2018年11月13日

サラファーンの星(4)星水晶の歌(上)(下)

星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫) 星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)
星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)
星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

星水晶の歌〈上〉 サラファーンの星4 - 遠藤文子|東京創元社
星水晶の歌〈下〉 サラファーンの星4 - 遠藤文子|東京創元社


ついに最後のページまでたどり着いてしまった……。

読み終えてみれば、いつまでも読みつづけていたかったと思わせられる物語でした。それほどに、なぜだか無性に安心感を覚えさせてくれるファンタジーだったように思うのです。

リーヴがいて、ウィルナーがいて、ジョサがいて、ハーシュがいて、ルシタナがいて、その他にも、すべて合わせれば20を超える人々がいて、彼らの一人ひとりがそれぞれの生い立ちを持ち、それぞれの生活を送りながら、戦争が激しさを増すなかでさまざまに関係が深まっていき、一人ひとりがそれぞれの役割を果たしながら、引き起こされる戦渦に対してさまざまな思いの丈を表し、それぞれのやり方で戦争へと関わっていく。果たした役割に大小はあれど、長い物語を通して丁寧に描かれてきた彼らの思いは本物で、だからこそ一人ひとりのキャラクターがいとおしく、どのひとりをとっても安否不明に陥るやほかの登場人物ともども不安をわかち合い、最後の最後まで彼らの行く末を見守りたい気持ちにさせられた。そこに生まれや成し遂げた功績による貴賎はなく、見届けられる結末の一つひとつがただただ尊いものとして記憶されていくように感じられるものがあったのです。

自分は当初、このシリーズをルシタナの物語だと思っていました。激化していく戦争に対して重要な役割を果たす人物として、期待を含まされつづけていた人物でしたから。なので、物語の進行があまりにも遅いと感じてもいました。けれど、最後まで読んだ後、やっと気づくことができました。これは彼女だけの物語ではなく、他に登場するすべてのキャラクターの物語であったのだと。自身や関係深い人たちの幸せに喜び、降ってわいた不幸に悲しみ、そうした感情をわかち合いながら生活していたすべての人たちの物語であったのだと。大きな世界のなかで一人ひとりができることは小さくとも、自らができることを模索して世界に飛び込んでいくすべての人々の物語であったのだと。

そして、それら一人ひとりの物語を描きだす作者の目線はとてもやさしさに満ちて感じられて。トゥーリーの帰りを待つヨハンデリ夫人や、サラになかなか言いだせない想いを寄せるパーセロー、同じく奥手なハーシュや自身の障害に対する引け目から子どもの発育に不安を抱くマリアなど、悩みを抱えた人々にもどこまでも寄り添った描写がなされており、どんなキャラクターにも親しみを感じさせてくれるんですね。意中の人からの手紙に喜んだり、試験の結果に気を揉んだり、世界全体からみれば小さなことではあるけれど、一人ひとりの身の上に起こる日常的なできごとがていねいに描かれてくることで、彼らの一喜一憂する姿にしだいにこちらの心情が重なっていくのがわかるものがあって。英雄的な人物ではなく、誰もが悩みを抱えた等身大のキャラクターであり、それでも自分がなすべきだと思ったことのために身を投じていく。だからこそ、その一人ひとりのキャラクターの決意が尊く、そしてまた、悩み迷う姿こそがいとおしく思えてくるのです。

物語の結末としては、第一部文庫版のあとがきでもふれられていたというように(自分はハードカバーでしか持ってないんですが)、このシリーズ自体が作者による以前の作品の前日譚であるということもあって、終わりを迎えるべき部分としては終わりを迎え、それでも途切れない一部の縁はそちらに引き継がれていくものもありといった趣き。

第三部までの流れを思えば、この第四部はまさに激動といった感じで、一人ひとりのキャラクターの動きを丹念につむぎあげていく描写は変わらないものの、こぼれ落ちていく人々の姿を見届けるのはとてもつらかったですね。もっと彼らのすることを見つづけていたかった。もっと喜怒哀楽をともにしたかった。失われていくことではじめて、自分がどれほどこの物語の世界をいとおしく思っていたのか気づかされるようであって。本当に、終わってほしくない物語だったと、思わされるものがあるのです。

この物語は、これでおしまい。どんな思いを抱えようとそれは変わらないわけで。けれど、この世界はまだ終わりを迎えてはいない。その長い長い後の時代を舞台にした物語があるという。ならば、このシリーズに登場したキャラクターたちの姿を見届けた読者としては、彼らの抱いた思い、その行く末を見届けたいと思わずにはいられないですよね。それが彼らへのなによりの親愛の表れのように思えるので。

後日譚『ユリディケ』。それが読める日を、心待ちにしています。


サラファーンの星 公式サイト
https://serafahn.com
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:41| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月08日

分解するイギリス――民主主義モデルの漂流

分解するイギリス: 民主主義モデルの漂流 (ちくま新書 1262)
分解するイギリス: 民主主義モデルの漂流 (ちくま新書 1262)

筑摩書房 分解するイギリス ─民主主義モデルの漂流 / 近藤 康史 著
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480069702/


第二次大戦後のイギリス政治の潮流を、「安定→合意→対立→分解」という図式でEU離脱の国民投票直後まで俯瞰する現代政治史の一冊。経緯に沿った記述は出来事の流れをつかみやすく、そして現在のイギリス政治の問題点をわかりやすく提示してくれる良書。

本書によれば、戦後から七〇年代くらいまでにかけては政権交代を繰り返しながらも二大政党のどちらも共通した理念のもとに政府を運営してきたが、小さな政府を標榜するサッチャー政権の頃を境にしてイギリスの合意政治は崩壊したという。「ゆりかごから墓場まで」ともいわれた福祉国家路線からの離脱がすすめられていくなか、左派と中道左派による党内対立が起きていた労働党では、九〇年代になってトニー・ブレアの登場によって巻き返しが図られることになった。ブレアのリーダーシップのもとに、ネオ・リベラル化した保守党に対して中道路線の「第三の道」を打ち出すことで労働党は広範な支持を集め、政権に返り咲くことになった。野党となった保守党は新自由主義的な路線をやわらげ思いやりのある保守主義としての政策案を打ちだすようになった。ここに、サッチャー路線を一部引き継ぎつつ修正を図っていく新たな合意政治の形態ができあがったとする。

しかし、二大政党による競争が存在しながらも前政権からの連続性が保たれていくイギリス合意政治の特徴は、その一方で一定程度において二大政党の近似化を招くものであり、そこから取りこぼされる有権者の層を生み出し拡大させていくことにもつながった。EUとの関係性、スコットランドを筆頭にしたナショナリズムの高まりによって党内や支持者層でも意見の分裂が目立つようになり、またブレア、ゴードン時代の労働党政権後半に醸成された政治家への不信感からエスタブリッシュメントへの反発が形成されていった。そこにキャメロン政権での緊縮政策での打撃が加わって、EU離脱を問う投票での労働者階級を中心にした離脱賛成多数が成立したと本書では述べられている(と思う)。

高安健将著『議院内閣制――変貌する英国モデル』(中公新書)の参考文献としてあげられていた一冊だが、あちらは制度的な構造を中心にした記述であり、それに対してこちらはより歴史的な経緯を中心にした叙述。背景的な知識を補完する意味で有意義な本であり、そしてなにより読み物としてとても面白かった。特に、左右の政策の接近は政権交代を容易にするが、それゆえに政府への不満の受け皿としての野党の機能を低下させることにもつながるというのは、これはケース・バイ・ケースではないかとも思うけど、現在の情勢を考えるには見落とせない一面かもしれない。

本の内容紹介はできるだけ本書の記述をもとにしたつもりだが、もしかしたらこの前後に読んだ前述の『議院内閣制』や、水島治郎『ポピュリズムとは何か――民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書)、Andy Beckett, "The death of consensus: how conflict came back to politics", https://www.theguardian.com/politics/2018/sep/20/the-death-of-consensus-how-conflict-came-back-to-politics などの影響があるかもしれない。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:42| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月28日

クリフトン年代記(2)死もまた我等なり(上)(下)

死もまた我等なり(上): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫) 死もまた我等なり(下): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)
死もまた我等なり(上): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)
死もまた我等なり(下): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)

https://www.shinchosha.co.jp/book/216135/
https://www.shinchosha.co.jp/book/216136/

あいかわらず話の進行が早い。アメリカの対独参戦前からはじまって、もう終戦後にまでたどり着いてしまった。死別した戦友への気持ち、ぶん殴りたくなるようないやな奴らのその後など、掘り下げようと思えばそこここに見いだせる余地をあれもこれもうっちゃりつつ、メインキャラクターである視点人物たちの物語に焦点をしぼって進行していく。そしてそれが次々と移り変わっていく物語のテンポのよさを生み出している。

命をかけてでも祖国イギリスを守らんとする意志。思いがけなくも出会った戦友との絆。その出会いを通して過ごされる稀有な戦場体験。そして、それによって世界の見える角度が広がったような新鮮な変化。ハリー・クリフトンとジャイルズ・バリントンのふたりが経験した戦争は、いかにも忘れがたい青春の一ページとして、鮮烈な記憶と華々しい活躍に彩られた様子が印象的で。のちの生涯に多大な影響を及ぼす日々といった感じでしたよね。特にジャイルズは、大学前の問題行動のいくつかを思えばすっかり好青年になって。見違えるような立派な変貌ぶり。それだけに、戦後に起きたいざこざが気の毒ではありますが、それはともかく。

一方で、女性のキャラクターとしてはエマ・バリントンが印象的で。前回のラストで、いろいろもつれにもつれた状況からどうなるのかと思いのほか、泥沼感を感じさせることもなくするすると自らの道を切り開いてしまったから驚き。まあするするいったとはいっても、それは手に入れたい幸せの形をつかみとるためならどんな望みのうすい冒険もいとわないと感じさせるほどの想いと決意の末にようやくたどり着いた先の再会でしたからね。あれはもうひとつの冒険の旅といってさしつかえなかったでしょう。それにしても、思わされるのは当時の英米間の上流階級のつながりでしょうか。大西洋を渡った先でも頼れる当てがあるというのは、強い。アメリカの独立からはすでに100年以上もたってますが、そういうこともあったんだろうかと、ちょっと興味深くもなってくる。そしてアメリカの親戚がやや特殊な王党派っぽいのが地味に面白くもあり。

そしてこの第二部も、ラストはクリフハンガー。どうなるんだろう、どうなるんだろうと思っていたところに、えー、そのラストなのー!?と衝撃を受けつつ、でも俄然つづきが気になっちゃうのがこのシリーズであり。いやー、これホントどうなっちゃうんでしょ? 第一部の時点ですでに懸案の対象とされていたことではありましたけど。ハリーおよびジャイルズが戦場で名声をあげたからこそ、それが世間的にもクローズアップされることになってしまった形であり、何が幸運・不運の基になるかはわからないものとうならされる話運びではあります。この辺の安心させてくれない感じはさすがというか。しかも、当人同士では希望は一致しているにもかかわらず、すでに事態は彼らの手を離れてしまっているのがなんとももどかしい。

しかし本当にどうなってしまうのか? つづきが気になりすぎるので、早く第三部も読みたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:01| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月26日

Frogkisser!


作者Twitter@garthnix

すごくおもしろかった。タイトルがコメディチックな印象から誇りに満ちあふれたものへと意味を変えた場面のこみあげてくるような熱い感情といったら。そして、途中からあれもこれもと解決すべき出来事が重なって、これ一冊で決着をつけられるのかと不安なほどに膨れ上がった課題が、終盤で一気に解消される爽快感といったら。ミソピーイク賞児童文学部門受賞の名に違わぬおもしろさでした。

おおざっぱなあらすじとしては、とある小国の王女Anyaが、悪い魔法使いである継父によってカエルに変えられてしまった姉の恋人を元の姿に戻すため、魔法薬の材料を求めて冒険の旅を行うことになる、といったもの。そこに、姉妹を害して王位簒奪を目論む継父の権力欲とか、それぞれの経緯で姿を変えられてしまったキャラクターたちが加わったり、他にもいろいろ、どんどん旅の目的が膨れ上がっていく感じ。ちょっとひと息では説明しきれそうにないお話の絡まりよう。それだけ、いろんなキャラクターの物語があったともいえますか。

この作品で目を引かれるのは、まずそのタイトルではないかと思います。感嘆符付きで示されるその言葉は、ざっくり「カエルにキスする者」という感じの意味合いになるでしょうか。それだけでウゲッという印象を起こさせるタイトルで、さらにここでは感嘆符もついていることからいよいよもって、おぞましいことをする者もいたものだ、ありえない、ひくわーといった、否定的なニュアンスが含まれているように感じられるところで(本当にそんな意味がこめられてるのかはわかりませんが)。

とはいえ、悪い魔法使いに姿を変えられた王子さまが、愛する王女さまからキスされることで元の姿に戻るという筋書きは、童話なんかではそれに類するものをちらほらと見かけるタイプの話ではないでしょうか。その他にも、白雪姫等、多くの人が知っているだろうおとぎ話を下敷きにしたパロディーが散りばめられているのがこの話であり。

そして、そんないかにもおとぎ話的な出だしでありながら、いきなりそのおとぎ話を逆手にとって、王子の恋人ではなく、その妹であるAnyaが王子を元の姿に戻すべく奮闘することになるのがこの話であり。いきなりどういうことなの……という感じでしたが、そんな頼み事をしちゃうのがAnyaの姉王女なのですよね。そして、なんで自分がと不満に思うAnyaに有無を言わさず承知させてしまったのが、姉王女から発された「sister promise」という言葉。え、なんですか、その言葉? なんでAnyaさんそれで不承不承ながらも好きでもない王子さま(からカエルになったもの)にキスすること引き受けちゃえるんですか? 英語圏では何か特別な意味合いとかあったりするんですか? そういう魔法の言葉かなにかなんですか? 百合なんですか? とても、気になるんですけど! 詳しい人の解説求む。

それはそれとして、旅に出たはいいものの、お供といえば犬一匹。王家に代々仕える忠犬たちのひとりで、ひとと言葉を交わすこともできるとはいえ、性格は成長期の犬のそれであって。基本的に好奇心優先で落ち着きがない。あとから加わる旅の仲間も、おどおどしたイモリ(元は盗賊志望の少年)、元のカワウソの習性が抜けきらない女中と、なんとも頼りにならない者たちばかり。こんな一行を旅慣れない王女が率いてうまくいくんだろうかと不安を募らせてくれるところで。実際、うまくいかないことだらけで、Anyaとしても何度もくじけそうになりながら、それでも姉のためにと歯をくいしばって前に進む姿はいかにも根性あふれてて、そっと背中を押してあげたくなる健気さでしたね。

正直なところ、道中の役に立った度合いでいけば、旅のお供たちよりも途中で立ち寄った先の大人たちのほうがはるかに助けになったのはまちがいないでしょう。なにせ、全員まだ子どもの旅の一行でしたから。でも、そのお供のすべてに、Anyaの助けとなる見せ場の場面があったんですよね。なにより、最後の場面で決定的な役割を果たしたのは、その中のひとりでした。適材適所。大人たちと比べたら、頼りにならないのはしかたがない。けれど、子どもでも役に立てるときはある。そんなことを伝えてくれるような、そうでもないような、なかなか愉快な旅の一行ではありました。なにより、あの対ボス特効無敵状態は読んでて笑っちゃいそうになるくらいのおもしろさではありました。

