2018年04月20日

魔導の矜持

魔導の矜持 (創元推理文庫)
魔導の矜持 (創元推理文庫)

魔導の矜持 - 佐藤さくら|東京創元社

姉弟子が序盤で退場してしまって悲しい……(前書き)

それはともかく、シリーズ第三作。

今回もすごくいいテーマでした。誰かにとっての普通なことが誰にとっても普通なわけではなく、むしろその人以外には誰も理解できないことだったりする。けれどそれはその人にとっては当たり前のことすぎて、むしろそうじゃないことがどういうことかもわからないくらいに「普通」のことであって。誰かに説明しようとしても、子どもの頭では自分にだけわかる感覚というものをかみくだいて説明するなんてことはできるはずもなく。知識のある大人ならば、より専門的な知識のある先達ならばと期待をかけてみるも、これっぽっちも理解を示してはもらえない。それどころか、ほかの子どもたちならば普通にできることができないことから単にやる気がないのだと疎まれていき、しだいに落ちこぼれの烙印を押されてることに諦念すら抱くようになってしまう。それがどれほど人から希望を奪っていくことか。普通とされる才能だけが認められ、そこからはずれる素質がなんの価値もないものとして顧みられない社会が、普通からはずれた人たちに対してどれほど希望に欠けた社会として映ることか。だからこそ、理解できないながらも他人とは違う何かを持つ人だと肯定的に認識しようとしてくれる人物に出会えることの、なんとうれしいことか。普通ではないことがすなわち劣ったことなのではないのだと、本人にとってはまぎれもなく「普通」のことであるその感覚を育んでいいのだと言われることの、なんとありがたいことか。それはほとんど無価値同然に思われていた自身の存在そのものを肯定してくれることであって。まるごとそのまま理解されたわけではないけれど、少なくともそのままの自分を受け容れてくれる場所がある。まったく同じではないけれど、特異な存在は自分だけではない。ならば、いずれ何かの役に立てる日も来るのかもしれない。そう思えることが、どれほどの希望と安心感を与えてくれることか。弱い立場に置かれている人をあたたかく、力強く包みこんでくれる。とても素晴らしいテーマの物語でした。

なんですけど、ストーリーのバランスがややよくないような気がするというか。一作目でも思ったんですけど、ラバルタにおける魔導士と非魔導士の対立情勢はどうにも荒削り感があるんですよね。その影響か、そことエルミーヌとにまたがる話になると、どうにも物語の雰囲気がそちらに引きずられてしまうところがあるんだろうかというか。

今回の話でも、エルミーヌ組のキャラクターはすごくいい感じでした。アニエスの自由さはあいかわらずで、リーンベルにまでいろいろ影響を与えたりして、なんだかこの世界ではすごく特異な自由さを感じさせる魔導士養成の場を形成してたりして。カエンス君もそんな自由人やら負い目のある妹やら目を離すとぶっ倒れてそうで気を抜けない旧友やらに囲まれて、あいかわらずの苦労人ぶりがほほえましかったり。殺気だった雰囲気がただようラバルタと比べてこのほのぼのとすら感じられる空気ですよ。そこに今回のデュナンもくわわって、今後はどんな空気が醸成されていくことになるのかと考えると、それだけで次も楽しみになってくるところがあります。

次の巻は6月予定とのことで、くわえてシリーズ最終巻との予告もあり。もっとこのシリーズの話を読んでいたかった気もしますが、ともあれ次も期待したいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:37| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月13日

先生とそのお布団

先生とそのお布団 (ガガガ文庫) -
先生とそのお布団 (ガガガ文庫) -

ガガガ文庫既刊情報へ
先生とそのお布団 | 小学館

読んでて心が痛い。なんだこれは。なんというものを書いてくれるんだ、石川博品は。めちゃくちゃ私小説風の話じゃないですかこれ。タイトルは私小説つながりで明治の某作品から取ってきてますか? でも、なまじ石川博品作品を全部ではないにせよそれなりに読んできた読者としては、この作品はつらい。たぶん一応ファンである作者の売れない現実をまざまざと目の当たりにさせられるのは悲しいものがある。面白い話を書ける人だと知っているだけに。実力はある人だとわかっているだけに。作者の商業的な成功を喜ぶことができないのが悲しい。そのために自分がなんの助けにもなれないことがくやしい。

そんな、なかなか斬新な読書体験をさせてくれる一冊でしたけど、なんだかんだいってやっぱり面白かったんですよね。「石川布団」という架空の作家の物語として描きつつも、固有名詞はいろいろ変えてるけど、これはあの作品のことだよねとか、作者の作品をいろいろ読んできた人ほどふつうにわかっちゃう部分があって。誇張があるにせよないにせよ、商業的にはぼろぼろで、つらいつらい言ってる布団さんだけど、ときに成功の予感にぬかよろこびしたり、やっぱりダメでどうしようと悩んでみたり、売れない作家の悲喜こもごもぶりが、くすりとさせてくれる面白さにあふれてるんですよね。

あと、相棒の猫。猫はいいですよね。布団先生以上の「先生」ぶりを発揮するしゃべるお猫様との作家生活は、景気のいい話とは無縁でありながらも、コミカルなやりとりが癒しを与えてくれて。

そして、ラストが、石川博品らしい、青春っぽさをを感じさせてくれるしめ方で。これまたいいんですよ。細々とでも物語書きつづける。そんな作者をこれからも応援していきたいなと思わせてくれる、いいラストだったんですよ。作者の持ち味をしっかり感じさせてくれる一冊だったと思います。

鳴かず飛ばずな布団先生とはふしぎなことに縁がつづいてる売れっ子作家の美良との関係とか彼女のキャリアが今後どうなっていくのかとかも気にはなってるので、ぜひともつづきを……と言いたいところですけど、話の性質上、早くても数年後になっちゃいますかね。というか、そもそもこの本も売上的にはどうなってるんだろうかとか気になってきてしまうけど、まああまり考えすぎないようにしましょうということで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:16| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月12日

蜘蛛の巣(上)(下)

蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫) -  蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫) -
蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫) -  蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫) -

蜘蛛の巣〈上〉 - ピーター・トレメイン/甲斐萬里江 訳|東京創元社
蜘蛛の巣〈下〉 - ピーター・トレメイン/甲斐萬里江 訳|東京創元社

七世紀のアイルランドを舞台にしたミステリー。ローマ・カトリック教会への移行がはじまりつつも、まだ多くの部分でケルトの要素を反映したアイルランド教会の文化・様式がはっきりと存在する辺境のキリスト教世界。学者としても注目すべきキャリアの持ち主だという著者ならではのケルト的アイルランド社会のあざやかな描写に目を奪われる。議論癖を持つ主人公のフィデルマによって対比されるローマ式とケルト式の違い。罪には相応の刑罰を与えるのではなく金銭の対価で贖うという法慣習など、新鮮な社会の様子が面白い。ケルト側が劣っているというわけでは決してなく、この地域ならではの文化を豊かに発展させてきながらも、王クラスの決定によってローマ式の導入が社会の趨勢となりつつあるところにうっすらと哀愁を感じさせるところもあり。

あと、この話の舞台は当時のアイルランド内でもわりと地方の村落的な居住域が舞台なんですけど、そこに登場する男性キャラクターの「〜〜なんですわ」という口調が、ひどく田舎くさくならない程度で、でも絶妙に地方のおっさんっぽさを感じさせるところがあって、とても印象的だったり。

日本ではこれが最初の刊行作だけど、本国では実は5作目にあたるということで、前後のことがいろいろと気になってくる記述もあり、もっとこの世界の話を読んでみたいと思わせてくれる話でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:59| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月01日

めがはーと

めがはーと (ビッグコミックススペシャル) -
めがはーと (ビッグコミックススペシャル) -

めがはーと | 小学館

夫婦や大切な人どうしで、寿命が譲渡できる世界を舞台にした読切短編マンガ集。いろんな愛の物語。

こういうの好き! っていう話がいくつもあって、かなり満足度の高い一冊。

もともと名前は聞いたことのある作家さんで、少なからず気にはなってたんですが、なかなか機会がなく。そんなときに新刊情報をチェックしてたらちょうどこの本を見かけまして。どんな話なんだろうかと試し読みを読んでみたら、もう即座に購入決定させてくれる話の雰囲気でひきこんでくれることといったら。

そんな、いきなりこちらの好みを打ち抜いてくれたのが「episode01」、大学生の男の子とその大学で働く年上のおねえさんの話。アザミさんが激烈にかわいかったです。観覧車のなかでの言葉が、もう、とんでもない殺し文句でした。お互い好き合ってて、付き合ってもいるふたりだけど、男の子のほうは自分の気持ちに自信がない。そんな男の子があんなこと言われたら、そりゃもうゴールイン直行ですわ。相当なものですよあれは。ひとつめの話ということで、舞台となる世界の紹介もかねた短めの話という感じもありますが、それもあって一直線に好みな展開を描いてくれてる感じがよかったですね。

そんな感じのピュアなひとつめの話から、ふたつめは都合のいい女の子の、傷つきながらもどうしようもない気持ちの話になったりして、けっこう雰囲気の温度差がすごかったんですが、青年コミックだとこんな感じにもなるのかなという偏った印象で納得してたりするところで。

一話読み終わったときの満足感がいちばんだったのは、次の「episode3」かもしれません。小さなころからかわいくてトップアイドルにまでなった妹と、そんな妹と比べたらどこまでも普通で平凡な兄の話。そんなふたりの許されない気持ちと、その行く末の話。重たいですね。タイトルにも含まれているようなメガトン級の気持ち。でも、だからこそ、最後の1ページにすごみがありますよね。あとがきを読むと、作者の目にはアイドルってこんなにもまぶしく映るものなんだなあと、そういう意味での新鮮な驚きもあったり。あと、そういうキャラとして造形されているだけあって、妹、かわいいんですよね。単純に顔がいい。そして、回想シーンでの、お兄ちゃんへの一心な想いがあふれ出る妹はかわいかったですね。バカだったあのころの自分みたいな思い出し方をしてるせいか、それが妙な隙を感じさせるというか。

けれどなにより、いちばん好きなのは、最後の話、「episode4」。キャバクラの嬢から漫画家のアシスタントになった女性と、その師匠にあたる漫画家の女性の話。つまりは百合なのでした。椎名さんがかわいい。ひとめぼれした心愛視点で描かれてるものだから、最初からすごくかわいい。同じ女性どうしだからどこか無防備だったりして、とにかくかわいい。偶然の出会いから、仕事仲間になって、関係性を深めていって……と、もう完全にお幸せにという雰囲気で、まさかこんなところで百合分が補充できるとはと意外な出会いに感謝の念を抱いたくらいでしたね。ただ、冒頭やら途中の挿入やらから、不穏な前フリされてたんで、結末としてはわりとお察しくださいというか。思えば最後のほう以外、全部、椎名さんがかわいさがいとおしくて、椎名さんの漫画の才能を尊敬する心愛視点での描写でしたからね。椎名さんを追いかけるように漫画を描きはじめて、無邪気に椎名さんを慕いつづける心愛に対して、椎名さんがどう思ってたかは、決定的な瞬間が訪れるまで気づけないでいたんですよね。見て見ぬふりをしていたというか。大好きな椎名さんといっしょに暮らしながら、大好きな椎名さんが教えてくれた漫画家としての道を進んでいくという、なによりも幸せで満たされていた時間が、一転して地獄のような苦しみにもがく日々へと転落する。その苦悩の隘路からふりかえるからこそ、過去の幸福な日々がどれだけあたたかで満ち足りた時間だったかを痛感させられることといったら。けれど、それでも、椎名さんが示してくれた道を進みつづけるしかない。進みつづけなければならない。なぜなら、その結末は自分自身の愚かさが原因なのだから……。そんな泥沼のような苦しみのなか、それでも椎名さんとの縁(よすが)にすがって生きあがく心愛の姿は、それゆえになによりも尊い想いの発露であると思うのです。重たいですよね。けれど、だからこそ素晴らしいと思うのです。とてもよい百合でした。

そんな感じで、内容的に読み応えのある話もいくつかあり、満足度がかなり高い一冊でした。こういうの好きなんですよねえ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:09| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月28日

狼と香辛料(8)対立の町(上)

狼と香辛料VIII 対立の町<上> (電撃文庫) -
狼と香辛料VIII 対立の町<上> (電撃文庫) -

狼と香辛料VIII 対立の町|電撃文庫公式サイト
狼と香辛料VIII対立の町(上) 支倉 凍砂:ライトノベル | KADOKAWA

いい感じの読み味。面白いなあ。こんなに面白かったっけ? 

アニメが放送してたころに何冊か読んでて、そのときにもそれなりに面白さは感じていたものの、展開だったりホロとロレンスの会話だったりが多少なりと頭を働かせることを要求してくるものであったせいか、読みつづけるのにエネルギーを必要とするところがありまして。なにかの拍子でストップしてしまってそのままになっていたのですが、昨今のシリーズ新刊発売の動きなどをみているうちにまたちょっと読んでみたい気持ちになってきまして。

そんなこんなで10年ぶりくらいにつづきを読んでみたんですけど、これが面白かったんですね。話については覚えてない部分も多々あるものの、それでもなんとなく思い出しながら読んでいくことができて。そしてなにより、ホロとロレンスの会話の空気がとてもいい。額面通りに受け取るのではなく裏の意味を読み解いてやる必要があるのはやっぱりその通りなんですけど、ふたりの距離感が縮まってるせいか、地の文でロレンスが理解しやすい補助線を引いてくれるので、すらすらと読み進めながらもするすると会話の流れを読み取ることができること。くわえてその内容の多くが、気心の知れたカップルによる機転を利かせたじゃれあいであるとなれば、言葉の裏にこもった甘い空気にあてられてこちらまでにやけてきてしまうことといったら。ああ、このシリーズこんなにも面白かったんだなあと、10年ぶりくらいに「新発見」した思いです。

再読とはまた違うんですが、昔読んでたシリーズを、時間をおいてからまた読んでみるというのも、いいものなのかもしれませんね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:09| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月19日

オネエ男子、はじめます。(1)

オネエ男子、はじめます。 1 (花とゆめCOMICS) -
オネエ男子、はじめます。 1 (花とゆめCOMICS) -

オネエ男子、はじめます。 1|白泉社
オネエ男子、はじめます。(1巻) | 白泉社e-net! 電子書籍

好きな女の子に男が苦手だからとフラれた主人公・高橋竜が、クラスメイトのオネエ男子・相良寅之輔に弟子入りしてオネエ修行をする話。4コママンガ。

めっちゃ笑った。好きな子にフラれて、でもあきらめきれなくて、なんとかお近づきになりたい。そこまではわかる。けど、どうしてそこからオネエの道を歩みだしてしまったのか。一歩目から方向性を間違えてしまった気がしてならない。でもおもしろいからいいか的な。

口調からはじまって、しぐさに気を付けてみたり、パンケーキを食べに行ってみたり、がさつな男子高校生がどんどん女子力高くなっていくのがおもしろい。そして、そんな兄貴にときおり女子として敗北感に打ちのめされてる妹のリアクションに笑う。

この巻の後半では女装にまで踏みこんで、順調に(?)がさつな男っぽさが消えてオネエ男子らしくなっている高橋だけど、肝心な目的である音鐘さんは空きスペースでのキャラ紹介で「あまり登場しない」と書かれる始末だったりして、完全に道を間違えてしまってる感がまた笑える。(終盤でおやっという展開があったりするけど、それがまたおもしろ……ややこしそうで、つづきが気になるところであり)

高橋の幼馴染の友だちである、燿市と伊織もそれぞれに個性的でおもしろくて。期待の新シリーズですね。

同作者の『水玉ハニーボーイ』のほうも読んでると、あちらのキャラに似た雰囲気のキャラを楽しむことができたり、あちらにも出てくるキャラの登場ににやりとできるかも。というか、あちらはあちらで、自分の美しさに自信ありなこちらの師匠とはまた違ったオネエキャラの登場するラブコメ模様が面白い作品ではあるので、片方が気に入ったらもう片方も読んでみるといいんじゃないかなと思います!
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:30| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月14日

動物になって生きてみた

動物になって生きてみた -
動物になって生きてみた -

動物になって生きてみた :チャールズ・フォスター,西田 美緒子|河出書房新社

この作者は変態ですわ。まぎれもない変態。

野生の動物の生態を描きだすために、その動物を観察する。それはわかる。けどそれにとどまらず、その観察や調査をもとにしたうえで、実際にその動物の野生の生活を実体験してみる。誰がそこまでやろうと思うか。

