2018年07月23日

The Dragon with a Chocolate Heart

The Dragon With a Chocolate Heart
The Dragon With a Chocolate Heart
(自分が購入したのはUK版のほうだったらしく、表紙絵が違ってやや違和感ありますがともあれ)

The Dragon With A Chocolate Heart - Stephanie Burgis(作者サイト)

魔法使いによって人間の姿に変えられてしまったドラゴンの女の子の話。

ローカス賞ヤングアダルト部門およびミソピーイク賞児童文学部門の候補作(把握してるのはこのふたつですが、ほかにもノミネート・受賞してる賞はあるようで)。対象年齢的にはティーンのすぐ下くらいでしょうか。ドラゴンや魔法使いが存在したり、王さまや王女さまが登場したりする、ファンタジーな世界が舞台の作品。

人間の姿に変えられて、身寄りもないまま人間の街に放り込まれて、どうしていいかもわからなくなってしまいそうなところ、強くて獰猛なドラゴンだった誇りから、パワフルにチョコレートへの情熱を追い求めていく主人公のアベンチュリン(Aventurine)がエネルギッシュで愛らしい。獲物にしようとした相手が魔法使いで姿を変えられてしまったり、その後出会った人間にだまされて街まで連れていかれてしまったりと、冒頭で家族が心配していたような幼さをみせる部分もあるものの、一度こうと決めたらなんのその、チョコレート菓子職人のもとに押しかけて見習いの立場をもぎ取ってみたり、ドラゴンに不可能はないとばかりの行動力に目を見張らされる。火を噴くような情熱のかたまりぶりがとても気持ちがよくて。とはいえその一方で、服のセンスは人間の目から見て壊滅的だったりして、でも本人はそれがいちばんしっくりくると思ってるあたり、愛嬌のあるキャラクターであり。

また、クライマックスではアベンチュリンよりも目立ってた感もある、一風変わった街の女の子、Silke(シルケ?)もなかなかいい感じのキャラクターでして。兄が露店の店主をしているあたり、上流階級ではないのは確かだと思うんですけど、そちらの人々のことも含めて、街のことならなんでも知ってそうな情報通ぶりやその気になれば礼儀をわきまえた言動も取れてたように記憶してるところが正体不明ぶりを思わせてくれるキャラであり。そして、ファンタジーな世界でありながら男の子がはくようなズボンをはいたり、ジェンダー的な壁を感じさせない独特なセンスの持ち主だったり。彼女のいちばんの見せ場はクライマックスの王女さまとのやりとりだったでしょうか。持ち前の行動力に対して頭はそれほどよくはないアベンチュリンがいいように扱われてしまいそうになっていたところ、機転を利かせた横槍によってその悪意をみごとにやりこめてみせた場面は、個人的にこの本でいちばんの見せ場だったのではないかと思います。

そしてふたりの王女さま。初登場時、姉のほうは気品と教養を兼ね備えた社交上手の世継ぎの王女という感じで、妹のほうはひっこみ思案で下賤な者を忌避しがちなところがありそうでと、いざとなったら主人公たちが頼りにすることになりそうなのは姉王女のほうかなあなどと思っていたらどうしてどうして。よくよく考えれば、年齢的にもアベンチュリンたちに近いなのは妹王女のほうでしたね。打ち解けてみれば忌憚のないやりとりのできる人で、その後の交流の様子とか、見ていてとてもほほえましいものがあったり。

そんな感じで、なかなかおもしろい話でした。どうやらシリーズ2冊目も刊行されているようで。どんな話になっているのか、楽しみな気持ちにもさせてくれます。


posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 12:56| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月09日

愛と指輪の重さ

愛と指輪の重さ (ハーレクイン・セレクト)
愛と指輪の重さ (ハーレクイン・セレクト)

表面的に反発する理性と、それでもなぜか惹かれてしまう心という、これまたとてもにやにやしい関係でありながら、この作品の場合は、惹かれる部分がより本能的な部分に根ざしているというか。あからさまにいってしまえば、気に入らない相手なんだけど、体は欲情を覚えてしまうという、これだけで言いきってしまういろいろ見落としてしまうものもあるんですけど、ともあれ、あれこれと理由をつけては警戒心をみなぎらせようとする理性と、それらを飛び越えてどきどきさせられる感情という、悩ましい葛藤にさらされるヒロインによるロマンス小説。文字媒体だと理性が主体になりやすく、理屈を超えた感情はなかなか伝わりにくいものかと思っていたのですが、相手の体を意識すればするほどあれこれとした理屈は簡単に崩れ去って、本能的な心理に流されてしまうことによろこびさえ覚えてしまうヒロインのある種支離滅裂な思考の描写が、理性を凌駕するほどに強烈で抗いがたい本能的な好意の表現としておもしろくあり。流されている間は幸せで、これ以上ないというほどに満たされた想いになれるのに、けれど思考が冷静さを取り戻してくるとやっぱり不安が募って一緒にはいられないという考えが湧き上がってくるのも、理屈をねじ伏せてしまう関係だからこそという感じもして。それでも最後は、殻に閉じこもろうとするヒロインの心を強引にでもこじあけて愛をうけいれさせてくれるヒーローの力強さに、幸せな気分で読み終えることができる。いい話でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:23| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月25日

禁じられた恋を公爵と

禁じられた恋を公爵と (マグノリアロマンス)
禁じられた恋を公爵と (マグノリアロマンス)

禁じられた恋を公爵と | オークラ出版

「愚鈍で、従順で、美艶な女」を夫人に望む公爵マーカスと、そんな彼に腹を立てながらも自身が後見人をつとめる女性の結婚相手としては家柄も財産も申し分ない人物であることから、何度も顔を合わせることになっていく若き未亡人クララの話。

これ、個人的にすごくよかったです。第一印象が悪かったせいで、マーカスがなにかしゃべるたびにあれこれととげのある言葉をはさまずにはいられないクララと、そんな彼女にうんざりさせられながらもエリーとの縁談を進めるためには顔を合わせざるをえず、そのたびに口論のようなやりとりになってしまい閉口するマーカス。いかにも犬猿の仲のようなふたりだけど、会うたびに言いあいのようになってしまうのはお互いのことが無視できないからであって。そして、言いあいのようなやりとりをしている時間は、腹立たしいものでありながらどこか退屈しないものがあって。そんな、表面上は相性の悪いふたりのようでありながら、実のところ平静さを欠いてしまうほどに気になって気になってしかたない者同士なのであったという、このいかにもにやにやさせてくれる関係性がとても好みだったのでして。

しかも、マーカスは早いうちにもしかしたらと自分の気持ちに気づくのだけど、クララのほうは自分の感情がわからず、マーカスの前だとすぐに冷静さを失ってしまう自分にとまどって、ますます揺さぶられていく心にふりまわされていく様子が伝わってくるのが、はたからみている読者としてはまた実ににやにやとさせてくれることで。知らぬは当人ばかりなり。ベタといえばベタなんだけど、それをこれでもかと見せつけられるのはとてもいいものがあって。

ふたりの気持ちとしてはそんな感じではっきりしているのだけど、お話としては、ふたりがそのままくっついてしまってはやや角が立つ。なんせふたりが顔を合わせる名目はマーカスとクララではなく、彼女の被後見人との縁談話を進めるためなので。いくら公爵が自分の気持ちに気がついても、結婚相手としてふさわしいのはエリーのほうであって。クララのほうでも、また別の理由で痛いほどにそれがわかっているものだから、一歩身を引いてしまう。後半になるとマーカス視点の章が減って、不安と動揺に駆られるクララの視点を中心に話が進んでいくうちに読んでいるこちらまでどうなってしまうんだろうかとハラハラさせられるようになった末での、いろいろ円く収まるラストは、ストーリーとしてもとても満足感のあるもので。いやあとてもいいハッピーエンドでした。

ニヤニヤできて、ハラハラさせられて、最後には幸せな気分で読み終えられる。すごくいいラブコメ(?)だと思います。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:26| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月20日

革命前夜

革命前夜 (文春文庫)
革命前夜 (文春文庫)

共産圏を中心に世界中の才能ある若者が集まる東ドイツの音楽大学に留学する夢が叶ったピアニストの主人公。ところがそこで待っていたのは、音楽家の技量としても覚悟としても主人公よりはるかに勝る俊英たちとの出会いで……。透き通るように澄んだ音、圧倒的な叙情感、主人公が望みつつも得られずに苦悩する音楽性をこれでもかと豊かに見せつけてくるライバルたちの演奏の様子。才能の違いを感じさせられながらも本のページ越しに肌にびりびりと響くような音の迫力ある描写が素晴らしかったですね。プロを目指す世界ならではの、上にはどこまでも上がいるのを痛感させられる感じ。けれど、劣等感にさいなまれているばかりでは留学してきた意味がなくなってしまうからと、負けてばかりではいられないと、天才たちに必死に食らいつくようにがむしゃらにピアノを弾く主人公の打ち込みぶりは、遠い東ドイツの地に留学まで果たしたピアニストの執念を感じさせる青春の一ページとして、さわやかな印象を抱かせてくれるものがありました。

ただ、後半になるにつれて、若きピアニストが主人公の音楽小説というよりも、東ドイツが舞台の政治情勢を描いた小説という感じになっていってしまって。それまで東ドイツという舞台性は背景程度に音楽小説として楽しんでいた自分としては、楽しむための身構えができないでいるうちに置いていかれた感じになってしまったところがあるというか。あとから帯を見ても、たぶんこの話の売りはベルリンの壁崩壊直前の東ドイツにおける政治的な機微のほうだったのかなと。あまり予断を入れないようにと手に取ってぱっとすぐに読みだした感じでしたが、ややもったいないことをしたかなという気もしたり。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 16:04| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月15日

弱キャラ友崎くん(1)

弱キャラ友崎くん Lv.1 (ガガガ文庫)
弱キャラ友崎くん Lv.1 (ガガガ文庫)

小学館::ガガガ文庫:既刊情報
弱キャラ友崎くん Lv.1 | 小学館

なにこれめちゃくちゃ面白いじゃん。

なにを隠そう、1巻発売時に試し読みで切った記憶がはっきりとあります。序章が、こう……スクールカーストものをよく出してたイメージのある一時期のガガガ文庫とか講談社BOXあたりの作品を思い起こさせるところがあったというか。ああいうのを苦手にしてた自分にとって、この序章はそれだけで回れ右させるのに十分なものがあったんですよね。けど、いつのまにかだんだんと人気が出てきて、気づけばガガガ文庫の次期主力級の人気になってるっぽいのを目にするにつけ、しだいに気になってくるものがありまして。そうしてものは試しにと読んでみた結果が冒頭の感想でございます。いやー、これは、自分の直感もまだまだだなと思わされるところ。こんな面白い作品を見切っていたとは。反省しきり。

というところで、今年になってから読んだ中で思い返してみるとわりとベスト級だったのではとも思える本作。内容としてはやっぱりスクールカーストものではありまして。ただ、そのジャンルの中ではやや変則的な印象を受けるというか、スクールカーストの存在は前提にしながらも、それをネタにして、それを土台にすえつつ、カースト底辺のゲーマーがまさにゲームのごとくそれを攻略していくことになる話。平たくいってしまえば、スクールカーストものにビジネス書的なノウハウ論をくわえた学生生活攻略指南小説とでもなるでしょうか。

これがくりかえしますけどめちゃくちゃ面白かったんですよね。リアルでスクールカースト底辺の陰気なキャラになるにはそれなりの理由があって、どこがダメで、それをどう直していくべきかが具体的に描かれてて、ちょっとした失敗を重ねながらも、すこしずつ成果があがっていき、底辺のままでは縁のなかっただろうクラスメイトたちとの思いがけない交流が生まれるようになっていく。振り返ってみればわりととんとん拍子ではあるんですけど、そこがまたよくって、読んでる人に成功にいたる明るいビジョンを示してくれるのがうまいんですよね。やればできるんだと思わせてくれるというか。

でも、読んでる最中にはとんとん拍子でうまくいってるとは思わせなくて。それどころか、失敗しながらでも挑戦すればするほど効果が出る感じというか、まさに経験値を積んでレベルを上げていく感じがとても楽しいんですよね。これがゲーマーから見た人生の進め方なのかと、また別の種族である本読みとしては目からうろこが落ちるような世界観の提示に目を見張らされるものがあって。最初はちょっとした用事を作って声をかけるにもうじうじ考えてしりごみしそうになりながらやっとのことだったのが、そのうち身構えることなく会話ができるようになっていき、後半には二人きりでのイベントなんかが生じる相手もできてくる。やった分だけ着実に成果が出てるのが目に見えてわかるこの感じ、ダイレクトに手ごたえのつかめる挑戦をしている感じがとても楽しいんですよね。

しかも、階層上昇のお供にはとびきりの美少女つきとくるんですよ。(ライトノベルの体裁としては)最高ですよね。まあお供というか、師匠というか、コーチというか、そんな感じですけど。ともあれ、本来はスクールカースト底辺であるはずの主人公がそんな挑戦できわめて効率的に成果をあげられている理由としては、同じメソッドの先達として役割づけられている彼女の指導とフォローの存在が大きくて。メンターなしでまねするのはやや危険がつきまとうのではという気もするのですが、それはさておき、カーストのトップ層に位置する彼女のバックアップがあるからこそ、同じく上層に位置する人たち(かわいい子もたくさんいる(ここ大事))とも風当たりなくお近づきになれるし、挑戦して失敗してもトラウマ級の傷を抱えることなく円く収めてくれるしで、めちゃくちゃ頼りになること。

そしてなにより、メンターであるところのその日南さん、とてもかっこいいんですよね。勉強も運動もできる完璧な美少女として認識されていても、普段の言動はクール系とまではいかずに愛嬌のある美少女で、どちらかというとかわいいという形容詞が似合いそうなキャラであって。でも、ちょっとした経緯で師弟関係っぽくなった主人公にだけ見せる同じ「ゲーマー」としての彼女の姿は、尊敬の念すら覚えるほどのトッププレイヤーぶりであって。これはもう本当に仰ぎ見たくなるレベルであって。だからこそ、主人公が目標に据えるのにもわかるものがあるというか。ラストのふたりのやりとりは、なんというかもう、主人公ならずとも高揚感に襲われるものがありますよね。1巻でここなら、2巻では、さらにその先では……と、期待させてくれるシリーズですね。次の巻を読むのも楽しみです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:51| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月09日

アリスマ王の愛した魔物

アリスマ王の愛した魔物 (ハヤカワ文庫JA)
アリスマ王の愛した魔物 (ハヤカワ文庫JA)

アリスマ王の愛した魔物 | 種類,ハヤカワ文庫JA | ハヤカワ・オンライン

傑作。表題作「アリスマ王の愛した魔物」は東京創元社から出ている年刊SF傑作選にて既読の作品で、いまあらためて読んでもやっぱりとんでもない。そのほかの話は、「アリスマ王〜」に比べればSF色が強めの話が多いけれど、人と人、人と物、物と物が心を通わせあう交流を描いた話がやさしくも心に訴えかけてくるものばかりで。ベテラン作家の確かな手腕を感じさせてくれる一冊でした。

以下、各話感想。


「ろーどそうるず」

バイクの統合制御ユニットと、そこから送られてくるリポートを受信する担当ユニットとのやりとりという、人が登場せず物と物の話をいちばん最初に持ってくるこの飛ばしよう、嫌いじゃないです。人ではないにもかかわらず人間らしい思考をする彼らがどこかおかしく、けれど読み進めていくうちにだんだんと感情移入させられて、統合制御ユニットに待ち受ける苦難についつい読み入らされてしまう。うまいですよね。ラストが希望を持たせてくれる終わりかたで、これひとつでもある程度の満足感を得られてしまうくらいで。短編小説のよさですね。


「ゴールデンブレッド」

「タタミ・マット」なんていう、サイバーパンクな世界をイメージしてしまいそうな出だしからはじまって、けれど話としては、農村っぽい和風異星界に不時着した欧米風主人公が、その星から旅立っていこうとして果たせないでいるうちにそこの人たちと交流を深めていくという、人と人との文化の話。というか、これは姉さん女房との馴れ初め話ですかね。けんかっぽいやりとりをくりかえしながらも、なんだかんだでお互いのことを受け入れていく。ええ話やね……(しみじみ)。知識はともかく食の好みはそうそう短期間では変わらないだろうから、苦労しそうだけど。


「アリスマ王の愛した魔物」

森羅万象ありとあらゆる数を数えあげる性癖を有した小国の末王子が、戦乱の中から途方もない犠牲の上に覇業を築きあげる、ひとりの人の話。あるいは、異常な執着を持つ人と、その望みを叶える術を知る魔物の話。人を人と思わぬ人の話。くりかえしになりますが、傑作。幼いころから物事の数を数えることに取り憑かれてきた王子が、その数字を駆使し、数字と数字を組み合わせ、数字と数字を掛け合わせることで頭角を現していく物語。ファンタジー風の外見のなか、骨子にあるのは数学で、物語世界中では異常な領域にまで到達した数学力によって、ありとあらゆる可能性の中からあり得べからざる結果を引き出していく覇業ぶりができすぎなくらいに爽快で。けれどその過程において多大な犠牲ももたらされるんだけど、そんなことには無頓着に、ただただ数字を数えあげ、数字から数字を導き出し、数字をもとに覇道を突き進むことしか眼中にない王子(とその従者)がめちゃくちゃクールに狂ってて。敵も味方も情け容赦なく死屍累々にして、その上に築かれる国家の盛衰はすさまじく、凄絶の一語に尽きる。読んでてにやにやと気持ちの悪い笑みが収まらなかったことといったら。己の欲求に従い楽しみを追うがまま地獄のような覇業を成し遂げる王子、決定的な知識をもたらして王子をそそのかした魔物のような従者の物語、最高に面白かったです。読後呆然とした虚脱感に襲われてしまうようなすさまじい話。けれどきわめつけは、これだけとんでもない話を描いておきながら、ページ数としてはこの本のうちの40ページくらいの分量でしかないということで。こんな話を読まされたら、短編小説というものに魅了されずにはおられませんわ。文章の語り口としては、語り手が聞き手に昔ばなしとして語って聞かせるという体であって。ところどころに下卑た冗談が混じったりして、そのせいで話自体も猥雑とした印象になってしまうんだけど、そうであるからこそ荒唐無稽なまでのアリスマ王の覇業のすさまじさがいやまして感じられるところがあって。もうなにからなにまで、とんでもない一作でした。


「星のみなとのオペレーター」

小惑星の宇宙港で管制官を務める人と、彼女になついた謎の生き物と、ときどき彼女の気になる人の話。主人公の女性が彼らと交流を深め、お近づきになったりなられたりする話。読みながら「ウニと和解せよ」なんてフレーズが思い浮かんだり……というのはともかく、居住圏の拡大を求める地球外生命体とのコンタクトがあったりして、読みかけの同作者の別作品を思い浮かべたりもしましたが、こちらはどこまでもほのぼのとした雰囲気の話で。いくつかの話が最後の展開につながっていくつくりでありながら、それでいてこれも100ページなくすらすら読めてしまうというのが、やはり短編小説のおもしろさであり。


「リグ・ライト――機械が愛する権利について」

亡くなった祖父の遺産として自動車を相続した女性と、その車に必須の付属物として付随してきた女性型AIの話。あるいはタイトルにあるとおりの話。収録話中では最長で、100ページをわずかに超える長さ。とはいえこれもすらすらと読ませてくれるものがある話で。というか、主人公が同じ職場の女性と付き合ってる女の人という百合設定のおかげで、ふたりの関係と、そこにいわく主人公の好みのタイプな外見の女性型AIがくわわって、どんな関係模様になっていくんでしょうねとか、いろいろ気になってどんどんページをめくっていってしまうという、とてもわかりやすい百合好き読者の図と化していたという。とはいえ、話としてはもっとSF寄りな部分に焦点が当たるもので。機械が心を持つということ、機械が誰かを愛するということについて、現実世界以上の技術水準ではありながらそれでもなお発展途上の子どものようなAIを通して、それがどんな感じのことなのか、雰囲気をうかがわせてくれる話でありまして。この辺、もう少し詳しく描いた話も読んでみたいかなーと思わせてくれるものがあり。地味に関係が進んでるシキミと朔夜のふたりのやりとりももっと見ていたい気分にさせられるものがありましたし、長編化もぜひどうでしょうか。


という感じで、「アリスマ王〜」がとにかくすごくて、この話ひとつのためだけにもオススメしたいくらいですが、ほかにもしっかりまとまっておもしろい話がいくつもある短編賞作品集なので、気になる人には全部ひっくるめてぜひぜひと勧めてみたいところです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:24| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月02日

境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神

境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 (MF文庫J)
境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 (MF文庫J)

境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 | 境域のアルスマグナ | 書籍 | MF文庫J オフィシャルウェブサイト
境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 - パルプピロシ/絵戸太郎(MF文庫J):電子書籍ストア - BOOK☆WALKER -

小さなころから懐いてくれてた妖魔の蛇が、契約主である主人公の命の危機に際して半人半蛇の姿を得て、主人公LOVEの暴走ぎみな妖魔妻として愛を叫びまくる話。ではなく、おじさまLOVEな養父一家の双子の問題児妹たちにからかわれふりまわされたり、かつての幼なじみと再会したりして、かわいい女の子たちに囲まれてどたばたとした交流を深めていく話。でもなく、亡き両親から受け継いだ力によって、情け容赦のない切った張ったの闘争社会に巻き込まれていく話。でもなく、その辺を全部まぜこぜにして勢いのままに読ませてくれる、近未来異能アクション。

最近あんまり読んでなかったタイプの話ですけど、異能バトルはやっぱりこういうゴテゴテとした設定がバンバン出てくるのがいいですね。ワクワクしてきます。たしか3巻まで出ているということで、次の巻を読むのも楽しみにしたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:43| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月27日

不器用愛の侯爵とあどけない若奥様

不器用愛の侯爵とあどけない若奥様(ガブリエラ文庫)
不器用愛の侯爵とあどけない若奥様(ガブリエラ文庫)

ガブリエラ文庫|不器用愛の侯爵とあどけない若奥様

父の死後、経済的に困窮したエリスのもとに、伯父の紹介によって社交嫌いで知られる侯爵オーガストが現れ、援助と引き換えに後継ぎをもうけるための結婚をすることになる話。

エリスがいじらしくてかわいかったですね。愛のない結婚だと頭ではわかっていても、オーガストのことを好きになってしまって。嫌われたくないからこそ、初めての夜の営みで恥ずかしいことを求められたり口にさせられたりしても応じずにはいられない。それどころか、好きになった人にそんなことを求められているのだと思うと、羞恥がよりいっそう体を敏感にさせて、オーガストにそんな姿をさらしているという感覚にさらなる快感の扉を開いていく。純真であどけないエリスであるからこそ、羞恥と快感にもだえる姿はたまらないものがあって、オーガストのほうではとある事情から彼女に必要以上に心を許さないようにしているのだけど、それでももっとエリスのことを可愛がりたくなる気持ちを抑えきれなくなってくるのもわかるというか。

それにからんで、その辺りのオーガストの事情に関しては、読者のほうにはなんとなく察せられるところがあるように描かれてはいるものの、エリスからしてみれば交換条件として結ばれた婚姻であるからこそ、オーガストから愛されてはいないんだと思ってしまって、そのことをしかたないと感じながらも同時にさびしさを抱え、それでも愛すべき妻としてふりむいてもらいたいと葛藤する心情がいじらしくもよいもので。報われてほしいと思ってしまうからこそ、最後にはすれ違いも解消されて、幸せな姿がみられたことに、満足のいく読後感でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:27| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月22日

社内恋愛禁止 〜あなたと秘密のランジェリー〜

社内恋愛禁止 ~あなたと秘密のランジェリー~ (蜜夢文庫)
社内恋愛禁止 ~あなたと秘密のランジェリー~ (蜜夢文庫)

蜜夢文庫編集部ブログ

表紙ではタイトルの後半部分のほうが明らかに大きく表示されてるんですけど、正式のタイトル表記を見てるとそっちはサブタイトルっぽくも思えたり。

それはともかく、ティーンズラブ作品です。下着メーカーに勤めるOLで、人には秘密でセクシーな下着をつけるのが趣味の主人公・愛花と、下着のデザイナーで彼女の会社の社長になったお相手・高瀬のお話です。

初対面からしてセクシーな下着を買おうとしていたところにそのデザイナーの男性と出会ってという、人には見せられないような一面を知られてしまったことによるもので、そんな地点からスタートすれば、いろいろさらけだして大胆な関係になるのも早かろうという感じのふたりの話。女性向けとしてはかなりえっち度高めというか、前半はとくに気持ちの交歓よりも行為を楽しむタイプのえっちが多く、このペースだとほかのTL作品の倍くらいそんな場面があるのかと思ったりもしましたが、中盤以降は恋のライバルとなるキャラの登場で気持ちのすれ違いからきずなの深まりが描かれていってと、恋愛面もしっかりしてて。えろとらぶの二側面をそれぞれの要素を打ち消すことなく描きわけつつ最終的にひとつにまとまる感じはいかにも、ではないですがTLらしさをつきつめたひとつの形のようで印象的だったり。

……というところなんですけど、感想としてはどうしてもえろかったというところになってしまうという。大胆な下着をつけて、好きな人のことを思っていたら、それだけで体が疼いてきてしまったり。そんな状態なものだから、彼女を見かけたお相手のほうもすっかりその気にさせられてしまって、会社にいるのに周りからみたら明らかに不自然なスケジュールの空白を作ってまで行為に突入して興じあったりとか、ちょっと女性向けにしてはえっちすぎませんかね。個人的には大歓迎ですが。

そして、前半のえっちな場面はそういうところもあるのに、最後のえっちはちゃんと気持ちが深まる幸福感を感じさせてくれる描写になってるからまたいいんですよね。波乱があったことで心情の整理がついて、自分にはこの人しかいない、この人だからどんなことでも許せるという、何物にも代えがたい安心感に包まれる感じがあるというか。

以上、えっち度高めで手堅いお話ということで、男性のTL作品入門としてもすすめられるのではないかと思ってみたり……いやどうなんでしょうね?
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:41| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月20日

魔導の矜持

魔導の矜持 (創元推理文庫)
魔導の矜持 (創元推理文庫)

魔導の矜持 - 佐藤さくら|東京創元社

姉弟子が序盤で退場してしまって悲しい……(前書き)

それはともかく、シリーズ第三作。

今回もすごくいいテーマでした。誰かにとっての普通なことが誰にとっても普通なわけではなく、むしろその人以外には誰も理解できないことだったりする。けれどそれはその人にとっては当たり前のことすぎて、むしろそうじゃないことがどういうことかもわからないくらいに「普通」のことであって。誰かに説明しようとしても、子どもの頭では自分にだけわかる感覚というものをかみくだいて説明するなんてことはできるはずもなく。知識のある大人ならば、より専門的な知識のある先達ならばと期待をかけてみるも、これっぽっちも理解を示してはもらえない。それどころか、ほかの子どもたちならば普通にできることができないことから単にやる気がないのだと疎まれていき、しだいに落ちこぼれの烙印を押されてることに諦念すら抱くようになってしまう。それがどれほど人から希望を奪っていくことか。普通とされる才能だけが認められ、そこからはずれる素質がなんの価値もないものとして顧みられない社会が、普通からはずれた人たちに対してどれほど希望に欠けた社会として映ることか。だからこそ、理解できないながらも他人とは違う何かを持つ人だと肯定的に認識しようとしてくれる人物に出会えることの、なんとうれしいことか。普通ではないことがすなわち劣ったことなのではないのだと、本人にとってはまぎれもなく「普通」のことであるその感覚を育んでいいのだと言われることの、なんとありがたいことか。それはほとんど無価値同然に思われていた自身の存在そのものを肯定してくれることであって。まるごとそのまま理解されたわけではないけれど、少なくともそのままの自分を受け容れてくれる場所がある。まったく同じではないけれど、特異な存在は自分だけではない。ならば、いずれ何かの役に立てる日も来るのかもしれない。そう思えることが、どれほどの希望と安心感を与えてくれることか。弱い立場に置かれている人をあたたかく、力強く包みこんでくれる。とても素晴らしいテーマの物語でした。

なんですけど、ストーリーのバランスがややよくないような気がするというか。一作目でも思ったんですけど、ラバルタにおける魔導士と非魔導士の対立情勢はどうにも荒削り感があるんですよね。その影響か、そことエルミーヌとにまたがる話になると、どうにも物語の雰囲気がそちらに引きずられてしまうところがあるんだろうかというか。

今回の話でも、エルミーヌ組のキャラクターはすごくいい感じでした。アニエスの自由さはあいかわらずで、リーンベルにまでいろいろ影響を与えたりして、なんだかこの世界ではすごく特異な自由さを感じさせる魔導士養成の場を形成してたりして。カエンス君もそんな自由人やら負い目のある妹やら目を離すとぶっ倒れてそうで気を抜けない旧友やらに囲まれて、あいかわらずの苦労人ぶりがほほえましかったり。殺気だった雰囲気がただようラバルタと比べてこのほのぼのとすら感じられる空気ですよ。そこに今回のデュナンもくわわって、今後はどんな空気が醸成されていくことになるのかと考えると、それだけで次も楽しみになってくるところがあります。

次の巻は6月予定とのことで、くわえてシリーズ最終巻との予告もあり。もっとこのシリーズの話を読んでいたかった気もしますが、ともあれ次も期待したいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:37| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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