2018年12月04日

腹黒従者の恋の策略

腹黒従者の恋の策略 (ソーニャ文庫)
腹黒従者の恋の策略 (ソーニャ文庫)

腹黒従者の恋の策略|ソ−ニャ文庫

辺境送りが決まって捨て鉢な気分の王女さまミルドレッドと、彼女に一心に忠誠を誓う騎士ライアンの恋物語であった。表向きは。

というのも、王女さまのほうから身分をかさにきて結ばれたような関係でありながら、その実の従者の偏執ぶりにゾッとさせられる話でもあったので。なんというか、ヤンデレルート的というか。

王女さまからしてみれば、幼いころからのつきあいのある相手で、昔に起きた事故から負い目を持っている相手に押しきられるままに、自身も心の奥底に押しこめようとしていた想いと素直に向き合って、幸せで祝福される結末を迎えるお話。

そのはずだけど、ライアン側から見ればまったく違う意味を持つ。不遇な生い立ちをしてきた王女さまをその不幸から解き放つお話。焦がれるほどの想いを抱くミルドレッドのことがただただほしくて、地位や名声なんてものよりもなにより彼女を手に入れたくて、真綿でくるむようにして鳥籠に入れて一心に愛情をそそぐ。真実を知ればその異常性にゾッとさせられるとともに、けれどそこまでの執着心を抱えるキャラだからこそほかのだれよりこのヒロインにふさわしい存在であるといやでも認めさせられる。

まるで呪いの上に虚構を築きあげて、その上にやっと成り立たされた幸せの形。いかにもいびつであり、けれどそのいびつさが際立つほどに目を奪われるような美しさを持つにいたった話でもあり。なかなかよいものではありました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:32| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

予言の経済学(1)巫女姫と転生商人の異世界災害対策

予言の経済学 1 巫女姫と転生商人の異世界災害対策 (レジェンドノベルス)
予言の経済学 1 巫女姫と転生商人の異世界災害対策 (レジェンドノベルス)

レジェンドノベルス|シリーズ別一覧|予言の経済学

面白い。

予言とは、超常的に知りえた未来を伝える言葉であり、理屈を超えた経緯で直接的に未来を捉えた者の述べるところであるが、それゆえに知覚した話者の主観に左右されるものでもあり、信じられるか否かは話者の信用性に依存せざるをえない。真実を言い表しているのかもしれないし、虚言を弄しているのかもしれない。真実も含まれているのかもしれないが、あくまで一面的なものにすぎないのかもしれない。いつ・どこで・なにが起こるのか。だれが・どのようにしてその影響を被るのか。予言は超常的であるかゆえにそれらを明確にはしてくれない。対応は、ただ話者を信じるか否かに左右されるばかりである。

しかしこの話の主人公は、そこに別の側面からアプローチをかける。それは近現代の科学が用いる手法。課題に対して仮説を設定し、それを検証することで結論にいたる一連のプロセス。それをしてみせるリカルドという人物は、なるほど転生者であるわけで。

この、予言に科学的なアプローチでの検証を試みるという組み合わせ。これだけでもうわくわくさせてくれますよね。予見されたという災害に対してだれもが無関心にふるまうなか、ただひとり可能性を検討し、思いがけない援助も得ながら調査を進め、その末にこれしかないというもっとも起こりうる可能性の高い事態についての結論を導きだす。謎解きのような面白さですよ。結論が出た瞬間というのは、それだけでひとつのクライマックスであったことでしょう。

とはいえ、その結論はあくまで予言の話者を一から十まで信用するという前提に立つものであり、それへの対応にかかるコストを考えれば、主人公としても完全に無視することはできないまでも消極的な対応で済ませることも可能ではあったでしょう(まあさすがに予想される被害規模的にそれは言いすぎかもしれませんが、それはともかく)。それを、この陰険なまでに爪を隠し隠してきた猛禽にそれを明かさしめてみせたのは、その予言の話者であるところのヒロイン・アルフィーナの存在であったというのもまたポイントであって。

このアルフィーナというヒロイン、身分としては王族であるものの、反逆者の血を引くことから腫れ物に触れるような扱いをされる厄介者でもあり、そしてそれが理由で王族にしては政治的な感覚にうとい箱入りの王女さまであり。平民であるリカルドがアルフィーナとの交流を持つにいたったのもその感覚の欠如ゆえともいえるでしょうか。言ってしまえば、善くも悪くも純粋な性格なんですよね。いさかいを目にすれば心を痛めるし、打算をこめたやりとりにも心からの喜びを表すし。あまりにも裏表がないからこそ放っておけなくなるタイプというか。

リカルドが彼女の予言と真正面から向き合っていくことになったのも、その純粋さがもとだったでしょうか。院生経験のある転生者として、根拠のない予言を真剣に取り合う理由はない。けれど、いくつかの経緯があったとはいえ、これほどに根のいい少女が困り果てているのを見て、まっすぐな気持ちで頼られてしまって、断ることができようかというもの。災厄のもたらされるという地がどうも主人公と無関係ではなさそうだというのが大きかったように見せかけてますけど、これ絶対違いますよね。箱入りゆえの無防備さで頼られて、勘違いせんばかりの距離感でまっすぐな好感を示されて、よからぬ感情がちらとでも首をもたげなかったとは、とてもとても言えませんよねえ……。これはミーアの目も三角になろうというもの。ええ。たいへんいいものでした。

そんな感じの、予言を予測に変えて対策を練る物語、とてもおもしろかったです。2巻も来年4月に刊行予定ということで、楽しみにしたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:11| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月25日

小説 魔法使いの嫁 金糸篇

小説 魔法使いの嫁 金糸篇 (マッグガーデンノベルズ)
小説 魔法使いの嫁 金糸篇 (マッグガーデンノベルズ)

原作自体は未読なんですが、「真理の織り手」シリーズの佐藤さくらさんが参加されてるという情報を目にして購入。

実際に読んでみた感じ、原作知識はなくても問題なく楽しめました。そして、一番おもしろかったのは、なんといっても佐藤さくらさんの「守護者とトネリコ」。

この作者さんの書く物語はとてもやさしさにあふれてるんですよね。情けないところもある、傷つけられたりもする。けれど、それでも一生懸命になれるキャラクターだからこそ、助けの手が伸ばされる。必死なほどの思いは見捨てられずに届けられる。これがとれほど有り難いことであるか。

この話におけるアシュレイも、妹に対して複雑な感情を抱える少女ではありました。家族に疎まれながらもいっしょに魔法の勉強をした無二の仲間であり、けれど自分を置いてひとりだけ正式な魔法使いの弟子に収まった相手であり。幼いころからの絆と嫉妬心から、ある日アシュレイは取り返しのつかない過ちを犯してしまう。それでも、だからこそ償いを果たさずにはいられないし、妹にしてしまったことを思えば自分の命と引き換えにしても必ずやり遂げなければならないと悲壮な決意を固めることにもなる。

そんなところに、お節介者が現れる。出会いは間の悪いもので、それだから忘れてしまおうとするんだけど、身の丈に合わない無茶をしようとしているアシュレイのことがどうにも気になってしまい、口ではあれこれ言いながらも手助けせずにはいられなくなっていく。この絶妙なキャラクター配置がとてもいいんですよね。

そして最後のアシュレイの決意。これもそれまでの経緯を経てくることでとても心に響いてくるものがあって。もう少しだけでもいいからこのキャラクターのその後も見てみたいなあと思わされたり。

でも、このキャラ、検索してもヒットしてこないんてすよね。本編に出てきてるキャラの前日譚かと思ってたんてすけど、もしかしてこの話だけのオリジナルなキャラクターだったとか……?

その他、三田誠さんの「吸血鬼の恋人」のふたりはいい雰囲気でしたし、桜井光さんの「虹の掛かる日、ごちそうの日」は妖精の見えない女主人と家事妖精との、それでも長い年月を通した絆が感じられるのがいいものだったり。いろんなキャラクターがいてそれぞれの物語がつむがれていく感じがよかったです。 それを許容できるだけの世界観の奥行きがあるということでしょうか。

ともかくも、原作未読でも十分に楽しめる、魔法使いや魔の世界の者たちによる小話集。いい雰囲気の一冊でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:24| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月15日

The Girl with the Dragon Heart

The Girl With the Dragon Heart
The Girl With the Dragon Heart
(画像はUS版の表紙っぽくて、自分の購入したUK版のイラスト調の表紙とは違ってやや違和感がありますが)

The Girl with the Dragon Heart - Stephanie Burgis(作者サイト)

前作『The Dragon with a Chocolate Heart』感想


魔法で人間の姿に変えられてしまったドラゴンの女の子アベンチュリンがチョコレート作りにその情熱を見いだす話であった『The Dragon with a Chocolate Heart』の続編にあたる話。今回は主役が入れ替わって、前作でアベンチュリンが出会った少女シルケが主人公をつとめることに。

今回の話の内容としては、ふたりが住む都市の宮廷に突然妖精の国の女王一家が訪れてくることになって、国の実権を握る世継ぎの王女からその目的を探ることを任されたシルケが奮闘する話。または、かつての戦災難民としてのシルケの家族の物語。

今回も、終盤のシルケの活躍ぶりは見せてくれるものがありました。どんどん事態が悪化していって、死人が出るレペルの争いにまでなろうかというところから、持ち前の知恵と語りの才覚によって危機を乗りきってみせる。すっかり親友のアベンチュリンや、王女さまたちによる支えもあったとはいえ、強力な魔法の力を持つ妖精の女王夫妻に身一つで対峙し、口先ひとつで引き下がらせる。これこそ語りの力の極致でしょう。なにせ途中までは、これはもう武力行使不可避ではとまで思えるぐらいに事態がこじれにこじれてましたから。今回のシルケの見せ場はまさに魔法のようだったというか。そういえば、前作でもいちばんの見どころと感じたのはそうした場面なのでした。

前作では主役としてパワフルな行動力を見せてくれたアベンチュリンは、今回はやや存在感うすし。考えるよりも先に動きまわるタイプのキャラが物語をひっぱる役どころからはずれるとこうなってしまうのかなとも思いますが、それでもシルケから見たアベンチュリンの姿というのは、彼女自身の視点から見た姿とはまた違った印象を与えてくれて新鮮でした。具体的には、とても頼もしい親友としての感があったというか。行動力に偏りがちでそのせいで失敗もしてしまうアベンチュリンの性格は、その一方で内面にぶれない明確な芯を有しているのであって、事態の解決への道筋をつけてくれるわけではないのだけど、自分を見失ってしまいそうになったときに現れてくれるとこんなにどっしりとして頼もしさを感じさせてくれるキャラもいないもので。前作における印象とのギャップは大きいですが、これもまた情熱のドラゴン、アベンチュリンだなあと思わせてくれる姿ではありました。

ただ……というところなんですけど、今回は前作に比べてやや評価しにくいんですよね。終盤はよかったんですけど、そこにいたるまでが……。悪化した事態を見事に納めてみせたシルケはすごかったけど、その一方で事態を悪化させた元凶もほとんど全部シルケなので。自分が出した火を自分で消しただけというか。最後になんとかなったからよかったものの、なんとかならなかったらと思うとおそろしくなってくるものがある。

まあ、結局なんとかなったのだし、ふたたびあたたかな家族を得たシルケの幸せそうな様子は心あたたまるものではありました、というところで?
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:04| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月13日

サラファーンの星(4)星水晶の歌(上)(下)

星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫) 星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)
星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)
星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

星水晶の歌〈上〉 サラファーンの星4 - 遠藤文子|東京創元社
星水晶の歌〈下〉 サラファーンの星4 - 遠藤文子|東京創元社


ついに最後のページまでたどり着いてしまった……。

読み終えてみれば、いつまでも読みつづけていたかったと思わせられる物語でした。それほどに、なぜだか無性に安心感を覚えさせてくれるファンタジーだったように思うのです。

リーヴがいて、ウィルナーがいて、ジョサがいて、ハーシュがいて、ルシタナがいて、その他にも、すべて合わせれば20を超える人々がいて、彼らの一人ひとりがそれぞれの生い立ちを持ち、それぞれの生活を送りながら、戦争が激しさを増すなかでさまざまに関係が深まっていき、一人ひとりがそれぞれの役割を果たしながら、引き起こされる戦渦に対してさまざまな思いの丈を表し、それぞれのやり方で戦争へと関わっていく。果たした役割に大小はあれど、長い物語を通して丁寧に描かれてきた彼らの思いは本物で、だからこそ一人ひとりのキャラクターがいとおしく、どのひとりをとっても安否不明に陥るやほかの登場人物ともども不安をわかち合い、最後の最後まで彼らの行く末を見守りたい気持ちにさせられた。そこに生まれや成し遂げた功績による貴賎はなく、見届けられる結末の一つひとつがただただ尊いものとして記憶されていくように感じられるものがあったのです。

自分は当初、このシリーズをルシタナの物語だと思っていました。激化していく戦争に対して重要な役割を果たす人物として、期待を含まされつづけていた人物でしたから。なので、物語の進行があまりにも遅いと感じてもいました。けれど、最後まで読んだ後、やっと気づくことができました。これは彼女だけの物語ではなく、他に登場するすべてのキャラクターの物語であったのだと。自身や関係深い人たちの幸せに喜び、降ってわいた不幸に悲しみ、そうした感情をわかち合いながら生活していたすべての人たちの物語であったのだと。大きな世界のなかで一人ひとりができることは小さくとも、自らができることを模索して世界に飛び込んでいくすべての人々の物語であったのだと。

そして、それら一人ひとりの物語を描きだす作者の目線はとてもやさしさに満ちて感じられて。トゥーリーの帰りを待つヨハンデリ夫人や、サラになかなか言いだせない想いを寄せるパーセロー、同じく奥手なハーシュや自身の障害に対する引け目から子どもの発育に不安を抱くマリアなど、悩みを抱えた人々にもどこまでも寄り添った描写がなされており、どんなキャラクターにも親しみを感じさせてくれるんですね。意中の人からの手紙に喜んだり、試験の結果に気を揉んだり、世界全体からみれば小さなことではあるけれど、一人ひとりの身の上に起こる日常的なできごとがていねいに描かれてくることで、彼らの一喜一憂する姿にしだいにこちらの心情が重なっていくのがわかるものがあって。英雄的な人物ではなく、誰もが悩みを抱えた等身大のキャラクターであり、それでも自分がなすべきだと思ったことのために身を投じていく。だからこそ、その一人ひとりのキャラクターの決意が尊く、そしてまた、悩み迷う姿こそがいとおしく思えてくるのです。

物語の結末としては、第一部文庫版のあとがきでもふれられていたというように(自分はハードカバーでしか持ってないんですが)、このシリーズ自体が作者による以前の作品の前日譚であるということもあって、終わりを迎えるべき部分としては終わりを迎え、それでも途切れない一部の縁はそちらに引き継がれていくものもありといった趣き。

第三部までの流れを思えば、この第四部はまさに激動といった感じで、一人ひとりのキャラクターの動きを丹念につむぎあげていく描写は変わらないものの、こぼれ落ちていく人々の姿を見届けるのはとてもつらかったですね。もっと彼らのすることを見つづけていたかった。もっと喜怒哀楽をともにしたかった。失われていくことではじめて、自分がどれほどこの物語の世界をいとおしく思っていたのか気づかされるようであって。本当に、終わってほしくない物語だったと、思わされるものがあるのです。

この物語は、これでおしまい。どんな思いを抱えようとそれは変わらないわけで。けれど、この世界はまだ終わりを迎えてはいない。その長い長い後の時代を舞台にした物語があるという。ならば、このシリーズに登場したキャラクターたちの姿を見届けた読者としては、彼らの抱いた思い、その行く末を見届けたいと思わずにはいられないですよね。それが彼らへのなによりの親愛の表れのように思えるので。

後日譚『ユリディケ』。それが読める日を、心待ちにしています。


サラファーンの星 公式サイト
https://serafahn.com
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:41| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月28日

クリフトン年代記(2)死もまた我等なり(上)(下)

死もまた我等なり(上): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫) 死もまた我等なり(下): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)
死もまた我等なり(上): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)
死もまた我等なり(下): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)

https://www.shinchosha.co.jp/book/216135/
https://www.shinchosha.co.jp/book/216136/

あいかわらず話の進行が早い。アメリカの対独参戦前からはじまって、もう終戦後にまでたどり着いてしまった。死別した戦友への気持ち、ぶん殴りたくなるようないやな奴らのその後など、掘り下げようと思えばそこここに見いだせる余地をあれもこれもうっちゃりつつ、メインキャラクターである視点人物たちの物語に焦点をしぼって進行していく。そしてそれが次々と移り変わっていく物語のテンポのよさを生み出している。

命をかけてでも祖国イギリスを守らんとする意志。思いがけなくも出会った戦友との絆。その出会いを通して過ごされる稀有な戦場体験。そして、それによって世界の見える角度が広がったような新鮮な変化。ハリー・クリフトンとジャイルズ・バリントンのふたりが経験した戦争は、いかにも忘れがたい青春の一ページとして、鮮烈な記憶と華々しい活躍に彩られた様子が印象的で。のちの生涯に多大な影響を及ぼす日々といった感じでしたよね。特にジャイルズは、大学前の問題行動のいくつかを思えばすっかり好青年になって。見違えるような立派な変貌ぶり。それだけに、戦後に起きたいざこざが気の毒ではありますが、それはともかく。

一方で、女性のキャラクターとしてはエマ・バリントンが印象的で。前回のラストで、いろいろもつれにもつれた状況からどうなるのかと思いのほか、泥沼感を感じさせることもなくするすると自らの道を切り開いてしまったから驚き。まあするするいったとはいっても、それは手に入れたい幸せの形をつかみとるためならどんな望みのうすい冒険もいとわないと感じさせるほどの想いと決意の末にようやくたどり着いた先の再会でしたからね。あれはもうひとつの冒険の旅といってさしつかえなかったでしょう。それにしても、思わされるのは当時の英米間の上流階級のつながりでしょうか。大西洋を渡った先でも頼れる当てがあるというのは、強い。アメリカの独立からはすでに100年以上もたってますが、そういうこともあったんだろうかと、ちょっと興味深くもなってくる。そしてアメリカの親戚がやや特殊な王党派っぽいのが地味に面白くもあり。

そしてこの第二部も、ラストはクリフハンガー。どうなるんだろう、どうなるんだろうと思っていたところに、えー、そのラストなのー!?と衝撃を受けつつ、でも俄然つづきが気になっちゃうのがこのシリーズであり。いやー、これホントどうなっちゃうんでしょ? 第一部の時点ですでに懸案の対象とされていたことではありましたけど。ハリーおよびジャイルズが戦場で名声をあげたからこそ、それが世間的にもクローズアップされることになってしまった形であり、何が幸運・不運の基になるかはわからないものとうならされる話運びではあります。この辺の安心させてくれない感じはさすがというか。しかも、当人同士では希望は一致しているにもかかわらず、すでに事態は彼らの手を離れてしまっているのがなんとももどかしい。

しかし本当にどうなってしまうのか? つづきが気になりすぎるので、早く第三部も読みたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:01| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月26日

Frogkisser!


作者Twitter@garthnix

すごくおもしろかった。タイトルがコメディチックな印象から誇りに満ちあふれたものへと意味を変えた場面のこみあげてくるような熱い感情といったら。そして、途中からあれもこれもと解決すべき出来事が重なって、これ一冊で決着をつけられるのかと不安なほどに膨れ上がった課題が、終盤で一気に解消される爽快感といったら。ミソピーイク賞児童文学部門受賞の名に違わぬおもしろさでした。

おおざっぱなあらすじとしては、とある小国の王女Anyaが、悪い魔法使いである継父によってカエルに変えられてしまった姉の恋人を元の姿に戻すため、魔法薬の材料を求めて冒険の旅を行うことになる、といったもの。そこに、姉妹を害して王位簒奪を目論む継父の権力欲とか、それぞれの経緯で姿を変えられてしまったキャラクターたちが加わったり、他にもいろいろ、どんどん旅の目的が膨れ上がっていく感じ。ちょっとひと息では説明しきれそうにないお話の絡まりよう。それだけ、いろんなキャラクターの物語があったともいえますか。

この作品で目を引かれるのは、まずそのタイトルではないかと思います。感嘆符付きで示されるその言葉は、ざっくり「カエルにキスする者」という感じの意味合いになるでしょうか。それだけでウゲッという印象を起こさせるタイトルで、さらにここでは感嘆符もついていることからいよいよもって、おぞましいことをする者もいたものだ、ありえない、ひくわーといった、否定的なニュアンスが含まれているように感じられるところで(本当にそんな意味がこめられてるのかはわかりませんが)。

とはいえ、悪い魔法使いに姿を変えられた王子さまが、愛する王女さまからキスされることで元の姿に戻るという筋書きは、童話なんかではそれに類するものをちらほらと見かけるタイプの話ではないでしょうか。その他にも、白雪姫等、多くの人が知っているだろうおとぎ話を下敷きにしたパロディーが散りばめられているのがこの話であり。

そして、そんないかにもおとぎ話的な出だしでありながら、いきなりそのおとぎ話を逆手にとって、王子の恋人ではなく、その妹であるAnyaが王子を元の姿に戻すべく奮闘することになるのがこの話であり。いきなりどういうことなの……という感じでしたが、そんな頼み事をしちゃうのがAnyaの姉王女なのですよね。そして、なんで自分がと不満に思うAnyaに有無を言わさず承知させてしまったのが、姉王女から発された「sister promise」という言葉。え、なんですか、その言葉? なんでAnyaさんそれで不承不承ながらも好きでもない王子さま(からカエルになったもの)にキスすること引き受けちゃえるんですか? 英語圏では何か特別な意味合いとかあったりするんですか? そういう魔法の言葉かなにかなんですか? 百合なんですか? とても、気になるんですけど! 詳しい人の解説求む。

それはそれとして、旅に出たはいいものの、お供といえば犬一匹。王家に代々仕える忠犬たちのひとりで、ひとと言葉を交わすこともできるとはいえ、性格は成長期の犬のそれであって。基本的に好奇心優先で落ち着きがない。あとから加わる旅の仲間も、おどおどしたイモリ(元は盗賊志望の少年)、元のカワウソの習性が抜けきらない女中と、なんとも頼りにならない者たちばかり。こんな一行を旅慣れない王女が率いてうまくいくんだろうかと不安を募らせてくれるところで。実際、うまくいかないことだらけで、Anyaとしても何度もくじけそうになりながら、それでも姉のためにと歯をくいしばって前に進む姿はいかにも根性あふれてて、そっと背中を押してあげたくなる健気さでしたね。

正直なところ、道中の役に立った度合いでいけば、旅のお供たちよりも途中で立ち寄った先の大人たちのほうがはるかに助けになったのはまちがいないでしょう。なにせ、全員まだ子どもの旅の一行でしたから。でも、そのお供のすべてに、Anyaの助けとなる見せ場の場面があったんですよね。なにより、最後の場面で決定的な役割を果たしたのは、その中のひとりでした。適材適所。大人たちと比べたら、頼りにならないのはしかたがない。けれど、子どもでも役に立てるときはある。そんなことを伝えてくれるような、そうでもないような、なかなか愉快な旅の一行ではありました。なにより、あの対ボス特効無敵状態は読んでて笑っちゃいそうになるくらいのおもしろさではありました。

あらためてふりかえってみると、やっぱりいちばんの大筋は、王城で臣下たちにかしずかれて育った子どもであった王女Anyaの冒険と成長の物語ということになるのでしょうね。誉れあるFlogkisserの二つ名を頂いた彼女が、見事なまでの転変を見せたクライマックスの場面のその先で、どんな人生を歩むことになるんだろうかと、最後には感慨とともに思わせてくれるお話でした。今回の苦難を経た彼女なら、ちょっとやそっとのことでは大丈夫だろうとは思えるものの、まだまだ試練が待ち受けていそうだと思えるところでもあり。話自体は一冊できっちり完結してますが、続編が出るならそれもぜひ読みたい気にもさせられる。そんなお話でした。

とにもかくにも、おもしろい一冊でした。前年受賞の『The Inquisitor's Tale 』ともども、邦訳されないかなーと期待をしてみたり。
ラベル:Garth Nix
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:05| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月09日

キングキラー・クロニクル(1)風の名前(5)

風の名前 5 (ハヤカワ文庫FT)
風の名前 5 (ハヤカワ文庫FT)

http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013600/

巨大なドラゴンのごとき生物ドラッカスを退治せざるをえないまでにいたる流れとその狂乱のような死闘は、まさに物語にされるにふさわしい壮絶なものでした。前回の話があってそこにつながる流れも、ひとつづきの話としておもしろかったです。

ただ、これは完全にこちらが悪いんだけど、前の巻を読んでから間が空きすぎてしまったせいで、デナと出会えた高揚のまま途方もない闘いに挑むことになる、物語としての盛り上がりの波にふたたび乗っかるのに難儀したというか。もとは一冊だったものを五分冊ってやっぱり分けすぎだと思うんですよ。すくなくとも、いまの自分の読み方とは相性が悪い。

それはそれとして、クォートの物語としてはこれでまだ一部。これほどのことをなしとげておきながら、まだ序幕であるのがおそろしいところであり、そして次なる物語に期待を膨らまされるところであり。はたして、ドラッカスとの闘いを経てさらに開花した才能が示す次なる物語とは……。楽しみですよね。

後年に本人が過去を物語るという体裁でありながら、あたかも物語の時系列に没入しているかのように読み入らせる巧妙な語り口。次も楽しませてもらいたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:36| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月07日

ハイランドの復讐

ハイランドの復讐 (マグノリアロマンス)
ハイランドの復讐 (マグノリアロマンス)

http://oakla.com/syoseki/ハイランドの復讐

復讐劇だー!

スコットランド北西部の高地地帯ハイランド。いまだ王の支配下に組み込まれず、いくつもの氏族たちによって抗争が繰り広げられるその地。

少年のころ、配下であった氏族の裏切りによって領土を奪われ、族長であった父も母も殺され、追っ手から逃れてあらゆる氏族の人々と離ればなれになり、生き残った戦士の一人とふたりきりで生きることを余儀なくされて育った男ニール。それから十年以上が経過し、名実ともに歴戦の戦士となった彼が、復讐の計画を胸に秘め、かつての居城に住まう仇の前に現れる。

もうこれだけでワクワクしますよね。生まれ持った権利の奪還、血のあがない。奪われたときの記憶が強烈に刻みつけられていればいるほどに陰惨さを増すであろう断罪の場面。復讐劇の華ですよね。この話でも、ニールついに仇の目の前で名乗りをあげた場面での高揚感はたまらないものがありました。自分こそがこの城の真の主なのだと、おまえたちの過ちに対してついに審判のときが訪れたのだと、ニールひとりだけによってでなく、部族の生き残りたちが結集して高らかに復讐のときいたれりと宣言がなされる。しびれるような演出でしたね。

とはいえ、この話のヒロインは仇の娘であって、作品ジャンル的にはロマンス小説であることもあって、復讐劇としてのクライマックスはそこまでというか、この話自体のいちばんの終着点は、そこにいたるまでにも紆余曲折あった、主役ふたりの関係性の落ち着き先にあったのですけど。

しかし、終盤のどうにもおさまりの悪い結末を読んでると、これ続きがあるんじゃないかと思えてくるし、調べてみると実際、本国ではそれぞれふたりの弟が主役になった話と合わせて三部作になってるようで。いまのところ邦訳はされてないようですけど、予定はあったりしないのかなと気になるところでもあり。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:38| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月04日

呪いの王女の幸せな結婚

呪いの王女の幸せな結婚 (ソーニャ文庫)
呪いの王女の幸せな結婚 (ソーニャ文庫)

http://www.sonyabunko.com/sonya.html?isbn=9784781696287

あ、この王子さま、すっごくいいキャラしてる。

幼いころから身の回りで不幸が重なって、自分のことを呪いの王女だと思っているヒロイン・リューディアが、幸運の王子と称されるお相手のアンブロシウスのもとに嫁いで、自分のことを卑下しがちだった彼女が幸せを得ていく話……だと思ってたんですけどね。終盤にさしかかるまでは。

それまでは、わりあいオーソドックスなティーンズラブ小説っぽい流れで。不幸が起こることにばかりおびえていたリューディアが、無邪気な明るさで誰からも愛されるアンブロシウスと接しているうちに、彼となら、彼とだからこそ、自分は呪いの王女としてではなく幸せな結婚生活を送ることができるのだと思うにいたる話。不安に駆られるリューディアに対してアンブロシウスが、自分は絶対に不幸にならない、リューディアこそが自分の望む女性なのだと何度も力強く伝えることで、ようやく互いに向き合い、気持ちを重ねあっていく話。ただ陽気なだけではないアンブロシウスの一面に、リューディアともども胸を打たれるような話ではありました。

それはそれでじゅうぶんに楽しめてたんですけど、ただ一点、どうにも気になることがありました。これ、ソーニャ文庫ですよね、と。あまり期待しすぎるのは禁物かなとも思うのですけど、でもやっぱりちょっと話の雰囲気として明るすぎないかなと思うところがあって。

そんなことを考えていたら、終盤になって本当にやってくれました。ラスト付近でその印象をぐるっと転換させてくれる。ハッピーエンドの雰囲気が崩れることはまったくなくて、けれどそこにゾクゾクさせられるような陰が浮かび上がる。それによってふたりの関係がさらに印象的に映るようになる。アンブロシウスというキャラのことがますます好きになってくる。そして、それらの背景をいっさい知らされないまま幸せに浸るヒロインがただただいとおしく思えてくる。表の物語と裏の物語で、ふたつの楽しみを味わったような感覚。いやあ、いいですよね、こういうの。満足。満足。とても面白かったです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:11| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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