たとえば森に棲むアナグマのように地面を掘って穴ぐらをねぐらにしてみたり、また都会に棲むキツネのようにゴミ捨て場で食べ物を漁ったり、動物にとっての毛皮の代わりである人間の衣服については基本的にそのままではあるものの、それも時には人目がないのを確認して脱ぎさって世界を体感してみたり。こうして一貫した趣旨でまとまった文章にされないと頭のおかしい人としか思えないような行動をとりながら、いや、わかっててもやっぱり変態と思ってしまう体験をくりかえしながら、人間の目線からではない、その動物の感覚を通した世界の情景を再現しようと試みる。これが抜群に面白いんですよ。擬人化された動物の物語や、映像を通して見る動物紀行などは、それはそれで面白さがある。けれども、「動物になってみて」そこから見えてくる世界というのは、それらとはまた違った、おおいなる驚きに満ちている。

人間と動物は、まず目線の高さが違う。試しに自分のひざくらいの高さで周りの景色を写真に撮ってみると、それだけでも普段見るものとは違う風景が現れる。なんでもない障害物が大きな壁に見えたり、距離が縮まることで地面の存在がより意識されるようになるかもしれない。

また、人間は感覚器官のなかでも視覚からもっとも多くの情報を得ているが、動物の場合は必ずしもそうとは限らない。嗅覚が発達している動物もいれば、聴覚が発達している動物もいる。それらを完全に再現するのは不可能であるけれども、普段それほど意識していないだけで、人間自身の嗅覚や聴覚、触覚などでも、彼らの世界をある程度体感することは可能であるらしい。たとえば、地面から立ちのぼる熱気や吹き抜けていく風などから森の空気の流れを感じ、それに乗って漂ってくる匂いから周りの風景を脳内に構築したり。それはあくまで人間の感覚の範囲内ではあるものの、まさしく異なる感覚の持ち主になってみようとする試みで、未知の世界をのぞかせてくれるようなぞくぞくとした喜びを感じさせてくれるものがあって。

それらすべてが動物になってみたからこそわかる、というわけではないとしても、それらを動物の感覚を通して描くこと、描こうとすることは、それ自体がひとつの叙述の挑戦であり、人間にとってのひとつの新たな世界観の提示にほかならないと思うんですよね。そしてなにより、それらの描写が面白おかしくて、読んでいてとても楽しい。これはすごい本だと思いますよ。

動物になって生きてみるということと、人間社会の一員として生きることは根本的にあいいれないし、作者の体験は一見すると頭のおかしい人のようにしか思えないかもしれない。でも、動物の生態についての理解を深めること、それらをつきはなした描写によってではなくより内側から感覚的に理解するために、おおいに価値のある一冊だと思います。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:18| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月02日

彼女になる日(3)

彼女になる日 3 (花とゆめCOMICS) -
彼女になる日 3 (花とゆめCOMICS) -

彼女になる日 3|白泉社
彼女になる日(3巻) | 白泉社e-net! 電子書籍

どの話も三芳と間宮がいちゃいちゃしすぎててたいへんにやにやしかったです。ありがとうございました。

「羽化」にともなう体の変化があり、心の変化があり、それらにとまどいながらも関係を深めていったふたりが、満を持してラブラブムード全開な生活をお見せしてくれました。それぞれの両親に挨拶したり、旅行先ではやくも夫婦として扱われてうれしさを感じたり、誕生日プレゼントを渡すのもきずなを深める話になったりと、裏表紙の「結婚間近」な雰囲気をこれでもかと感じさせてくれる仲睦まじさでございました。

思えば、これまでの巻はふたりの関係がまだどうなるか、未知数なところが多分に含まれていたこともあり、ほかのキャラクターが間に入ってきたりといった展開もありましたが、この巻ではそんな展開もほぼなく、ほとんどまるまる一冊、三芳と間宮の話だったといってもよさそうな。なにより、上にもあげたようなイベントをこなしながらも、互いに対してドキドキする気持ちを抱いたり、安心を感じたり、互いの一番であることを求めあったり、そうした感情を通しての結びつきを深めていく様子がとてもいいものでありまして。そうして心からの幸せを表情にあらわす様子はこちらまであてられてしまいそうになるものがありまして。いいですよね。

そしてラスト、三芳と間宮の関係は、単に互いを好き合う男と女だからというだけのものではなく、小さいころからのつきあいを通して築かれてきた絆のうえになりたつ、このふたりだからこその関係なんだなあと思わせてくれる話がノスタルジックですごくよくて。一冊通してふたりへの祝福の気持ちがこれでもかと強められる話ばかりでしたね。

とはいえ次回予告によるとまだひと波乱あるようで……? どうなっているのか、楽しみにしたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:37| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月01日

エルフ皇帝の後継者(上)(下)

エルフ皇帝の後継者〈上〉 (創元推理文庫) -  エルフ皇帝の後継者〈下〉 (創元推理文庫) -
エルフ皇帝の後継者〈上〉 (創元推理文庫) -
エルフ皇帝の後継者〈下〉 (創元推理文庫) -

エルフ皇帝の後継者〈上〉 - キャサリン・アディスン/和爾桃子 訳|東京創元社
エルフ皇帝の後継者〈下〉 - キャサリン・アディスン/和爾桃子 訳|東京創元社

ゴブリンの王女との子という出自によって父帝からうとまれ、片田舎に追いやられていたエルフ帝国の第四皇子マヤ。そんな彼のもとにいきなり継承のお鉢が回ってきて、帝王教育もなにも受けていない状態から皇帝としての歩みをはじめていくことになる話。

これ好きなタイプの話ですね。新帝となる主人公マヤの視点にただよう自信のなさ。政治において儀礼的な面においても知識がなく、皇帝という立場は荷が勝ちすぎているのではないかと痛感させられる力不足感。ただ目の前で決められていく物事に唯々諾々と従っているのがいちばんではないかという思考がよぎる卑屈さ。けれど、それでも位に就いたからにはいい皇帝になりたいと願う気持ちはたしかに持っているのであり。自信のなさと前向きな気持ちの間でたびたび揺れ動くマヤの視点でつづられる、期待度ゼロの新皇帝の物語。すごく好きな感じの描写の調子でした。

それというのもマヤの育ちがいかにも不遇で。皇子として生まれていながら、主となるべく乗りこんだ宮廷において、まずそもそもその宮廷に不慣れであることが露呈するレベル。誰かと密談するならどこか、誰が権力を握っているのか、人間関係は等等、これから帝位に就こうというのにそれらの知識もなく、かといって信頼できる相談相手もいないところからはじまる宮廷生活。政治的な会議に出席してもなされる話はさっぱりわからないことばかりで、かといって質問しようにも初歩的な質問で話を遮るのは時間を無駄にすることでしかなく、また誰かに相談しようにも、親密な態度の者ならともかく、そのたび無知に呆れられるのはたまらなく恥ずかしい。劣等感を抱きながらも頼れる相手はろくにいない。臣下が皇帝を立てるのはあくまで帝位に対する敬意があるからであり、個人としてのマヤを見てくれる人はほとんどいない。いたとしても、個人としての信頼を寄せるよりもまず帝位に対する畏敬から一歩距離を取ってしまう。無能で、孤独で、どうしようもなくて、けれどそれでも自分が皇帝になってしまった。なってしまったからには、失敗しながらもすこしずつ皇帝としての歩みを進めていくしかない。ときには成果をあげて、すこし自信をつけて、けれどすぐにまた自信を失ってしまうような事態が起きて。全体的に自信のなさは変わりがない。それでも、そうして手探りしながらもすこしずつ進められる歩みはちらほらと認められだしていくもので。苦しい時期が長いほどにそのありがたさはじんと胸を打つものがあって。今はまだごく一部の近しい人たちだけであっても、いつかだれの目からもはっきりと立派な皇帝として認められる日がくるのではないか。そう思わせてくれるラストもあり、のちの名君による治世初期の苦労の日々を描いた話のようで、とても心地のよい物語でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:06| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月26日

2017年の読書まとめ


■概括

2017年は196冊。前年と比べれば微増。年の前半はいいペースで推移しつつも、夏から秋にかけてペースを崩してこのくらいに落ち着いたというパターンは前年とほぼ同じ。違う点があるとすれば、前年とは違って、年末になってもペースが復活してないところでしょうか。夏の終わりごろに夏バテで調子を崩し、外国語読むの楽しいで持ち直しはしたものの、そうすると読書時間はともかく読了数は伸び悩むようになるという。

ブログの更新頻度もそれにつれて増えたり減ったり。特に外国語の文章は、時間をかけたわりにはなかなか読み終わらなくて感想を書けなかったり、そもそもこのブログで感想を書くようなものではない単なるニュース記事だったり、だんだんとここで扱う範囲を超えてきている部分もあったり。

2017年の目標として掲げていたことはなんだったかと見なおしてみると、「ライトノベルの外のジャンルのファンタジー作品を開拓したい」的なことを書いていたようでいたようで。夏バテ前後で完全に別方向に読書傾向が向かってる今日この頃ではありますが、「洋書で読んだ」と答えて目標達成と強弁するのは許されるでしょうか? 当時と今とで気持ちの乖離がありすぎて、わがことながら判定不能。

■2017年に読んだ本からのお気に入り(11タイトル+α)

以下、2017年に読んだ中からのお気に入りの作品をシリーズ単位で紹介していきますが、夏バテからの復帰前後で好みの傾向がまた変わった感がありまして。当時の月次まとめではお気に入りとあげてたけど今ふりかえるとやや評価が落ちるものがちらほらあったり。正直なところ、一貫した視点で読んだ本をふりかえれる気がしません。なので、例年ならジャンル混合でお気に入り順にずらっと並べるところではありますが、今回はトピックごとに思いついたものからあげていく感じで。(刊行年は2017年にかぎりません)

●小説

まずは小説から。小説作品においては、夏バテする前に読んだ本が全体の4分の3を占めるという大幅な偏りにより、上半期のまとめとかなりかぶる内容になりますがご容赦を。

ファンタジー

小説作品の中でもいちばん多く読んでるジャンルはラノベ・非ラノベをふくめたファンタジー系。年の前半にはファンタジー的な面白さを持つ作品を月に一冊は紹介しようとしてました。読書冊数が落ちるとそれもストップしてしまいましたが……。

ともあれそんな作品群の中から第一に取り上げる作品はなんといっても、霧島まるは『左遷も悪くない(1)〜(5)』1巻感想2巻感想3巻感想4巻感想)。仕事ひと筋の堅物軍人として生きてきた男が、左遷された先の地方で結婚し、お相手の女性とともに新たな生活をはじめていく。これがすごくよかったんですよ。軍人の夫と家庭を守る妻の間で視点を入れ替えつつ描かれていく新婚生活の様子が。家族ぐるみの交流が深まれば深まるほど、この家族で育ったからこその性格なんだなあと思わせてくれるキャラクターの造形。生まれ育った家ごとにそれぞれの文化があり、結婚を機に交流が進み、ゆるやかに混ざりあって新たな家庭の文化がはぐくまれていく。まるで異文化交流のような変動を感じさせてくれる話がとても素晴らしくって。ファンタジーって、前近代を舞台にすることが多い都合上、キャラクターと生まれ育った「家」の関係性を盛りこんでくれると個人的にとてもうれしいんですけど、このシリーズでは受け継ぐにしろ反発するにしろ、父母や祖父母たちから次代へとつながっていく「家」の影響を感じさせてくれる描写が話の端々に見られて、すごくよかったです。
左遷も悪くない〈1〉 (アルファライト文庫) - 左遷も悪くない〈2〉 (アルファライト文庫) - 左遷も悪くない〈3〉 (アルファライト文庫) - 左遷も悪くない〈4〉 (アルファライト文庫) - 左遷も悪くない〈5〉 (アルファライト文庫) -

「氷と炎の歌」シリーズの外伝にあたるジョージ・R・R・マーティン『七王国の騎士』感想)も、そんな時の流れとそこに生きる人々の姿を描いてくれた素晴らしい作品でした。舞台は本編の100年近く前で、まだ戦乱が大陸を覆う前ということもあって、いくぶんかのどかさを感じさせる時代。けれど油断してると不意打ちのボディブローに苦しむ展開が待ち受けているのがこのシリーズではあり。出自は卑しくても騎士たらんとするダンクに対して、けれどそうした末の結果が取り返しのつかないものになったり、一概に正邪を断じられない事情がのぞけてきたり。読んでるだけでどれだけ頭を抱えたくなってきたことか。正義と思えたことも、悪と断じられたことも、ある一時点ではそうであっても、時代が下れば評価は変わるかもしれない。禍福はあざなえる縄のごとし。すべては時のみぞ知る。けれど、渦中に生きる人々はその場その場で決断し行動しなければならない。その難しさと、物語としてみたときの面白さを感じさせてくれる話でした。
七王国の騎士 (氷と炎の歌) -

非ライトノベルレーベルにおける国内ファンタジー作品としては、佐藤さくら「真理の織り手」シリーズ、そのなかでも特に二作目の『魔導の福音』感想)を。(三作目も2017年内に刊行されてますが未読。)生まれつき魔導を扱う素質のある者とない者とにわかれる世界において、しかし素質はあっても扱う術を知らない者は魔導を暴走させてしまいがちで、それがゆえに災厄をもたらす者として忌み嫌われてしまう者たちがいる社会の話。そこに生まれ育って、魔導を扱う術を知るがゆえに、身近な人たちがこうむる悲劇を知るがゆえに、不当なあつかいからの変化を求めて動きだすキャラクターたちの思いに打たれるものがある。閉塞感のある社会に変革が訪れようとしている、その兆しを感じさせる話が期待を抱かせてくれる。そしてなにより、シリーズ二作目の「福音」においては、そんな社会でありながら、一般に嫌悪される類の性質を持ちながら、それでもあるがままにふるまうキャラクターが登場する。作中で描かれるそのキャラクターの姿は、抑圧を感じていながらもとてもいきいきとしていて、まぶしく映るものがあって。社会をおおいに動揺させるだろう変化がもたらす先に、それでも確かな希望はあるのだと信じさせてくれるのです。
魔導の系譜 (創元推理文庫) - 魔導の福音 (創元推理文庫) -

その他のファンタジー作品としては、渡辺恒彦『理想のヒモ生活(6)〜(9)』もはずせません(6巻感想7巻感想9巻感想)。(最新10巻は2017年内刊行も未読。)このシリーズの面白さはなによりも主人公の思考をトレースできる描写のわかりやすさにあると思います。異世界の女王に婿入りすることになるといういきなりの立場の変化がもたらされて、かといってすぐに王配として身につけておくべき知識教養を備えられるわけもなく。重大な決断を迫られたときに周囲の人々の思惑や妻である女王に与える影響を勘案した末に決断に至る。そうした思考の過程それ自体が駆け引きめいていて、それでいながら考える主体が一人ないしはごく少数の同じ立場の人たちなので整然としていてわかりやすいんですよね。俎上にあがる問題も、対国内貴族から、他国の貴族や王族まで巻き込む問題へとだんだん大きくなってきてて、へたを打てば戦争にも発展しかねない問題でありながら、一概には判断できない難しい問題に巻き込まれるようになっていたり。そんな主人公ともども頭抱えるのも面白い。
理想のヒモ生活 6 (ヒーロー文庫) - 理想のヒモ生活 7 (ヒーロー文庫) - 理想のヒモ生活 8 (ヒーロー文庫) - 理想のヒモ生活 9 (ヒーロー文庫) -

キャラクターの関係性としていちばんの好みは、梨沙『お嬢様と執事見習いの尋常ならざる関係』感想)。主従譚で、恋物語。男装の麗人としても通る美しく勇ましい姫君と、彼女にふり回されながらも一心に思いを寄せる執事見習いと。幼いころに出会ったふたりの身分違いの両片想いの物語。こんなに好みが詰まった関係性はなかなか見つかるものじゃありません。そして、ラストがものすごく美しいんですよ。主従譚としてのふたりの距離感は崩さずに、それでいて二人の想いをこのうえなく確かに表現してくれる。最高です。最高に心を打ちぬいてくれる一冊でした。ただただ感謝。
お嬢様と執事見習いの尋常ならざる関係 (一迅社文庫アイリス) -

非ファンタジー

男装キャラの登場する作品をあげたので、そのつながりからノクターンノベルズの『瀬野家の人々』を。(※R18作品ですのでお気をつけを。)義姉によって女装させられていくうちにどんどんその素質を開花させていく主人公の話。外見的な面もさることながら、それ以上に精神的な面での変化が魅力的で。最初は女装を嫌がっていた主人公が、すぐに女装時のキャラができていき、心から女性になりきっていく。声も、しぐさも、外見も、嗜好も、どこをとってもすっかり女の子のようでありながら、それでいて本当のところは男性で、そんな自分に羞恥を感じてもいる。けれど、そうと知らなければすごくかわいくてきれいな女の子でしかないという。そんな倒錯的なかわいさに魅了される。さらには、この作品はR18作品であって。えっちな面でもとまどいながらも女性的な感覚を得ていく主人公の姿はフェティッシュなな魅力に満ちあふれていて、新たな世界が眼前に開けていくかのような思いにとらわれる。そのうえ、主人公が女装するだけでなく、義姉もときに男装をし、義弟も女装をし、男だと思ったキャラが女だったり、女だと思ったキャラが男だったりしていくうちに、男と女の境があいまいになっていく感覚に襲われる。異性装の物語、その魅力を髄まで教えこんでくれる作品です。
https://novel18.syosetu.com/n3752dr/ (※R18サイトに飛びます)

ジャンルとしての好みの補正がかかっているファンタジー以外でお気に入りと呼べる作品はかなりの面白さを有しているものばかりなのですが、なかでも2017年に読んだ中でいちばん面白かったと思うシリーズは、白鳥士郎『りゅうおうのおしごと!(2)・(3)』2巻感想3巻感想)。(4巻以降は未読。)アニメも放映されているのでご存知の方も多いかと思いますが、将棋の話。それも、プロやプロを目指すひとにぎりの実力者たちを中心にした話。これがとんでもない熱量を持った話でして。才能は基本的に持っていて当たり前。けれどその中で優劣がつけられていくシビアな世界。将棋しかないと言えるほどに打ちこんでいく世界だからこそ、その劣位をこのうえなくはっきり突きつけられる敗北の悔しさみじめさはいかばかりか。そんな厳しい勝負の世界を知れば知るほど、勝ちたい強くなりたいと願うがむしゃらな気持ちが心を熱くさせる。それでも将棋を愛する純粋な想いに胸を打たれる。実際にあったできごとをもとにしている話も多いようで、だからこその説得力でしょうか。素晴らしい物語です。
りゅうおうのおしごと!2 (GA文庫) - りゅうおうのおしごと!3 (GA文庫) -

●マンガ

小説作品からは以上としまして、次にはマンガから。こちらだと小説と違って読みたいと思う作品がファンタジーではないものが多くなるのが不思議なところではあります。とはいえ、小説に比べると読書量は少なめなこともあり、あまり長いシリーズは読み進められていないのですが。

そんななかでもいちばん読み進められているのが百合作品でして。2016年のまとめでも気になるジャンルとしてあげてました。そうしていくつか読んできたなかで、今いちばん気に入ってるシリーズは、缶乃『あの娘にキスと白百合を(1)〜(7)』1巻感想2巻感想3巻感想4巻感想5巻感想6巻感想)。中高大一貫の女子学園を舞台にした話で、メインで登場するペアはいつつも、各巻ごとにそれぞれのカップルの話が描かれていくシリーズ。すれ違いながらもきずなを深めていく女の子たちの姿がとてもかわいいんですよ。かわいい女の子とかわいい女の子の話はとてもかわいい。二人でそうなら、三人になればそれはもうとてもとてもかわいい。それぞれのカップルがうっすらつながりながら広がっていくかわいい女の子たちの世界はかわいさに満ちあふれていて素晴らしい。素晴らしいシリーズです。
あの娘にキスと白百合を 1 (MFコミックス アライブシリーズ) - あの娘にキスと白百合を 2 (コミックアライブ) - あの娘にキスと白百合を 3 (コミックアライブ) - あの娘にキスと白百合を (4) (MFコミックス アライブシリーズ) - あの娘にキスと白百合を 5 (コミックアライブ) - あの娘にキスと白百合を 6 (MFコミックス アライブシリーズ) - あの娘にキスと白百合を 7 (コミックアライブ) -

マンガは以上でしょうか。多少はまた読むようになってきましたが、まだこれぞというものを見つけ出す感覚は育ちきっていないようで。そこそこ楽しめるものは見つかるようになってきているので、もう少しという気もしていますが、さてどうか。

●洋書

ひきつづいては、2016年末くらいから手を出しはじめた(と記憶している)洋書の区分から。小説の区分に含めてもよかったんですが、外国語の文章を読む趣味とのつながりが深く、いまはともかくそのうち小説の枠内に収まりきらなくなっていくのではないかと思われることから別項で。

といっても、あげれる作品はまだひとつしかありません。Philip Pullman『His Dark Materials(1)Northern Lights』。日本では「ライラの冒険」のタイトルで知られるシリーズで、映画化もされているようです。ジャンルはファンタジー、よりもSFといったほうがいいかもしれません。物語がはじまるのはこの世界によく似た並行世界のオックスフォード。デーモン(dæmon)と呼ばれる、絆で結ばれた動物たちとともに生まれ育つ人々の世界。これが実に興味深い世界で。デーモン以外は現代の世界とだいたい同じなのかなと思ってると、「タタール人がモスクワに侵攻してるらしい」とか「カルヴァン教皇以来」とか出てくるから、ちょっとそれどういうことなのと気になってくるんだけど、物語の本筋にはそれほどかかわってこない。それらを雰囲気程度にして、主人公の女の子がさらわれた友だちやとらわれたおじさんを助けに雪に覆われた北欧の地を冒険する話。これがわくわくと読みいってしまうことといったら。行き場をなくした主人公が、その目的にすがって向かった北欧で戦いの世界に身を投じた先で、鎧を着た熊の戦士に認められる勇気を示すまでになる感慨深さですね。さらに、それだけで終わらず次の巻以降の展望を開きつつ、最後までシリーズの期待度を上げに上げて幕を引くラストといい、圧巻のシリーズ第一作でした。
Northern Lights: His Dark Materials 1 -

●その他(歴史)

フィクション作品としてはそんなところで、例年ならここでしめに入るところなんですが、2017年は(もっと前からだったかも?)それ以外の本を読む量も増えてきた年ではあったのでして。ふだんは紹介してませんが、読むだけ読んでそのまま放置してるのもなにかもったいないので、こういう機会にでも雑記程度になにか紹介してみたいなという気分になっていたり。

そういった本のなかで、読んでる数はともかくもっとも関心の高い分野は歴史。そのなかでもいちばん広くいろいろ読んでるのは中世スペイン史……ではあるんですけど、2017年内にはそんなに数を読めていなかったり。唯一あげれるのは、カタルーニャにおける11世紀の「封建革命」論についての記述だったでしょうか。(自分が読んだのはあくまでその論を紹介する記述でしたが。)中世の社会といえば、すぐに思い浮かぶのが封建制というイメージではあったんですが、それっていつごろできあがったものなんだろうかという疑問につながるものでして。高校世界史だと西ローマ帝国の滅亡やゲルマン人の大移動あたりで一度記述を区切るをイメージで、だとすると古代と中世の境目はそのあたりで、つまりゲルマン人の大移動以降の社会は封建制だったといっていいのかなと思っていると全然そんなことはなかったりするようで。古代末期なんて概念もすこし前にようやく知った手合いではありますが、どうも西ローマ帝国の滅亡後もローマ帝国由来の統治体制は結構しぶとく生き残ってたらしい。カタルーニャにおいては古代社会から中世社会への移行がなされたのは11世紀のことである、というのが有力な学説であるとか(10年以上前の論文では)。ほかの西欧地域でも同じくらいの時期が社会変動の境目であるとされているらしく(同上)、封建制とは何かとか、何をもって古代・中世とするのかとか、その辺の議論もあるみたいですけど、自分のなかでの中世ヨーロッパについての古いイメージはいろいろ解きほぐしてやる必要があるなと感じるところであり。

また、ほかにも興味のあるテーマはいくつかあって。2016年は感染症を題材にしたSFやノンフィクションへの関心が高まっていた時期だったんですが、その流れで2017年に読んだ本として、宮崎揚弘『ペストの歴史』がありまして。14世紀半ばには「黒死病」の名でヨーロッパ一円に猛威を振るった病気がどのように広まっていき、どれほどの犠牲を出していったのかと、様々な研究の積み重ねを通して克明に描きだされていく様相がすさまじいほどにおそろしい。けれど、この本が扱うのは「黒死病」だけではなく、その前の時代、その後の時代におけるヨーロッパでのペストの流行も射程に収めている。というのも、「黒死病」として猛威を振るったペストは完全にヨーロッパから消え去ったわけではなく、どこかに残存していた病原菌によって散発的に流行がくりかえされるようになったのだという。すなわち、ペストはヨーロッパに常在化するにいたっていたということで。いかにもおそろしい。そんなペストの歴史を、中近世の流行を中心に、18世紀における西ヨーロッパからの消滅までをまとめた一冊。歴史好きの方はもちろん、感染症テーマの物語のファンの方にも?
ペストの歴史 -

また、歴史を扱った本の面白さには、偶然性や複雑さの産物である歴史の流れを明快なテーマで読み解く面白さもあると思っていて、そういった本としては、深井智朗『プロテスタンティズム――宗教改革から現代政治まで』が印象に残っています。「九五カ条の提題」によって宗教改革が巻き起こるきっかけとなったドイツのルター。その登場前夜のキリスト教社会の状況から説き起こし、ルターが目指したリフォームの姿、それが当時の諸侯たちの思惑によってルターの意図を超えて政治的な動きとなっていく様子を描写し、ルターによる改革の終着点とさらなる改革を目指す洗礼主義の潮流にふれ、それらが流れいたった代表例としての現代のドイツとアメリカの社会が提示される。それらの概略を通じて、教会やキリスト教の改革を目指したプロテスタンティズムの理念、現代社会にも通じるその潮流を一読で概観する面白さですね。初学者でもわかりやすいのではないかと思える平易な記述でありながら、またそれゆえに細部をより詳しく知りたくもなってくる興味深い内容。とてもいい新書だと思います。
プロテスタンティズム - 宗教改革から現代政治まで (中公新書) -

紹介するタイトルは以上になります。やはりというか、夏バテ前までに読んだものが多いです。今年こそは夏から秋にかけてのペースダウンを避けたいところですけど、どう対策したらいいんでしょうね。体力でもつけますか?

■2018年の目標

2018年の目標については、正直なところ、どんな目標を設定すべきなのか、どんな目標なら達成がみこめるのか、皆目見当がつきません。毎年の状態をふりかえって言えることは、一年もの長いスパンでの先行きは見通せないということで。その程度には自分で自分が何するかわからないというところがあるんですが。短めの目標を立ててそれを目指しつつ、一年間の総量としてはそれらを単純に足し合わせた結果だけ見る感じのほうがよさそうな。

「今年はファンタジーをあさりたい!」みたいな目標も、自分がどういうジャンルを深堀りしたいのか自分のことながらよくわかんない感じになってるのが現状でして。とりあえず気になるものをあれこれ読んでいきながら、面白いと思った本を中心にブログを更新していけたらというところで。なんの具体的な目標もないまま2018年をはじめていく感じで。まあもう2月も終わろうとしてますが……。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:44| Comment(0) | 読書まとめ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする