2019年04月06日

七姫物語 東和国秘抄 〜四季姫語り、言紡ぎの空〜

七姫物語 東和国秘抄 ~四季姫語り、言紡ぎの空~ (メディアワークス文庫)
七姫物語 東和国秘抄 ~四季姫語り、言紡ぎの空~ (メディアワークス文庫)

七姫物語 東和国秘抄 〜四季姫語り、言紡ぎの空〜 | メディアワークス文庫公式サイト

先王の隠し子として、群雄割拠する国の一勢力の姫君として担ぎ出された少女・カラスミ。偽りの出自のお姫様として彼女を見出だした悪い大人たちであるテン・フオウ将軍と軍師トエル・タウらとともに、にぎやかながらも穏やかな日々を過ごしていた彼女の七宮としての日常が、突如として戦乱の渦中へと巻き込まれていくとこになる出会いが鮮烈で、そこからの怒濤のような展開に一気に引き込まれた。

スロースターターながら、いったん話が動き出すとページをめくる手が止まらなくなる。そんなおもしろさの一冊だったように思います。

争い事とは無縁の日々を過ごしてきたカラスミの目を通して追体験するからこそ、後戻りのできない抗争の只中に立たされたことを、困惑や怒りや痛みや、はち切れそうなほどに膨れ上がる感情とともに理解することができる展開がすごくよかったです。争い事が起き、多くの血が流された。群雄が覇を競う情勢から、それはある程度予測される出来事ではあった。しかし作中で起こったことは、カラスミの手の届かないところで始まり、ひとまずの終息を迎えるまで彼女の出番はほとんどないままだった。どうして今回の争いは起きたのか。どのように戦いは推移したのか。あげられた成果は、流れた血に値する成果をもたらしたのか。それらはおおよそのところとして作中で語られてはいた。しかし、その距離感はカラスミからはどうしても遠い。まるで遠い国で起きた出来事のように。彼女を姫君として奉る人々は、自分のために戦に向かい血を流していったにも関わらず。

そのことを、カラスミの心情と重なるように、悔しいと思わされる。不甲斐ないと思わされる。本当の姫君であるならば、もっとよい行動が取れたはずなのにと思わされる。だからこそ、もっと多くのことを知りたいと思う。自分は自分を奉る人たちのためになにができるのか。仲間たちとともに、どんなことができるのか。そして、今回の争いを起こした張本人はなにを考えているのか。その人を止めることはできるのか。知りたいと思う。知るために成長していきたいと思わされる。これから先に起こる出来事にも立ち向かっていきたいと思わされる。強い感情の爪痕を残される。それが、どうしようもなく心地よく感じられる。そんな読書体験。読み終わったときには体の内にこもった熱を逃すように、はあーと、大きな吐息が漏れるような作品でした。

とてもいい一冊。期待の持てるファンタジーシリーズ。かつて電撃文庫で出ていた作品の新装版とのことですが、そちらは未読。次の巻も楽しみに待ちたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:03| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月23日

たのしい傭兵団(1)

たのしい傭兵団 1 [ 上宮将徳 ] - 楽天ブックス
たのしい傭兵団 1 [ 上宮将徳 ] - 楽天ブックス

アカデミーの学生として、エリートコースへの道を進んでいた主人公が、恩人でもある伯父の頼みによって一時休学して傭兵団の事務長を務めることになる話。

悪くない。というか、好きな雰囲気の話ですね。

主人公のウィラードは、平民からアカデミーに進学できるだけの頭のよさがあるキャラであり、またエリートコースの入口に身を置いてその先を夢見る出世欲も感じさせる人物であり。そんなウィラードからしてみれば、伯父の傭兵団の手伝いなんて時間の浪費のようではあるんだけど、断りきれない程度には身内への情を持ち合わせていたことが物語の幕を開けるきっかけではあったでしょうか。

大陸中に山ほどあるというごろつきの集まりである傭兵団。作中世界におけるそれは社会における必要性から生まれた人々ではありながら、戦があれば雇われて戦に参加し、戦がないときには日雇い仕事で日々を食いつなぐ、多分にその日ぐらしに近い階層ではあるようで。そんなだから賊との違いは紙一重。まちがってもエリート候補が自らすすんで身を置きたがる場所ではない。傭兵たちからしてみても、お高くとまったエリート臭が鼻につく奴の指図なんて受けたくないもの。

そんな水と油のような関係の主人公と傭兵たちがどう折り合っていくのかと思っていたら、これが真正面から自分のことを認めさせていく正攻法だからおもしろい。まあこの主人公、参加することになった傭兵団とはもともと交流があったようなので、根っからのエリート階級というわけでもなし、柄のよくない傭兵たちとの付き合いもよくよく身についてはいたんですよね。ケンカをさせても生半可な相手には引けを取らない腕っ節もあって、まずもって侮りを受けない下地はあった。

その上で、団の会計役として、金勘定にうとい傭兵団の団員たちの生計を一手に引き受ける立場を担っていれば、団長の縁者として現れたよそ者のような男でも、だんだんと支持を集められようというもの。とんとん拍子ではないけれど、地道なステップがなかなかにおもしろい展開ではあります。まあその間、ケンカをしたり、無茶ぶりに腹を括らされたり、ろくな引き継ぎもなく任された仕事で埋め合わせを要求されたりと、次から次へと楽ではない展開が続いてはいるんですけど、それでも気圧されることなく自分の仕事を果たしてみせるのは、度胸の据わりようを思わせてくれて好印象なんですよね。

そういった流れがあったからこそ、ラストの展開はそれまでと比べてものっぴきならない雰囲気があって。汗みずくになりながら体を張って立ち回る流れはこの一冊の締めくくりとして、いい山場だったと感じさせられるものがありましたね。有能さはそれなりに見せてくれていた主人公でもひとりではやや手に余る難事で、けれど一歩も引けないと踏ん張るからこそ、そこまでに培ったキャラクターたちの信頼が後押しとなって
事態を解決へと導く。成長物語的で爽快感のある展開がおもしろかったです。

成長物語といえば、主人公にとっては傭兵の研究はその後のキャリアの役に立つぞという教授のありがたい言葉によって送り出された傭兵団ではあるけれど、ここでの経験もまた、案外とその後につながっていきそうなと思わされる活躍ぶりが期待させてくれる話ではありましたね。

もともと単行本として出ていたものの文庫化ということで、次の巻もすぐ翌月に発売されている模様。楽しみに読みたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:12| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月19日

お弁当にはハートを添えて

お弁当にはハートを添えて (プリズム文庫)
お弁当にはハートを添えて (プリズム文庫)

自覚のない天然可愛い系男子な律が癒しな話であった。いやまあ作中で天然な言動になっちゃってたのの一部には理由がないわけじゃないんだけども。仲のいい女友達の彼氏と、ふたりがすでに別れてるとは知らされないままその元カレに惹かれていっちゃったら、罪悪感で悩んだりおかしな態度にもなろうというもの。まあもともとの天然王子な部分もかなりあったし、それがまた可愛いかったからいいんだけど。

本人のいないところでされてる律についての会話にも、ほっとけない奴という気持ちがあふれてていい感じだったし、まさにそんなタイプの純粋な男子でしたね。笑ってごまかして過ごしてこれちゃった天然系というか。だからこそ、律の代わりにずけずけとものを言えたりそれほどまでに律のことを大切に思える裄久は安心できるお相手だったし、祝福できるラストがいいものではありました。いい話でした。

まあ料理のできる男子は強いということで。仕事人間との相性は抜群であった。徹夜続きでぼうっとしてるお相手を食事メニューで融通利かせて自然に気づかったり、押しかけるように上がりこんできた相手にもしっかり舌鼓を打たせる料理を出していたり、料理を通じた特別な関係というのが、所帯感を感じさせてなかなかいいものでしたね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:29| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月18日

金の女領主と銀の騎士

金の女領主と銀の騎士 (アイリスNEO)
金の女領主と銀の騎士 (アイリスNEO)

女領主と男執事の主従恋物語。最高でした。最高に素晴らしかったです。

特に素晴らしかったのは、領主であるサリーナのキャラ。執事のエディアルドに淡い想いを寄せていて周囲にもそれと知られているにもかかわらず、本人を前にするとしどろもどろになってしまって打ち明けられずにいる。そんなラブコメ的においしいキャラかと思いきや、ここぞというところではとんでもなく思いきった言動を見せてくれるんですよ。奥手な女性に見えて、恋愛譚としてはかなりヒロイン主導の構図。

視点人物としては、最近読んだ女性向けとしては珍しく執事のエディアルドのほうであって。その上で、物語としても彼が主であるヒロインにモノにされる話であって。これ、レーベル的にアイリスNEOなので女性向けですけど、一部の男読者にも絶対需要ある話だと思うんですよね。すくなくとも自分は大好きなタイプの話でした。

その他、男執事であるエディアルドのほうもいいキャラしてるんでするよ。堅物鈍感主人公で、主のサリーナに一身に仕える元騎士。彼も実は主のサリーナに口には出せない想いを抱いていて、けれど彼女もまた彼に想いを寄せているなどとは思いもかけず主の側に侍り、ときにエディアルドの存在に心乱される主の胸のうちに気づくことなく彼女を支えることに喜びを見いだす。ほほ笑ましく気持ちになるような、ときにじれったくなるような両片想いの構図。

サリーナが自身に想いを寄せているなどとは露ほども思わないものだから、ときに隠し事をされたと思ってしまうやりとりにさびしさを覚えてしまうし、それは己が執事として至らないからだと反省を深めたりもする。本当のところを知っていれば的はずれな悩みでしかないんだけど、それほどまでに恋に疎い堅物ならではのすれ違いっぷりは思わずにやにやとしてしまうようなよいものであって。

というか、エディアルドって本当に不器用なほどにサリーナひと筋なんですよね。サリーナひと筋すぎて、実は卑しからぬ出自であるにもかかわらず、その想いに蓋をするようにして従者としての献身を捧げて、自身の将来のことよりも主のことを優先して、伴侶の心配までしたりする。そのくせ、彼女が自分ではない相手に好意を寄せているのではとの推測に痛む胸を押し隠す様子はあきれてしまうほどの忠実な従者ぶりであって。まあそれがいいところではあるんですけど。とはいえもどかしさはどうしようもないものがあって。

そんなドツボにはまったようにぐるぐると想いをこじらせていくエディアルドに対して、ずばっと切り込んでいってくれたのが主であるサリーナだったんですよね。鈍感な執事にも理解できるほどにはっきりと気持ちを伝え、頑なに身を引こうとする彼に逃げ場を与えぬほどに周到な舞台を用意して終幕を迎えさせる。これがもう本当にみごとな手際で。あそこまでされたら、もうめんどくさい悩みなんて吹き飛んでしまうしかないでしょうというところ。

序盤では内気とさえ思えたサリーナの決意と行動にはびっくりさせられるものがあったんですけど、思えば彼女の領主としての手腕は、亡父の跡を継いでまだ数年とは思えないそつのないものではありましたっけという。エディアルドの出自の問題など、もろもろ含めてすべてなんとかしてしまう鮮やかな手並み。恐れいるばかりですね。

それでいて、結ばれた形は主従としてではなく、兄妹のように育ったというかつての姿のようであって。両片思いのふたりがともに望んだあり方を、とんでもないほどの決意で自ら手繰りよせてみせたサリーナに心をわしづかみにされずにはいられませんでした。

本当に、素晴らしい話でした。久しぶりに大当たりの主従恋物語。大好きです。ありがとうございました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:48| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月22日

魔術師ペンリック

魔術師ペンリック (創元推理文庫)
魔術師ペンリック (創元推理文庫)

魔術師ペンリック - ロイス・マクマスター・ビジョルド/鍛治靖子 訳|東京創元社

マイベスト級にお気に入りの五神教シリーズに新作が出たということで。本国での出版情報を目にしたときから待ちわびていた邦訳版。去年のヒューゴー賞でシリーズ部門を受賞するというめでたいできごともありましたっけ。一応、発売直後に入手はしていたものの、ようやく読むことができました。

ひょんなことから口うるさい姉のような魔に取り憑かれたペンリック君の、いろんな意味でドキドキ魔術師人生開幕の一話目が特におもしろかったですね。予定されていた結婚は破談になったり地方貴族の末男から庶子神神殿の神官へと生き方の変化を迫られたりと失われていったものもあるけれど、遠い世界への憧れが叶えられたり新しく手に入れた力に新鮮な喜びに包まれたりと、新生活のワクワク感が楽しい話でしたね。

そして、魔を宿した者として、一方的で絶対的なまでの力を有する神と対峙する瞬間の、臓腑をぎゅっと鷲掴みにされるような感覚も。もっといろいろな過程を経てからの神判だとなおよかったかとは思いますが、この世界の神の存在感はやはりいいものだと感じさせてくれるものがありました。

今回登場した神は庶子神だったでしょうか。以前にも登場してるかどうかは記憶が定かではないんですが、ともあれそういった神や魔や、その後の話で巫師などのシリーズ共通の要素が登場しつつも、この連作中編としてはあくまで共通の世界のお話であるという程度に思っておいたほうがいいのかもしれません。

一話目よりも二話目、二話目よりも三話目でより顕著になっていたように思うのですが、五柱の神の恩寵で生かされる世界の人々の物語としてのファンタジー的な成分よりも、そういう世界で起こる事件を解決するミステリー的な成分が強くなっていったように思うので。まあこれはこれで、前三作で描かれてきた世界観があってこそ書ける話だと思います。

そしてそんな世界で、魔術師として庶子神教団の神官となったペンリックが、経験を重ねて魔とともにある世界の事件を解決していく様子は、当初を思えば頼もしいほどの成長ぶりがあって。すっかり馴染みのパートナーとなった魔であるデズモーナとの息の合ったやりとりもおもしろく、五柱の神によって好むと好まざるとにかかわらず運命を背負わされる感の強かったこの世界の魔術師に、こんな穏やかでほほ笑ましい道行きもありえたんだと、なんだか感慨深い気持ちになってくるものもありました。

訳者あとがきによれば、ペンリックの登場する物語はまだあと三話あるようで。そこではまたどんな姿を見せてくれるのかと、楽しみになってきますね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:37| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月23日

薬屋のひとりごと

薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)
薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)

薬屋のひとりごと | ヒーロー文庫

小説発売当時はスルーしてた記憶があるんですが、マンガ版の発売で気になってきて、二種類くらいあるのの両方とも試し読みをしてみたものの、どちらも一長一短あってどちらを読みたいとも決めかねて。じゃあいっそのことと、その原作小説を読んでみようとしてみた次第。

そして読んでみると、これがおもしろいこと。

主人公である猫猫の変人ぶりがなんとも愉快であることで。後宮で毒見役を務めさせられることになるんだけど、薬屋の知識を活かして毒を見抜くだけじゃなくて、そのついでに毒の味わいを楽しむという常人離れした所業をしてみせるからおそれいる。小さなころから好奇心のおもむくままにちょっとずつ慣らしてたって、いやいやいや、その発想はおかしいでしょうというところで。毒を摂取しては吐きもどし、自分の体を傷つけては薬を試し、たまに加減をまちがえてはぶっ倒れ……。そりゃ、そんな生活してたら、虐待を疑われますわ。可哀想がられて甘やかされもしますわ。けれどその当人の実態はといえば、毒見役でありながら毒に当たって甘美に顔をとろけさせる、一風変わった少女なのであったという。しかも、十代にしてすでにザルな酒呑みというおまけつき。こいつはいろいろおかしな奴ですよ。

くわえて、薬屋は薬屋でも、花街に店を構えていた薬屋の養女であったこともあり、そちら方面の知識や影響もちらほらあって。上流階級の後宮の女性たちでは思いもよらない観点からその手の知識を伝えてみたりしてる様子はおもしろくあり。どちらかというと女性向けっぽい作風なのであからさまには描かれませんが、そのぶん避けることもなく出てくるネタはなかなかいいものであり。お上品な女官を花街育ちの「冗談」で黙らせるエピソードは、これまたきわどいながらも愉快なネタではあり。

また、埒の明かない女官たちにすごんでみせたり、後宮社会、そのなかでも妃の側付きクラスとしては異分子な出自をいかした立ち回りは自由さを感じさせてくれていいもので。向こうのほうからいろいろ関り合いを持つことになってくる壬氏なんかも、この辺の使い勝手のよさや型破りさを重宝しているのでもあり。まあ彼の場合はそれ以上にお気に入りの節がありますが、当の猫猫のほうがあまりにも鈍感に過ぎるので、玉葉妃ともどもお腹を抱えさせてもらったり。

ひとつひとつの話は掌編程度で、けれど切れ目なく猫猫による後宮での話がつづけられていく形式で。大きな話はまだありませんが、そのぶん一冊で両手に余るほどの話を楽しむことができた感があって、満足感の高い一冊でした。読み進めていくのが楽しみなシリーズになりそうです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:20| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月20日

花弄り 雌蕊の婚姻

花弄り 雌蕊の婚姻 (CROSS NOVELS)
花弄り 雌蕊の婚姻 (CROSS NOVELS)

CROSS NOVELS | クロスノベルス | 詳細情報

オメガと判明して王位継承の道を絶たれ婚姻の道具として後宮に閉じ込められた王子が、豪勢な金髪アルファに見いだされ、奪われた立場に鬱屈を抱える王子としても発情衝動を抱えるオメガとしても救い出される話。

発情した槐の姿がたいへんにいやらしかった。あとで後悔に苛まれるとわかっていても、その場で高ぶった気を発散させたくてしかたがなくなってしまう。王族であるがゆえにプライベートはないに等しく、誰に体を許したかは筒抜けになってしまう環境で、それでも疼く体にほかのことを考える余裕もうすれていやらしく男を誘惑してしまう。たまらない性質の持ち主であった。

けれど本人からしてみればどうにもならない持病のようなものであり、王位継承者候補からはずされた原因でもあるだけに、そんな自身の体質をうとましく思わずにはいられなくて。また、同じ国の者を相手にしていてはその葛藤を思わずにはいられない。だからこそ、他国の出身であり、そんな思考すらも吹き飛ばしてくれるほどに激しい快感に酔わせてくれる特別な相手であるウィロウには惹かれる気持ちを抱いてしまうし、相手のほうからも衝動を鎮める役割としての義務感を超えて槐に寄り添う親愛の情をみせられるとなれば、これこそが理想のお相手なのでしょうと納得させれる。そのうえ発情衝動から逃れられない雌蕊としての奈落から救い出す場面を見せられては、ただただ祝福するばかり。

なにげにオメガバースものを読むのは初めてであり、お約束を理解しきれてないところも多々あるんですが、ともあれ雌蕊の主人公のままならない体質と、それだからこそ生まれる物語はなかなかよいものでありましたということで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:31| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月18日

クリスマスに結ばれた絆

クリスマスに結ばれた絆 (ハーレクイン・イマージュ)
クリスマスに結ばれた絆 (ハーレクイン・イマージュ)

ハーレクイン・イマージュ クリスマスに結ばれた絆|ハーレクインシリーズ

めっちゃいい。めっちゃよかった。

特に序盤の、ヒーローにとってのヒロインの存在のありがたさをこれでもかと感じさせてくれる展開。

突然、自分に息子がいることを知らされて、しかもその子は五歳で、母親にあたるかつて付き合いのあった女性はそれまで彼にそのことを伝えもしなかったのだという。そして、亡くなってしまったその女性の遺言で、親子としての絆をまったく共有できていないその子どもを引き取り養育することが求められるという、身勝手にもほどがある希望を伝えられることになる。子どもが嫌いなわけではない。自分の子どもなら、むしろとことん可愛がってやりたい。けれどその子が生まれてから五年間、母親の女性によって父子の記憶を一切共有されないままにおかれてきた。

こんな仕打ちが許されるのか。怒りで我を忘れそうになる。それと同時に、五歳になって初めて顔を合わせることになる息子とどうすればうまくやっていけるのか。くわえて、これまであちらこちらを転々とする独り身の軍医生活を過ごしてきて、これからもそうするつもりでいたのが、子育てをしながらの生活へと激変を余儀なくされる。どうしていいのかわからない。あふれる感情を。血をわけた息子という存在を。これからの生活を。どうすればいいのかわからない。これから初対面になる息子とうまくやっていくには。何の準備もできていないところから子どもとの暮らしをはじめていくには。なにもかもが唐突すぎて、対する自分はそのどこをとっても頼りなさすぎる。どうしていいかわからない。どうすればいいのかわからない。なにもかもが頼りない。

パニックに陥りそうになるヒーローにその場ですがれる存在はヒロインだけで、けれど彼女にどんな助けを求めていいかもわからないほどに動揺するヒーローの手を取ってくれたのは、気持ちを落ち着かせるべく側で支えてくれたのは、やっぱりヒロインなんですよね。これがどれほどありがたかったか。安心できることに息子のほうからもすぐになつかれることになって、ヒーロー側からしてみれば、新たな人生の連れ合いとして、これほど望ましい人はいなかったでしょう。

けれどそこで立ち塞がるのがヒロインの側の事情であって。それによって悲しみの瞬間を味わったりしながらも、息子に助けられたりしながら最後にはお互いの歩みがひとつになる展開は素晴らしいもので。

この先の彼らの人生がどうなるかはわからないけれど、ひとつでも多くの幸せにあふれてほしいと願わずにはいられない。とてもいい話でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:56| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月09日

クリフトン年代記(3)裁きの鐘は(上)(下)

裁きの鐘は(上): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫) 裁きの鐘は(下): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫)
裁きの鐘は(上): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫) 裁きの鐘は(下): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫)

ジェフリー・アーチャー、戸田裕之/訳 『裁きの鐘は〔上〕―クリフトン年代記 第3部―』 | 新潮社
ジェフリー・アーチャー、戸田裕之/訳 『裁きの鐘は〔下〕―クリフトン年代記 第3部―』 | 新潮社

今回も進行が速い。ハリー・クリフトンの少年時代から大学入学まもなくくらいまでを描いた第一部のように、この第三部もその息子セバスティアン・クリフトンの少年時代から大学入学くらいまでの年代を上下巻の二冊で駆けぬける。

その見どころはいろいろあるにはありましたが、個人的にはやはりバリントン家がらみのあれこれ。バリントン家のろくでなしについては第二部でほとんど幕が引かれ、唯一引き延ばされた案件(邦題はこれについてでしょう)に関しても今回の冒頭ですんなり、とはいえないまでも決が下されて。これにてあの忌まわしい記憶ともども別れを告げられる……かと思っていたんですけど、まだ未解決の事案があったじゃないかと思い出させられる展開。そうですよ。あのろくでなし、最後の最後に愛人との間に子どもなんて残していきやがりましたね。しかもその娘を残して実の両親はどちらも死んでしまっているから本当にどうしようもない。残された不義の子がどうなろうが、クリフトン一家にもバリントン家にも関係ないといえば関係ないんだけれど、それでも彼女を引き取るのがよいと思われる事情が持ち上がるのは一族の縁がつながるようで不思議の思いにかられるところであり。まあでも、ハリーとエマの夫妻にとっても同じ父から生まれた妹にあたるわけで、その子を引き取って面倒を見るのは父の業の罪滅ぼしのようでもあり、これもひとつの因縁でしょうか。善行も悪行も歴史に連ねられていく名門一族らしさを感じさせる事柄ではありましたね。当時まだ幼く事情も知らないセバスティアンとの相性がどうなるかというところは気がかりではありましたが、出会った当初からびっくりするぐらいの良好な関係を目にできるのは感慨深くもあり。というか、セバスティアン、なかなかやんちゃぶりを発揮するエピソードも多く、どんな男の子になっていくんだろうかと期待半分心配半分なところもありましたが、ことこの女の子、新たな妹となったジェシカに対してであれば妹思いのいいお兄さんぶりを随所で見せてくれるんですよね。妹も兄を慕っているようで良好な仲を見るたびにほほえましい気持ちにさせてくれること。ただ、上述の事情がいまだ明かされないままになっているのは、将来に対する小さいながらも不安のもとではあり。原題はその辺の機微を表した感じでしょうか。

ふりかえってみてもやっぱり、ハリーよりもセバスティアンに焦点が当たることの多かった回でしたね。あと、ジャイルズ・バリントン。議員のどぶ板選挙ぶりはイギリスも大変そうだなあと思わされるところもありましたが、彼も順調にキャリアを歩んでいるようで。どこまでその道がつづいていくのかと楽しみなところでもあり。

今回もまたラストはクリフハンガーではありましたが、前回に比べればまだ心おだやかに次の巻を迎えられそうですね。いやまあ、事によっては事態の深刻さはより洒落にならん感じではあるんですけれども。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:23| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月06日

星系出雲の兵站(1)

星系出雲の兵站 1 (ハヤカワ文庫JA)
星系出雲の兵站 1 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站 1 | 種類,ハヤカワ文庫JA | ハヤカワ・オンライン

異星人と思われる勢力の接近が探知されて、ここに人類の存亡をかけた戦いがはじまるかと思いきや、その前にまずまとまりきれない内部事情を抱えつつも緊急時の体制を構築するところからはじめなけらばならないのであったという。

やりました、内部対立ですよ! 中央と辺境の対立関係、独立志向の高まりと介入必至の情勢において、嫌でも生じる政治的な摩擦に対して真剣に頭を悩ます軍人や政務官なんかのお偉方の姿はいいもので。

これ、なによりも異星人の発見された場所が独立志向の高まっている辺境・壱岐星系だったというのがいちばん厄介なところですよね。中央としては自分たちが主導して統一的な体制のもとで対応したい。けれど、現地からしてみればそれは独自に育んできた社会体制の解体につながりかねないもので。それどころか、これを機会に自治から統合へなんて介入をされた日には、悲願である独立の芽を摘まれてしまうことにもなりかねない。そんな背景から、壱岐星系の人々はこの事態をあくまで自分たちの管轄であると主張するし、中央には後方支援的な立場を期待する。中央の人間としては、トップダウンで統一的な指揮を執るのが効果的だとは思いながらも、そんな現地の情勢を無視できずにいくらかの配慮をし、けれど譲れない部分は自分たちの主張を押し通す。この辺の対立と妥協点の探り合いがですね、いいんですよね。対立はあるんだけど、それらはすべて我欲ではなくて社会をよりよくするための自分たちの職分においてであって。そうであるからこそ、強く出る部分には信念が感じられて。

キャラとしても、まじめ一辺倒の堅物がいるかと思えば、あれこれ気を回す裏に個人的な期待をさしはさむ茶目っ気を感じさせる者がいたり、政治的な配慮に頭を悩ませる者がいるかと思えばそんなこと知るかとばかりに効率一辺倒で物事を進めたがる者もいる。それぞれの行動の裏にはそれぞれの思惑が感じられて、統一的なリーダー不在のままに物事が推移していってるようにも見えるんだけど、人類の総体として見れば対異星人のための一個の体制ができあがってはいくのであり。この辺のあんばいの描写がいいですよね。

さて、そうしてとにもかくにも進展の見られる内部事情とは裏腹に、肝心の敵に関しては、戦闘まで行われたもののまだその正体が見えないのであり。果たしてこの接触がどんな結果をもたらすのか。タイトル見てるとそこまで派手な展開にはならないんだろうかと思えたりもしますが、どうなることやら。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:50| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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