あらためてふりかえってみると、やっぱりいちばんの大筋は、王城で臣下たちにかしずかれて育った子どもであった王女Anyaの冒険と成長の物語ということになるのでしょうね。誉れあるFlogkisserの二つ名を頂いた彼女が、見事なまでの転変を見せたクライマックスの場面のその先で、どんな人生を歩むことになるんだろうかと、最後には感慨とともに思わせてくれるお話でした。今回の苦難を経た彼女なら、ちょっとやそっとのことでは大丈夫だろうとは思えるものの、まだまだ試練が待ち受けていそうだと思えるところでもあり。話自体は一冊できっちり完結してますが、続編が出るならそれもぜひ読みたい気にもさせられる。そんなお話でした。

とにもかくにも、おもしろい一冊でした。前年受賞の『The Inquisitor's Tale 』ともども、邦訳されないかなーと期待をしてみたり。
ラベル:Garth Nix
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:05| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月20日

図書館の大魔術師(1)

正式なタイトルは「くにがまえ」に「書」と書いて「図書館」と読ませてるんですけど(作中では中央図書館を指してるっぽい)、変換して出せなかったので便宜的に。

図書館の大魔術師(1) (アフタヌーンコミックス)
図書館の大魔術師(1) (アフタヌーンコミックス)

http://afternoon.moae.jp/lineup/870

すごくいいプロローグだった。ここから、無限に期待を膨らまされる物語がはじまる。この先には、どこまでも広がる冒険の世界が待ち受けている。そんな、とんでもなくワクワクさせられる気持ちとともに読み終えた本を閉じる。これがどれほど幸せな読書体験であることか。この物語自体が本に対する無限大な希望と憧憬でできあがっているように、この物語は読み手にも無限大な希望と興奮を与えてくれる。これは本に対するあふれんばかりの愛によって作り上げられた物語であり、読み手にもその焦がれんばかりの熱を伝染させてくれる物語である。本をめぐる物語としてこの上なく素晴らしい作りで、本への愛を叫んだ物語として素晴らしい力強さで、そして本の面白さを伝える物語として素晴らしくいい話で。これはまぎれもない傑作であると、声を大にして叫びます。

……と、書いたところで、内容にいっさい触れないまま言いたいことほとんど言いきってしまった感もあるんですが、なんとか残りのことを書いていくとして。

この巻の大筋の流れとしては、本好きな少年による出会いと旅立ちの物語ということになると思います。ある村に本の好きな少年がいて、村の図書館で本を読むことを楽しみにしているんだけど、貧民街の子どもであるがゆえに館長に立ち入りを禁じられていて。そんなところに、ある時、中央図書館から何人かの司書がやってくる。その世界において特別な存在である彼女たちとの交流を通して、少年は本への思いをより強いものにしていくことになる。そんな感じの話であり、まるまる一冊通してこれからはじまる話のプロローグでもありました。

ですが、プロローグであるにも関わらず傑作の感さえ抱かせるのは、それほどまでの物語が描かれていたからで。そして、その物語を演出してくれたのは、主人公である少年が初めて目にした司書の女性(少女といってもいいかもしれない)・セドナのキャラクターに負うところが大きいと思うのであり。

セドナ=ブルゥ。中央図書館の司書にして、その中でも若手の期待株(であるらしい)。けれど、そういった肩書きやそれに伴う評価をわきにおいて、彼女が物語において果たした役割、それが由来する一番のところは、彼女の芝居がかった言動にあるのであり。普通でないことをとらえて特別と言い、偶然をとらえて必然と言い。そこに感じるのは物語の力に対する信頼であり、人の持つ可能性に対する希望であり。そしてなにより、彼女の言葉には聞かせる相手にそれを信じさせる自信があふれており。いうなれば、彼女は抑えつけられてきた者の口から目をみはるよう物語を紡ぎださせる優れた聞き手であり、自らを取るに足らないと感じる者から秘められた力を引き出させる優れた演出家であり。今回、彼女が少年に及ぼした影響は、少年からしてみればまさに天の使いのようであったかもしれない。けれど、彼女からしてみれば、ちょっと背中を押してやっただけなのかもしれない。そう思わせるところが飄々とした彼女らしさであり、気取ったところのある彼女らしさでもあり。まあこの点、裏を返せば中二病っぽくもあるところで。そのため、同僚からは残念な子扱いされてる部分もありますが、しかしこの巻における彼女と少年の物語は、その一面がまがい物ではない確かな彼女の力なのだと思わせてくれるものがあったのです。そしてだからこそ、その物語に心を震わされるほどの熱量を感じるのです。

そんな出会いがあっての旅立ちとくれば、少年の心に宿る思いはいかばかりか。村の外に待ち受ける世界に期待を膨らませながら、次の巻の発売を待ちたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:12| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月11日

服を着るならこんなふうに(1)

服を着るならこんなふうに (1) (単行本コミックス)
服を着るならこんなふうに (1) (単行本コミックス)

https://web-ace.jp/youngaceup/contents/1000029/comics/968/

1巻の内容はWebで読了済み。というか、Webで全話公開してるものだから、たぶん3巻くらいの内容までついつい読みふけっちゃって、おもしろいからあとは本として買って読もうということにした次第。

で、あらためて読んでみると、これがやっぱりおもしろいんですよね。どこがいいかというと、いちばんには主人公の妹がかわいいんですよ。そこかよという感じですけど、ええ、はい、そこなんです。これは、表紙の画像だけ見ててもピンとこないものなので、ぜひWeb掲載のものでもいいので中身を見てもらいたいんですけど、この妹、毎回ビジュアルが変わるんですよね(妹に限った話ではなかったと、全部書いたあとに気づいたんですけど、いまさらまあいいか……)。ファッションに関しては語彙が貧弱にもほどがあるのであまりくわしい説明はできないんですけど、服装・髪型等、毎回なにかしらの変化がついてます。それもあって、これという固定的な外見のイメージはできにくいんだけれど、常に変化がつけられることでついつい注目がひかれるところがあって。そして、それぞれ異なるイメージを抱かされつつも、そのどれもが似合っててなんだかいいなあと思いながら読んでいるうちに、ああこのキャラかわいいなあと気づいたりするのです。個人的には、特にメガネのあるなしでの印象の違いが大きいように思いますね。

話の本筋としては、そんなおしゃれさんな妹によるところの、「服を買いに行く服がない」レベルのファッション音痴な主人公へのメンズファッション指導マンガということで。自分もそちら方面のセンスは壊滅的なんですけど、お話の作り自体はオーソドックスというか、お出かけ時の服装に困っていたところに半信半疑ながらも妹の指導を採り入れてみることで、たしかに見た目のイメージが変わって、それとともに周りからもファッションを褒められるようになったりして、自分のスタイルに自信が持てるようになっていく感じというか。だいたいはそのくりかえしなんですけど、こういう成功イメージをくりかえし追体験するような話は、読んでいてそれだけで楽しいものがありますし、その話の中に、詳しい人(監修協力してるラノベもありましたっけ)によるしっかりしたファッション理論が混ぜこまれているものだから、そしてそれが苦にならない程度の絶妙な分量であるものだから、読んでるうちにするする頭に入ってくること。これなら自分にもできそうかと、前向きな気持ちにもなれてくるんですよね。一時期、本屋でビジネス書のコーナーに置かれてるのを見かけたりして、マンガなのにと思ったりもしたんですけど、これはそこにあってもおかしくない内容だと思いました。

さて、この巻のラストは新キャラの登場で次につづく感じで。ここまでの話が完全初心者向けの無難な基礎理論だったとすると、また別方面からのファッションの楽しみ方を提示してくれるキャラでもあり。そちらもまた、本で読んで楽しみたいところですね。

(Web掲載ページ)
https://web-ace.jp/youngaceup/contents/1000029/
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:37| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月09日

キングキラー・クロニクル(1)風の名前(5)

風の名前 5 (ハヤカワ文庫FT)
風の名前 5 (ハヤカワ文庫FT)

http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013600/

巨大なドラゴンのごとき生物ドラッカスを退治せざるをえないまでにいたる流れとその狂乱のような死闘は、まさに物語にされるにふさわしい壮絶なものでした。前回の話があってそこにつながる流れも、ひとつづきの話としておもしろかったです。

ただ、これは完全にこちらが悪いんだけど、前の巻を読んでから間が空きすぎてしまったせいで、デナと出会えた高揚のまま途方もない闘いに挑むことになる、物語としての盛り上がりの波にふたたび乗っかるのに難儀したというか。もとは一冊だったものを五分冊ってやっぱり分けすぎだと思うんですよ。すくなくとも、いまの自分の読み方とは相性が悪い。

それはそれとして、クォートの物語としてはこれでまだ一部。これほどのことをなしとげておきながら、まだ序幕であるのがおそろしいところであり、そして次なる物語に期待を膨らまされるところであり。はたして、ドラッカスとの闘いを経てさらに開花した才能が示す次なる物語とは……。楽しみですよね。

後年に本人が過去を物語るという体裁でありながら、あたかも物語の時系列に没入しているかのように読み入らせる巧妙な語り口。次も楽しませてもらいたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:36| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月07日

ハイランドの復讐

ハイランドの復讐 (マグノリアロマンス)
ハイランドの復讐 (マグノリアロマンス)

http://oakla.com/syoseki/ハイランドの復讐

復讐劇だー!

スコットランド北西部の高地地帯ハイランド。いまだ王の支配下に組み込まれず、いくつもの氏族たちによって抗争が繰り広げられるその地。

少年のころ、配下であった氏族の裏切りによって領土を奪われ、族長であった父も母も殺され、追っ手から逃れてあらゆる氏族の人々と離ればなれになり、生き残った戦士の一人とふたりきりで生きることを余儀なくされて育った男ニール。それから十年以上が経過し、名実ともに歴戦の戦士となった彼が、復讐の計画を胸に秘め、かつての居城に住まう仇の前に現れる。

もうこれだけでワクワクしますよね。生まれ持った権利の奪還、血のあがない。奪われたときの記憶が強烈に刻みつけられていればいるほどに陰惨さを増すであろう断罪の場面。復讐劇の華ですよね。この話でも、ニールついに仇の目の前で名乗りをあげた場面での高揚感はたまらないものがありました。自分こそがこの城の真の主なのだと、おまえたちの過ちに対してついに審判のときが訪れたのだと、ニールひとりだけによってでなく、部族の生き残りたちが結集して高らかに復讐のときいたれりと宣言がなされる。しびれるような演出でしたね。

とはいえ、この話のヒロインは仇の娘であって、作品ジャンル的にはロマンス小説であることもあって、復讐劇としてのクライマックスはそこまでというか、この話自体のいちばんの終着点は、そこにいたるまでにも紆余曲折あった、主役ふたりの関係性の落ち着き先にあったのですけど。

しかし、終盤のどうにもおさまりの悪い結末を読んでると、これ続きがあるんじゃないかと思えてくるし、調べてみると実際、本国ではそれぞれふたりの弟が主役になった話と合わせて三部作になってるようで。いまのところ邦訳はされてないようですけど、予定はあったりしないのかなと気になるところでもあり。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:38| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

オネエ男子、はじめます。(2)

オネエ男子、はじめます。 2 (花とゆめCOMICS)
オネエ男子、はじめます。 2 (花とゆめCOMICS)

https://www.hakusensha.co.jp/comicslist/51481/

基礎化粧品代でおこづかいがカツカツな男子高校生、なにかがおかしいんだけど、面白いからまあいいか。そんな感じのシリーズ2巻目。

男子が苦手な意中のクラスメイト・音鐘さんとお近づきになりたいと思ったまではよかったものの、第一歩目をまちがえてしまった感はすでに覆い隠しようもなく、交流イベントが進むのは女装姿でのときばかり。それどころか、恋愛イベントの予感すら漂ってきてるのは、ギャグとして笑えばいいのか、疑似百合的なものとしてテンション上げていいのか。なかなかリアクションに困る状況になっているところであり。

まあドツボにはまってるのは全部自業自得なんですけどね。好きな女の子とのデートイベントとか、そんなの即答でOKするよね。気の重くなるような打ち明け話なんて吹っ飛んじゃうよね。わかるわかる。でもね、そのイベント、女装が前提ですから! 男の姿ではほとんど箸にも棒にもかかってませんから!

高橋、残念な子……。というか、戻ってこれなくなる前になんとかしようね……?

けれど今回の個人的なハイライトは、なにをおいても燿市のひとりお出かけシーンだったと思うんですよね。こいつ、完全に女装にハマってますやん。あまりにもノリノリすぎて、ふつうに超可愛いんですけど、なにこの子。あの場面だけでその筋の人()にとても訴求力がありそうな気がするんですけど、どうでしょ白泉社さん(何の話だ)
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:58| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月04日

呪いの王女の幸せな結婚

呪いの王女の幸せな結婚 (ソーニャ文庫)
呪いの王女の幸せな結婚 (ソーニャ文庫)

http://www.sonyabunko.com/sonya.html?isbn=9784781696287

あ、この王子さま、すっごくいいキャラしてる。

幼いころから身の回りで不幸が重なって、自分のことを呪いの王女だと思っているヒロイン・リューディアが、幸運の王子と称されるお相手のアンブロシウスのもとに嫁いで、自分のことを卑下しがちだった彼女が幸せを得ていく話……だと思ってたんですけどね。終盤にさしかかるまでは。

それまでは、わりあいオーソドックスなティーンズラブ小説っぽい流れで。不幸が起こることにばかりおびえていたリューディアが、無邪気な明るさで誰からも愛されるアンブロシウスと接しているうちに、彼となら、彼とだからこそ、自分は呪いの王女としてではなく幸せな結婚生活を送ることができるのだと思うにいたる話。不安に駆られるリューディアに対してアンブロシウスが、自分は絶対に不幸にならない、リューディアこそが自分の望む女性なのだと何度も力強く伝えることで、ようやく互いに向き合い、気持ちを重ねあっていく話。ただ陽気なだけではないアンブロシウスの一面に、リューディアともども胸を打たれるような話ではありました。

それはそれでじゅうぶんに楽しめてたんですけど、ただ一点、どうにも気になることがありました。これ、ソーニャ文庫ですよね、と。あまり期待しすぎるのは禁物かなとも思うのですけど、でもやっぱりちょっと話の雰囲気として明るすぎないかなと思うところがあって。

そんなことを考えていたら、終盤になって本当にやってくれました。ラスト付近でその印象をぐるっと転換させてくれる。ハッピーエンドの雰囲気が崩れることはまったくなくて、けれどそこにゾクゾクさせられるような陰が浮かび上がる。それによってふたりの関係がさらに印象的に映るようになる。アンブロシウスというキャラのことがますます好きになってくる。そして、それらの背景をいっさい知らされないまま幸せに浸るヒロインがただただいとおしく思えてくる。表の物語と裏の物語で、ふたつの楽しみを味わったような感覚。いやあ、いいですよね、こういうの。満足。満足。とても面白かったです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:11| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする