2019年05月11日

月夜に誘う恋の罠

月夜に誘う恋の罠 (エタニティ文庫)
月夜に誘う恋の罠 (エタニティ文庫)

月夜に誘う恋の罠(文庫本) : 月城うさぎ | エタニティブックス〜大人のための恋愛小説レーベル〜

これはある種の主従ものっぽかったというか。ハイスペックなお嬢様ヒロインによって、年上の男が翻弄される感じの流れがとてもよかったです。

しかしその発端が、結婚はしたくないヒロインが、それでも子どもはほしくなったことによるものだから、なんともエロティックな展開になるもので。男なんていらないと思うにいたった経緯は同情できるものだし、周囲の友人たちの結婚・出産に感化されて子どもへの欲求が芽生えるのも理解はできるけど、だからっていくらなんでも、関係を迫るお相手の男に対して、お金は払ってもいいけど籍は入れたくないというのは……それなんてエロゲ(死語)最高でした。ハイ。

さすがに恋心を自覚して以降はヒロインのほうがドキドキさせられる側に回ることも多くなってきますが、番外編を見ててもやっぱりお相手の男は基本的にヒロインに頭が上がらない感じの関係性なのが見て取れて、とてもいい話ではありました。そうなんですよ。ティーンズラブでこういう話を探してたんですよという、女主男従の理想像に、これまで読んだ中でもっとも近い話だったと思います(ティーンズラブ小説では)。ぴんときた男性諸氏にはぜひにと勧めてみます。


posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:53| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月07日

やがて君になる 佐伯沙弥香について

やがて君になる 佐伯沙弥香について (電撃文庫)
やがて君になる 佐伯沙弥香について (電撃文庫)

やがて君になる 佐伯沙弥香について | やがて君になる | 書籍情報 | 電撃文庫公式サイト

マンガ『やがて君になる』のノベライズ作品であり、本編のメインカップルの一方である燈子先輩に想いを寄せる佐伯沙弥香を主人公にした物語。

あとがきでも書かれているように、時系列的には本編の前。主に、3,4巻でちらっと描かれた、彼女の先輩との話が描かれる話でした。「こういう私にしたのは、あなたのくせに」というのは、本編でも登場した印象的なセリフではありましたが、そこに至るまでにそういう出来事があったのねという話。セリフの時点で想像できていたように、あまり幸せな結末にはならない話ではありましたが、それが本編での佐伯沙弥香というキャラクターを形成しているのだと知れるのは、キャラに対する愛着が深まる貴重なエピソードであり。

そして、そうしたエピソードを読んだ後にまたあらためて「こういう私にしたのは、あなたのくせに」というセリフと向き合うと、言葉の通りの意味でもあるんだけど、そうでない意味でもあるんだなという気づきがあって味わい深さを感じられるところであり。まあつまり、彼女の中ではそういう認識になっているということなんでしょうけど、それも含めてとても佐伯沙弥香らしいなあと思わせてくれるセリフですよね。

なんというか、報われない巡り合わせのままならなさを思わされる、そんな感じの百合小説。いい話でした……と思ったら、さらにこの話の続編も数日後に出るようで。そちらも楽しみにしたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:47| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月20日

オレ様御曹司の溺愛宣言

オレ様御曹司の溺愛宣言 (エタニティブックスRouge)
オレ様御曹司の溺愛宣言 (エタニティブックスRouge)

オレ様御曹司の溺愛宣言 : 冬野まゆ | エタニティブックス〜大人のための恋愛小説レーベル〜

人間関係が不得意で仕事に生きてきた営業職のヒロインが、その仕事の腕を認められるとともに、仕事を通して本人でさえも自覚できていなかった人づきあいにおける美点を見出だされて恋愛に前向きになっていく展開がとてもやさしい雰囲気のラブストーリーであった。

人づきあいの苦手さは身に染みているヒロインなので、ハイスペックなお相手に恋愛対象として興味を持たれても、なんで自分なんかにと疑問に思ってしまうし、なにかの冗談ではとも思ってしまう。けれどそれは、相手と恋愛関係になるということについてほとんど考慮すらしていないということであって。それをくりかえし、冗談ではなく本気であるという気持ちを伝えられることで、人づきあいが苦手だとか、釣り合わないとか、そういうったことを抜きにして、お相手のことをどう思っているのか、恋愛関係になりたいと思えるほどの好意を抱いているのかという自分の気持ちと向き合うことになる。うまいですよね。この辺は、仕事だけでなく恋でもハイスペックさを感じさせるヒーローの魅力であって。いくら真剣に自分の気持ちと向き合っても、人間関係の不器用さはすぐには変えられないヒロインなんだけど、その不器用なところも含めて愛してくれるのであって。この人の言うことなら信じられると思える人に支えられて、ぴりぴりと肩肘張ったような雰囲気だったのも自然とやわらいでいくほどの愛情に包まれる。とても幸せな気分にさせてくれるやさしさですよね。

そして、そんなふたりをつなぐきっかけとなったのは、人づきあいの苦手意識からかなりひとすじに打ち込んでいた仕事であって。仕事のペースの合う者同士として、仕事ぶりはなによりその人を知れるツールであって。表面的な部分に隠れたヒロインらしさを見出したのが仕事からなら、自分自身と向き合いそうしたヒロインらしさを自分のものとしていくことにヒーローがうれしさを現わしたり周囲への警戒感を高めたりするのも仕事がらみのことであって。仕事上の関係からはじまって、公私ともに支えあうようにして歩調を合わせていくカップルの話。とても素敵な作品でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 00:52| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月08日

不本意ですが、竜騎士団が過保護です

不本意ですが、竜騎士団が過保護です (ビーズログ文庫)
不本意ですが、竜騎士団が過保護です (ビーズログ文庫)

妹バカのシスコン王女ヒロインだと思ってたら、妹のほうもお姉様大好きな似たもの姉妹だった。いいですよこれ。

かたや妹第一主義をこじらせすぎて結婚のあてのない姉王女・リオノーラ、かたやそんな姉より先に結婚が決まって隣国に旅立っていった妹王女・シャーロット。序章から第一章の冒頭まで、シスコンぶりを発揮しまくって手遅れ感を覚えさせてくれるリオノーラを見ていれば、妹のほうはまともな王女なのかと思いきや、登場するやいなやそんなことはなかったと知らされるからもう笑うしかない。この姉妹大丈夫かな。お母上はさぞ頭痛めてそうな……いや、でも、ふたりまとめて送り出したようなものだし、これはうまいこと難題を片付けた形か。そう考えるとなかなかにキレ者なお母様ではなかろうか。

それはともかく、ヒロイン姉妹のキャラがかなり立っているので、ともすればコメディな話かと思ってしまいそうにもなりますけど、実のところはタイトル的にもラブコメな話でしたね。特に団長さんが、リオノーラの隠していた素性を知ってしまったことやほかにも理由があったりして、竜騎士団の紅一点なヒロインにとにかく過保護。それを逐一把握してる様子の妹王女が姉を取られることを心配してやきもきするのもわかる特別扱いぶり。いいぞ、もっとやれ。

けれど一方のリオノーラはそんな心配をよそにおもしろいくらいの恋知らずで。感情をしらないどころか恋のいろはもよく知らなさそうなレベルの純粋さを見せてくれるものだから、心配してる妹のほうがまるで過保護に思えてくるという。どちらがお姉さんなのかわからなくなってきそうな構図ですが、いいですよね。こういうの。

とはいえ妹王女の心配もあながち的外れではないのであって。ラブコメのラブの部分も芽生えかけている兆しはあり。姉妹の関係性ともども、今後の進展が楽しみになってくるところですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 13:56| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月06日

七姫物語 東和国秘抄 〜四季姫語り、言紡ぎの空〜

七姫物語 東和国秘抄 ~四季姫語り、言紡ぎの空~ (メディアワークス文庫)
七姫物語 東和国秘抄 ~四季姫語り、言紡ぎの空~ (メディアワークス文庫)

七姫物語 東和国秘抄 〜四季姫語り、言紡ぎの空〜 | メディアワークス文庫公式サイト

先王の隠し子として、群雄割拠する国の一勢力の姫君として担ぎ出された少女・カラスミ。偽りの出自のお姫様として彼女を見出だした悪い大人たちであるテン・フオウ将軍と軍師トエル・タウらとともに、にぎやかながらも穏やかな日々を過ごしていた彼女の七宮としての日常が、突如として戦乱の渦中へと巻き込まれていくとこになる出会いが鮮烈で、そこからの怒濤のような展開に一気に引き込まれた。

スロースターターながら、いったん話が動き出すとページをめくる手が止まらなくなる。そんなおもしろさの一冊だったように思います。

争い事とは無縁の日々を過ごしてきたカラスミの目を通して追体験するからこそ、後戻りのできない抗争の只中に立たされたことを、困惑や怒りや痛みや、はち切れそうなほどに膨れ上がる感情とともに理解することができる展開がすごくよかったです。争い事が起き、多くの血が流された。群雄が覇を競う情勢から、それはある程度予測される出来事ではあった。しかし作中で起こったことは、カラスミの手の届かないところで始まり、ひとまずの終息を迎えるまで彼女の出番はほとんどないままだった。どうして今回の争いは起きたのか。どのように戦いは推移したのか。あげられた成果は、流れた血に値する成果をもたらしたのか。それらはおおよそのところとして作中で語られてはいた。しかし、その距離感はカラスミからはどうしても遠い。まるで遠い国で起きた出来事のように。彼女を姫君として奉る人々は、自分のために戦に向かい血を流していったにも関わらず。

そのことを、カラスミの心情と重なるように、悔しいと思わされる。不甲斐ないと思わされる。本当の姫君であるならば、もっとよい行動が取れたはずなのにと思わされる。だからこそ、もっと多くのことを知りたいと思う。自分は自分を奉る人たちのためになにができるのか。仲間たちとともに、どんなことができるのか。そして、今回の争いを起こした張本人はなにを考えているのか。その人を止めることはできるのか。知りたいと思う。知るために成長していきたいと思わされる。これから先に起こる出来事にも立ち向かっていきたいと思わされる。強い感情の爪痕を残される。それが、どうしようもなく心地よく感じられる。そんな読書体験。読み終わったときには体の内にこもった熱を逃すように、はあーと、大きな吐息が漏れるような作品でした。

とてもいい一冊。期待の持てるファンタジーシリーズ。かつて電撃文庫で出ていた作品の新装版とのことですが、そちらは未読。次の巻も楽しみに待ちたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:03| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月23日

たのしい傭兵団(1)

たのしい傭兵団 1 [ 上宮将徳 ] - 楽天ブックス
たのしい傭兵団 1 [ 上宮将徳 ] - 楽天ブックス

アカデミーの学生として、エリートコースへの道を進んでいた主人公が、恩人でもある伯父の頼みによって一時休学して傭兵団の事務長を務めることになる話。

悪くない。というか、好きな雰囲気の話ですね。

主人公のウィラードは、平民からアカデミーに進学できるだけの頭のよさがあるキャラであり、またエリートコースの入口に身を置いてその先を夢見る出世欲も感じさせる人物であり。そんなウィラードからしてみれば、伯父の傭兵団の手伝いなんて時間の浪費のようではあるんだけど、断りきれない程度には身内への情を持ち合わせていたことが物語の幕を開けるきっかけではあったでしょうか。

大陸中に山ほどあるというごろつきの集まりである傭兵団。作中世界におけるそれは社会における必要性から生まれた人々ではありながら、戦があれば雇われて戦に参加し、戦がないときには日雇い仕事で日々を食いつなぐ、多分にその日ぐらしに近い階層ではあるようで。そんなだから賊との違いは紙一重。まちがってもエリート候補が自らすすんで身を置きたがる場所ではない。傭兵たちからしてみても、お高くとまったエリート臭が鼻につく奴の指図なんて受けたくないもの。

そんな水と油のような関係の主人公と傭兵たちがどう折り合っていくのかと思っていたら、これが真正面から自分のことを認めさせていく正攻法だからおもしろい。まあこの主人公、参加することになった傭兵団とはもともと交流があったようなので、根っからのエリート階級というわけでもなし、柄のよくない傭兵たちとの付き合いもよくよく身についてはいたんですよね。ケンカをさせても生半可な相手には引けを取らない腕っ節もあって、まずもって侮りを受けない下地はあった。

その上で、団の会計役として、金勘定にうとい傭兵団の団員たちの生計を一手に引き受ける立場を担っていれば、団長の縁者として現れたよそ者のような男でも、だんだんと支持を集められようというもの。とんとん拍子ではないけれど、地道なステップがなかなかにおもしろい展開ではあります。まあその間、ケンカをしたり、無茶ぶりに腹を括らされたり、ろくな引き継ぎもなく任された仕事で埋め合わせを要求されたりと、次から次へと楽ではない展開が続いてはいるんですけど、それでも気圧されることなく自分の仕事を果たしてみせるのは、度胸の据わりようを思わせてくれて好印象なんですよね。

そういった流れがあったからこそ、ラストの展開はそれまでと比べてものっぴきならない雰囲気があって。汗みずくになりながら体を張って立ち回る流れはこの一冊の締めくくりとして、いい山場だったと感じさせられるものがありましたね。有能さはそれなりに見せてくれていた主人公でもひとりではやや手に余る難事で、けれど一歩も引けないと踏ん張るからこそ、そこまでに培ったキャラクターたちの信頼が後押しとなって
事態を解決へと導く。成長物語的で爽快感のある展開がおもしろかったです。

成長物語といえば、主人公にとっては傭兵の研究はその後のキャリアの役に立つぞという教授のありがたい言葉によって送り出された傭兵団ではあるけれど、ここでの経験もまた、案外とその後につながっていきそうなと思わされる活躍ぶりが期待させてくれる話ではありましたね。

もともと単行本として出ていたものの文庫化ということで、次の巻もすぐ翌月に発売されている模様。楽しみに読みたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:12| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月19日

お弁当にはハートを添えて

お弁当にはハートを添えて (プリズム文庫)
お弁当にはハートを添えて (プリズム文庫)

自覚のない天然可愛い系男子な律が癒しな話であった。いやまあ作中で天然な言動になっちゃってたのの一部には理由がないわけじゃないんだけども。仲のいい女友達の彼氏と、ふたりがすでに別れてるとは知らされないままその元カレに惹かれていっちゃったら、罪悪感で悩んだりおかしな態度にもなろうというもの。まあもともとの天然王子な部分もかなりあったし、それがまた可愛いかったからいいんだけど。

本人のいないところでされてる律についての会話にも、ほっとけない奴という気持ちがあふれてていい感じだったし、まさにそんなタイプの純粋な男子でしたね。笑ってごまかして過ごしてこれちゃった天然系というか。だからこそ、律の代わりにずけずけとものを言えたりそれほどまでに律のことを大切に思える裄久は安心できるお相手だったし、祝福できるラストがいいものではありました。いい話でした。

まあ料理のできる男子は強いということで。仕事人間との相性は抜群であった。徹夜続きでぼうっとしてるお相手を食事メニューで融通利かせて自然に気づかったり、押しかけるように上がりこんできた相手にもしっかり舌鼓を打たせる料理を出していたり、料理を通じた特別な関係というのが、所帯感を感じさせてなかなかいいものでしたね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:29| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月18日

金の女領主と銀の騎士

金の女領主と銀の騎士 (アイリスNEO)
金の女領主と銀の騎士 (アイリスNEO)

女領主と男執事の主従恋物語。最高でした。最高に素晴らしかったです。

特に素晴らしかったのは、領主であるサリーナのキャラ。執事のエディアルドに淡い想いを寄せていて周囲にもそれと知られているにもかかわらず、本人を前にするとしどろもどろになってしまって打ち明けられずにいる。そんなラブコメ的においしいキャラかと思いきや、ここぞというところではとんでもなく思いきった言動を見せてくれるんですよ。奥手な女性に見えて、恋愛譚としてはかなりヒロイン主導の構図。

視点人物としては、最近読んだ女性向けとしては珍しく執事のエディアルドのほうであって。その上で、物語としても彼が主であるヒロインにモノにされる話であって。これ、レーベル的にアイリスNEOなので女性向けですけど、一部の男読者にも絶対需要ある話だと思うんですよね。すくなくとも自分は大好きなタイプの話でした。

その他、男執事であるエディアルドのほうもいいキャラしてるんでするよ。堅物鈍感主人公で、主のサリーナに一身に仕える元騎士。彼も実は主のサリーナに口には出せない想いを抱いていて、けれど彼女もまた彼に想いを寄せているなどとは思いもかけず主の側に侍り、ときにエディアルドの存在に心乱される主の胸のうちに気づくことなく彼女を支えることに喜びを見いだす。ほほ笑ましく気持ちになるような、ときにじれったくなるような両片想いの構図。

サリーナが自身に想いを寄せているなどとは露ほども思わないものだから、ときに隠し事をされたと思ってしまうやりとりにさびしさを覚えてしまうし、それは己が執事として至らないからだと反省を深めたりもする。本当のところを知っていれば的はずれな悩みでしかないんだけど、それほどまでに恋に疎い堅物ならではのすれ違いっぷりは思わずにやにやとしてしまうようなよいものであって。

というか、エディアルドって本当に不器用なほどにサリーナひと筋なんですよね。サリーナひと筋すぎて、実は卑しからぬ出自であるにもかかわらず、その想いに蓋をするようにして従者としての献身を捧げて、自身の将来のことよりも主のことを優先して、伴侶の心配までしたりする。そのくせ、彼女が自分ではない相手に好意を寄せているのではとの推測に痛む胸を押し隠す様子はあきれてしまうほどの忠実な従者ぶりであって。まあそれがいいところではあるんですけど。とはいえもどかしさはどうしようもないものがあって。

そんなドツボにはまったようにぐるぐると想いをこじらせていくエディアルドに対して、ずばっと切り込んでいってくれたのが主であるサリーナだったんですよね。鈍感な執事にも理解できるほどにはっきりと気持ちを伝え、頑なに身を引こうとする彼に逃げ場を与えぬほどに周到な舞台を用意して終幕を迎えさせる。これがもう本当にみごとな手際で。あそこまでされたら、もうめんどくさい悩みなんて吹き飛んでしまうしかないでしょうというところ。

序盤では内気とさえ思えたサリーナの決意と行動にはびっくりさせられるものがあったんですけど、思えば彼女の領主としての手腕は、亡父の跡を継いでまだ数年とは思えないそつのないものではありましたっけという。エディアルドの出自の問題など、もろもろ含めてすべてなんとかしてしまう鮮やかな手並み。恐れいるばかりですね。

それでいて、結ばれた形は主従としてではなく、兄妹のように育ったというかつての姿のようであって。両片思いのふたりがともに望んだあり方を、とんでもないほどの決意で自ら手繰りよせてみせたサリーナに心をわしづかみにされずにはいられませんでした。

本当に、素晴らしい話でした。久しぶりに大当たりの主従恋物語。大好きです。ありがとうございました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:48| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月22日

魔術師ペンリック

魔術師ペンリック (創元推理文庫)
魔術師ペンリック (創元推理文庫)

魔術師ペンリック - ロイス・マクマスター・ビジョルド/鍛治靖子 訳|東京創元社

マイベスト級にお気に入りの五神教シリーズに新作が出たということで。本国での出版情報を目にしたときから待ちわびていた邦訳版。去年のヒューゴー賞でシリーズ部門を受賞するというめでたいできごともありましたっけ。一応、発売直後に入手はしていたものの、ようやく読むことができました。

ひょんなことから口うるさい姉のような魔に取り憑かれたペンリック君の、いろんな意味でドキドキ魔術師人生開幕の一話目が特におもしろかったですね。予定されていた結婚は破談になったり地方貴族の末男から庶子神神殿の神官へと生き方の変化を迫られたりと失われていったものもあるけれど、遠い世界への憧れが叶えられたり新しく手に入れた力に新鮮な喜びに包まれたりと、新生活のワクワク感が楽しい話でしたね。

そして、魔を宿した者として、一方的で絶対的なまでの力を有する神と対峙する瞬間の、臓腑をぎゅっと鷲掴みにされるような感覚も。もっといろいろな過程を経てからの神判だとなおよかったかとは思いますが、この世界の神の存在感はやはりいいものだと感じさせてくれるものがありました。

今回登場した神は庶子神だったでしょうか。以前にも登場してるかどうかは記憶が定かではないんですが、ともあれそういった神や魔や、その後の話で巫師などのシリーズ共通の要素が登場しつつも、この連作中編としてはあくまで共通の世界のお話であるという程度に思っておいたほうがいいのかもしれません。

一話目よりも二話目、二話目よりも三話目でより顕著になっていたように思うのですが、五柱の神の恩寵で生かされる世界の人々の物語としてのファンタジー的な成分よりも、そういう世界で起こる事件を解決するミステリー的な成分が強くなっていったように思うので。まあこれはこれで、前三作で描かれてきた世界観があってこそ書ける話だと思います。

そしてそんな世界で、魔術師として庶子神教団の神官となったペンリックが、経験を重ねて魔とともにある世界の事件を解決していく様子は、当初を思えば頼もしいほどの成長ぶりがあって。すっかり馴染みのパートナーとなった魔であるデズモーナとの息の合ったやりとりもおもしろく、五柱の神によって好むと好まざるとにかかわらず運命を背負わされる感の強かったこの世界の魔術師に、こんな穏やかでほほ笑ましい道行きもありえたんだと、なんだか感慨深い気持ちになってくるものもありました。

訳者あとがきによれば、ペンリックの登場する物語はまだあと三話あるようで。そこではまたどんな姿を見せてくれるのかと、楽しみになってきますね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:37| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月23日

薬屋のひとりごと

薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)
薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)

薬屋のひとりごと | ヒーロー文庫

小説発売当時はスルーしてた記憶があるんですが、マンガ版の発売で気になってきて、二種類くらいあるのの両方とも試し読みをしてみたものの、どちらも一長一短あってどちらを読みたいとも決めかねて。じゃあいっそのことと、その原作小説を読んでみようとしてみた次第。

そして読んでみると、これがおもしろいこと。

主人公である猫猫の変人ぶりがなんとも愉快であることで。後宮で毒見役を務めさせられることになるんだけど、薬屋の知識を活かして毒を見抜くだけじゃなくて、そのついでに毒の味わいを楽しむという常人離れした所業をしてみせるからおそれいる。小さなころから好奇心のおもむくままにちょっとずつ慣らしてたって、いやいやいや、その発想はおかしいでしょうというところで。毒を摂取しては吐きもどし、自分の体を傷つけては薬を試し、たまに加減をまちがえてはぶっ倒れ……。そりゃ、そんな生活してたら、虐待を疑われますわ。可哀想がられて甘やかされもしますわ。けれどその当人の実態はといえば、毒見役でありながら毒に当たって甘美に顔をとろけさせる、一風変わった少女なのであったという。しかも、十代にしてすでにザルな酒呑みというおまけつき。こいつはいろいろおかしな奴ですよ。

くわえて、薬屋は薬屋でも、花街に店を構えていた薬屋の養女であったこともあり、そちら方面の知識や影響もちらほらあって。上流階級の後宮の女性たちでは思いもよらない観点からその手の知識を伝えてみたりしてる様子はおもしろくあり。どちらかというと女性向けっぽい作風なのであからさまには描かれませんが、そのぶん避けることもなく出てくるネタはなかなかいいものであり。お上品な女官を花街育ちの「冗談」で黙らせるエピソードは、これまたきわどいながらも愉快なネタではあり。

また、埒の明かない女官たちにすごんでみせたり、後宮社会、そのなかでも妃の側付きクラスとしては異分子な出自をいかした立ち回りは自由さを感じさせてくれていいもので。向こうのほうからいろいろ関り合いを持つことになってくる壬氏なんかも、この辺の使い勝手のよさや型破りさを重宝しているのでもあり。まあ彼の場合はそれ以上にお気に入りの節がありますが、当の猫猫のほうがあまりにも鈍感に過ぎるので、玉葉妃ともどもお腹を抱えさせてもらったり。

ひとつひとつの話は掌編程度で、けれど切れ目なく猫猫による後宮での話がつづけられていく形式で。大きな話はまだありませんが、そのぶん一冊で両手に余るほどの話を楽しむことができた感があって、満足感の高い一冊でした。読み進めていくのが楽しみなシリーズになりそうです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:20| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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