2019年05月26日

The Court Magician

(雑誌収録作品ではありますが、雑誌として読んだわけではなくWeb上で単品として読んだ作品なので、悩みながらもWeb小説カテゴリで)

http://www.lightspeedmagazine.com/fiction/the-court-magician/

短編作品(3160語)。ネビュラ賞最終候補、ヒューゴー賞・ローカス賞最終候補(ともに本選はまだ)。

タネも仕掛けもある奇術ではない、本物の魔術師になることを願った少年に待っていたのは、おのれの大切なもの――自分の体の一部や気に入っていた物、親密さを感じていた人――と引き替えに摂政の悩みを解くことを義務づけられた宮廷魔術師としての生だった。

願いを叶えた代償としての喪失の重さがずーんとのしかかってくる展開がたまらなかった。

残念なのは、自分の英語力が拙くて、ラストでどうなったのかまったく読み取れないこと。大人向けの作品はまだ自分にはレベルが高すぎるのかもしれない。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:24| Comment(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月18日

One True Love

(記事カテゴリは悩んだんですが、雑誌収録の一作品ということもあり、本のカテゴリではなくWeb小説のほうにすることに)

http://www.lightspeedmagazine.com/fiction/one-true-love/

「この子が真実の愛を見つけたとき、それは王の破滅のはじまりとなるだろう」と予言され、怒った父王によって塔に押し籠められ、男から隔離されて育てられた王女が、真実の愛(同性)に目覚める短編?中編?小説。百合ファンタジー的な区分にでも分類できる作品だろうか。何をどうしようと、人は愛する人を見つけてしまうものなのだという感じの話がグッドであった。

女性と女性の話であるということは読む前にすでに知ってたんですが(たまたま検索で引っかかったブログの紹介記事経由で見つけた作品なので)、そうとわかっていただけに、父王以外の男との接触を断たれた環境で育った王女という説明の時点で、あっ(察し)となるものがあって楽しかったです。けれどそのお相手が、父王が見初めて婚儀を交わすべく連れ帰ってきた女性になるというのは、ヒロインの王女を恋や愛との関わりを持たせてはならないと窮屈な環境を強いてきた父王にとってはなかなかに皮肉な展開ではあったでしょうか。そこから生じる父娘の対立は、たしかに「破滅のはじまり」となるにふさわしいものだったと思います。

短編ということもありヒロイン同士の心の交流は期待したほどではなかったようにも思いますが、設定の時点で思い描けるお約束的な展開をはずすことなく最後まで美しい女性同士の愛のおとぎ話としてまとめてくれてたのが好印象でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:01| Comment(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月30日

文学少女、夢うつつ  (作者:ヘーゼンスキー)

(リンク先R18)http://novel18.syosetu.com/n9191ce/
(改題改稿予定があるらしいですが、記事投稿時点の情報で書いてます)

またか! またこんな終わり方なのか! またしてもやってくれおった……ちくしょうめ!

『トロイの言葉』の作者さんによる次なる作品。今回の話も趣向は催眠……だったんだけど、主人公の方からヒロインにそれを施してた前回と違って、今回はもともと意識を飛ばしちゃうヒロインの体質を利用して欲望の捌け口とさせてもらう話。催眠という時点でヒロインの意思なんてお構いなしではあるんですが、それをあまり感じさせないほどに意識改変を進めていた前回と比べて、今回はヒロインの体質につけいって暗示を広げていく設定だったので凌辱してる感がかなり強い。主人公の感情もヒロインに対する好意よりも欲望が勝って見えるところとかそんな感じで。

ただ、それでもはずさないのは、行為中のヒロインが基本的に無反応であること。極度の集中からトランス状態に入るヒロインなのでその間に何をしても気付かないし、そもそも反応らしい反応を示さない。それをいいことにめいっぱいその体を堪能する主人公の様子などは、前作から読んでたこともあってさすがと思わせてくるフェチな行為の数々でした。とはいえ、ヒロインが途中で気絶しようがかまわない、乱暴なばかりの行為は、個人的な好みからはずれてたかなあとも。

それでも、前作はよかったしと思って読み進めていたら、今回もまあ……やってくれおったのですよ。というか、今回のラストは前作にもまして衝撃的だったというか。読み終えたところでどんな反応していいのかわからなくて、しばらく頭混乱してましたからね。いい話だったと素直に受け入れているところはあったんですが、それと同時にふざけんなと読んでたスマートフォンを投げつけてしまいたい気持ちもこみあげてきて。その心理をどう表したらいいのかわからなくて、その場で固まっちゃいましたもん。

その最大の理由は、主人公の自分勝手さにあったといえるでしょうね。前作でもヒロインの心理状態を改変してましたが、あちらはまだ歪んでいながらも自分たちの幸せの形を考えてはいたんですよ。けど、今回の主人公にはそれすらなかったように思うんですよ。自分のことならなんとなくでも考えるんだけど、ヒロインについてはというと、一切といっていいほどない。自分が目指す方向性にヒロインは役立ってくれるから暗示を広げて手伝ってもらうんだけど、それがヒロインの望むことであろうとなかろうと関係なし。それどころかヒロインの望みなんて省みることもなく、それが当然のことであるように思いこませ、とにかく自分の都合のいいように利用し続ける。途中から二人目のヒロインも登場するけど、そちらも同様に利用するだけ利用する。主人公に関わったヒロインたちは、これでもかとばかりに人生をねじ曲げられちゃってるんですよ。その上で、なんですよ。そうしてやってきたのがあのラストだったんですよ。もうね、他人の人生めちゃくちゃにしておいて、一人だけ希望あるように思わせる終わり方をするなんて。そんな物語、許されていいのかって、思ってもしまったんですよ。

けど、しばらくして冷静になってから考えてみると、ありだとしか思えないんですよ。上に書いたような、ふざけんなって気持ちは消えないんですが、それでも、読了直後の本当に一番に浮かんだ感想は「いい話だった」なんですよ。軽く感動しかけるくらいの明るい終わり方だったんですよ。そう思わされた時点でもう「やられた」と言うほかないんじゃないでしょうか。作者の意図はどうあれ、これほどに感情を動かされたからにはこちらの負けだと思うんですよ。また、それほどの感情を起こさせるというのは、それこそが物語の力なんだとも思うんですよね。いやはや、これまた印象に残る作品でした。

活動報告でのあとがきを読んでいても、催眠をかけつづけるとどこかしら無理が出るはずという認識が作者さんの中にはあるそうで。だとすると、前作ともどもこのゆがんだ幸せの結末は、なかなかに感じ入るもののある話ではありました。

ともあれ次回作も期待していいのでしょうか この印象がうすれた頃に読んだ方がいいような気もしますが……。どうしましょうね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 15:16| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月27日

トロイの言葉 〜いつもと同じ彼女のままで〜  (作者:ヘーゼンスキー)

(R18注意)http://novel18.syosetu.com/n5613cc/

なんという終わりかたをしてくれおった。なんという終わりかたをしてくれおったのだ……。こういう系統の話って、だいたい都合よくまとめとけば……は言いすぎにしても、最悪しりすぼみに終わっていってもまあまあよかったと思えるやつじゃないですか。それを、あのラストは……。完全に油断してたおかげで結構な衝撃を受けましたよ。

簡単なあらすじとしては、他人の認識を書き替える「トロイの言葉」という催眠能力を手に入れた主人公が、隣に住む憧れのお姉さんとその友達相手に欲望を遂げるという、ノクターンノベルズを読んでれば見慣れた催眠系のお話。けれど、一点珍しいなと思ったのは、主人公の性癖。作者名を見ればわかってもらえると思うんですが、いやらしいことをしていると感じさせずに相手をしてもらうことにこだわるというか、もっというと、まるでいないものとして扱われながらの行為に興奮を覚えてるところが、フェチを感じさせてくれて面白かったんですよね。個人的にも、エッチとは無縁の日常生活を送っているつもりなのに、それでも主人公から与えられる快感にわずかながらも体を反応させてしまう様子がたいへん扇情的に思えてですね。これは近頃なかなかお目にかかれなかった当たりだぞと、期待に胸高鳴らせたものです。ちなみにマイベストシーンは1話のゲーム感覚でのエッチでした。あれはいいものです。

そんな感じで、ほとんどエロスオンリーな楽しみかたをしてたんで、それだけにあのラストは驚かずにはいられませんでした。そのちょっと前から、予兆はあったんですけどね。催眠が日常生活に与える影響とか、ひたすら楽しいだけじゃない後ろ暗い展望についても匂わされてたはずなんですが……けど、やっぱり期待しちゃうじゃないですか。もっともっとこの夢のような時間が続いてほしいって。そう思っていた矢先にあのラストですよ。まったくもって、まったくもって……やってくれおった!

いい。とてもいい。読後感がよかったとはとてもいえないんだけど、こういう読み終わったあと、やるせないような重たい気持ちに囚われるの、すごく久しぶりで、なんというか、楽しかったと、そんな気分です。

ラスト以外でも十分堪能できましたが、ラストのおかげで一気に印象が鮮烈になった。そんな作品でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:27| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月19日

Babel (作者:藤村由紀)

(小説家になろう)http://ncode.syosetu.com/n4660bi/
(作者サイト)http://unnamed.main.jp/words/babel.html

なんといってもAct.3後半の話がよかったですね。オルティアが過去の罪を背負いつつ女王になっていく展開には心動かさずにはいられませんでした。

Act.3前半のオルティアといえば、気紛れで人を苦しめたり命すら奪ってみせていた残虐な王女でした。雫との口論を重ねながらの付き合いで心に抱える傷も見えてはきましたが、それでも非道な行いを止める気配はありませんでした。そんな彼女が女王の座に就くことを決意する。それは、王族としての順当な流れではなく、権力欲からの動きでもない。他人をいいように使い捨ててきたオルティアは、けれど自らもまたいいように利用されたあげく捨てられようとしていることに気付いてしまった。いうなれば、それは生きるための戦いの道。酷薄なままでは玉座に就いてもすぐに廃されてしまう。王として、人の上に立つ者として、民や家臣から信託を受けるに足る能力や人格の持ち主であることを示し続けねばならない。だけど、オルティアにはその土台がなかった。能力については十分なものがありましたが、それで退屈しのぎに人を苦しめて楽しんでいたという拭いきれない黒い経歴が積み重なってましたから。そこからの逆転劇ですよ。人は、どんな過去があってもやり直せるんだって、そんな可能性を見せてくれるじゃないですか。優しい物語ですよね。とはいえ、それはほとんど対抗者の失点によるものであって、オルティアとしては人々の失望を買わないようよき君主であり続けないといけないことは変わらないんですよね。以前に買った恨みが消えることはありませんから。この後の、命を狙われながらもそれを過去の報いとして受け止めつつ、けれど国のためにあれをやりたいこれも手をつけたい、だから死ねないと敢然と生きていく姿がとても印象的だったんですよね。

主人公である雫との絡みでいうと、一連のオルティアの変化を促したのはほとんど彼女でしたよね。自らの信念に関わることになると途端に頑固なところを見せる雫は、人の命をなんとも思わないオルティアとは、連れてこられた当初から衝突が絶えない関係ではありました。よく殺されなかったものだと思えるくらいに機嫌を損ねまくってましたが、引き下がっちゃいけないと思ったときの雫の気迫は並大抵のものじゃなかったですからね。首をはねるよりも、そこまでいうなら口先だけじゃないところを見せてみろと返したくなるくらいというか。この辺、今から思うと雫も絶妙な態度でぎりぎりの線上を渡ってたようにも思えますが、そうして結果を出していくうちに、オルティアからも口うるさいが一目置く友人として信頼されるようになっていったんですよね。雫としても、口論を重ねるうちに、オルティアに酷薄なだけではない一面を見るようになって。狂気に片足を浸していたような彼女でもやり直しはできるはずだと、今からでも別の人生を歩みだせるはずだと、そんな可能性を口にしだした時はおおいに驚かされましたが、瀬戸際に立たされたオルティアも、雫から後押しされたからこそ決断できたように見えるところもあって。優しい物語を導いてくれたこの二人の関係も、とてもよかったなあと思うところ。

上にも書きましたが、因果応報は覚悟しつつもよき女王であろうとするその後のオルティアは、その覚悟の裏の危うさも含めて魅力的で、その後の結婚事情とかでは短編「勿体無いの気持ち」での雫にも深く同意したくなるのです。でも本人があれで満足してるならそれでもいいかという気持ちも。

そんなこんなで。同じ世界でいくつも話を書いてるからか、数人なんだったんだろうと思えるキャラもいましたが、それも含めて別作品にも手を出してみようかどうしようかというところ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:04| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月09日

魔族の掟 (作者:ベイカーベイカー)  〜第九十一話 奇跡の起し方

http://ncode.syosetu.com/n6851t/

(「幕間 VS“虚飾を纏いし者”」以降の感想ということで)

カップル成立後のエクレシアが可愛くて仕方ない。聖務のためだけに生きてたようなエクレシアが嫉妬したりいじけたりするんですよ? これはたまりませんわ。そんなエクレシアの強さに追いつこうと、彼女の負担を少しでも負えるようになろうと、無茶したりするメイもいい感じだし、この二人の関係がすごくいいんですよね。付き合いだしたと言えるようになるまでに二人が歩んできた道がそれぞれあるだけに、それが重なり合った今ではお互い背中を支え合うようになってるの、個人的な感覚ですけど、少年マンガ的でいいなあと思うんですよ。

あと、やっぱり、このシリーズのキャラクター、特に魔術士たちは、真理への到達だったりその他だったり、自分たちの生き様を体現していると感じられるのもいいんですよね。上位の使い手ほど魔術の道に生きる者の執念を感じるのが、外法の術の業の深さを感じさせてくれます。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:02| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月28日

IMMORTAL BLOOD (作者:Allen)

http://ncode.syosetu.com/n5633q/

ゆっくり読んでたら時間かけすぎて、正直もう終盤以外ほとんど覚えてない……けど、覚えてるところだけでも。

二人の主人公に一人ずつのヒロインがいて、それぞれヒロインの方からなくてはならない相手とすがられるような関係が、それはそれで正統派と思わせるところもあっていいなあと思っていたら、途中からそれぞれダブルヒロイン体制になってラブコメ的な面白さが追加された辺りが印象に残ってます。二人目になったヒロインはどちらもまさか自分がそんな関係になるとは思ってなかったのに、主人公側から大切に想っていることを伝えられると否定できずに調子を狂わせてしまうところがニヤニヤものでしてね。後半は、一人目もそれはそれで鉄板でしたが、描写量的にやや印象が弱かったでしょうか。

ストーリーに関しては、終盤がややあっけなくも感じてしまいましたが、作者の既読のシリーズを思い返してみてもそれほど違いはなかったように思うので、たぶん細切れで読みすぎたせいだと思います。

キャラクターとして一番印象に残ってるのは煉ですね。気に入ったものはすべて自分のものにしないと気が済まない。そんなどうしようもなくわがままで強欲な性分を突き詰めて深化させた末に至った境地、現出させる世界観。あれはあっと驚かされる見せ場でしたね。であるからこそ、その能力はシリーズ最強を位置付けられてもいるということでしょうか。『資料倉庫』中の話を読むとさらに磨きが掛かってたりして、性格のことといい、まさに人の枠を脱した“超越者”という言葉を体現する男ですよね。

次いで印象に残ってるのは実はいづなだったり。バトルでそれほど活躍できる人ではなかったのですが、前述のラブコメ面でですね、からかわれ役担当で場面が多かったのはフーちゃんでしたが、たまにしかないいづなの場面で、普段はチームの頭脳役としてクールに、あるいはおちゃらけた態度を取っている彼女がはにかむ様子のギャップが実にいいものでして。誠人の装備を作る段での気合いの入りようといい、場面は少なくても一つ一つの破壊力はやばいものがあったのですよ。

主要キャラがその後の作品にさらっと登場してたりもしますし、やっぱり第一作のこの物語がシリーズの核になっているのでしょうね。設定的にも根幹をなしてますし。今は最新作の『Blade Blaze Online』と『聖女の唄う鎮魂歌』を読んでますが、煉たちやあるいは彼らを想起させる要素が出てきた時のテンションの上がり方といったらないですよ。引き続き楽しみにしていきたいシリーズですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:41| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月29日

ご主人様のお目覚め係 (作者:織川あさぎ)

http://ncode.syosetu.com/n7422bm/

やっぱりこの作者さんの話はニヤニヤできて面白いなー。美形なんだけど寝起きの残念さばかりが印象に残るシリルの侍女をしているうちに、気付けば別れたくないと思っているジゼルがいる。そんな、いいラブコメでした。ジゼルを意識しだしたシリルが、さりげなくとんでもない物を渡したりして大事に想う様子とか、お隣さん夫婦の過保護なくらいの嫁愛ぶりとか、とてもよいものでした。ええ。

お気に入りの作者さんだし、もっとあれこれ紹介するはずだったのですが……。読んでからひと月以上経ってるせいか、細かい内容をあんまり覚えてないのが悔やまれます。
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2014年01月19日

Frosty Rain (作者:Allen)

http://ncode.syosetu.com/n8111v/

最高でした。終盤の展開がストライクゾーンど真ん中というか。こういうのが読みたかったんですよという、本人でさえ気付けてなかった願望に直球で答えてくれた話でしたよ。

というわけで、さっそく感想を書いていこうと思ったのですが、いつも以上にネタバレなしでは書けなかったので、段落下るごとにネタバレ濃くしていきます。これ以上はバレしすぎと思ったらすみやかに離脱することをお勧めします。



あらすじは、ページを開いてもらえばわかりますがそれも織り交ぜつつ、主人公について触れていきましょう。主人公、氷室涼二は異能者集団ユグドラシルに一時属していながら、後に離脱した復讐者でした。ユグドラシルで培われた縁を忘れがたく思いながらも、それでも、姉の仇とわかった人物と同じグループに所属することには耐えられない、潔癖な男でした。組織を抜けた涼二が新たに仲間としたのは、同じように復讐を狙う少女と男。彼らもまたユグドラシルの一員によって、あるいは自らの体を実験道具にされ、あるいは家族を犠牲にされた人たちであり、憎悪の念に軽重をつけるのは不適切なことかとは思いますが、過去の背景だけ見るとこの三人の恨みにそれほど大小の差は生まれないように思えました。けれど、結果的には違いがありました。涼二は、心の奥底に二人を遥かに上回るほどのそれを眠らせていたんですよね。中盤まで、彼は仲間たちや幼馴染みたちとも普通にわいわいと賑やかな時間を楽しむことができていました。対人関係においてはよき兄貴分のような役割を担うことが多く、何も言わずに脱退したユグドラシルの友人たちからもいまだに信頼され続けてましたし、ちょっとしたきっかけから預かることになった静月雨音にも家族のように慕われるようになっていきました。そうなるのも頷けるだけの、悪く言えば甘さ、よく言えば仲間思いなところがありましたから。それが、いざ仇を目の前にすると、それらは上辺だけのことに過ぎなかったかのように、もっと奥底から湧き上がってくる憎悪に押し流されてしまうかのように、誰もが近寄りがたい破滅的な精神が前面に出てくるんですよね。いきなりの豹変に驚かずにはいられなかったのですが、幼馴染みの言葉によるとどうもそちらが本性であったようなのですよ。あとから思えば、仇はユグドラシルにいたんだし、身近なところにいて機会を窺うこともできたはずなんですよね。嫌うものを嫌い抜く彼の価値観は、こんなところからすでに現れていたんですね。



というところで一端切って。この話、一応いきなりこの作品を読んでも楽しめるようにできてるとは思うのですが、作者が書き続けている「超越者たちの物語」シリーズに包含されているように、根底の部分で前作『IMMORTAL BLOOD』に通じるところがあるんですよね。あれはつまりこういうことで……なんて書いていっても仕方ないとは思うのですが、一点、“超越”の設定については知っておいた方がより物語を楽しめると思うのですよ。この作品内での説明はやや薄いような気がして。ただ、あちらで“超越”に到るのって「ニアクロウ編」くらいだったでしょうか。結構そこまで長いんですよね。なのでこの場でちょっとだけ。シリーズにおける異能の最終形態だけど、人であって人でなくなってしまう悲しい階梯でもあるんですよというくらいは、知っておいていいと思います。(『神代杏奈の怪異調査FILE』は読了済み、『IMMORTAL BLOOD』は最終章を読んでいる途中での印象ですけどね)



クライマックスはそれこそ涙ながらに読んでたんですけど、雰囲気としては「総括」にて作者が書いているようにエロゲのグランドルート的な終盤なんですよね。エロゲは久しくプレイしてないんですが、確かにこういう泣かせる展開はありそうだし、好きそうではあったはずなんですよ。ホント、ど真ん中でした。



というところで、涼二の本性についてです。露わになったその精神は、それはもう極まりきっていました。虚無感と復讐の念だけが、そのすべてでした。なぜなら、この世界で未来永劫にわたってもっとも大切だったはずの人はすでに失われてしまったのですから。大切な人を失わせた世界が呪わしくて、それでものうのうと生きている自分が憤ろしくて……。仇さえ討ち果たせればあとはこの身がどうなろうと構わないというまでに振り切れた心は、たとえ負の方向であろうとも、そこまでに思い詰められることに讃嘆を禁じ得ないのです。自分にはそこまで至れない、そんな極まった精神に到る人物には虜とされずにはいられません。しかもその振り切れた心が、異能のさらなる高みへと彼を導くのですから、狂おしいほどの想いにただただ圧倒されてしまいましたね。そしてその高みへと至った能力が生み出すのは、思いが思いだけに悲しい世界で。その奔流とともに迎えるラストはもう涙を堪えることができませんでしたね。悲しい終幕と、残された希望と。もう本当に、どれだけ自分好みのクライマックスだったんだと。淡々としたエピローグも含めて完璧すぎますよと。



しかし、話がエロゲ的ということは、これは姉ルートとも言えるのでしょうか? 確かに姉さんの仇とは何度も言ってましたけど、家族の仇という意味かと思っていたら、最愛の人の仇ときたものですよ。それまでずっと慕われる兄貴分的な描かれ方をしてたのに、一皮むけてみればシスコンかよ! そしてラストまで突っ切っちまうのかよ! すげえ!
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 09:26| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年11月15日

SAMPLE (作者:日吉舞)

http://ncode.syosetu.com/n9553f/
http://www.pixiv.net/series.php?id=45203
http://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&all=34524
(Arcadiaの版でしか読んでいないので、改訂箇所があるか等ほかとの違いはわかりません)

これは純粋にそれぞれの都合がぶつかり合う人と人との関係、すれ違いがちな家族との和解を描いた話として面白かったですね。

あらすじとしては、近未来の日本で、瀕死の重傷から極秘の軍事サイボーグ化手術を受けることで生還を果たした未来(みき)が、サイボーグ技術開発計画の闇部と向き合うことになっていく話とでもなるでしょうか。舞台設定としては近未来SF。アクションの道具としてはミリタリー。話の核としては人の感情と尊厳と。

いきなりですが、かなりフラストレーションのたまる話でした。主人公の母親と、直属の上司で開発計画のリーダーたる大月女史が、未来(みき)のことを考えてなかったり、考えてもその上でいいように利用したりと、自分の都合ばかり押し通す人たちでして。未来(みき)としても親に強く出られなかったり、迷いがあったりして、戦いには勝利を収められても、中盤から辛い状況が結構続くんですよね。全部で4章あるんですけど、その半分にあたる3章4章がほとんど悩み苦しみ通しだったから、しんどいことしんどいこと。でも、未来(みき)が悩みの底に辿りついてから好転を迎えるラストは、そのギャップもあって、とてもいいものに感じられましたけどね。だからこそ、やっぱりその苦悩が一番の見所だったように思うのですよね。

その苦悩の種はなんだったかというと、大きく分けて二つだったと思います。一つ目は、サイボーグ化されたことで人間ではない化け物になってしまったのではないかという恐怖。二つ目は、自分の都合を押し通す人たちと接する抑圧感。前者はサイボーグ技術が社外秘の先端技術であることや未来(みき)自身も他人に寄りかかることをよしとしない性格であるために、なかなか他人と共有することができません。後者も関わりを断つことは状況が許しませんし、相手に変わってもらおうにも自己主張をすることで社会的な立場を築いてきた人たちなので折れてくれそうにありません。そうしてこれらがどんどん未来(みき)を精神的に追いつめていくんですね。しかもすっかり参ってしまっても、ストレス源たるこれらはゆっくり休む暇すら与えてくれません。労りもなく結果を迫り、そのことがますます未来(みき)の精神をすり減らしていく。読んでて本当に辛かったですね。

未来(みき)の支えになってくれる人物がいなかったわけではありません。杉田医師が未来(みき)の心の奥深くに踏み込む決意をしてくれたのは、何にも代えがたい希望でした。一人で何でも解決しようとする人には、弱さを見せれる人がいるのといないのとではかなり違ってきますからね。うだうだ言う杉田をぶん殴って決意を促した生沢医師にもグッジョブと言わざるを得ません。

ただ、大月女史はやはり難敵でしたね。彼女にとって未来(みき)は己の目的を果たすための道具の一つに過ぎないのですから。ひどくイラつかされる人物ですが、彼女の行動原理は複雑ではありません。それは出世欲・名誉欲といったものであり、そのために他人を利用することに躊躇はありません。相当に恨みを買っていることは確かであり、自身もそのことは知っているようです。厄介なのが、他人からの攻撃的な態度に対して、反撃する術をよく心得ていること。逆に弱みを突いたり有無を言えないように権限の行使をするなど、相手に得意気な顔をさせたままにしておかない強さがありました。暴力を使えば一矢報いれるのかもしれませんが、あとで何倍返しにもされそうな感じというか。まあ、その世界のすべての人が主人公のために生きているわけではなく、摩擦を起こすような人物も存在しているというのはわかりますが、この人は本当にどうしたらいいのかわからなかったですね。一応の決着はつくのですが、この人についてだけはもうちょっとうまく収めることはできなかったのかという疑問が残ります。大月女史の結末としてはありかもしれないけど、未来(みき)の物語における決着としてはどうなのかな的な。物語は主人公のためのものという観念に囚われてるのかもしれませんが。

なにはともあれ、心の問題が片付く契機となるのは問題が顕在化したときというか。そこまで追い詰められるからこそ本音に近い話し合いができるというか。そうして、底に辿りついてから一段一段また心の核となるものを積み上げ直していったのかなあと思いながら最後のエピローグを読むと、感動もひとしおなのですよね。

どうやら小説家になろうの方で続編もあるらしいのですよね。まあラストもこれから新生活の始まりだ、みたいな感じでしたから、あそこで切れてもいいですが、続ける分にも問題なく続けられそうで。そのうちそちらも読んでみたいと思います。

一点。未来(みき)という名前は現実にも珍しくないものだとは思いますが、一般名詞にもあるものを名前として使われると紛らわしくてちょっと困ります。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:47| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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