあ貴臣もいろいろ教えこみたくなって、その手の知識はなにもなかったはずの結花がどんどんいやらしく育ちあがっていくことになるはずですよという。


そんなこんなでいろいろあったベルリンも、終わるときにはさっさと終わって2巻からは第四幕がはじまっていくわけですが、その前奏曲でさっそく入るは絵里による外見チェック。二か月、ベルリンで貴臣とべったり過ごしてから帰ってきて早々に、上から下までさっと目を通しただけでも見て取れてしまう、容姿や服装から雰囲気までいろいろと貴臣好みに塗り替えられてきた結花の様子が生々しくていいですね。

服はわかりやすい派手さはないものの質の良さがばっちりわかる高級品。おまけに首には、行く前にはつけてなかったはずのネックレスという名の首輪が下げられていて。確実に女性としての魅力を身につけつつある結花に対して、明確に誰かのものであることを見る者に宣言する、独占の証としてのアクセサリー。

そんなものを、これ見よがしにぶら下げて、絵里から指摘されればさっと顔を真っ赤に染めてしまう結花。これは、うん、首輪つけておかないとなんて、ベルリンで過保護ぎみに心配してた貴臣が、実は正解というか。セレブの世界ではまだまだかわいらしい女の子にすぎなくても、大学内ではすでに人目を惹かずにはおかない危うい魅力の持ち主と化しつつあるじゃないですかという。


そんなところからはじまって、第四幕はここまで誰の邪魔も入ることなく強化されてきてしまった結花と貴臣の、ペットと飼い主という関係が完成にいたる話。

まだあれ以上があったのかという気にもなるけれど、あったんだなこれがというところ。ベルリンの章までのふたりの関係は、久世家の内部では多少知る者もありながら、おおむね結花と貴臣のふたりだけの間における関係であって。けれど、表向きには恋人、かどうかはともかく、付き合っているふたりではあった。

しかしこの幕でふたりは、やむをえない事情があったとはいえ、それをふたり以外の人にも明かしていくことになる。しかもそれは、うしろめたさを感じながらではなく、誰に恥じるものでもないと、これこそがふたりにとっての至高のあり方であると、誇りすら感じさせるような態度とともに、宣言されていく。それが記事冒頭の引用部分。この場面はもう、その場に打たれて立ちすくんでしまうかのような、神聖さすら感じさせられるものがありましたね。この二冊のいちばんの山場はどこかと聞かれたら、個人的にはここでしょうと答えたい。そんなお話が第四幕ではありました。

そんな第四幕がどんな話だったかというと、幕題の通りの話。けれどそのほとんどが苦い気持ちを伴うできごとであるから、幸せ満載だったベルリンとの落差に愕然としてしまうわけで。

ここでカレンが日本でも結花の友だちとして合流。春休みの間にベルリンで知り合ったと思ったら、春休み明けには結花の大学に編入してくるという驚くほどの手回しのよさ。なんというスピード……と思えば、そこは高級リゾートホテル一族の令嬢らしく、寄付金によって「こころよく」受け入れてもらったという、知りたくもない資本主義社会のコネクションというものをのぞかせてくれるからさすがというか。

カレンさん、ベルリンでもジェットセッターぶりを見せつけてくれたけど、お金持ちならではの選択肢というものを一般人である結花に隠すこともなくどんどん見せてくれる人ですよね。貴臣のほうとしては一応、やりすぎて結花に引かれないよう抑制してはいるんだけど、そんなカレンの豪快さを目にしていると、だんだんとまあ同じ資産家の貴臣もこれくらいできてもおかしくないよねと感覚が麻痺してくるところがあって。完全に貴臣の思惑にはまってるんだけど、そうして意図せず「普通」の感覚がずれていく結花さんもいとおしくあり。

というか、結花の感覚のズレとしては、そういう金銭的な感覚以上に、味覚の感覚のもののほうが印象的だったというか。この第四幕での学生のコンパで集まった飲み屋で飲むお酒や食事についての描写が、おいしくなさそうだったんですよね。場の雰囲気の問題もあったんでしょうけど、ベルリンで貴臣に連れられてあちこちの一流の食事の味を覚えさせられた結果、安居酒屋の飲食物ではどうしても味気なく感じられてしまうという。ひとたび上のランクを知ってしまうと戻れなくなるとでもいうような、すっかり貴臣によって感覚が塗り替えられてるのがうかがえるのがいいですよね。

それにしても、この第四幕の話は、本当に嫌な気持ちになってくる展開が多くて。興味もないのに言い寄ってくる男や同性からの嫉妬。性格品格ともに惹かれずにはいられない極上の男を知っていれば軽蔑せずにはいられないような人たちとかかわりあいになることを余儀なくされる展開が次々と起こる。

手遅れになる前に貴臣が排除することになるとはいえ、そうした展開は読んでいるだけでも神経がすり減っていくような気持ちがしてくること。べったり過ごしたベルリンでの記憶がまだ新しいだけに、なかなか貴臣のそばにいられないことを寂しく思わされる話つづきなんですよね。まあだからこそ、救世主よろしく現れる貴臣に、涙が浮かんできそうなほどのありがたさを覚えさせられるのですけど。いや、でもやっぱり、つらいですね。

それに、会えたときの甘えようにはより拍車がかかっていとおしい存在になるわけで。貴臣のほうも、久しぶりに会ったら、車に乗り込んだ瞬間にくちびるを貪ったりして、顔を合わせるだけでは満足しきれない深い欲求をうかがわせる態度がとてもアダルトな雰囲気を感じさせてくれること。

貴臣は仕事の予定をむりやり変更させて、結花は友だちとの予定もキャンセルして、そのまま気の収まるまで愛しあう。もうその流れだけで、めちゃくちゃいやらしいですよね。しかも金曜の夜から月曜の朝までで、そのまま御出勤・御登校となるというから、やばさが半端ないこと。

結花の甘えたが進行する一方で、貴臣の入れこみぶりがますます明らかになってくるのもこの話。なまじハネムーンじみた春休みを過ごしてしまったばかりに、普段の生活が味気なく感じられてしまう様子はもうぞっこんと言っていいでしょうね。

そして、花開きはじめた結花の魅力を前にして言い寄ってくる男の気配に対抗するように、鎖だけでは飽き足らず、ついには目に見えるところにまでキスマークをつけだす貴臣さん。自分のものだと主張するためではあるのだけど、それはそれで余計に結花に卑猥な雰囲気をつけ足してる結果にもなってるんだよなあという。いやいや、これはこれでとてもいいものなんですけど。

とはいえ、貴臣が自分のものに手を出されそうになって不機嫌になるのはこわいものがあって。ロンドンでの出来事があるだけに、とばっちりでまた結花がひどい目にあわされてはと、びくびくせずにはいられないのだから。本当に、心の底から、どうでもいい人には視界の中に入ってこないでほしいとすら思うんだけど、そうそう都合よくフェードアウトしてくれないのがこの作品でして。そのたびに飼い主の顔色をうかがうように関係がゆがんでいくのがこの幕の話であるという、なんとも悩ましい展開。

まあでもそんなできごとがあった後に記憶を上書きするように、執拗なまでに体のあちこちに貴臣の手で快楽が施されていく様子はとてもいいものでしたよね。ねっとりと舌を這わされ、くちびるで吸いつかれ、歯を立てられ……。そうした刺激の一つひとつにぞくぞくとした快感を感じ取っては体を火照らせ、欲情に疼かせていく結花の姿がそれはもう淫靡そのものでして。

決定的な快楽は与えられず、中途半端に焦らされた熱にもどかしくなっておねだりしてもまだ絶頂に導いてもらえず、恥ずかしさも忘れて自分から貴臣を求めるまでに欲しくて欲しくてどうしようもなくなったところで、失神してしまうほどに何度も何度も止まることなく犯されぬく。限界を超えた悦楽にただひたすらに喘ぎ声をあげるしかなくなっている結花がとてもとてもいやらしかったです。

そしてここで御登場あそばすのが腕時計。なんの変哲もない腕時計では当然なく。それどころか、それまで貴臣がつけていたという、男物のブランドの腕時計。そんなごついアイテムが結花に貸し出されて、その細い手首に巻かれることになるという。想像するだに外見的にミスマッチで、それだけに「彼氏」から借りてます感がバリバリという。

これは、足の枷、首輪につづいて、体よく腕にも鎖をつけらたも同然でして。どこかの男のものという主張がますます強まってますよね。ちらりとのぞくキスマークと合わせると、どれだけ執拗に愛されてるかがいやでもうかがえてしまって非常にやばい外見にしあがってるようにも思うわけですが、結花としてはそうすることでより貴臣に気に入ってもらえていることを実感できて幸せそうな感じなのでなにも言えない感じ。いいと思います。

けれどその一方で、そうしてご満悦な貴臣さんははっきり言って浮かれすぎだったので、藤崎さんのツッコミには拍手を送りたいきもちでしたね。河合しかり、野元……はだんだん頼りなくなってくけど、ここの秘書は、放っとくと際限なく結花のことしか考えなくなってく貴臣に対する辛辣なツッコミが冴えてていいんですよね。というか、貴臣さん、結花の香水の匂いが移ったまま出社してるのはやばいですよ!?

さて、展開的には視界にも入れたくないようなキャラによる気分の悪い展開も入れこんでくる本作ですが、それらが結花と貴臣のふたりの関係に重要な意味を持ってくるから一概にそうした展開を否定もできないのが本作でもありまして。特に、結花が貴臣のとなりに立つ存在としての自分のつり合わなさを内心だけでなく他者からも突き付けられるのに、そうしたキャラが決定的な役割を果たすことになるんですよね。

それだけに余計に印象が悪くなっていく部分もあるんですけど、けれどそうした他者からの指摘に対して結花がこの幕で見せた対峙のしかたは、上記の通りで、この巻のクライマックスと呼ぶにふさわしい、素晴らしいものだったと思うんですよ。いやまあ思いっきりいびつな関係そのものではあるんですけど、幸せの形は人それぞれ。本人たちがそれでいいと思っていることに他者が口出しするいわれなどないのだというのはひとつの正論ではあって。

そして結花が貴臣の「お気に入り」以上の存在になる決心がつけられない現状では、これがひとつの到達点ではあるんですよね。ペットと飼い主であれ、彼氏・彼女であれ、なんであれ、ともかくふたりはそれぞれの意思でもっていまの関係をつづけているのだと、積極的にではないけれど他者にも宣言していく。結花にとってはこれだけで、なんの不足もなく幸せな状態であって。その意味で、本当に象徴的で素晴らしい場面だったと思います。

ついでにいうと、そんな場面でもなお普通の女子大生として貴臣の金銭感覚に異論を申し立てる結花さんはさすがおもしろい子ですよという気持ちにもなれたりしたんですが、それはそれ。というか、そんなときでも耳をカリカリされると反応せずにはいられない体になってしまってるのがいやらしくあり。

足枷をつけて、首輪をはめられて、腕に鎖をまかれて、体のあちこちで飼い主の証を感じていて、なおそれでも足りないとキスマークをねだり、直接体を求められて、それでやっと満ち足りる。そうまでしてもらわないと満足できないほどに快楽というものを教えこまれてしまった。そんな結花の変化を、まだ一年もたたない出会ったころと比べられると、たまらない気持ちにさせられるような変貌ぶりですよね。

けれどそうして自分を変えられていくことを、飼い主から与えられるものならばどんなことでも幸せとともに享受する結花の無防備な信頼の発露こそが、なによりも男をその気にさせるんですよね。自分の痴態を恥ずかしく感じつつも、それでも貴臣に与えられる快楽を欲さずにはいられない、かわいいかわいいペットのウサギの姿こそが。

ただまあ、そうして久世家のご厄介になった挙句に使用人たちに無言でお熱いカップルへの「配慮」をされるという羞恥プレイをされた結花さんは泣いていいと思う。

ところで、この幕で入る結花のお胸の増量に対する指摘は、これもまた貴臣と出会ってからの結花の成長の一部ではあるんだけども、その原因は貴臣による餌付けのおかげなのか、貴臣やカレンに連れられて行ったスパによるものなのか、貴臣に揉みしだきまくられた賜物なのか……。はっきりわかるものではないけれど、いちばん最後の線が否定できないのがまた卑猥さを感じさせてくれるところであり。

新学期になってからたてつづけにいやな出来事がいくつも起きて、GWになってようやく貴臣とゆっくり過ごせることになり旅行に出かけるふたり……まではわかるのだけど、旅行先の場面がいきなり致してる場面からはじまるのはちょっとどうなのとツッコミを禁じえないところ。

結花の水着姿には興奮せずにはいられないとか、貴臣さん、それだと、ふたりでのプールの楽しみ方がひとつに限定されてしまうですがそれは……。いや普通はひとつだろうけど、その「普通」のひとつにならないのはなんでだろうなあ……。というか、そもそもが結花さん、あちこちキスマークつけられすぎてて、貴臣とふたりきりじゃなきゃ水着姿になるのってほぼムリなんじゃ……。

でもまあやっぱり、ほかの誰にも見られていないとはいえ太陽の下で求められるのはどうしようもなく恥ずかしいと抵抗する結花を、快感を与えることでとろかせて、恥ずかしいんだけどそれ以上の刺激が欲しくてしかたがない気持ちにさせて、我慢しきれないくらいに焦らしまくった挙句に結花のほうから欲しがらせて、それを待ったうえで思いっきり快感を流し込んでいく展開はとてもやばいと思うんですよ。

そして、第四幕のラストもまたぶっこんでくるところでありまして。ここでもやらかしてくれたのでありました。

伏線は第四幕のうちにふつうにありはしましたけどね。でも、普通なら、そこまでのことが起こるなんて思わないじゃないですか。けれどそこは桁外れの資産家の貴臣のこと。やることのレベルが違いましたわ。

これはもう本当に呆然とするしかないというか。誰がそこまでしてくれと言ったか……。まあでもやれるならやっちゃうのがお金に糸目をつけない富裕な人間なんだろうなあと、頭真っ白になりながらも受け入れちゃうのは、やっぱりなんだかんだでそんなスケールの違う人たちの思考にある程度慣れてきてしまった証なんだろうか。

なんにせよ、これで結花の衣食住、生活のほとんどすべてが貴臣および久世家から与えられるもので成り立つにいたったわけで。これをしてペットと飼い主の関係性の物理的な完成形といわずになんというかと思うばかりの囲いこみよう。

いやしかしほんと、突然ポンとこんなされたら、驚きすぎて苦笑いも出てきませんわ。そろえられた家具とか食器とか電化製品の値段考えたらそれだけでおそろしいんですけど。結花、完全にびびっちゃってるんじゃないですか。自分の部屋のはずなのにおっかなびっくり過ごさざるをえないとは、なんて落ち着かない住まい。でも資産家的にはそのくらいが普通なんだとか。おそろしや……。

でもなによりおそろしいのは、そうして結花を引かせまくりながらも、ぎりぎりのところで断固拒否するまでにはいたらないラインをきっちり見極めてくるところ。結花に拒むことを惜しいと思わせるもろもろがさりげなく用意されていたり。なにより、結花のことが心配だからと、飼い主にはペットの安全を守る義務があるのだからと、心底から告げられれば、それで貴臣に気に入ってもらえていると実感できる結花としては、絹地でぐるぐる包まれて不自由を感じるくらいであったとしても、拒否はできなくなってしまうんですよね。

対等でない関係をしっかりと感じさせずにはいられない場面ではあるけれど、でもそうであるからこそ、葛藤の末にそれを受けいれる結花の心理がとてもいとおしくて。この関係性、本当に好き。

というか、千煌さん、久世家から離れて三十年以上もたつというのにいまだに久世家の使用人に信奉者がいるとか、やっぱりすごいですね。


そんなこんなで、第四幕でふたりの関係がひとつの完成形にいたった感はありますが、じゃあもうそのままになっていくかというと全然そんなことはなくて。あきれるくらいのいちゃいちゃぶりを見せられれば、周囲はそれがペットと飼い主の関係なんて思わずに対等な恋人同士と思うのは必然であって。それになんといっても、貴臣自身がそんな愛人まがいの関係に結花を貶めておくことをよしとは思っていない。

ふたりの間柄を定義するなら、そうした上下関係をうかがわせるものになるのか、もしくは対等だとしても、仲のいい男女くらいのものなのか、親密なお付き合いのある間柄なのか。結花は、貴臣は、それぞれどう認識しているのか。そして、この先にどんな関係性を期待しているのか。そんなところに焦点が当たるのが第五幕の話であり。

ということは、イコールとして、ベルリンのラストくらいから結花の心の深層で育ってきたこじらせた想いが浮き彫りになってくる話でもあり。そうした認識のズレに最高に頭抱えながらも楽しくて楽しくてしょうがなくなってくる幕でもあるんですよね。

長期休みのころとくらべれば当然、ふたりが会える日もめちゃくちゃ減ることになって、けれどその原因が何かと考えると、あちらこちらへ引っ張りだこになってしまう貴臣のビジネスエリートぶりに由来するものなのであって。そんな飼い主のペットとして気に入ってもらえている関係もいつまでつづくのかと、会えない日がつづく中で切ない気持ちを募らせる様子もものすごくいい話なのでして。

そんな第五幕のクライマックスは、なんといっても、結花による「すきなひと」発言でしょう。あれは、もう、そんなこととは露知らなかった貴臣の認識の甘さも含めて、秘書三人ともども、盛大にため息つきながら首を振ってやるほかない場面。どうしてこうなった、どうしてこうなった……というところでもあるけれど、まあ原因は言わずもがなそれまでの積み重ねによるものなので、どうしようもなくにやにやとした気持ちの悪い笑顔が収まらなくなってくることで。

結花って、自分と貴臣の関係を対等だとはこれっぽっちも思っていないから、自分から貴臣に何かを要求することって基本的にないんですよね。あれが欲しいこれが欲しいと言うことはないし、仕事の邪魔をしないように連絡をするのにも貴臣のスケジュールにすごく気を遣う。その唯一といってもいいくらいの例外が体を重ねているときで、貴臣に求められるままに、ときにはそれ以上に貴臣を求めたりもするのだけど、それだけで会えない日々も乗り越えられるかというとそんなことは全然なくて。

会いたいんだけど会えない。連絡を取ることさえままならない。そうしていると、余計に自分と貴臣との住む世界の違いを実感させられて、対等ではない関係がこの先いつまでつづけられるのかと不安に駆られずにはいられない。

それでも、そんなところを貴臣に見せてはうっとうしい女だと思われそうだから、切ない想いを必死に押し隠し、会えたときだけ、求められたときだけ、思いっきり貴臣に甘えかかる。気に入って執着してもらえているうちにめいいっぱいかわいがってもらおうと、精いっぱい貴臣に尽くす。

なんとも健気な姿ですよね。けれど、それで結花の不安が消えることはまったくなくて。かわいがられればかわいがられるほどに、いつか関係が終わりを迎えるかもしれない将来への恐怖がいやましていく。そんな悪循環のループのような結花の心理がどうしようもなくいとおしくて。だからこそその発露としての「すきなひと」発言(2巻450ページ)には、胸をしめつけられるような思いにさせられずにはいられない部分もあるんですよね。本当に、大好きな展開ですよ。

新しい「ウサギ小屋」で、貴臣(および久世家)に与えられた良質なものに囲まれて生活していても、となりに飼い主である貴臣がいなければ無機質で寒々しく感じずにはいられない。そんな憂いに満ちた様子がすごくよくて。

でも、なんで結花がそんな思考の悪循環にはまっていってしまうかというと、結花って、自分が魅力的な女性だとはまったく思ってないんですよね。絵里によって身だしなみに気をつけることは多少できるようになったし、貴臣に世話をされて服や装飾品なんかもいいものを身につけるようにはなった。けれど、それらをまとう結花自身は、どこまでも普通の女子大生のままのつもりでいて。

だからこそ、女性をより取り見取りに選べる貴臣ほどの男が、どうして自分なんかを気に入りつづけているのかがわからない。だから、いつかは飽きられてしまうだろうとおびえずにはいられない。

出会ってから、着々と魅力的に磨き上げられている様子を思えば、なんでそんな思考になるのかと首をひねってしまう部分もあるのだけど、そんな自分の魅力をわかっていない無邪気さも結花のいとおしさの一部ではあって。

けれどだからこそに、久しぶりに会えたふたりが貪るようにお互いの存在を確かめあう様子はとてもぐっとくるものがあるのでして。

会った瞬間に、ビジネスの電話中であるにもかかわらずディープなキスをはじめて、そうするほどにどうしようもない欲求に体を疼かせる。顔はすっかり発情しきって、ベッドまで行くのも我慢できずにことをはじめじずにはいられない。あらためて、これ、片方が社会人のする逢瀬じゃねーだろと思わずにはいられない。

でも、それがすごくいいんですよね。久しぶりの密着にめまいがしてきそうなほどの快感に貫かれて、喜びに胎内を震わせるとその期待に応えるように欲情した表情で性急に貪られて。時間も忘れて何度も何度も互いを求めずにはいられなくなっていく。最高にやばい。

はっきり言葉にはしないものの、結花のほうでも貴臣不足な飢餓状態が翌朝もうっすらしぐさに現れてたりしたのは、ものすごくいやらしかったと思います。

それはともかく、絵里とラリーの関係って、実はもうこのあたりからはじまってたんですねと、読み返していて初めて気づいた感がある。貴臣に押しきられっぱなしな結花の恋路を生ぬるくながめていた絵里にもにやにやしい展開が訪れたのかと思うと、より一層生ぬるく見まもりたい気持ちにさせられるものがありますよねという。

そして、第四幕にひきつづき第五幕でも、いやな人間によるいやな展開は起こるもので。でもまあそれについてはどうでもいいんだけれども、貴臣さんご登場のサプライズ感はすごくよかったですね。

結花がこっそりセッティングしたはずの場に、来るはずのない人が突然現れる。その直前から、聞きなれた足音なんかでいやな予感を募らされたところで、ぽんと肩がたたかれる、あの心臓が飛び出そうになる感じの描写がいいもので。なまじ隠れて用意された場だけに、悪事の現場を見つかったように冷や汗が浮かんでくるように感じてしまう結花の内心のバクバク感がとても笑えておもしろかったですね。

まあ当然その後、おいたの過ぎたペットにおしおきがなされるわけですが、これがまた卑猥なプレイでして。作者さんもあとがきでちょっとアレなシーンと書いてましたが、男性向けと比べればそこまで過激でもないであり(比較対象がおかしい)、個人的にはいいと思いますということで。

それに、こういうおしおきのときに限ってプレイの幅が広がったりするからやっぱりうれしいところでもあり。恥ずかしい格好をさせられて、それを自分でも実感させられながら、もてあそぶような刺激でなすすべなく高ぶらされる。そんな結花の姿のなんといやらしかったことか。最終的に結花も貴臣も切羽詰まったように互いを求めあう流れはたいへんにいいものでした。

まあでも、それはともかくとして、貴臣に相談しなかった結花のほうの気持ちもわからなくはないんですよ。貴臣の仕事の邪魔はしたくないし、なにより自分と貴臣が対等な彼氏彼女の関係だなどとはとてもではないが思えない。ならば、誰かに彼氏役を任せてその場をしのぐのがいちばんいいと、そんな思考になってしまうのも。

そんな気持ちが詰まった「すきなひと」発言は、あらためて読んでもちょっと破壊力が高すぎて。いじましさに胸がいっぱいにさせられてしまうレベル。ありがとうございます。ありがとうございます……!

でも、こんなセリフが飛び出していたと知らされた貴臣としては、普通に恋人同士として、大学卒業まで待ってから結婚なんて浮かれたことを考えてたことを思えば、愕然とするレベルでの認識のズレに猛省をうながしたいところ。まあその辺は有能な秘書さんたちを抱えているので、うまいこと対応してくれるのではあるんですけど。

とはいえ貴臣に擁護できる部分がないわけでもないんですよ。だって、いくら結花が住む世界の違いに引け目を感じていたとはいえ、ベルリンを筆頭にしてあれほどイチャイチャしていた裏で、これほどまでに気持ちをこじらせていたなんて、想像できますかというところ。なまじ隣で結花のウキウキした表情を見てきただけに、難しいものがあったと思うんですよ。結花のほうも、ちょっと尋常じゃないこじらせぶりではありますし。

いつまでかわいがっていてもらえるのかという悩みはおよそ普遍的なものだとは思うけど、結花の場合はそれが思いこみレベルで根深くて、ちょっとやそっとのことでは解消できそうにない。なんでだろうと不審にも思えてくるんだけど、わかってみると無理もないというか。たしかに、子ども心には強烈だわなあというところ。結花って、勉強漬けで世間知らずな育ちもあって、年齢のわりには精神的に幼さが残るので、なおさらに。

第五幕では、おおよそふたりの将来にそびえるその障害が認識されて解決せねばというのが明らかになったところで次につづいていく感じなわけですが、なかなかに悩ましい状況になってきてるのはおもしろいところではあり。

恋人にはなれないと逃げる結花と、恋人どころかその先までの将来をも手に入れたくて逃がすまいとする貴臣という、まるでふたりの対立するかのような構図になってはいますが、基本的にすでに相思相愛ではあるんですよね。結花のほうがそれを受けいれられずに抵抗しているだけで。

自分のことを貴臣のものと宣言することには抵抗がない。自分以外の女性が貴臣にすり寄ってくることに対する嫉妬心もしっかり存在していて、貴臣から飼い主としての寵愛心理ではなく対等な恋人としての好意を告げられれば、心臓が止まりそうになってしまうほどのうれしさを感じずにはいられない。

それなのに、素直にその好意を受け取れない。幸せな時間を有限としか思えない。そんな結花の心理がどうしようもなくいとおしくて、幸福を願わずにはいられなくなってしまう。ものすごくいい雰囲気ですよね。まあその後の様子を見てると、恋人同士の甘い関係はまだ結花には刺激が強すぎたのかもしれないけど。

とはいえ、そんなこんながあってもしっかりすることはしてるから、お熱いふたりではあるんだけど。

「ううん。貴臣さんは、違うこと、……教えて?」(2巻582ページ)

結花さん、月曜の朝からそんなこと言って、大学行けなくなっても知りませんからねという。恋人になることには抵抗を示しつつも貴臣を溺れさせることは無自覚でしてのけるウサギ。やばいですよね。

そんなこんなで、やや不穏な展開を見せつつ3巻につづいていく流れ。当初はこれもまたなにかぶっこんできたのかなーとも思ったんですが、これで第五幕が終わったわけではなく、ただ単につづいていってるだけなんですよね。たぶん、全6巻のページ数をだいたい均等にするための措置。もともと一冊分の長さで区切りとか考えてなかっただろうWeb小説の書籍化ならではの事情でしょうね。


ともあれ、あらためて、めちゃくちゃに好みな雰囲気の話でした。スーパーセレブな人達の桁違いのスケールは笑うしかない感じだし、いびつなふたりの関係性は悩ましくってたいへんおいしいものだし、R18な描写もたいへん好みに合ってやばいぐらいだしで。ちょっともう本当に、久しぶりにここまで好みにドハマりしてる作品に出会いましたよねという喜びとこの先の展開の期待感に打ち震えずにはいられませんでしたよねというところ。

気になる方はいますぐ読むべきと力いっぱいにオススメします。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:43| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月08日

ボクラノキセキ(2)

ボクラノキセキ 2 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)
ボクラノキセキ 2 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

本当に好みな雰囲気。ファンタジーな前世の記憶と今生の学生の記憶。それらが混濁して、前世の魔法の力まで復活し、境目がわからなくなっていく展開。隣国との突然の戦争で亡くなった記憶がよみがえり、敵への憎しみを学校生活に持ち込まずにはいられなくなるクラスメイトたち。平穏だったはずの学校が、一気に一触即発の空気と化していく緊張感。そしてなにより、それらをもたらしたのが、ファンタジーな前世の記憶の復活によるものであるという、最高な雰囲気の現代ファンタジー学園アクション。やっぱりすごく好きですわ、これ。

ある者は敵意を爆発させ、ある者はそれを阻止しに動く。なまじ戦争で死んだ記憶を思い出したばかりであるだけに、わき上がる憎しみをを止めるのは難しく、けれどその報復がなされようとするのはまぎれもない現代日本の平和な学校なのであって。昨日までなんの変哲もないクラスメイト、友だちだった人たちの間に憎悪の感情が芽生えるのは悲しい展開ではあって、けれど周りでそれを目にする人たちも気持ちはわかってしまうだけになかなか制止もできなくて。前世の身分的にもっとも権威のあったベロニカ自体がその感情を否定できないだけに、感情的な対立は悩ましいものがあって。

でも、前世でなにがあろうと、今生ではクラスメイトになっていくばくもたたない生徒たちでしかないはずなのであって。友だち同士、恋人同士という関係の記憶がいくらかの抑止力になっているのは救いではあるか。また一部には、かつての同僚として、和気あいあいと旧交を温めている人たちもいて、それはまたほほえましいものであって。

お話的には転がりだした展開がどこへ向かうのか、予想もつかないところではあるけれど、そんな合間に学生として青春してる姿が見られるのはとてもいいもので。前の巻での皆見と高尾さんのカップル成立もよかったけど、今回のモトの広木への告白も、今を逃したら絶対後悔するってタイミングをはずさないのはすごくいいものがあって。まあ今回のは、前世の記憶が混じりこんじゃってる影響で、なんとも主従じみた関係性になってるのがほほえましくもあるんだけど、そこがまたいいというか。

その一方で、カップル成立してから前世の記憶が戻っちゃった高尾さんはなかなかおもしろい展開になってるというか。なまじ前世が主従だっただけに、芽生えかけてた恋愛感情が忠誠心に置き換えられちゃってる感があって。いっしょにいるのも好きな人といっしょにいるというより主につき従う当然の行為という感じで、ドキドキ感もなにもあったもんじゃないというか。恋人同士な関係も指摘されて初めて思い出すレベルだったり。とても前途多難な感じになってしまっているけど、従者なつもりが恋人であることを思い出させられた瞬間の高尾さんはとてもかわいかったので、皆見にはいろいろがんばってほしいところ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:04| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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