2018年09月02日

王位と花嫁

王位と花嫁 (講談社X文庫)
王位と花嫁 (講談社X文庫)

http://wh.kodansha.co.jp/new/detail_201802_03.html

めちゃくちゃ面白かった。話の筋がとにかく好みで、最後まですごくいい雰囲気で。とにかく大好きです。

この話、悪者がひとりもいないんですよね。ヒロインは、王太子から婚約破棄を告げられても相手を恨むどころか真に愛する人との幸せを願って背中を押せるいじらしい公爵令嬢で。その王太子にしたところで、世間知らずなところはあるもののそれを指摘されればすぐに改める素直さはあるし、なによりも一度心に決めたことに対してはその想いのほどがよく伝わってくるひたむきさがあって憎めない。その王太子の想い人も、身分目当てに近寄ったわけではなく、職務上何度も顔を合わせているうちに互いに惹かれあってしまったというものだから、これも素直に祝福することのできるカップルであって。

けれど、根はいい人たちが婚約破棄ものの筋書きに沿って行動したらそれだけでどこにも角が立たないかというとそんなことはなくて。ヒロインのロザリンドからしてみれば、彼らの幸せを願うからこそ見過ごせない問題があるのに気づかないではおられない。彼らの幸せと引き換えの関係になるからこそ、自分のその後の境遇についてはおいそれと言い出せない。根はいい人だからこそ、自分のうちだけで抱え込もうとしてしまう。

いい人すぎて見てられなくなってしまうほどのお人好しぶりで。だからこそ報われてほしいと思わずにはいられない。それがこの話のヒロインであるロザリンドというキャラで。

で、この話のヒロインが彼女であるというならば、当然にそんな彼女の心をすくいとってくれるお相手が現れるものなのであって。

謎の騎士として現れるエクウスという男がその人物なのですけど、それまではいい人たちで固められてたロザリンドの周囲のキャラクターと比べてみれば、初めのうちの印象は悪いこと悪いこと。いちいち失礼な物言いをしてくるし、弱みを握れば脅迫まがいのことまでしてのけて、苦い気持ちを味わわされる。印象が悪すぎて逆に忘れられないキャラなんですよね。

けれど、その不躾さはいい人にすぎるロザリンドの心の奥底に押し込められた不満を代弁してくれるものでもあり、また不本意ながらも行動を共にしていれば強引さのうちにひとり奮闘しようとするロザリンドの努力を認め背中を押してくれる頼もしさもあるのがわかってきて。ロザリンドと似たタイプのキャラではない。でも、今のロザリンドに必要なのはこういう人なんだろうなあと思わされるキャラであって。ひとり強がるキャラに誰言うとでもなくそっと救いの手が差し伸ばされる。この物語の筋が、とてもあたたかく、優しさに満ちて感じられるんですよね。

そして、ふたりがだんだん惹かれあって、すれ違いの末のクライマックス。これが、もう、とんでもなく巧妙で。王太子とそのお相手と、ロザリンドとエクウスと。皆が皆、心奪われる人を見つけて、ここまでのところで、ロザリンドと王太子の婚約破棄計画から始まる物語は幸せな着地点を見出だせたかにみえる。でも、実際のところそれだけではまだ足りなくて。王太子は王太子で、ロザリンドは公爵令嬢で、ただ好きあった相手がいればそのまま結婚にまで至れるかというと、そんなことはない。王族、大貴族の結婚にはしがらみがつきもので。最終手段としての駆け落ちは当初から想定されていたものの、そのエンディングは将来の不安と隣り合わせになるのは避けられなくて。それどころか、そこまでには至らずとも、なまじ身分の高い生まれであるがゆえに、付随するあれこれのために愛が形を歪めてしまいかねないものもあって。

ではどうするか。というところでの、二組の結婚を正式に決めたあのクライマックスの(だと個人的に思う)場面だと思うんですよ。四人の将来に寸分の貶めもなく、その後を思えば祝福以外の念を送りようもなく、そしてこじれかけた愛をまっすぐに伝えて一点の曇りもなく。すべての問題を解決し、すべての不安を祝意に変える。読んでいて心にしみいり、心をふるわせる、それは求婚の告白でした。

めちゃくちゃよかったです。素晴らしい話でした。オススメ。

いちおうピンクの背表紙ですし、レーベル内での扱いはティーンズラブ作品ということなんでしょうけど、そういう場面は一度だけですし、ページ数的な場所的にもおまけ的というか。むしろ、そういう場面よりも、イラストでのヒロインのお胸の大きさに、そういえばそういうアピールも地味に大事なタイプの小説作品なんだっけと思うところだったり。なので、濃度のうすいところからのTL作品への挑戦を考えている方にはぜひにどうかという次第。そうでない人にも、もちろんオススメの作品ではあります。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:08| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

恋の使者は一夜で宿り

恋の使者は一夜で宿り (ハーレクイン・ディザイア)
恋の使者は一夜で宿り (ハーレクイン・ディザイア)

https://www.harlequin.co.jp/hq/books/detail.php?product_id=11448

ビジネス面で叶えたい目標があって、プライベートの計画なんてまったく考えてもいなくて、けれどたった一夜の関係で子どもを身ごもってしまって。目標を叶えるまでは寄り道なんてしてる暇はないのに……。そんな焦りから、心配するお相手もつっぱねようとするんだけど、突然のつわりに襲われて、もう自分ひとりだけの体ではなくなってしまったんだと悟る。女性的な感覚の描写かとは思うんですけど、強がろうとする心に有無を言わさず現実をつきつけてくる感じ、変化を余儀なくされることをこれ以上なく鮮明に思い知らされる感じがとても鮮烈で、とても印象的でした。そうだよなあ。約10か月、自分以外の命を体のなかに抱えることになるんだから。それは誰かにことさら言われるまでもなく意識せざるをえないことであって。

けれど、母親としての女性とお腹の中の赤ちゃんとは当然のことながら別々の存在であって。男が赤ちゃんの心配をすることはその子の母親である女性を大切に思っていることとは必ずしもイコールではない。そこのところで生じるすれ違いは、これもまた男女の意識の違いの表れでしょうか。

ビジネスパーソンであり、母であり、妻であり……。多様な顔を持ちながら、持たされながら、けれどそれらはすべてひとりの人なのであり。なかなかにおもしろい(といっていいのか)描写の話でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:39| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月29日

賭博師は祈らない(2)

賭博師は祈らない(2) (電撃文庫)
賭博師は祈らない(2) (電撃文庫)

賭博師は祈らない(2) | 賭博師は祈らない | 書籍情報 | 電撃文庫公式サイト

ロンドンの外に広がる地方のイギリスの世界。それはロンドンと比べれば伝統的なイギリス社会が広がる世界。賭博師や格闘家といった身分の低い人たちによって物語が展開された前回とはうってかわって、今回の話の中心になるのは地主や法律家といった、より高い階層に位置する人たち。2巻目にしてイギリス階級社会の一端が登場してきた形でしょうか。とはいえ今回のジェントリ階級も地方の名望家クラスではあるものの貴族には含まれないようで、いったいどれだけの階層があるんだと思わされるんですけど。その辺、巻数が進めばもっと出てきたりするんでしょうか。地味に期待をしてみたり。

ジェントリと並んであとがきにて説明が割愛されてた相続事情については、たしかおおざっぱには直系長男がすべての財産を相続するものかと思うんですけど、割愛されるからにはこまごまとした事情もあったんだろうか。これについても、後々の巻でその辺の説明が入ることに期待したい。期待していいんだろうか?

それはそれとして今回の話、エディスを助けることは、ラザルスとしてはかなり己の信念を曲げることだったと思うのだけど、それを為さしめたのは、なによりも彼女と親しくなったリーラによる後押しなのかなあと思うと、なかなかに遠回しな愛情の表れだなあとにやにやしく思ったり。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:08| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月22日

公爵様は女がお嫌い!

公爵さまは女がお嫌い! (フェアリーキス ピュア)
公爵さまは女がお嫌い! (フェアリーキス ピュア)

公爵さまは女がお嫌い! | 株式会社Jパブリッシング

フェアリーキスってR15区分もあったのねと読後に知った一冊。

ティアナの勘違いが根強すぎて笑う。ヴァレッドさん……なんというか、その……気長に愛をささやいてやってください。でも、あなたもあなたで自分の気持ちと素直に向き合ってくださいというか。まあ、変わり者同士お似合いな夫婦ではある……のかなあ?(あまり自信はない)

あと、出番はほとんどなかったけど、ヒロインの妹のローゼが実は駄々っ子みたいなお姉ちゃんっ子だったというのは地味にポイント。でもだからって姉の婚約者を寝取るまでするかというのは……。まあなんにせよ、それもあって最後の祝福ムードは和やかかつにぎやかでいい感じではありました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:39| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月14日

秘密の姫君はじゃじゃ馬につき

秘密の姫君はじゃじゃ馬につき (ビーズログ文庫)
秘密の姫君はじゃじゃ馬につき (ビーズログ文庫)

http://bslogbunko.com/si_jyajya/index.html
(↑ビーズログ文庫のシリーズ紹介ページ)

イラストで興味を惹かれて購入。読んでみると、キャラが魅力的でおもしろい話でもありました。

まず主人公の王女さま・オフィーリア。この子がいいキャラしてまして。冒頭から母女王と姉王女の反対を押し切って騎士団入団に渡りをつける利かん子ぶりを示してくれたり、そのうえで面識のある総隊長に野郎ばかりの団に美人なオフィーリアを放りこむことを心配されても美人という認識は否定しなかったり、総隊長も認める剣の腕から「王国最強の弟子」なんてうそぶいてみたりと、不遜なくらいの自信家ぶりを見せつけてくれるんですよ。ひとつひとつとればいやみっぽくぽあるんだけど、裏打ちするものもあるだけにぐうの音も出ない。こういうキャラ、嫌いじゃないですね。

けれど、配属された騎士団の隊長の前では、容姿は隊長の性格上、嫌悪の対象でしかないし、剣の腕も要修練といったほどでしかないと早々に思い知らされることになる。自信家が挫折に直面したらどうなるかというのは不安半分期待半分になるところはあるんですけど、オフィーリアの場合、そこで現れてくるのが別の持ち味である跳ねっ返りな性格なのであったというのが、おっと思わせてくれるところでありまして。落ちこむどころか、見返してやる、絶対に認めさせてやると、根性のあるところを見せてくれるから見直すところがあるキャラでして。

彼女の直属の上司になった隊長のアレクシオに関しても、そんなオフィーリアのがんばりを頭ごなしに否定してきたりと、当初の印象としてはそこまでよくなかったりもするんですが、よくよく話を聞いているうちに、根性頼りになってるオフィーリアのことをちゃんと見抜いていたりして、そのあたりしっかり目配りしている人なんだとわかるところがあり、それならと従う気持ちにさせてくれるのが憎めない人であって。それどころか、別の任務に際しては、経験の浅いオフィーリアやその他の部下に経験を積ませるべく現場で彼女たちに第一陣を任せ、取りこぼしは自分がなんとかしてみせるなんていう、頼もしすぎる隊長ぶりを見せてくれるのがむしろ尊敬レベルな人でもあるのがすごく好感度高いキャラだったんですよ。過労でぶっ倒れそうなタイプでもあるんだけど。

そして個人的な注目キャラとしてはもう一人。オフィーリアの姉である世継ぎの王女・セラフィーネ。次期女王としての期待に応える有能さを謳われる人であり、またオフィーリアが理想に向けて一直線なキャラだとすれば、姉王女は現実を見据えた決断ができる人であり、いかにも政治家タイプといった感じのキャラ。そんな清濁併せのむタイプで、自他ともに認める美人のオフィーリアが崇拝するレベルの美貌の持ち主で、それでいて親しい人にはしれっと毒を吐く性格でという、まとめると、美貌に才知に毒のある言動にと王女さまキャラとしての魅力をこれでもかと詰め込んだキャラなのでありました。

そんな非の打ち所がないくらいの完璧さを見せる姉王女に対して、オフィーリアは病弱な王女として育てられたため、国民のために貢献できることはあまりないままだった。それでも、家族のために、ひいては姉王女の助けになるために何かをしたいと思う気持ちは本物で。だからこそ、どれだけ反対されても騎士団に入ろうとするし、そこで皆に認めてもらおうとがんばるしと、わかってみれば純粋なまでにまっすぐな気持ちで走り回る。それがオフィーリアというキャラの魅力なんですね。だから、それがわかれば皆彼女に好感をもつし、姉王女も気にかけてついついかまいたくなるんですよね(この姉妹、いいですね……!)。うん、とてもいいキャラクターたちでした。

そんな感じで、イラストから入った感じですけど、気づけばもっとこのキャラクターたちの話を読んでみたいという気持ちにさせられている一冊。あとがきで作者さんも書いているように、表現力にはまだ向上の余地ありかと思う部分もありましたが、それでもぜひ続編を読んでみたいと思わせてくれる話でした。興味をもたれた方はぜひどうぞ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:42| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月26日

賭博師は祈らない

賭博師は祈らない (電撃文庫)
賭博師は祈らない (電撃文庫)

賭博師は祈らない|電撃文庫公式サイト

発売時に気にはなっていたもののそのままになってたんですが、コミカライズの連載が開始されたのを機会にそちらを読んでみたところ、これはいい感じだなあと思い、読んでみることに。実際、おもしろかったです。

あらすじとしては、ちょっとした手違いから奴隷を買うことになってしまった主人公の賭博師ラザルスの話。もともと奴隷を買うことが目的ではなかったから、適当に見繕ってもらったら、届けられたのはなぜか口のきけない女の子リーラで。そんな感じで、奴隷の女の子付きの賭博師の生活がはじまるのだったという、そんな感じの話。

そんな話ですけど、新人賞の選考の方も言ってるように、キャラクターがいいですよね。特にリーラさん。非合法なあつかいを想定されてたっぽくて、ラザルスのもとに届けられたばかりのころはしつけ段階での暴力に対するおびえがひどかったり、口はきけない文字も書けないものだから、主人からの一方的な指示以外のコミュニケーションはあまり望めない感じであって。人間性の殺されようがかわいそうなぐらいではあったんですけど、そこは他人に無関心なラザルスとの相性がよかったのか、すぐにおびえ以外の表情が見えてくるのがなんだかほっとさせられて。それどころか、愛着の湧いてきたラザルスの気まぐれから文字を教えだしたら、消極的ながら意思表示もするようになってきて。そのうれしさはなんというか、どこか子どもの成長を見まもるようなほほえましさがあったんですよね。その意味で、リーラさん、「少女」というよりも「女の子」という感じというか。

そんな感じの子なんで、それはだんだんほだされてくるものもあるというか、彼女のことを救い出すためなら、マジになったりもするでしょうというもの。クライマックスでの、顔面蒼白で脂汗ダラダラ流しながらの一世一代の大勝負は実に手に汗握るものがあって、とても熱かったです。

あとは、賭博師の視点から描かれる18世紀末のロンドンの様子というのもなかなかいい感じで。実在の人物やなにやらをモチーフにしている描写もいろいろあるようで、そういう細かいところにもへーと思わせてくれるところはなかなか好みだったり。

2巻の展開も気になる。つなぎ的な最後になってて、これ一冊で満足させられつつも、次の巻へと手をのばしたい気持ちにさせてくれる終わり方。次の話も期待したいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 13:23| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月23日

The Dragon with a Chocolate Heart

The Dragon With a Chocolate Heart
The Dragon With a Chocolate Heart
(自分が購入したのはUK版のほうだったらしく、表紙絵が違ってやや違和感ありますがともあれ)

The Dragon With A Chocolate Heart - Stephanie Burgis(作者サイト)

魔法使いによって人間の姿に変えられてしまったドラゴンの女の子の話。

ローカス賞ヤングアダルト部門およびミソピーイク賞児童文学部門の候補作(把握してるのはこのふたつですが、ほかにもノミネート・受賞してる賞はあるようで)。対象年齢的にはティーンのすぐ下くらいでしょうか。ドラゴンや魔法使いが存在したり、王さまや王女さまが登場したりする、ファンタジーな世界が舞台の作品。

人間の姿に変えられて、身寄りもないまま人間の街に放り込まれて、どうしていいかもわからなくなってしまいそうなところ、強くて獰猛なドラゴンだった誇りから、パワフルにチョコレートへの情熱を追い求めていく主人公のアベンチュリン(Aventurine)がエネルギッシュで愛らしい。獲物にしようとした相手が魔法使いで姿を変えられてしまったり、その後出会った人間にだまされて街まで連れていかれてしまったりと、冒頭で家族が心配していたような幼さをみせる部分もあるものの、一度こうと決めたらなんのその、チョコレート菓子職人のもとに押しかけて見習いの立場をもぎ取ってみたり、ドラゴンに不可能はないとばかりの行動力に目を見張らされる。火を噴くような情熱のかたまりぶりがとても気持ちがよくて。とはいえその一方で、服のセンスは人間の目から見て壊滅的だったりして、でも本人はそれがいちばんしっくりくると思ってるあたり、愛嬌のあるキャラクターであり。

また、クライマックスではアベンチュリンよりも目立ってた感もある、一風変わった街の女の子、Silke(シルケ?)もなかなかいい感じのキャラクターでして。兄が露店の店主をしているあたり、上流階級ではないのは確かだと思うんですけど、そちらの人々のことも含めて、街のことならなんでも知ってそうな情報通ぶりやその気になれば礼儀をわきまえた言動も取れてたように記憶してるところが正体不明ぶりを思わせてくれるキャラであり。そして、ファンタジーな世界でありながら男の子がはくようなズボンをはいたり、ジェンダー的な壁を感じさせない独特なセンスの持ち主だったり。彼女のいちばんの見せ場はクライマックスの王女さまとのやりとりだったでしょうか。持ち前の行動力に対して頭はそれほどよくはないアベンチュリンがいいように扱われてしまいそうになっていたところ、機転を利かせた横槍によってその悪意をみごとにやりこめてみせた場面は、個人的にこの本でいちばんの見せ場だったのではないかと思います。

そしてふたりの王女さま。初登場時、姉のほうは気品と教養を兼ね備えた社交上手の世継ぎの王女という感じで、妹のほうはひっこみ思案で下賤な者を忌避しがちなところがありそうでと、いざとなったら主人公たちが頼りにすることになりそうなのは姉王女のほうかなあなどと思っていたらどうしてどうして。よくよく考えれば、年齢的にもアベンチュリンたちに近いなのは妹王女のほうでしたね。打ち解けてみれば忌憚のないやりとりのできる人で、その後の交流の様子とか、見ていてとてもほほえましいものがあったり。

そんな感じで、なかなかおもしろい話でした。どうやらシリーズ2冊目も刊行されているようで。どんな話になっているのか、楽しみな気持ちにもさせてくれます。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 12:56| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月09日

愛と指輪の重さ

愛と指輪の重さ (ハーレクイン・セレクト)
愛と指輪の重さ (ハーレクイン・セレクト)

表面的に反発する理性と、それでもなぜか惹かれてしまう心という、これまたとてもにやにやしい関係でありながら、この作品の場合は、惹かれる部分がより本能的な部分に根ざしているというか。あからさまにいってしまえば、気に入らない相手なんだけど、体は欲情を覚えてしまうという、これだけで言いきってしまういろいろ見落としてしまうものもあるんですけど、ともあれ、あれこれと理由をつけては警戒心をみなぎらせようとする理性と、それらを飛び越えてどきどきさせられる感情という、悩ましい葛藤にさらされるヒロインによるロマンス小説。文字媒体だと理性が主体になりやすく、理屈を超えた感情はなかなか伝わりにくいものかと思っていたのですが、相手の体を意識すればするほどあれこれとした理屈は簡単に崩れ去って、本能的な心理に流されてしまうことによろこびさえ覚えてしまうヒロインのある種支離滅裂な思考の描写が、理性を凌駕するほどに強烈で抗いがたい本能的な好意の表現としておもしろくあり。流されている間は幸せで、これ以上ないというほどに満たされた想いになれるのに、けれど思考が冷静さを取り戻してくるとやっぱり不安が募って一緒にはいられないという考えが湧き上がってくるのも、理屈をねじ伏せてしまう関係だからこそという感じもして。それでも最後は、殻に閉じこもろうとするヒロインの心を強引にでもこじあけて愛をうけいれさせてくれるヒーローの力強さに、幸せな気分で読み終えることができる。いい話でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:23| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月25日

禁じられた恋を公爵と

禁じられた恋を公爵と (マグノリアロマンス)
禁じられた恋を公爵と (マグノリアロマンス)

禁じられた恋を公爵と | オークラ出版

「愚鈍で、従順で、美艶な女」を夫人に望む公爵マーカスと、そんな彼に腹を立てながらも自身が後見人をつとめる女性の結婚相手としては家柄も財産も申し分ない人物であることから、何度も顔を合わせることになっていく若き未亡人クララの話。

これ、個人的にすごくよかったです。第一印象が悪かったせいで、マーカスがなにかしゃべるたびにあれこれととげのある言葉をはさまずにはいられないクララと、そんな彼女にうんざりさせられながらもエリーとの縁談を進めるためには顔を合わせざるをえず、そのたびに口論のようなやりとりになってしまい閉口するマーカス。いかにも犬猿の仲のようなふたりだけど、会うたびに言いあいのようになってしまうのはお互いのことが無視できないからであって。そして、言いあいのようなやりとりをしている時間は、腹立たしいものでありながらどこか退屈しないものがあって。そんな、表面上は相性の悪いふたりのようでありながら、実のところ平静さを欠いてしまうほどに気になって気になってしかたない者同士なのであったという、このいかにもにやにやさせてくれる関係性がとても好みだったのでして。

しかも、マーカスは早いうちにもしかしたらと自分の気持ちに気づくのだけど、クララのほうは自分の感情がわからず、マーカスの前だとすぐに冷静さを失ってしまう自分にとまどって、ますます揺さぶられていく心にふりまわされていく様子が伝わってくるのが、はたからみている読者としてはまた実ににやにやとさせてくれることで。知らぬは当人ばかりなり。ベタといえばベタなんだけど、それをこれでもかと見せつけられるのはとてもいいものがあって。

ふたりの気持ちとしてはそんな感じではっきりしているのだけど、お話としては、ふたりがそのままくっついてしまってはやや角が立つ。なんせふたりが顔を合わせる名目はマーカスとクララではなく、彼女の被後見人との縁談話を進めるためなので。いくら公爵が自分の気持ちに気がついても、結婚相手としてふさわしいのはエリーのほうであって。クララのほうでも、また別の理由で痛いほどにそれがわかっているものだから、一歩身を引いてしまう。後半になるとマーカス視点の章が減って、不安と動揺に駆られるクララの視点を中心に話が進んでいくうちに読んでいるこちらまでどうなってしまうんだろうかとハラハラさせられるようになった末での、いろいろ円く収まるラストは、ストーリーとしてもとても満足感のあるもので。いやあとてもいいハッピーエンドでした。

ニヤニヤできて、ハラハラさせられて、最後には幸せな気分で読み終えられる。すごくいいラブコメ(?)だと思います。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:26| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月20日

革命前夜

革命前夜 (文春文庫)
革命前夜 (文春文庫)

共産圏を中心に世界中の才能ある若者が集まる東ドイツの音楽大学に留学する夢が叶ったピアニストの主人公。ところがそこで待っていたのは、音楽家の技量としても覚悟としても主人公よりはるかに勝る俊英たちとの出会いで……。透き通るように澄んだ音、圧倒的な叙情感、主人公が望みつつも得られずに苦悩する音楽性をこれでもかと豊かに見せつけてくるライバルたちの演奏の様子。才能の違いを感じさせられながらも本のページ越しに肌にびりびりと響くような音の迫力ある描写が素晴らしかったですね。プロを目指す世界ならではの、上にはどこまでも上がいるのを痛感させられる感じ。けれど、劣等感にさいなまれているばかりでは留学してきた意味がなくなってしまうからと、負けてばかりではいられないと、天才たちに必死に食らいつくようにがむしゃらにピアノを弾く主人公の打ち込みぶりは、遠い東ドイツの地に留学まで果たしたピアニストの執念を感じさせる青春の一ページとして、さわやかな印象を抱かせてくれるものがありました。

ただ、後半になるにつれて、若きピアニストが主人公の音楽小説というよりも、東ドイツが舞台の政治情勢を描いた小説という感じになっていってしまって。それまで東ドイツという舞台性は背景程度に音楽小説として楽しんでいた自分としては、楽しむための身構えができないでいるうちに置いていかれた感じになってしまったところがあるというか。あとから帯を見ても、たぶんこの話の売りはベルリンの壁崩壊直前の東ドイツにおける政治的な機微のほうだったのかなと。あまり予断を入れないようにと手に取ってぱっとすぐに読みだした感じでしたが、ややもったいないことをしたかなという気もしたり。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 16:04| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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