2018年12月23日

薬屋のひとりごと

薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)
薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)

薬屋のひとりごと | ヒーロー文庫

小説発売当時はスルーしてた記憶があるんですが、マンガ版の発売で気になってきて、二種類くらいあるのの両方とも試し読みをしてみたものの、どちらも一長一短あってどちらを読みたいとも決めかねて。じゃあいっそのことと、その原作小説を読んでみようとしてみた次第。

そして読んでみると、これがおもしろいこと。

主人公である猫猫の変人ぶりがなんとも愉快であることで。後宮で毒見役を務めさせられることになるんだけど、薬屋の知識を活かして毒を見抜くだけじゃなくて、そのついでに毒の味わいを楽しむという常人離れした所業をしてみせるからおそれいる。小さなころから好奇心のおもむくままにちょっとずつ慣らしてたって、いやいやいや、その発想はおかしいでしょうというところで。毒を摂取しては吐きもどし、自分の体を傷つけては薬を試し、たまに加減をまちがえてはぶっ倒れ……。そりゃ、そんな生活してたら、虐待を疑われますわ。可哀想がられて甘やかされもしますわ。けれどその当人の実態はといえば、毒見役でありながら毒に当たって甘美に顔をとろけさせる、一風変わった少女なのであったという。しかも、十代にしてすでにザルな酒呑みというおまけつき。こいつはいろいろおかしな奴ですよ。

くわえて、薬屋は薬屋でも、花街に店を構えていた薬屋の養女であったこともあり、そちら方面の知識や影響もちらほらあって。上流階級の後宮の女性たちでは思いもよらない観点からその手の知識を伝えてみたりしてる様子はおもしろくあり。どちらかというと女性向けっぽい作風なのであからさまには描かれませんが、そのぶん避けることもなく出てくるネタはなかなかいいものであり。お上品な女官を花街育ちの「冗談」で黙らせるエピソードは、これまたきわどいながらも愉快なネタではあり。

また、埒の明かない女官たちにすごんでみせたり、後宮社会、そのなかでも妃の側付きクラスとしては異分子な出自をいかした立ち回りは自由さを感じさせてくれていいもので。向こうのほうからいろいろ関り合いを持つことになってくる壬氏なんかも、この辺の使い勝手のよさや型破りさを重宝しているのでもあり。まあ彼の場合はそれ以上にお気に入りの節がありますが、当の猫猫のほうがあまりにも鈍感に過ぎるので、玉葉妃ともどもお腹を抱えさせてもらったり。

ひとつひとつの話は掌編程度で、けれど切れ目なく猫猫による後宮での話がつづけられていく形式で。大きな話はまだありませんが、そのぶん一冊で両手に余るほどの話を楽しむことができた感があって、満足感の高い一冊でした。読み進めていくのが楽しみなシリーズになりそうです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:20| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月20日

花弄り 雌蕊の婚姻

花弄り 雌蕊の婚姻 (CROSS NOVELS)
花弄り 雌蕊の婚姻 (CROSS NOVELS)

CROSS NOVELS | クロスノベルス | 詳細情報

オメガと判明して王位継承の道を絶たれ婚姻の道具として後宮に閉じ込められた王子が、豪勢な金髪アルファに見いだされ、奪われた立場に鬱屈を抱える王子としても発情衝動を抱えるオメガとしても救い出される話。

発情した槐の姿がたいへんにいやらしかった。あとで後悔に苛まれるとわかっていても、その場で高ぶった気を発散させたくてしかたがなくなってしまう。王族であるがゆえにプライベートはないに等しく、誰に体を許したかは筒抜けになってしまう環境で、それでも疼く体にほかのことを考える余裕もうすれていやらしく男を誘惑してしまう。たまらない性質の持ち主であった。

けれど本人からしてみればどうにもならない持病のようなものであり、王位継承者候補からはずされた原因でもあるだけに、そんな自身の体質をうとましく思わずにはいられなくて。また、同じ国の者を相手にしていてはその葛藤を思わずにはいられない。だからこそ、他国の出身であり、そんな思考すらも吹き飛ばしてくれるほどに激しい快感に酔わせてくれる特別な相手であるウィロウには惹かれる気持ちを抱いてしまうし、相手のほうからも衝動を鎮める役割としての義務感を超えて槐に寄り添う親愛の情をみせられるとなれば、これこそが理想のお相手なのでしょうと納得させれる。そのうえ発情衝動から逃れられない雌蕊としての奈落から救い出す場面を見せられては、ただただ祝福するばかり。

なにげにオメガバースものを読むのは初めてであり、お約束を理解しきれてないところも多々あるんですが、ともあれ雌蕊の主人公のままならない体質と、それだからこそ生まれる物語はなかなかよいものでありましたということで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:31| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月18日

クリスマスに結ばれた絆

クリスマスに結ばれた絆 (ハーレクイン・イマージュ)
クリスマスに結ばれた絆 (ハーレクイン・イマージュ)

ハーレクイン・イマージュ クリスマスに結ばれた絆|ハーレクインシリーズ

めっちゃいい。めっちゃよかった。

特に序盤の、ヒーローにとってのヒロインの存在のありがたさをこれでもかと感じさせてくれる展開。

突然、自分に息子がいることを知らされて、しかもその子は五歳で、母親にあたるかつて付き合いのあった女性はそれまで彼にそのことを伝えもしなかったのだという。そして、亡くなってしまったその女性の遺言で、親子としての絆をまったく共有できていないその子どもを引き取り養育することが求められるという、身勝手にもほどがある希望を伝えられることになる。子どもが嫌いなわけではない。自分の子どもなら、むしろとことん可愛がってやりたい。けれどその子が生まれてから五年間、母親の女性によって父子の記憶を一切共有されないままにおかれてきた。

こんな仕打ちが許されるのか。怒りで我を忘れそうになる。それと同時に、五歳になって初めて顔を合わせることになる息子とどうすればうまくやっていけるのか。くわえて、これまであちらこちらを転々とする独り身の軍医生活を過ごしてきて、これからもそうするつもりでいたのが、子育てをしながらの生活へと激変を余儀なくされる。どうしていいのかわからない。あふれる感情を。血をわけた息子という存在を。これからの生活を。どうすればいいのかわからない。これから初対面になる息子とうまくやっていくには。何の準備もできていないところから子どもとの暮らしをはじめていくには。なにもかもが唐突すぎて、対する自分はそのどこをとっても頼りなさすぎる。どうしていいかわからない。どうすればいいのかわからない。なにもかもが頼りない。

パニックに陥りそうになるヒーローにその場ですがれる存在はヒロインだけで、けれど彼女にどんな助けを求めていいかもわからないほどに動揺するヒーローの手を取ってくれたのは、気持ちを落ち着かせるべく側で支えてくれたのは、やっぱりヒロインなんですよね。これがどれほどありがたかったか。安心できることに息子のほうからもすぐになつかれることになって、ヒーロー側からしてみれば、新たな人生の連れ合いとして、これほど望ましい人はいなかったでしょう。

けれどそこで立ち塞がるのがヒロインの側の事情であって。それによって悲しみの瞬間を味わったりしながらも、息子に助けられたりしながら最後にはお互いの歩みがひとつになる展開は素晴らしいもので。

この先の彼らの人生がどうなるかはわからないけれど、ひとつでも多くの幸せにあふれてほしいと願わずにはいられない。とてもいい話でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:56| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月09日

クリフトン年代記(3)裁きの鐘は(上)(下)

裁きの鐘は(上): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫) 裁きの鐘は(下): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫)
裁きの鐘は(上): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫) 裁きの鐘は(下): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫)

ジェフリー・アーチャー、戸田裕之/訳 『裁きの鐘は〔上〕―クリフトン年代記 第3部―』 | 新潮社
ジェフリー・アーチャー、戸田裕之/訳 『裁きの鐘は〔下〕―クリフトン年代記 第3部―』 | 新潮社

今回も進行が速い。ハリー・クリフトンの少年時代から大学入学まもなくくらいまでを描いた第一部のように、この第三部もその息子セバスティアン・クリフトンの少年時代から大学入学くらいまでの年代を上下巻の二冊で駆けぬける。

その見どころはいろいろあるにはありましたが、個人的にはやはりバリントン家がらみのあれこれ。バリントン家のろくでなしについては第二部でほとんど幕が引かれ、唯一引き延ばされた案件(邦題はこれについてでしょう)に関しても今回の冒頭ですんなり、とはいえないまでも決が下されて。これにてあの忌まわしい記憶ともども別れを告げられる……かと思っていたんですけど、まだ未解決の事案があったじゃないかと思い出させられる展開。そうですよ。あのろくでなし、最後の最後に愛人との間に子どもなんて残していきやがりましたね。しかもその娘を残して実の両親はどちらも死んでしまっているから本当にどうしようもない。残された不義の子がどうなろうが、クリフトン一家にもバリントン家にも関係ないといえば関係ないんだけれど、それでも彼女を引き取るのがよいと思われる事情が持ち上がるのは一族の縁がつながるようで不思議の思いにかられるところであり。まあでも、ハリーとエマの夫妻にとっても同じ父から生まれた妹にあたるわけで、その子を引き取って面倒を見るのは父の業の罪滅ぼしのようでもあり、これもひとつの因縁でしょうか。善行も悪行も歴史に連ねられていく名門一族らしさを感じさせる事柄ではありましたね。当時まだ幼く事情も知らないセバスティアンとの相性がどうなるかというところは気がかりではありましたが、出会った当初からびっくりするぐらいの良好な関係を目にできるのは感慨深くもあり。というか、セバスティアン、なかなかやんちゃぶりを発揮するエピソードも多く、どんな男の子になっていくんだろうかと期待半分心配半分なところもありましたが、ことこの女の子、新たな妹となったジェシカに対してであれば妹思いのいいお兄さんぶりを随所で見せてくれるんですよね。妹も兄を慕っているようで良好な仲を見るたびにほほえましい気持ちにさせてくれること。ただ、上述の事情がいまだ明かされないままになっているのは、将来に対する小さいながらも不安のもとではあり。原題はその辺の機微を表した感じでしょうか。

ふりかえってみてもやっぱり、ハリーよりもセバスティアンに焦点が当たることの多かった回でしたね。あと、ジャイルズ・バリントン。議員のどぶ板選挙ぶりはイギリスも大変そうだなあと思わされるところもありましたが、彼も順調にキャリアを歩んでいるようで。どこまでその道がつづいていくのかと楽しみなところでもあり。

今回もまたラストはクリフハンガーではありましたが、前回に比べればまだ心おだやかに次の巻を迎えられそうですね。いやまあ、事によっては事態の深刻さはより洒落にならん感じではあるんですけれども。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:23| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月06日

星系出雲の兵站(1)

星系出雲の兵站 1 (ハヤカワ文庫JA)
星系出雲の兵站 1 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站 1 | 種類,ハヤカワ文庫JA | ハヤカワ・オンライン

異星人と思われる勢力の接近が探知されて、ここに人類の存亡をかけた戦いがはじまるかと思いきや、その前にまずまとまりきれない内部事情を抱えつつも緊急時の体制を構築するところからはじめなけらばならないのであったという。

やりました、内部対立ですよ! 中央と辺境の対立関係、独立志向の高まりと介入必至の情勢において、嫌でも生じる政治的な摩擦に対して真剣に頭を悩ます軍人や政務官なんかのお偉方の姿はいいもので。

これ、なによりも異星人の発見された場所が独立志向の高まっている辺境・壱岐星系だったというのがいちばん厄介なところですよね。中央としては自分たちが主導して統一的な体制のもとで対応したい。けれど、現地からしてみればそれは独自に育んできた社会体制の解体につながりかねないもので。それどころか、これを機会に自治から統合へなんて介入をされた日には、悲願である独立の芽を摘まれてしまうことにもなりかねない。そんな背景から、壱岐星系の人々はこの事態をあくまで自分たちの管轄であると主張するし、中央には後方支援的な立場を期待する。中央の人間としては、トップダウンで統一的な指揮を執るのが効果的だとは思いながらも、そんな現地の情勢を無視できずにいくらかの配慮をし、けれど譲れない部分は自分たちの主張を押し通す。この辺の対立と妥協点の探り合いがですね、いいんですよね。対立はあるんだけど、それらはすべて我欲ではなくて社会をよりよくするための自分たちの職分においてであって。そうであるからこそ、強く出る部分には信念が感じられて。

キャラとしても、まじめ一辺倒の堅物がいるかと思えば、あれこれ気を回す裏に個人的な期待をさしはさむ茶目っ気を感じさせる者がいたり、政治的な配慮に頭を悩ませる者がいるかと思えばそんなこと知るかとばかりに効率一辺倒で物事を進めたがる者もいる。それぞれの行動の裏にはそれぞれの思惑が感じられて、統一的なリーダー不在のままに物事が推移していってるようにも見えるんだけど、人類の総体として見れば対異星人のための一個の体制ができあがってはいくのであり。この辺のあんばいの描写がいいですよね。

さて、そうしてとにもかくにも進展の見られる内部事情とは裏腹に、肝心の敵に関しては、戦闘まで行われたもののまだその正体が見えないのであり。果たしてこの接触がどんな結果をもたらすのか。タイトル見てるとそこまで派手な展開にはならないんだろうかと思えたりもしますが、どうなることやら。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:50| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月04日

腹黒従者の恋の策略

腹黒従者の恋の策略 (ソーニャ文庫)
腹黒従者の恋の策略 (ソーニャ文庫)

腹黒従者の恋の策略|ソ−ニャ文庫

辺境送りが決まって捨て鉢な気分の王女さまミルドレッドと、彼女に一心に忠誠を誓う騎士ライアンの恋物語であった。表向きは。

というのも、王女さまのほうから身分をかさにきて結ばれたような関係でありながら、その実の従者の偏執ぶりにゾッとさせられる話でもあったので。なんというか、ヤンデレルート的というか。

王女さまからしてみれば、幼いころからのつきあいのある相手で、昔に起きた事故から負い目を持っている相手に押しきられるままに、自身も心の奥底に押しこめようとしていた想いと素直に向き合って、幸せで祝福される結末を迎えるお話。

そのはずだけど、ライアン側から見ればまったく違う意味を持つ。不遇な生い立ちをしてきた王女さまをその不幸から解き放つお話。焦がれるほどの想いを抱くミルドレッドのことがただただほしくて、地位や名声なんてものよりもなにより彼女を手に入れたくて、真綿でくるむようにして鳥籠に入れて一心に愛情をそそぐ。真実を知ればその異常性にゾッとさせられるとともに、けれどそこまでの執着心を抱えるキャラだからこそほかのだれよりこのヒロインにふさわしい存在であるといやでも認めさせられる。

まるで呪いの上に虚構を築きあげて、その上にやっと成り立たされた幸せの形。いかにもいびつであり、けれどそのいびつさが際立つほどに目を奪われるような美しさを持つにいたった話でもあり。なかなかよいものではありました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:32| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

予言の経済学(1)巫女姫と転生商人の異世界災害対策

予言の経済学 1 巫女姫と転生商人の異世界災害対策 (レジェンドノベルス)
予言の経済学 1 巫女姫と転生商人の異世界災害対策 (レジェンドノベルス)

レジェンドノベルス|シリーズ別一覧|予言の経済学

面白い。

予言とは、超常的に知りえた未来を伝える言葉であり、理屈を超えた経緯で直接的に未来を捉えた者の述べるところであるが、それゆえに知覚した話者の主観に左右されるものでもあり、信じられるか否かは話者の信用性に依存せざるをえない。真実を言い表しているのかもしれないし、虚言を弄しているのかもしれない。真実も含まれているのかもしれないが、あくまで一面的なものにすぎないのかもしれない。いつ・どこで・なにが起こるのか。だれが・どのようにしてその影響を被るのか。予言は超常的であるかゆえにそれらを明確にはしてくれない。対応は、ただ話者を信じるか否かに左右されるばかりである。

しかしこの話の主人公は、そこに別の側面からアプローチをかける。それは近現代の科学が用いる手法。課題に対して仮説を設定し、それを検証することで結論にいたる一連のプロセス。それをしてみせるリカルドという人物は、なるほど転生者であるわけで。

この、予言に科学的なアプローチでの検証を試みるという組み合わせ。これだけでもうわくわくさせてくれますよね。予見されたという災害に対してだれもが無関心にふるまうなか、ただひとり可能性を検討し、思いがけない援助も得ながら調査を進め、その末にこれしかないというもっとも起こりうる可能性の高い事態についての結論を導きだす。謎解きのような面白さですよ。結論が出た瞬間というのは、それだけでひとつのクライマックスであったことでしょう。

とはいえ、その結論はあくまで予言の話者を一から十まで信用するという前提に立つものであり、それへの対応にかかるコストを考えれば、主人公としても完全に無視することはできないまでも消極的な対応で済ませることも可能ではあったでしょう(まあさすがに予想される被害規模的にそれは言いすぎかもしれませんが、それはともかく)。それを、この陰険なまでに爪を隠し隠してきた猛禽にそれを明かさしめてみせたのは、その予言の話者であるところのヒロイン・アルフィーナの存在であったというのもまたポイントであって。

このアルフィーナというヒロイン、身分としては王族であるものの、反逆者の血を引くことから腫れ物に触れるような扱いをされる厄介者でもあり、そしてそれが理由で王族にしては政治的な感覚にうとい箱入りの王女さまであり。平民であるリカルドがアルフィーナとの交流を持つにいたったのもその感覚の欠如ゆえともいえるでしょうか。言ってしまえば、善くも悪くも純粋な性格なんですよね。いさかいを目にすれば心を痛めるし、打算をこめたやりとりにも心からの喜びを表すし。あまりにも裏表がないからこそ放っておけなくなるタイプというか。

リカルドが彼女の予言と真正面から向き合っていくことになったのも、その純粋さがもとだったでしょうか。院生経験のある転生者として、根拠のない予言を真剣に取り合う理由はない。けれど、いくつかの経緯があったとはいえ、これほどに根のいい少女が困り果てているのを見て、まっすぐな気持ちで頼られてしまって、断ることができようかというもの。災厄のもたらされるという地がどうも主人公と無関係ではなさそうだというのが大きかったように見せかけてますけど、これ絶対違いますよね。箱入りゆえの無防備さで頼られて、勘違いせんばかりの距離感でまっすぐな好感を示されて、よからぬ感情がちらとでも首をもたげなかったとは、とてもとても言えませんよねえ……。これはミーアの目も三角になろうというもの。ええ。たいへんいいものでした。

そんな感じの、予言を予測に変えて対策を練る物語、とてもおもしろかったです。2巻も来年4月に刊行予定ということで、楽しみにしたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:11| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月25日

小説 魔法使いの嫁 金糸篇

小説 魔法使いの嫁 金糸篇 (マッグガーデンノベルズ)
小説 魔法使いの嫁 金糸篇 (マッグガーデンノベルズ)

原作自体は未読なんですが、「真理の織り手」シリーズの佐藤さくらさんが参加されてるという情報を目にして購入。

実際に読んでみた感じ、原作知識はなくても問題なく楽しめました。そして、一番おもしろかったのは、なんといっても佐藤さくらさんの「守護者とトネリコ」。

この作者さんの書く物語はとてもやさしさにあふれてるんですよね。情けないところもある、傷つけられたりもする。けれど、それでも一生懸命になれるキャラクターだからこそ、助けの手が伸ばされる。必死なほどの思いは見捨てられずに届けられる。これがとれほど有り難いことであるか。

この話におけるアシュレイも、妹に対して複雑な感情を抱える少女ではありました。家族に疎まれながらもいっしょに魔法の勉強をした無二の仲間であり、けれど自分を置いてひとりだけ正式な魔法使いの弟子に収まった相手であり。幼いころからの絆と嫉妬心から、ある日アシュレイは取り返しのつかない過ちを犯してしまう。それでも、だからこそ償いを果たさずにはいられないし、妹にしてしまったことを思えば自分の命と引き換えにしても必ずやり遂げなければならないと悲壮な決意を固めることにもなる。

そんなところに、お節介者が現れる。出会いは間の悪いもので、それだから忘れてしまおうとするんだけど、身の丈に合わない無茶をしようとしているアシュレイのことがどうにも気になってしまい、口ではあれこれ言いながらも手助けせずにはいられなくなっていく。この絶妙なキャラクター配置がとてもいいんですよね。

そして最後のアシュレイの決意。これもそれまでの経緯を経てくることでとても心に響いてくるものがあって。もう少しだけでもいいからこのキャラクターのその後も見てみたいなあと思わされたり。

でも、このキャラ、検索してもヒットしてこないんてすよね。本編に出てきてるキャラの前日譚かと思ってたんてすけど、もしかしてこの話だけのオリジナルなキャラクターだったとか……?

その他、三田誠さんの「吸血鬼の恋人」のふたりはいい雰囲気でしたし、桜井光さんの「虹の掛かる日、ごちそうの日」は妖精の見えない女主人と家事妖精との、それでも長い年月を通した絆が感じられるのがいいものだったり。いろんなキャラクターがいてそれぞれの物語がつむがれていく感じがよかったです。 それを許容できるだけの世界観の奥行きがあるということでしょうか。

ともかくも、原作未読でも十分に楽しめる、魔法使いや魔の世界の者たちによる小話集。いい雰囲気の一冊でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:24| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月15日

The Girl with the Dragon Heart

The Girl With the Dragon Heart
The Girl With the Dragon Heart
(画像はUS版の表紙っぽくて、自分の購入したUK版のイラスト調の表紙とは違ってやや違和感がありますが)

The Girl with the Dragon Heart - Stephanie Burgis(作者サイト)

前作『The Dragon with a Chocolate Heart』感想


魔法で人間の姿に変えられてしまったドラゴンの女の子アベンチュリンがチョコレート作りにその情熱を見いだす話であった『The Dragon with a Chocolate Heart』の続編にあたる話。今回は主役が入れ替わって、前作でアベンチュリンが出会った少女シルケが主人公をつとめることに。

今回の話の内容としては、ふたりが住む都市の宮廷に突然妖精の国の女王一家が訪れてくることになって、国の実権を握る世継ぎの王女からその目的を探ることを任されたシルケが奮闘する話。または、かつての戦災難民としてのシルケの家族の物語。

今回も、終盤のシルケの活躍ぶりは見せてくれるものがありました。どんどん事態が悪化していって、死人が出るレペルの争いにまでなろうかというところから、持ち前の知恵と語りの才覚によって危機を乗りきってみせる。すっかり親友のアベンチュリンや、王女さまたちによる支えもあったとはいえ、強力な魔法の力を持つ妖精の女王夫妻に身一つで対峙し、口先ひとつで引き下がらせる。これこそ語りの力の極致でしょう。なにせ途中までは、これはもう武力行使不可避ではとまで思えるぐらいに事態がこじれにこじれてましたから。今回のシルケの見せ場はまさに魔法のようだったというか。そういえば、前作でもいちばんの見どころと感じたのはそうした場面なのでした。

前作では主役としてパワフルな行動力を見せてくれたアベンチュリンは、今回はやや存在感うすし。考えるよりも先に動きまわるタイプのキャラが物語をひっぱる役どころからはずれるとこうなってしまうのかなとも思いますが、それでもシルケから見たアベンチュリンの姿というのは、彼女自身の視点から見た姿とはまた違った印象を与えてくれて新鮮でした。具体的には、とても頼もしい親友としての感があったというか。行動力に偏りがちでそのせいで失敗もしてしまうアベンチュリンの性格は、その一方で内面にぶれない明確な芯を有しているのであって、事態の解決への道筋をつけてくれるわけではないのだけど、自分を見失ってしまいそうになったときに現れてくれるとこんなにどっしりとして頼もしさを感じさせてくれるキャラもいないもので。前作における印象とのギャップは大きいですが、これもまた情熱のドラゴン、アベンチュリンだなあと思わせてくれる姿ではありました。

ただ……というところなんですけど、今回は前作に比べてやや評価しにくいんですよね。終盤はよかったんですけど、そこにいたるまでが……。悪化した事態を見事に納めてみせたシルケはすごかったけど、その一方で事態を悪化させた元凶もほとんど全部シルケなので。自分が出した火を自分で消しただけというか。最後になんとかなったからよかったものの、なんとかならなかったらと思うとおそろしくなってくるものがある。

まあ、結局なんとかなったのだし、ふたたびあたたかな家族を得たシルケの幸せそうな様子は心あたたまるものではありました、というところで?
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:04| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月13日

サラファーンの星(4)星水晶の歌(上)(下)

星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫) 星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)
星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)
星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

星水晶の歌〈上〉 サラファーンの星4 - 遠藤文子|東京創元社
星水晶の歌〈下〉 サラファーンの星4 - 遠藤文子|東京創元社


ついに最後のページまでたどり着いてしまった……。

読み終えてみれば、いつまでも読みつづけていたかったと思わせられる物語でした。それほどに、なぜだか無性に安心感を覚えさせてくれるファンタジーだったように思うのです。

リーヴがいて、ウィルナーがいて、ジョサがいて、ハーシュがいて、ルシタナがいて、その他にも、すべて合わせれば20を超える人々がいて、彼らの一人ひとりがそれぞれの生い立ちを持ち、それぞれの生活を送りながら、戦争が激しさを増すなかでさまざまに関係が深まっていき、一人ひとりがそれぞれの役割を果たしながら、引き起こされる戦渦に対してさまざまな思いの丈を表し、それぞれのやり方で戦争へと関わっていく。果たした役割に大小はあれど、長い物語を通して丁寧に描かれてきた彼らの思いは本物で、だからこそ一人ひとりのキャラクターがいとおしく、どのひとりをとっても安否不明に陥るやほかの登場人物ともども不安をわかち合い、最後の最後まで彼らの行く末を見守りたい気持ちにさせられた。そこに生まれや成し遂げた功績による貴賎はなく、見届けられる結末の一つひとつがただただ尊いものとして記憶されていくように感じられるものがあったのです。

自分は当初、このシリーズをルシタナの物語だと思っていました。激化していく戦争に対して重要な役割を果たす人物として、期待を含まされつづけていた人物でしたから。なので、物語の進行があまりにも遅いと感じてもいました。けれど、最後まで読んだ後、やっと気づくことができました。これは彼女だけの物語ではなく、他に登場するすべてのキャラクターの物語であったのだと。自身や関係深い人たちの幸せに喜び、降ってわいた不幸に悲しみ、そうした感情をわかち合いながら生活していたすべての人たちの物語であったのだと。大きな世界のなかで一人ひとりができることは小さくとも、自らができることを模索して世界に飛び込んでいくすべての人々の物語であったのだと。

そして、それら一人ひとりの物語を描きだす作者の目線はとてもやさしさに満ちて感じられて。トゥーリーの帰りを待つヨハンデリ夫人や、サラになかなか言いだせない想いを寄せるパーセロー、同じく奥手なハーシュや自身の障害に対する引け目から子どもの発育に不安を抱くマリアなど、悩みを抱えた人々にもどこまでも寄り添った描写がなされており、どんなキャラクターにも親しみを感じさせてくれるんですね。意中の人からの手紙に喜んだり、試験の結果に気を揉んだり、世界全体からみれば小さなことではあるけれど、一人ひとりの身の上に起こる日常的なできごとがていねいに描かれてくることで、彼らの一喜一憂する姿にしだいにこちらの心情が重なっていくのがわかるものがあって。英雄的な人物ではなく、誰もが悩みを抱えた等身大のキャラクターであり、それでも自分がなすべきだと思ったことのために身を投じていく。だからこそ、その一人ひとりのキャラクターの決意が尊く、そしてまた、悩み迷う姿こそがいとおしく思えてくるのです。

物語の結末としては、第一部文庫版のあとがきでもふれられていたというように(自分はハードカバーでしか持ってないんですが)、このシリーズ自体が作者による以前の作品の前日譚であるということもあって、終わりを迎えるべき部分としては終わりを迎え、それでも途切れない一部の縁はそちらに引き継がれていくものもありといった趣き。

第三部までの流れを思えば、この第四部はまさに激動といった感じで、一人ひとりのキャラクターの動きを丹念につむぎあげていく描写は変わらないものの、こぼれ落ちていく人々の姿を見届けるのはとてもつらかったですね。もっと彼らのすることを見つづけていたかった。もっと喜怒哀楽をともにしたかった。失われていくことではじめて、自分がどれほどこの物語の世界をいとおしく思っていたのか気づかされるようであって。本当に、終わってほしくない物語だったと、思わされるものがあるのです。

この物語は、これでおしまい。どんな思いを抱えようとそれは変わらないわけで。けれど、この世界はまだ終わりを迎えてはいない。その長い長い後の時代を舞台にした物語があるという。ならば、このシリーズに登場したキャラクターたちの姿を見届けた読者としては、彼らの抱いた思い、その行く末を見届けたいと思わずにはいられないですよね。それが彼らへのなによりの親愛の表れのように思えるので。

後日譚『ユリディケ』。それが読める日を、心待ちにしています。


サラファーンの星 公式サイト
https://serafahn.com
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:41| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする