2013年09月20日

不死王の息子 (作者:日向夏)

http://ncode.syosetu.com/n2023bc/

まだ状態は連載中になってますが、本編はもう完結しているのでいいかということで。

読後の感想をぱっと浮かんだひと言で済ませてしまうと、山田少年がいい感じに変態で、随所で笑わせてもらいましたというところで。まあそれくらいコメディとしての印象が強かったということですね。

でも実は、この作品でもっともいいなあと思ったポイントは、小学六年生のときに出会った由紀子と山田少年の距離感がだんだんと縮まっていくところだったように思うのです。思えば最初は恋愛感情というものすら知らず、トラブル体質の山田少年の世話係をする由紀子とそんな彼女になんとなく懐いている山田少年というくらいの感じでしたっけ。それが、年を重ねていくうちにだんだん山田少年が積極的になってきて、そうなると由紀子の方も意識せざるを得なくなってきて、でも変に意識しすぎると恥ずかしくて仕方ないから考えないようにしてみたりとか、この辺の時間の経過と精神的な成長に合わせるように段階踏んで距離を縮めていく様子がこそばゆいくらいで、でもそれが読み心地よくもあって。たいへん楽しませてもらいました。

さて話は戻ってラブコメのコメな部分について。言いかえると、ボケ担当の山田少年について。距離を詰める際の彼の手口がそれはもう変態的なのに紳士的というか。何と言ったらいいか、彼って、由紀子にとってこれ以上のことをされたら嫌悪するというラインの五歩ぐらい手前の、恥ずかしいんだけど怒るほどでもないかという絶妙なところを攻めていくんですよね。そうしているうちに由紀子にとってはだんだんそれが普通になってきて、嫌悪ラインが少しずつ拡張されていくので、それを見計らってまたさらにその五歩手前くらいをついていく。すると次第に、それ友人同士ですることじゃないよねと思えることも、由紀子の中では山田少年なら仕方ないかで済まされるようになっていって、気付けば本人のつもりはどうあれもう実質的に付き合ってるのと変わらなくっているという。なんという策士。どんどん由紀子の外堀が埋められていく様子を「おい山田ァ!」とかつっこみながらにやにやと楽しませてもらいました。なんというかもう、結構なものをありがとうございましたという感じ?

ただ、大切な人との出会いを通してそれまでまったく思い及びもしなかった世界に旅立つことになる話というのは大好物なはずなのに、いまいちラストの余韻に浸ることができないのは、まあ我が身の卑屈さの投影ですかね。もったいないことしたなという気分ですが、仕方のないところ。

そんな感じで、全体的にはしっかり楽しいお話でした。書籍化作品もある作者さんだけに、実力は十分と言ったところだったでしょうか。苦手な現代物でも(ファンタジー要素も多分にありますが)十分に楽しむことができました。

番外編もノリは相変わらずで、そこにときどきその後の話があるのが余韻に浸らせてくれます。
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2013年07月07日

魔王の過ごし方 (作者:笑うヤカン)

(R-18注意)http://novel18.syosetu.com/n4497bb/

『魔王の始め方』の本編後を描いた番外編。

本編完結後のオウル一家のほのぼのとした平和な日々の様子を楽しませてもらっていたのですが、この番外編もついに完結を迎えていたのですね。しかし、時に思いっきりギャグに走ってるのをけらけら笑いながら印象があったので最後までそういう雰囲気の話のつもりで読んでいたら、最後の最後でいい話にしてくれるからちょっとうるっときそうになってしまったり。不意打ちであれは卑怯だわあ。それまでオウル一家が騒がしいながらも平和に、たまにオウルの寵愛を争うラブコメ展開になりつつも和気藹々と過ごしている様子が描かれてきて、それを踏まえたような形だったからこそなおさらですよね。こうしてみると、本当にいいシリーズでした。もともと一年間と銘打たれていたはずですが、それでも終わってしまったのが惜しいとも思います。まだまだ、もっとこのキャラたちの話を楽しんでいたかったような気分にもなってしまいます。いいシリーズに出会えたことを感謝しつつ、作者の他の作品も楽しみにしていきたいですね。
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2013年04月24日

やんでるっ(十八禁版) (作者:藤崎悠貴)

(R-18注意)http://novel18.syosetu.com/n8090bh/

全年齢版( http://ncode.syosetu.com/n8087bh/ )の方を読みながら、この作者ならR-18でもっといい感じにできそうだよなあと思っていたら、本当に十八禁版もあって笑ってしまった。やはりこの作者は官能描写がいいですよ。ただ、あの場面なら十八禁な展開に持っていけたよねというところでそうするのではなく、もっぱら新規追加する形でのみR-18な場面が追加されていたのはちょっと残念だったり。とはいえ、追加された濡れ場はやはりいいものでした。特に人妻。夫に顧みられず寂しさを持て余した人妻のいやらしさときたら。なまじエロがうまい作者さんだけに全年齢版では生殺しのような感覚を味わう羽目になってしまいましたよ。ふとした縁から知り合った主人公にすごく構ってほしそうにしてる感じがそそること。あらすじでは触れられていないキャラだったので場面が追加されるか不安もありましたが、しっかり寝取りっぽい場面が描かれてて満足のいくものでした。
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2013年04月20日

無色の革命 (作者:藤崎悠貴)

(R-18注意)http://novel18.syosetu.com/n0508bh/

この作者の書くエロは本当にいいものですな。ねっとりとして巧みな描写は、読んでいるうちに新たな性癖に目覚めそうになってしまうほど。特に後半の女教師と同級生を快楽の道に目覚めさせていく場面はよかったです。性的なことには興味すらなさそうだった人の心の隙につけこんで快楽の味を教え込んでみたり、一人ひっそりと耽っていた人をさらなる悦楽に踏み出させてみたり。作中で主人公も語っていましたが、欲望に素直になって自ら快楽をむさぼりだす女の子の愛おしさったらないですわ。いや、エロかわいいですわ。なかでも、メールでオナニーの画像を送らせたり、ポーズをリクエストしたりしながら果ては互いに画像送り合ってオカズにしあったりとかしてすっかりはまりこんでいくのを読んでると、新たな性癖に目覚めそうな気すらしてきたり。相性のいい作者さんであるだけに、ハマるとものすごく楽しめますね。分量的にはそれほど長いと言えるわけでもないのでもっと続けてほしかった気もしますが、素晴らしく堪能できる場面もあったので満足といえば満足ではあります。
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2013年04月18日

幼女戦記Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens (作者:カルロ・ゼン)

Arcadiaより。本編完結済み。まだ時々番外編が更新されてるようです。

近代の軍人ネタは合うものがあるなあと実感させられました。地味に一番ツボにはまったのは、毎話のように挿まれる登場挨拶的な自己紹介。調子としてはシニカルだったりハイだったり、ぼやき調子だったり可愛らしくだったりと様々なのですが、いかにも軍人っぽい感じがしてそれだけで作中世界の雰囲気を肌で感じ取れるんですよね。転生物なので年の割に大人びてたりしますが、むしろその辺のギャップがいいところであり。読んでくうちにあの「ターニャ・デグレチャフであります」という挨拶が癖になってくるというか。お気に入りキャラは最後までTS転生幼女ターニャ・デグレチャフ(中身はリバタリアンなリーマン)でございました。

話の流れとしては、基本的に世界大戦の知識を有するターニャの部隊の周りでは敵を圧倒しつつ、それでも戦略的にはだんだん追い詰められていくという末期戦のそれ。孤軍奮闘する爽快感はいいものですね。というか、その辺の流れは上層部とターニャとの壮大な勘違いの応酬の結果だったりするのが面白いというか。牽制程度の効果を上げさせるつもりで、けれどうわべは勇ましい命令を下したら本当にその通りの戦果を挙げてきちゃって上層部びっくり。ターニャとしても自分の命が第一だから仕方なく、けれど上層部の評価を落としたくはないからきっちり指令通りに仕事を果たしてきたら戦争狂と思われてどんどん第一線に送られちゃってびっくり。そんなスパイラルがどんどん回っていって敵味方ともに恐れられる存在になっていくのが面白おかしくもあったり。とはいえ、戦争が泥沼化していく中でのターニャの徹底したリバタリアンぶりは狂気と紙一重だったようにも思えます。でも、生還率は高いので部下からの評判はいいんですよね。航空魔導大隊のメンバーなんて、最初はターニャとしても育成は無理だからとしごきにしごいて振り落そうとしたらいつのまにか一人前の下士官たちができあがってたりして。その後もターニャ隊の洗礼を受けた古参兵たちの絆はいいものでした。ラスト付近とかエピローグ的な話ではもうね、すっかり心の故郷みたいになってるんだなあと感じさせられてやばいです。

ここからさらにネタばれ的な話を。

この話は大雑把に言ってしまえば末期戦物ですが、現代知識無双物でもありました。自分はそれほど知識がないのでよくわからないのですが、作中世界は世界大戦期の欧州に似た情勢になっていたようで。ターニャ(の中の人)にしてみれば、当時の細かな戦いまでは覚えていないといっても、一士官では知りえないそれぞれの陣営の内情や当時はまだ考案されていなかったはずの戦術等の知識はあるので、一人だけ有利な立場にはあったわけですよね。とはいえ、軍の戦略立案にまで関われる立場にはないので、帝国の敗色を覆すには到れなかったのですが。でも、その知識を全力でリバタリアン的な方面に発揮していく展開は痛快ですらありましたね。末期戦物なので最終的には破局を迎えるかと思いきや、ターニャ個人としては結局最後まで勝ち続けてしまったというのは、その辺のアドバンテージがゆえに為せたことでしょう。敗北の未来を避けえないのなら訪れる戦後によりましな形で国家を残せるようにしようという発想は、現代知識があってこそ。しかし、その方針で帝国の望みを託すことができたのは、ターニャの最大の理解者であり帝国軍中枢部の立場にあったゼートゥーアによるバックアップがあったからとも言えるでしょうね。末期戦気分を楽しむなら生粋の同時代人であるこのゼートゥーアに肩入れして読むのがいいでしょうか。敗北が決定した中でも泣き言を漏らす暇とてなく、刻一刻と近づく破局に対処したり、最後には自己犠牲的に帝国の罪を背負っていったりなど、泣かせてくれる人であります。終盤から合言葉のように語られる「ライヒに黄金の時代を」という言葉が、エピローグ的な話を読むにつけて胸に迫ってくることといったら。一番最近更新された若き日の話といい、知るにつれてどんどん惜しまれる存在になっていく人ですよ。でも一番のお気に入りはやっぱりターニャ・デグレチャフちゃんなのでありますが。

おしらせによると、書籍化も予定されているようで。感想での改善要望を考慮しつつ改稿しているとのことなので、そちらも楽しみなところですね。
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2012年10月05日

花籠の道と黒の小石 (作者:織川あさぎ)

花籠の道と黒の小石

『王国の花』の続編。前作にて結婚を決め、花婿の領地へと旅だったサーラとクラウス。今回は挙式前後の話ということで、相変わらずいい感じな二人のやりとりを楽しませてもらいました。前半では無自覚の内に甘いマスクで女性陣を魅了するサーレスを見咎めて、首輪付けよろしくサーレスの膝の上にちょこんと座るクラリスが可愛くて。後半ではそれまで抑えられていた独占欲が解き放たれたクラウスによってたびたび赤面させられるサーラが可愛くて。全体的に楽しいアフターストーリーでした。

『王国の花小話集』にて「妖精の子」というサブタイトルでさらに後日談も連載されており、そちらではクラウスの母である王太后様がこれまた可愛らしい人で。茶目っ気たっぷりな言動とそれに振り回される周囲のドタバタを楽しませてもらっております。
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2012年06月20日

the ark (作者:藤崎悠貴)

the ark

つまりこれは、大人とは何か・子どもとは何かという問題を扱った話だったのだと思う。AIが制御する宇宙船の中でも大人たちによって形成される集団は存在する。その集団に属さない子どもたちにとって、大人になるということは、大人たちの集団に仲間入りするということになるのだろう。だが、実の親でさえ初対面な子どもたちにとって、大人というものはよそ者に過ぎなかった。ここで子どもたちは、大人とは違う子どもとしての自分たちをはっきりと意識することになる。そうはいっても子どもとはいずれ大人になるもの、大人と子供は連続的なつながりにあるものとして抵抗なく大人の存在を受け入れる子どもはもちろんいた。大人と子供とは、さらに大きな集合の中での仲間であると捉えていたからだ。だが、両者を対立構造として捉え、大人たちの存在を容認できない子どもたちもいた。それは反抗期の表われの一つなのかもしれないが、感情的に受け入れられないものを受け入れられるようになるには、十分な時間が必要になる。だが、時間さえ与えられれば頭が冷えるかというと必ずしもそうは言えなくて、かえってこちこちに凝り固まった考えを持つに至ってしまうこともある。大人たちの集団に好意的な関心を向ける、そのきっかけとなる出来事がなければ、いつまでたっても大人になれない子どものままでいつづけることにもなりかねない。大人たちの集団への仲間入りは、普通に成長すれば当然のようにできるはずだが、いつまでたってもできないのは当人にとっては途轍もない苦痛を伴う。そうして到るのが破滅願望であっても、なんら驚きは感じない。向こう見ずで取り返しの利かない行動に出てしまうことにはやるせない思いに駆られたりもするが、それと同時にそこまで思い切ってしまえることに暗い憧れをも覚えてしまうのだ。それらの気持ちが合わさって、読了直後はなんとも言えない虚脱感に包まれてしまった。

これは果たして幸せな結末なのだろうか、それとも失敗した結末なのだろうか。もしもの話としても、あの時誰かがああしていればベターの結末に迎えたのかというのは、今の自分にはわからない。もしかしたら誰にも言えないことかもしれない。いつの日か、答えは見つかるだろうか。
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2012年06月08日

「モノクロメッセージ」「モノクロメッセージ -Cogwheel‐」 (作者:田代有紀)

モノクロメッセージ
モノクロメッセージ -Cogwheel‐

続きものの短編二作。すごくいい話でした。高校卒業後、別々の進路が決まった幼なじみ二人の話。夢が叶わなくっても、諦めそうになっても、自分で自分を信じられなくなったって見ていてくれる人はいるんだって、応援してくれてる人はいるんだって、そうわかるだけでまた昔の純粋な気持ちを思い出せる、また夢に向かって頑張れる、そんな胸に沁みる話。

このくらいの字数でこれほど沁み入る話ってなかなかないと思うんですが、音楽や絵画など、芸術を題材にした話ってなんでか心の深いところまで響いてきますよね。
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2012年06月05日

ピュアの探究者 (作者:D・W・W)

ピュアの探索者

長編小説の一短編であり、この話単独で感想を書くのはどうかとも思いましたが、本編未読でも楽しめたのでいいかということで。

一人のエキセントリックな科学者が誕生する話。異端の研究にのめり込むあまりになるのではなく、長年の憑きものから解き放たれた眼前に広がる自由がそうさせるという。これは面白かった。それ以前の研究第一仕事は二番な思考も、何かに没頭してる人という感じで好印象。周りの評価なんて気にせず、自分の信念を信じて結果を出すんだと行動する人物は、読んでいて気持ちがいいですね。なによりハイな状態の彼女から、今まさに開花している最中のぶっ飛んだ部分がありありと見てとれて面白い。なるほど、これがピュアの境地というやつでしょうか。
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2012年05月24日

暗黒錬金術師伝説 暗黒!マリーのアトリエ (作者:D・W・W)

暗黒錬金術師伝説
暗黒!マリーのアトリエ


タイトルからもわかる通り、『マリーのアトリエ』の二次創作です。知ってる人はそれだけで大まかな流れまでわかってしまうかもしれませんが、自分のような未プレイ者向けに物語の出だしを記してみるならば、「錬金術アカデミーの卒業試験で歴代最低点を取ってしまったマルローネ(通称マリー)が、再試験として5年間の期限でアカデミーの卒業生として認められるようなものを作り出すべく、与えられたアトリエを拠点に勉強や材料の採取や実験に励むこととなる」というもの。つまるところ出発は底辺、すなわちレベル1からということ。RPGとしてはごくごくありふれた出だしではないでしょうか。そしてこのマリーという主人公。一話の時点では、歴代最低点なんてものを叩きだしてしまうあたりからもわかるように、どこかぽわぽわしてて頭はよくなさそうなんですが、それで腐ったりはせず、心配してくれる人と接するにも愛嬌がある。可愛げがあって、応援したくなってくるキャラクターとでも申しましょうか。そんなだから、周りの人たちもそんな彼女をついつい応援してあげて、色んな人に支えられながら錬金術の高度な域にまで達するのかなと、ほのぼのしたストーリーを想像したくなるもの。ですが、そこはD・W・W氏が書き出した物語。そんなのほほんとした展開にはなりませんでしたね。タイトルに「暗黒」なんてついてる時点で推して知るべしというところですが、それはもう清々しいほどにギスギスした空気を漂わせてましたよ。そこが気に入ってるんですけどね!

2カ月くらいかけてちまちま読んでたので、前半の方の記憶がだいぶ怪しいところではありますが、それでもこの感想を書くにあたってざっと振り返ってみますと、落ちこぼれだった当初からは随分遠いところに辿り着いたんだなぁと感慨に耽らずにはいられませんね。本作品において一番惹かれた点は、善悪を超越して錬金術の高みに向けて駆け上がるマリーの揺るぎない精神だったのですが、それが初めて発露したのは第二話においてと言えるでしょうか。嫌味な奴を撲殺する場面を想像しながら何度も何度も杖の素振りをして悦に至る女の子って……。それまでも、アカデミー入学前は大人に交じって狩りなどをしていた経験から、世間知らずのぼんぼんなどよりはよっぽど地に足付いた思考をしてましたが、彼女の異常性がその片鱗を覗かせたのはそこが初めてだったと思います。そのシーンを読んだ時は、マリーと一緒に黒い笑いを浮かべながら「ついに来たか」などと胸の内で快哉を叫んでいたものです。でも、読み進めていくうちに、そんなのはまだまだ可愛いものだったんだと思い知らされたんですよね。大きな成果を上げたり難しい実験に成功すると、そのたびに暴力的な衝動に駆られて暴れ回る暴れ回る。それこそ森に分け入ってして動物を殺す、賊の討伐にことよせて人を殺す。原始的な衝動を剥き出しにした先に、殺戮の宴を何度も現出させやがりますよこの子は。そうして恐怖と共に広まった通り名が「鮮血のマルローネ」。あまりにもしっくりきすぎて、もう原作のあの可愛らしい絵柄でイメージできないんですが……。しかし、その反社会的な性向も、錬金術師としての力量の向上と表裏一体に現れてきたものなんですよね。すなわち、歪みを抱えた天才というやつでしょうか。マリーに言わせるならば、何かを極めようとするということは非人間的になっていくということ、らしいのですが。そしてその言葉通り、なんら愧じることなく暴力的な衝動を発散しながらも錬金術師の高みに近付いていくのだから恐れ入る。といっても、天才的なひらめきによって二段三段飛ばしで駆け上がっていった訳では決してない。年頃の女の子なら興味を持つだろう恋やおしゃれを端から眼中に入れず、与えられた時間の許す限り、体力に任せて、自分はこれで身を立てるんだという覚悟をもって錬金術に打ち込み、血のにじむような努力のもとで一歩一歩しっかり踏みしめながら上達していくんですよね。時間と努力は裏切らないといいますか。それに、暴力衝動の描写のせいもあってか、より上のステージに上がるほどに、手掛けるプロジェクトもやりがいや達成感が増していくように見えて、その楽しそうなことといったら。仕事の楽しさってこういうものなのかななんてことを思ったり。

また、マリー以外の人物についても、原作のかわいらしいイラストから想像できそうな華やかなイメージとは程遠く、野心のために多くの血が流され、巻き込まれて悲惨な末路を迎える者もいた。この作品における世界では、人間は竜をも狩ることができる地上最強の種族でありながらなお、生きていくには優れた能力と社会の中で立ち回る才覚が要求されてるんですよね。優秀でなければ、野心家の陰謀に巻き込まれ、あるいは捨て駒として消費されていくだけ。優秀であっても、上には上がいるということになれば、当初の目論見を曲げられて、思い通りには運べない。けれど、結果としてみれば、優秀であるに越したことはない。しかも自分一人の絶対的な話ではなく、他人と比べた上での相対的な話だ。幼い頃よりごく自然に悟ることとなったであろうその原理こそが、錬金術師の高みへと邁進するマリーの原動力だったとも思うのだが、とにもかくにもシビアな世界ですよホント。でも、そんな世界なのにワクワクするような夢を見させてくれるんだからこの物語はすごいんだよなぁ。

そして、思い返してみると色々あった、マリーにとって激動のこの五年間の締めくくりも、本人の人生にとってのゴールには程遠いんですよね。まだまだ先がある。まだまだ高みに至れる。この話はここで幕を閉じても、マリーの人生の物語はまだ終わらないんですよね。けど、この時点で、マリーは錬金術師としてもう稀代の傑物ですよ。一体ここからまだ何をやらかしてくれようっていうんですか。この話はこの五年間を切り取ってきただけのものに過ぎないとなれば、それはもう想像を掻き立てられるものがありますよ。エピローグにおいても希望と可能性に満ち溢れたマリーの背中は、とてつもない輝きを放っているように思えました。

色々書いてきましたが、一言で言うならば大好きと言い張れる作品でした。残り五話を切った辺りからは本当に、読みきってしまうのがもったいなく思えて、ただでさえゆったり目のペースがさらに落ちてしまって。けど、なんとか読み終えることができて、物語が本当に終わりを迎えたわけではないのだと知ることができて、それまででも既にそう思ってましたが、この作品に出会えてよかったという気持ちをより一層強くしました。
ラベル:D・W・W
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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