2018年09月28日

クリフトン年代記(2)死もまた我等なり(上)(下)

死もまた我等なり(上): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫) 死もまた我等なり(下): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)
死もまた我等なり(上): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)
死もまた我等なり(下): クリフトン年代記 第2部 (新潮文庫)

https://www.shinchosha.co.jp/book/216135/
https://www.shinchosha.co.jp/book/216136/

あいかわらず話の進行が早い。アメリカの対独参戦前からはじまって、もう終戦後にまでたどり着いてしまった。死別した戦友への気持ち、ぶん殴りたくなるようないやな奴らのその後など、掘り下げようと思えばそこここに見いだせる余地をあれもこれもうっちゃりつつ、メインキャラクターである視点人物たちの物語に焦点をしぼって進行していく。そしてそれが次々と移り変わっていく物語のテンポのよさを生み出している。

命をかけてでも祖国イギリスを守らんとする意志。思いがけなくも出会った戦友との絆。その出会いを通して過ごされる稀有な戦場体験。そして、それによって世界の見える角度が広がったような新鮮な変化。ハリー・クリフトンとジャイルズ・バリントンのふたりが経験した戦争は、いかにも忘れがたい青春の一ページとして、鮮烈な記憶と華々しい活躍に彩られた様子が印象的で。のちの生涯に多大な影響を及ぼす日々といった感じでしたよね。特にジャイルズは、大学前の問題行動のいくつかを思えばすっかり好青年になって。見違えるような立派な変貌ぶり。それだけに、戦後に起きたいざこざが気の毒ではありますが、それはともかく。

一方で、女性のキャラクターとしてはエマ・バリントンが印象的で。前回のラストで、いろいろもつれにもつれた状況からどうなるのかと思いのほか、泥沼感を感じさせることもなくするすると自らの道を切り開いてしまったから驚き。まあするするいったとはいっても、それは手に入れたい幸せの形をつかみとるためならどんな望みのうすい冒険もいとわないと感じさせるほどの想いと決意の末にようやくたどり着いた先の再会でしたからね。あれはもうひとつの冒険の旅といってさしつかえなかったでしょう。それにしても、思わされるのは当時の英米間の上流階級のつながりでしょうか。大西洋を渡った先でも頼れる当てがあるというのは、強い。アメリカの独立からはすでに100年以上もたってますが、そういうこともあったんだろうかと、ちょっと興味深くもなってくる。そしてアメリカの親戚がやや特殊な王党派っぽいのが地味に面白くもあり。

そしてこの第二部も、ラストはクリフハンガー。どうなるんだろう、どうなるんだろうと思っていたところに、えー、そのラストなのー!?と衝撃を受けつつ、でも俄然つづきが気になっちゃうのがこのシリーズであり。いやー、これホントどうなっちゃうんでしょ? 第一部の時点ですでに懸案の対象とされていたことではありましたけど。ハリーおよびジャイルズが戦場で名声をあげたからこそ、それが世間的にもクローズアップされることになってしまった形であり、何が幸運・不運の基になるかはわからないものとうならされる話運びではあります。この辺の安心させてくれない感じはさすがというか。しかも、当人同士では希望は一致しているにもかかわらず、すでに事態は彼らの手を離れてしまっているのがなんとももどかしい。

しかし本当にどうなってしまうのか? つづきが気になりすぎるので、早く第三部も読みたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:01| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月26日

Frogkisser!


作者Twitter@garthnix

すごくおもしろかった。タイトルがコメディチックな印象から誇りに満ちあふれたものへと意味を変えた場面のこみあげてくるような熱い感情といったら。そして、途中からあれもこれもと解決すべき出来事が重なって、これ一冊で決着をつけられるのかと不安なほどに膨れ上がった課題が、終盤で一気に解消される爽快感といったら。ミソピーイク賞児童文学部門受賞の名に違わぬおもしろさでした。

おおざっぱなあらすじとしては、とある小国の王女Anyaが、悪い魔法使いである継父によってカエルに変えられてしまった姉の恋人を元の姿に戻すため、魔法薬の材料を求めて冒険の旅を行うことになる、といったもの。そこに、姉妹を害して王位簒奪を目論む継父の権力欲とか、それぞれの経緯で姿を変えられてしまったキャラクターたちが加わったり、他にもいろいろ、どんどん旅の目的が膨れ上がっていく感じ。ちょっとひと息では説明しきれそうにないお話の絡まりよう。それだけ、いろんなキャラクターの物語があったともいえますか。

この作品で目を引かれるのは、まずそのタイトルではないかと思います。感嘆符付きで示されるその言葉は、ざっくり「カエルにキスする者」という感じの意味合いになるでしょうか。それだけでウゲッという印象を起こさせるタイトルで、さらにここでは感嘆符もついていることからいよいよもって、おぞましいことをする者もいたものだ、ありえない、ひくわーといった、否定的なニュアンスが含まれているように感じられるところで(本当にそんな意味がこめられてるのかはわかりませんが)。

とはいえ、悪い魔法使いに姿を変えられた王子さまが、愛する王女さまからキスされることで元の姿に戻るという筋書きは、童話なんかではそれに類するものをちらほらと見かけるタイプの話ではないでしょうか。その他にも、白雪姫等、多くの人が知っているだろうおとぎ話を下敷きにしたパロディーが散りばめられているのがこの話であり。

そして、そんないかにもおとぎ話的な出だしでありながら、いきなりそのおとぎ話を逆手にとって、王子の恋人ではなく、その妹であるAnyaが王子を元の姿に戻すべく奮闘することになるのがこの話であり。いきなりどういうことなの……という感じでしたが、そんな頼み事をしちゃうのがAnyaの姉王女なのですよね。そして、なんで自分がと不満に思うAnyaに有無を言わさず承知させてしまったのが、姉王女から発された「sister promise」という言葉。え、なんですか、その言葉? なんでAnyaさんそれで不承不承ながらも好きでもない王子さま(からカエルになったもの)にキスすること引き受けちゃえるんですか? 英語圏では何か特別な意味合いとかあったりするんですか? そういう魔法の言葉かなにかなんですか? 百合なんですか? とても、気になるんですけど! 詳しい人の解説求む。

それはそれとして、旅に出たはいいものの、お供といえば犬一匹。王家に代々仕える忠犬たちのひとりで、ひとと言葉を交わすこともできるとはいえ、性格は成長期の犬のそれであって。基本的に好奇心優先で落ち着きがない。あとから加わる旅の仲間も、おどおどしたイモリ(元は盗賊志望の少年)、元のカワウソの習性が抜けきらない女中と、なんとも頼りにならない者たちばかり。こんな一行を旅慣れない王女が率いてうまくいくんだろうかと不安を募らせてくれるところで。実際、うまくいかないことだらけで、Anyaとしても何度もくじけそうになりながら、それでも姉のためにと歯をくいしばって前に進む姿はいかにも根性あふれてて、そっと背中を押してあげたくなる健気さでしたね。

正直なところ、道中の役に立った度合いでいけば、旅のお供たちよりも途中で立ち寄った先の大人たちのほうがはるかに助けになったのはまちがいないでしょう。なにせ、全員まだ子どもの旅の一行でしたから。でも、そのお供のすべてに、Anyaの助けとなる見せ場の場面があったんですよね。なにより、最後の場面で決定的な役割を果たしたのは、その中のひとりでした。適材適所。大人たちと比べたら、頼りにならないのはしかたがない。けれど、子どもでも役に立てるときはある。そんなことを伝えてくれるような、そうでもないような、なかなか愉快な旅の一行ではありました。なにより、あの対ボス特効無敵状態は読んでて笑っちゃいそうになるくらいのおもしろさではありました。

あらためてふりかえってみると、やっぱりいちばんの大筋は、王城で臣下たちにかしずかれて育った子どもであった王女Anyaの冒険と成長の物語ということになるのでしょうね。誉れあるFlogkisserの二つ名を頂いた彼女が、見事なまでの転変を見せたクライマックスの場面のその先で、どんな人生を歩むことになるんだろうかと、最後には感慨とともに思わせてくれるお話でした。今回の苦難を経た彼女なら、ちょっとやそっとのことでは大丈夫だろうとは思えるものの、まだまだ試練が待ち受けていそうだと思えるところでもあり。話自体は一冊できっちり完結してますが、続編が出るならそれもぜひ読みたい気にもさせられる。そんなお話でした。

とにもかくにも、おもしろい一冊でした。前年受賞の『The Inquisitor's Tale 』ともども、邦訳されないかなーと期待をしてみたり。
ラベル:Garth Nix
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:05| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月09日

キングキラー・クロニクル(1)風の名前(5)

風の名前 5 (ハヤカワ文庫FT)
風の名前 5 (ハヤカワ文庫FT)

http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013600/

巨大なドラゴンのごとき生物ドラッカスを退治せざるをえないまでにいたる流れとその狂乱のような死闘は、まさに物語にされるにふさわしい壮絶なものでした。前回の話があってそこにつながる流れも、ひとつづきの話としておもしろかったです。

ただ、これは完全にこちらが悪いんだけど、前の巻を読んでから間が空きすぎてしまったせいで、デナと出会えた高揚のまま途方もない闘いに挑むことになる、物語としての盛り上がりの波にふたたび乗っかるのに難儀したというか。もとは一冊だったものを五分冊ってやっぱり分けすぎだと思うんですよ。すくなくとも、いまの自分の読み方とは相性が悪い。

それはそれとして、クォートの物語としてはこれでまだ一部。これほどのことをなしとげておきながら、まだ序幕であるのがおそろしいところであり、そして次なる物語に期待を膨らまされるところであり。はたして、ドラッカスとの闘いを経てさらに開花した才能が示す次なる物語とは……。楽しみですよね。

後年に本人が過去を物語るという体裁でありながら、あたかも物語の時系列に没入しているかのように読み入らせる巧妙な語り口。次も楽しませてもらいたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:36| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月07日

ハイランドの復讐

ハイランドの復讐 (マグノリアロマンス)
ハイランドの復讐 (マグノリアロマンス)

http://oakla.com/syoseki/ハイランドの復讐

復讐劇だー!

スコットランド北西部の高地地帯ハイランド。いまだ王の支配下に組み込まれず、いくつもの氏族たちによって抗争が繰り広げられるその地。

少年のころ、配下であった氏族の裏切りによって領土を奪われ、族長であった父も母も殺され、追っ手から逃れてあらゆる氏族の人々と離ればなれになり、生き残った戦士の一人とふたりきりで生きることを余儀なくされて育った男ニール。それから十年以上が経過し、名実ともに歴戦の戦士となった彼が、復讐の計画を胸に秘め、かつての居城に住まう仇の前に現れる。

もうこれだけでワクワクしますよね。生まれ持った権利の奪還、血のあがない。奪われたときの記憶が強烈に刻みつけられていればいるほどに陰惨さを増すであろう断罪の場面。復讐劇の華ですよね。この話でも、ニールついに仇の目の前で名乗りをあげた場面での高揚感はたまらないものがありました。自分こそがこの城の真の主なのだと、おまえたちの過ちに対してついに審判のときが訪れたのだと、ニールひとりだけによってでなく、部族の生き残りたちが結集して高らかに復讐のときいたれりと宣言がなされる。しびれるような演出でしたね。

とはいえ、この話のヒロインは仇の娘であって、作品ジャンル的にはロマンス小説であることもあって、復讐劇としてのクライマックスはそこまでというか、この話自体のいちばんの終着点は、そこにいたるまでにも紆余曲折あった、主役ふたりの関係性の落ち着き先にあったのですけど。

しかし、終盤のどうにもおさまりの悪い結末を読んでると、これ続きがあるんじゃないかと思えてくるし、調べてみると実際、本国ではそれぞれふたりの弟が主役になった話と合わせて三部作になってるようで。いまのところ邦訳はされてないようですけど、予定はあったりしないのかなと気になるところでもあり。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:38| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月04日

呪いの王女の幸せな結婚

呪いの王女の幸せな結婚 (ソーニャ文庫)
呪いの王女の幸せな結婚 (ソーニャ文庫)

http://www.sonyabunko.com/sonya.html?isbn=9784781696287

あ、この王子さま、すっごくいいキャラしてる。

幼いころから身の回りで不幸が重なって、自分のことを呪いの王女だと思っているヒロイン・リューディアが、幸運の王子と称されるお相手のアンブロシウスのもとに嫁いで、自分のことを卑下しがちだった彼女が幸せを得ていく話……だと思ってたんですけどね。終盤にさしかかるまでは。

それまでは、わりあいオーソドックスなティーンズラブ小説っぽい流れで。不幸が起こることにばかりおびえていたリューディアが、無邪気な明るさで誰からも愛されるアンブロシウスと接しているうちに、彼となら、彼とだからこそ、自分は呪いの王女としてではなく幸せな結婚生活を送ることができるのだと思うにいたる話。不安に駆られるリューディアに対してアンブロシウスが、自分は絶対に不幸にならない、リューディアこそが自分の望む女性なのだと何度も力強く伝えることで、ようやく互いに向き合い、気持ちを重ねあっていく話。ただ陽気なだけではないアンブロシウスの一面に、リューディアともども胸を打たれるような話ではありました。

それはそれでじゅうぶんに楽しめてたんですけど、ただ一点、どうにも気になることがありました。これ、ソーニャ文庫ですよね、と。あまり期待しすぎるのは禁物かなとも思うのですけど、でもやっぱりちょっと話の雰囲気として明るすぎないかなと思うところがあって。

そんなことを考えていたら、終盤になって本当にやってくれました。ラスト付近でその印象をぐるっと転換させてくれる。ハッピーエンドの雰囲気が崩れることはまったくなくて、けれどそこにゾクゾクさせられるような陰が浮かび上がる。それによってふたりの関係がさらに印象的に映るようになる。アンブロシウスというキャラのことがますます好きになってくる。そして、それらの背景をいっさい知らされないまま幸せに浸るヒロインがただただいとおしく思えてくる。表の物語と裏の物語で、ふたつの楽しみを味わったような感覚。いやあ、いいですよね、こういうの。満足。満足。とても面白かったです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:11| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月02日

王位と花嫁

王位と花嫁 (講談社X文庫)
王位と花嫁 (講談社X文庫)

http://wh.kodansha.co.jp/new/detail_201802_03.html

めちゃくちゃ面白かった。話の筋がとにかく好みで、最後まですごくいい雰囲気で。とにかく大好きです。

この話、悪者がひとりもいないんですよね。ヒロインは、王太子から婚約破棄を告げられても相手を恨むどころか真に愛する人との幸せを願って背中を押せるいじらしい公爵令嬢で。その王太子にしたところで、世間知らずなところはあるもののそれを指摘されればすぐに改める素直さはあるし、なによりも一度心に決めたことに対してはその想いのほどがよく伝わってくるひたむきさがあって憎めない。その王太子の想い人も、身分目当てに近寄ったわけではなく、職務上何度も顔を合わせているうちに互いに惹かれあってしまったというものだから、これも素直に祝福することのできるカップルであって。

けれど、根はいい人たちが婚約破棄ものの筋書きに沿って行動したらそれだけでどこにも角が立たないかというとそんなことはなくて。ヒロインのロザリンドからしてみれば、彼らの幸せを願うからこそ見過ごせない問題があるのに気づかないではおられない。彼らの幸せと引き換えの関係になるからこそ、自分のその後の境遇についてはおいそれと言い出せない。根はいい人だからこそ、自分のうちだけで抱え込もうとしてしまう。

いい人すぎて見てられなくなってしまうほどのお人好しぶりで。だからこそ報われてほしいと思わずにはいられない。それがこの話のヒロインであるロザリンドというキャラで。

で、この話のヒロインが彼女であるというならば、当然にそんな彼女の心をすくいとってくれるお相手が現れるものなのであって。

謎の騎士として現れるエクウスという男がその人物なのですけど、それまではいい人たちで固められてたロザリンドの周囲のキャラクターと比べてみれば、初めのうちの印象は悪いこと悪いこと。いちいち失礼な物言いをしてくるし、弱みを握れば脅迫まがいのことまでしてのけて、苦い気持ちを味わわされる。印象が悪すぎて逆に忘れられないキャラなんですよね。

けれど、その不躾さはいい人にすぎるロザリンドの心の奥底に押し込められた不満を代弁してくれるものでもあり、また不本意ながらも行動を共にしていれば強引さのうちにひとり奮闘しようとするロザリンドの努力を認め背中を押してくれる頼もしさもあるのがわかってきて。ロザリンドと似たタイプのキャラではない。でも、今のロザリンドに必要なのはこういう人なんだろうなあと思わされるキャラであって。ひとり強がるキャラに誰言うとでもなくそっと救いの手が差し伸ばされる。この物語の筋が、とてもあたたかく、優しさに満ちて感じられるんですよね。

そして、ふたりがだんだん惹かれあって、すれ違いの末のクライマックス。これが、もう、とんでもなく巧妙で。王太子とそのお相手と、ロザリンドとエクウスと。皆が皆、心奪われる人を見つけて、ここまでのところで、ロザリンドと王太子の婚約破棄計画から始まる物語は幸せな着地点を見出だせたかにみえる。でも、実際のところそれだけではまだ足りなくて。王太子は王太子で、ロザリンドは公爵令嬢で、ただ好きあった相手がいればそのまま結婚にまで至れるかというと、そんなことはない。王族、大貴族の結婚にはしがらみがつきもので。最終手段としての駆け落ちは当初から想定されていたものの、そのエンディングは将来の不安と隣り合わせになるのは避けられなくて。それどころか、そこまでには至らずとも、なまじ身分の高い生まれであるがゆえに、付随するあれこれのために愛が形を歪めてしまいかねないものもあって。

ではどうするか。というところでの、二組の結婚を正式に決めたあのクライマックスの(だと個人的に思う)場面だと思うんですよ。四人の将来に寸分の貶めもなく、その後を思えば祝福以外の念を送りようもなく、そしてこじれかけた愛をまっすぐに伝えて一点の曇りもなく。すべての問題を解決し、すべての不安を祝意に変える。読んでいて心にしみいり、心をふるわせる、それは求婚の告白でした。

めちゃくちゃよかったです。素晴らしい話でした。オススメ。

いちおうピンクの背表紙ですし、レーベル内での扱いはティーンズラブ作品ということなんでしょうけど、そういう場面は一度だけですし、ページ数的な場所的にもおまけ的というか。むしろ、そういう場面よりも、イラストでのヒロインのお胸の大きさに、そういえばそういうアピールも地味に大事なタイプの小説作品なんだっけと思うところだったり。なので、濃度のうすいところからのTL作品への挑戦を考えている方にはぜひにどうかという次第。そうでない人にも、もちろんオススメの作品ではあります。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:08| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

恋の使者は一夜で宿り

恋の使者は一夜で宿り (ハーレクイン・ディザイア)
恋の使者は一夜で宿り (ハーレクイン・ディザイア)

https://www.harlequin.co.jp/hq/books/detail.php?product_id=11448

ビジネス面で叶えたい目標があって、プライベートの計画なんてまったく考えてもいなくて、けれどたった一夜の関係で子どもを身ごもってしまって。目標を叶えるまでは寄り道なんてしてる暇はないのに……。そんな焦りから、心配するお相手もつっぱねようとするんだけど、突然のつわりに襲われて、もう自分ひとりだけの体ではなくなってしまったんだと悟る。女性的な感覚の描写かとは思うんですけど、強がろうとする心に有無を言わさず現実をつきつけてくる感じ、変化を余儀なくされることをこれ以上なく鮮明に思い知らされる感じがとても鮮烈で、とても印象的でした。そうだよなあ。約10か月、自分以外の命を体のなかに抱えることになるんだから。それは誰かにことさら言われるまでもなく意識せざるをえないことであって。

けれど、母親としての女性とお腹の中の赤ちゃんとは当然のことながら別々の存在であって。男が赤ちゃんの心配をすることはその子の母親である女性を大切に思っていることとは必ずしもイコールではない。そこのところで生じるすれ違いは、これもまた男女の意識の違いの表れでしょうか。

ビジネスパーソンであり、母であり、妻であり……。多様な顔を持ちながら、持たされながら、けれどそれらはすべてひとりの人なのであり。なかなかにおもしろい(といっていいのか)描写の話でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:39| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月29日

賭博師は祈らない(2)

賭博師は祈らない(2) (電撃文庫)
賭博師は祈らない(2) (電撃文庫)

賭博師は祈らない(2) | 賭博師は祈らない | 書籍情報 | 電撃文庫公式サイト

ロンドンの外に広がる地方のイギリスの世界。それはロンドンと比べれば伝統的なイギリス社会が広がる世界。賭博師や格闘家といった身分の低い人たちによって物語が展開された前回とはうってかわって、今回の話の中心になるのは地主や法律家といった、より高い階層に位置する人たち。2巻目にしてイギリス階級社会の一端が登場してきた形でしょうか。とはいえ今回のジェントリ階級も地方の名望家クラスではあるものの貴族には含まれないようで、いったいどれだけの階層があるんだと思わされるんですけど。その辺、巻数が進めばもっと出てきたりするんでしょうか。地味に期待をしてみたり。

ジェントリと並んであとがきにて説明が割愛されてた相続事情については、たしかおおざっぱには直系長男がすべての財産を相続するものかと思うんですけど、割愛されるからにはこまごまとした事情もあったんだろうか。これについても、後々の巻でその辺の説明が入ることに期待したい。期待していいんだろうか?

それはそれとして今回の話、エディスを助けることは、ラザルスとしてはかなり己の信念を曲げることだったと思うのだけど、それを為さしめたのは、なによりも彼女と親しくなったリーラによる後押しなのかなあと思うと、なかなかに遠回しな愛情の表れだなあとにやにやしく思ったり。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:08| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月22日

公爵様は女がお嫌い!

公爵さまは女がお嫌い! (フェアリーキス ピュア)
公爵さまは女がお嫌い! (フェアリーキス ピュア)

公爵さまは女がお嫌い! | 株式会社Jパブリッシング

フェアリーキスってR15区分もあったのねと読後に知った一冊。

ティアナの勘違いが根強すぎて笑う。ヴァレッドさん……なんというか、その……気長に愛をささやいてやってください。でも、あなたもあなたで自分の気持ちと素直に向き合ってくださいというか。まあ、変わり者同士お似合いな夫婦ではある……のかなあ?(あまり自信はない)

あと、出番はほとんどなかったけど、ヒロインの妹のローゼが実は駄々っ子みたいなお姉ちゃんっ子だったというのは地味にポイント。でもだからって姉の婚約者を寝取るまでするかというのは……。まあなんにせよ、それもあって最後の祝福ムードは和やかかつにぎやかでいい感じではありました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:39| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月14日

秘密の姫君はじゃじゃ馬につき

秘密の姫君はじゃじゃ馬につき (ビーズログ文庫)
秘密の姫君はじゃじゃ馬につき (ビーズログ文庫)

http://bslogbunko.com/si_jyajya/index.html
(↑ビーズログ文庫のシリーズ紹介ページ)

イラストで興味を惹かれて購入。読んでみると、キャラが魅力的でおもしろい話でもありました。

まず主人公の王女さま・オフィーリア。この子がいいキャラしてまして。冒頭から母女王と姉王女の反対を押し切って騎士団入団に渡りをつける利かん子ぶりを示してくれたり、そのうえで面識のある総隊長に野郎ばかりの団に美人なオフィーリアを放りこむことを心配されても美人という認識は否定しなかったり、総隊長も認める剣の腕から「王国最強の弟子」なんてうそぶいてみたりと、不遜なくらいの自信家ぶりを見せつけてくれるんですよ。ひとつひとつとればいやみっぽくぽあるんだけど、裏打ちするものもあるだけにぐうの音も出ない。こういうキャラ、嫌いじゃないですね。

けれど、配属された騎士団の隊長の前では、容姿は隊長の性格上、嫌悪の対象でしかないし、剣の腕も要修練といったほどでしかないと早々に思い知らされることになる。自信家が挫折に直面したらどうなるかというのは不安半分期待半分になるところはあるんですけど、オフィーリアの場合、そこで現れてくるのが別の持ち味である跳ねっ返りな性格なのであったというのが、おっと思わせてくれるところでありまして。落ちこむどころか、見返してやる、絶対に認めさせてやると、根性のあるところを見せてくれるから見直すところがあるキャラでして。

彼女の直属の上司になった隊長のアレクシオに関しても、そんなオフィーリアのがんばりを頭ごなしに否定してきたりと、当初の印象としてはそこまでよくなかったりもするんですが、よくよく話を聞いているうちに、根性頼りになってるオフィーリアのことをちゃんと見抜いていたりして、そのあたりしっかり目配りしている人なんだとわかるところがあり、それならと従う気持ちにさせてくれるのが憎めない人であって。それどころか、別の任務に際しては、経験の浅いオフィーリアやその他の部下に経験を積ませるべく現場で彼女たちに第一陣を任せ、取りこぼしは自分がなんとかしてみせるなんていう、頼もしすぎる隊長ぶりを見せてくれるのがむしろ尊敬レベルな人でもあるのがすごく好感度高いキャラだったんですよ。過労でぶっ倒れそうなタイプでもあるんだけど。

そして個人的な注目キャラとしてはもう一人。オフィーリアの姉である世継ぎの王女・セラフィーネ。次期女王としての期待に応える有能さを謳われる人であり、またオフィーリアが理想に向けて一直線なキャラだとすれば、姉王女は現実を見据えた決断ができる人であり、いかにも政治家タイプといった感じのキャラ。そんな清濁併せのむタイプで、自他ともに認める美人のオフィーリアが崇拝するレベルの美貌の持ち主で、それでいて親しい人にはしれっと毒を吐く性格でという、まとめると、美貌に才知に毒のある言動にと王女さまキャラとしての魅力をこれでもかと詰め込んだキャラなのでありました。

そんな非の打ち所がないくらいの完璧さを見せる姉王女に対して、オフィーリアは病弱な王女として育てられたため、国民のために貢献できることはあまりないままだった。それでも、家族のために、ひいては姉王女の助けになるために何かをしたいと思う気持ちは本物で。だからこそ、どれだけ反対されても騎士団に入ろうとするし、そこで皆に認めてもらおうとがんばるしと、わかってみれば純粋なまでにまっすぐな気持ちで走り回る。それがオフィーリアというキャラの魅力なんですね。だから、それがわかれば皆彼女に好感をもつし、姉王女も気にかけてついついかまいたくなるんですよね(この姉妹、いいですね……!)。うん、とてもいいキャラクターたちでした。

そんな感じで、イラストから入った感じですけど、気づけばもっとこのキャラクターたちの話を読んでみたいという気持ちにさせられている一冊。あとがきで作者さんも書いているように、表現力にはまだ向上の余地ありかと思う部分もありましたが、それでもぜひ続編を読んでみたいと思わせてくれる話でした。興味をもたれた方はぜひどうぞ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:42| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする