2017年06月19日

狂王の情愛

狂王の情愛 (ソーニャ文庫) -
狂王の情愛 (ソーニャ文庫) -

あ、これすごくいい。故国で冷遇されていた王女さまが人質に出された先の国の王子さまに気に入られて……というフォーマットをなぞりつつも、そこに暗い感情が入りこんで、ぞくぞくするような終盤の展開に仕立てられてて。こういうインパクトのある話、好きです。こんなかわいらしいイラストでほの暗いキャラの話を描いてくるんだから、それはもうギャップがすごいこと。途中までは、新天地で大切な人と出会って幸せになりましためでたしめでたしで終わる流れかと思ってたんですけどね。それには王子さまが過保護すぎたというか。いえ、このくらいの過保護はべつに珍しいものではないように思うので、むしろその過保護を大切に思われてる程度ですんなり受け入れてしまえた王女さまとの組み合わせの相乗効果でしょうか。幸せな箱庭にヒロインを閉じこめようとするヒーローは過保護の範疇だけど、そうとは気づかずに箱庭の中で幸せに過ごせてしまうヒロインはどこかに欠落があってやばいというか。むしろ物静かで聡明な王子さまが狂王になる原因はほとんどこの王女さまだったというか。多くを望んだわけでも、性格が悪かったわけでもないのに、それにもかかわらず王の臣下を恐怖に駆り立てる。これは傾国とかそういう類の女性でしょうか。いやおそろしい。でもいちばんぞくぞくさせられたのは、故国の父や異母姉たちに対する素直な気持ちがもれ出た瞬間ですね。いつも笑っていてほしいと亡き母から言われ、多くを望まないで生きてきた彼女の中に確かに育っていた感情。それを思うとなんともいえない気持ちにさせられること。そして、その気持ちを自覚したうえで、箱庭の愛に幸せを覚える描写がすごくよくてですね。このレーベルらしい愛のかたちだなあなどと、しみじみ思わせてくれる一冊でした。

あと、この流れでいうのもなんですけど、ヒロインが世間知らずなのをいいことにいろいろいやらしいプレイを覚えこませてる展開も、えろ的になかなかぐっとくるものがありましてですね。そういう面でもなかなかいいものでした。(いろいろ台無しになった感)
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2017年06月18日

いじわる令嬢のゆゆしき事情 眠り姫の婚約

いじわる令嬢のゆゆしき事情 眠り姫の婚約 (角川ビーンズ文庫) -
いじわる令嬢のゆゆしき事情 眠り姫の婚約 (角川ビーンズ文庫) -

やばいやばいやばい。今回登場の新キャラ、めちゃくちゃかわいいんですけど。ちょっとこの子、全力でオススメしたい。

本作のヒロインであるイザベラを気に入って声をかけてくるクラウスの妹にして、前回では話の中心となったアシュトリーテのお相手であるエリックの異母妹の王女さま。その名もティアナローゼといいまして。今回の話の中心はこのキャラでありました。

前回のリーテの話のときもイザベラはいろいろふり回されることになりましたが、今回もその苦労人ぶりは相変わらずで。なんといってもこの王女さま、何度も印象が変わる人だったんですよ。前評判を聞くに病弱な深窓のお姫さまであるそうで、実際に会ってみた感じも、前評判にくわえてリーテと同い年の少女らしい元気さとイザベラに対するせいいっぱいの気づかいが感じられるばかり。イラスト的にわりと好みだったんで、これはなかなか期待のキャラですよと思っていたら、その後、実は性格悪いタイプだったと発覚する流れ。

その時点であとはぱらぱら流し読むだけかなーという気分になりかけたんですけど、でもそこからでした。このティアナローゼ、テレーゼ姫の魅力が現れてくるのは。それを引き出してくれたのはほかでもないヒロインのイザベラ。イザベラって、もとは貧乏男爵家の令嬢ですからね。イヤミな上流貴族の流儀には慣れないところがあっても、へこたれない打たれ強さと世話焼きな性格はほかの側付きにはない彼女ならではの持ち味であるわけで。そうして見えてきたテレーゼの素の姿は、他人に弱みを見せまいと強がってみせる、素直じゃないツンデレ少女であったという。なんだって……!? 性悪かと思わせてこのギャップ。その後もどんどんイザベラに気を許していく様子とか、最初は気難しがってた猫がなつくにつれて素直に甘えかかってくるようになる感じで、それはもうかわいいこと。この辺、イザベラって実家でもそうだったけど、お姉さん気質なんですよね。年下の女の子を守ってあげようとする感じ。そのことに喜びを見いだす姿。そしてそんな姿に心の壁が崩れていく展開。いいですよね。

けれど、そうしてイザベラに気を許したところで、フリッツを巡っては妥協しないのがティアナローゼ姫でもありまして。フリッツはイザベラを気にかけている、イザベラもフリッツのことを気にしている。そうはわかっていても、好きになった人にふり向いてもらうためにちょっとした策をめぐらす、貴族たちの上に立つ王女として身につけた女性としての流儀を駆使してフリッツに言い寄る、イザベラの足を引っ張ろうともする。どれだけイザベラに心を許しても、これだけは譲れない。だからこそ、持てるすべてをこの戦いに投入しようとする。そんな思いきった姿もたいへん魅力的でして。ツンデレさと性格の悪くもなれるところをあわせ持ったこの王女さまを、このうえなくかわいいと思ったのでした。

一方のイザベラの立場から見ても、お姫さまの側に勤めてみることで、上流貴族であるフリッツと貧乏令嬢育ちの自分のつり合いというものについて悩んでみたり、前回からの成り行きで気に入られてしまったクラウス殿下からのアプローチに心乱されたりと、とても気になる感じの三角関係ですごくよかったんですよ。全体的にどこをとってもいい雰囲気の話で、それだけにこの巻でシリーズ終幕というのがとても残念に思えてしまうこと。できればもう1,2冊くらい、この雰囲気を味わいたかった……。

とはいえそれは言ってもしかたがないことなので。なにはともあれ今回、ティアナローゼ姫をホントにオススメしたいですということで。ネックとしては、前回、1巻にて中心となったアシュトリーテの扱いが難ありでかわいそうだったかなと思うんですが、その点は今回でしっかりフォローが入ってもいましたので、ぜひぜひこの機に二冊まとめてどうぞということで。
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2017年06月10日

自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。

自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。 (レジーナブックス) -
自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。 (レジーナブックス) -

全編にわたって自称悪役令嬢なヒロインがポンコツでとてもとてもかわいい。表紙絵でもそれがばっちり表れてますよね。清く正しい悪の華(矛盾)を目指すはずが、背伸びしてる子供感が抜けずにほほえましく見守っていたくなる感じの言動になっているのがなんともかわいらしいんですよ。本人の知らないところで「愛でる会」なるものが立ち上げられているのもうなずけるもの。なんというか、悪役を目指しているのでありながら、悪意がまるで感じられない子なんですよね。あるのは素直さと行動力とポンコツさと……その他もろもろあるけど、悪意やそれを他人に伝染させる力なんてものは少しもなくて。だから、父親を悪の道に勧誘してみたり、取り巻きを作って本来の「ヒロイン」をいじめようとしてみたりするんだけど、困った子供のように扱われたり、実はいい人っぽい感じになっていたりと、どこまでもかわいらしい「悪役」さんの域を出ないのがたいへんほほえましくてですね。主役の殿下ならずとも次にはどんな面白いことをしてくれるんだろうかと、しばらく眺めていたくなる子なんですよ。いやもうかわいいかわいい。どうかその純真さを損なわずに成長していただければ……。まああんまり他人に迷惑かかりそうになったら殿下や周りの人たつがストップかけてくれるし、バーティア嬢本人も注意されたら素直に聞き入れちゃうタイプなので、あまり心配はしていなかったり。
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2017年05月30日

後宮錦華伝 予言された花嫁は極彩色の謎をほどく

後宮錦華伝 予言された花嫁は極彩色の謎をほどく (コバルト文庫) -
後宮錦華伝 予言された花嫁は極彩色の謎をほどく (コバルト文庫) -

前回もそうだったけど、やっぱりいい雰囲気だなあ。このシリーズで描かれる主役ふたりの関係は読んでてとても心地いいものがあって好きなんですよね。その理由はどこにあるんだろうと考えてみると、関係性としての、相手に好意を抱いているのになにがしかの背景があってそれを表に出すことができない、もしくは表に出せたとしても相手がそれに応えられない。そんな状況で募る想いに胸の痛みを感じている様子が切なくていい感じ……ということなんだろうかと考えてみたり。

前回は途中で結構はらはらさせられましたが、今回は序章ですでに行き着く先としてのふたりのラブラブなやりとりが描かれており、話の展開としては安心感を持ちながら読み進められました。途中、殿下がわいせつ呼ばわりされてたりして笑ってしまいましたが、まあアレは……ね。描写も狙ったように艶っぽくなってたからドキッとさせられるものがあったので……。ラスト、はたして翠蝶は大丈夫だったのかとか気になったりもしますが、そこは想像に任されているということで。

テーマとして、書・料理ときて今回は織物と刺繍だったそうで。料理についてはあまりピンときませんでしたが、今回のテーマはその辺、書のときのように、そういうのもあるのかーと雑学的に楽しみながら読み進めれました。中華風な世界観はカラーのイラストで見ると衣装がとても色彩豊かでいいですよね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:54| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月29日

蒲公英王朝記(2)囚われの王狼

蒲公英王朝記 巻ノ二 囚われの王狼 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) -
蒲公英王朝記 巻ノ二 囚われの王狼 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) -

鉅鹿の戦いの場面はよかった。項羽の側が、伝わっているものよりはるかに追い詰められて感じられて。だからこそ、それを英雄的な武勇で打開してみせた場面はものすごく胸躍らされるものがあった。

それと、この作品の史伝と比べたときの意外で面白いと思わされる部分はなんといっても女性キャラの果たす役割の多さですね。とあるキャラの女性化まで手を付けてきたのは本当にもうやってくれるとしか。

前巻に比べるとペースは早く、楚漢戦争の終結まで幹線道路に乗ったように走り抜けていった感がありましたが、そうするとシリーズ続編はどういう話になっているのかというのは気になるところ。匈奴とかそっち方面の話にでもなるんでしょうか。そうなると王朝記としては武帝の代までつづけてほしくなるところではありますが……。なにはともあれそちらの翻訳出版も楽しみにしたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:23| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月24日

風呂場女神

風呂場女神 (レジーナ文庫) -
風呂場女神 (レジーナ文庫) -

風呂場の窓が異世界のそこかしこにつながって、そこで困っている人を助けていくうちにわらしべ長者的に転がっていく物語。そんなものもらってどうするんだと思うものもありましたが、あれよあれよと人助けの連鎖がつづいていくのが面白くもあり。また、それをなせるほどに窓から色んな場所に開いていたのが最後にはひとつにつながる展開も、ややできすぎな感はありましたがなるほどと思わせてくれるところもあって。

それを可能にしたのは、窓からつながった先で主人公の泉が出会ったのが、王族の人物が多かったことでしょうか。これから国を継ごうとしている王子、よこしまな一族に狙われる王女、幽閉された王子など、国の大局にかかわる王族やその周辺の人物につながることが多かったのもポイント。個人的にはジェバスのアクア姫がいちばんよかったですね。まだまだ10歳にもならない齢ながら、自身も当事者としてかかわる悲恋譚に心動かされて自らばっさりと身を引く思いきりのよさ。さすがに思いきりがよすぎてなんともったいないことをと思ってもしまいましたが、その竹を割ったようなまっすぐさはとても好感の持てるものだったのですよ。あと、未熟な弟をかばうためにあえて火中の栗を拾いにいったオットコ・ユ族のお姫さまも。そして、そんな各地の重要人物たちを助けていくうちに、女神だの妖術師だのと色んなところに進行形で伝説を残していったっぽい泉の事績がその後どう語られていったのだろうかとか、そんなことを考えてみるのも面白そうな。そんな一冊。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:31| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月18日

おとぎの森の幼女姫

おとぎの森の幼女姫 (ホワイトブックス) -
おとぎの森の幼女姫 (ホワイトブックス) -

これはよかった。タイトルにもあるおとぎの国の話のようで、それでいてライトノベルのテイストもあって。むかしむかしあるところに国を奪われた小さなお姫さまがいて、彼女にはひとりの騎士だけが残されて、けれどそこで一頭のドラゴンに出会って……。そんな感じで展開していく話なんですけど、どこまでも姫のためにと活躍する騎士とドラゴンの組み合わせがよくって。

けれどなによりこの話を楽しませてくれたのは、文章のリズム感。すべてがすべてではないんですが、気づけばテンポよくつづられる節回しに乗るようにしてさくさくと読み進ませてくれること。暗い場面、熱い場面、楽しい場面、その他諸々の場面を描きだす歌うような語り口に、詩人や語り部の物語に耳を傾けるようなひとときを楽しませてもらいました。

話の筋としても、本来は敵対しあう者同士という騎士とドラゴンの間に、姫のためにという理由のみで休戦協定が結ばれて、それが最後には姫のためにと命を預けられる心からの信頼関係になり、姫のためにと戦い抜く姿を見せてくれる、とてもいいお話で。お姫さまがタイトルにもあるように小さな姫で、騎士とドラゴンはまあまあおっさんという感じの年長者なこともあって、子供を守りその幸せのために戦う保護者という感じの雰囲気もいいもので。めでたしめでたしという言葉こそ使われていませんが、そんな言葉も似合うラストまで含めて、とてもいい話でした。

出版社が正直なところ初めて名前を聞いた会社ということもあって、あまり広くは知られていないのではないかという気もしているところ。もっと評価されるべき一冊だと思います。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:04| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月14日

なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編  なんちゃってシンデレラ、はじめました。

なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 なんちゃってシンデレラ、はじめました。 (ビーズログ文庫) -
なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 なんちゃってシンデレラ、はじめました。 (ビーズログ文庫) -

国のためを思う人であるかと思えば消えない恨みを持て余していたり、誰より大事にしている人がいながらそれと同時に捨て鉢な気持ちがのぞけてきたり。愛憎が複雑にからみあい不可分なまでに一体化して育ちあがった感情の様相。矛盾した感情とそれを取り巻く魍魎たちによる宮廷事情が明らかになるにつれてうなじの毛が逆立つ思いがする王宮陰謀編の解決巻。これもまた人の物語ですね。完全に読んだ記憶がないので、全編未読分だったと思います。人の気持ちが、行動が、周りに影響を及ぼしていく流れというのは、シリーズのヒロインであるアルティリエを中心とした明るい希望を抱かせてくれるものをこそ、これまで楽しんできたわけですけど、今回明らかになった黒幕においてはその逆パターン。恨みや憎しみの感情が、周りに少しずつ暗い影響を与え、時がたつにつれて広い範囲に影をもたらすことになったということで。いわれてみれば前者もあれば後者もあるよなあというところなんですけど、黒幕がわかったところで広く深く根付いた悪意は取り除くのにどれほどの時間がかかるのかと、一件落着とばかりにすっきりとはしない気持ちにさせてくれる結末でありました。うん。こういうのもありですね。

ただ……長いよ! 真相説明編長いよ! 一冊ほとんどまるまるそれで終わっちゃったじゃないですかあ。ナディル殿下の出番が……アルティリエとのやりとりの雰囲気がいい感じだったのに……。いや、ちゃんとありましたけど。今回もなかったわけではないんですけど。侍女がそばにいるのがデフォルトな身分ゆえに彼女らの見守る中でラブラブなやりとりをするシチュエーションに心中もだえまくってるアルティリエさんはかわいかったけど。夫婦だから恥ずかしくないもんとか言い聞かせてるのとかすごくよかったけど。でも、やっぱりイチャイチャ分が足りない……と思ってしまうんですよ。こればかりはもう、次からの新章に期待するほかありませんね。

とはいえそんな感じで、たぶん2巻からつづけて読んだほうが楽しめたかなーとは思いますが、逆に考えて、王宮陰謀編完結巻まで発売になったいまこそご新規さんもどうぞどうぞと勧めてみるのはどうかと考えてみたり。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:20| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月11日

左遷も悪くない(2)

左遷も悪くない〈2〉 (アルファライト文庫) -
左遷も悪くない〈2〉 (アルファライト文庫) -

ひとり身の時は何気なく過ごしていた季節も、結婚したことで特別な意味を持つようになってくる。いいですね、こういうの。結婚したからこそ、意味の見いだせなかったできごとに特別な意味が見えてくる。これもそれぞれの背景を持つ者同士がひとつ屋根の下で暮らすからこそでしょうね。特にウリセスのジャンナへの接し方を見ていると、真っ向からの互いに譲らない言葉のぶつけあいだったろうやりとりに、相手の気持ちへの共感が少しずつ見えてくるようになっていて。それをもたらしたのが結婚したヴァレーリアと過ごしてきた日々の記憶だとわかる描写が素晴らしくて。それに限らず、ウリセスのジャンナ見る視線とレーアを見る視線のかげに、嫁に対する信頼がうかがえるのもとてもいい夫婦の雰囲気ではあります。わりとひとつの節でひとつの話としてオチまでついてることも多く、ラストの一文から伝わってくる熱い雰囲気にやられることもしばしば。

とはいえ、荒くれ者たちとともに荒事に対処する軍人と、同じく軍人の娘とはいえ荒事とは縁もなく大切に育てられてきた女性とでは、担いきれる互いの苦難の幅にも限度があるように思えるものでして。今回、ウリセスの元部下から語られた左遷の顛末を聞いていると、ウリセス同様、レーアには危機に際してただ逃げてほしいと思えてくるところもあり。けれど、そのときがやってきた場合にどれだけ役に立てるかわからないとしても、夫婦になったからには訪れうる危険を知りたいと願い、ともに乗り越えていかせてほしいと願う彼女の気持ちは、なによりも心を打つのです。それほどに、互いの視点で描かれる、レーアを大切に思うウリセスの心と、ウリセスを愛するレーアの心は、とてもいいものなのです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 13:58| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月09日

ソードアート・オンライン プログレッシブ(1)

ソードアート・オンライン プログレッシブ1 (電撃文庫) -
ソードアート・オンライン プログレッシブ1 (電撃文庫) -

SAOだなあ。まさにあのアインクラッド編の雰囲気。ゲームの世界に閉じ込められて、その世界の中で得られるものは食事の味や傷の痛みも含めてほとんどのものがまがい物の情報でしかないんだけど、それでもそれらの虚構のゲームの世界を通じてわきあがる感情、人と人との間に築かれる関係性はまぎれもない本物なんだという、くるおしいまでの感覚が痛いほどに伝わってくるキャラクターの姿。これがSAOの大好きなところなんですよ。

今回、それをいちばん感じさせてくれたのはアスナ。それまでゲームとは縁のない生活を送ってきて、現実世界での競争の日々がすべてだったのが、たまたま手を出したゲーム・SAOによって取り返しがつかないほどに人生をくるわされてしまうことになって。けれど、悲劇的な境遇に嘆くことをやめた彼女がデスゲームと化したSAOの世界と対峙することを決めたとき、彼女はどこまでもまっすぐな信念で突き進んでいった。クリアか死かとでもいうような悲壮な決意は、いくらか理不尽な状況への憤りも含まれていただろうとはいえ、命を懸けてでもこの現実に立ち向かい、打ち倒してやると言わんばかりの気迫が伝わってきて。死んでしまったらそれまででも、それまでにもうこれ以上逃げていたくないとでもいうかのような、今この時を胸を張って生き抜くんだと叫ぶかのような。その姿に、のちの時間軸でのがむしゃらな活躍が思い出されて、アスナは最初からこんなまっすぐなキャラだったんだなあと感慨深く思ったり。

とはいえ、何物をも貫き通してしまいそうなほどに鋭い信念はその一方でひどくもろいものでもあって。キリトと交流する中で適度に肩の力が抜けた感があるのは、多少残念な気持ちがありながらも、彼の面目躍如と感じる部分もあり。彼、アリシゼーション編のほうでもそうですけど、デスゲームと化してはいても、ゲームであるならシステムの利点も短所も活かしたプレイングしますからね。命がかかっていてもその辺の考えは忘れないというか、命がかかっているからこそその勘所をつかんでいるところがあって。気を抜くところ、気を張るところをこの時点ですでに無意識に使いわけれてる印象。それもあってか、あとがきにもあるように、本編のアインクラッド編との矛盾もあるとかないとかですけれど、正直1巻の話はあらすじ程度にしか覚えてないので、気にせず楽しめてるところであり。たしかに、1巻時点ではあんまりふたりの仲もよくなかったような気がしますが、途中での決別はありえることなんじゃないかとも思うので。アスナさん、この巻の当初がそうであったように、根はかなり潔癖な性格のようですから。“悪のビーター”であるところのキリトとは本来的に相性がよくないはずなので。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:09| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする