2019年07月28日

異世界国家アルキマイラ 最弱の王と無双の軍勢

異世界国家アルキマイラ ~最弱の王と無双の軍勢~ (GAノベル)
異世界国家アルキマイラ ~最弱の王と無双の軍勢~ (GAノベル)

めちゃくちゃ熱かった。突然に転移してしまったゲームのようでそうでもない異世界で、けれどだからこそ、その世界で出会った人々はゲームのNPCのような存在感のうすさではなく、一個の生命を持った存在として認識され、記憶されていく。であるならば、その身に降りかかる不幸は決して機械的なイベントとは捉えられず、身近な人物に起きた重大事件として、巨大な衝撃を伴って伝えられることになる。まして、平和な日本で生まれ育った三崎司(プレイヤーネーム:ヘリアン)からしてみれば、見知った人の命が奪われるというのは、受け入れることを拒みたくなるような悪夢でしかない。つい一、二日ほど前まであれほど健気に笑顔をふりまいていた少女が、無残にもその命を絶たれてしまった。その喪失感。理不尽な振る舞いに対する憤り。けれどそれ以上に、それを防げるだけの“力”があったはずなのにという後悔と怒り。それらすべてが渾然となった激情に端を発して出される復讐の号令。それはまさに、王たる者の怒り。シミュレーションゲーム世界からの転移らしい、万を超す臣民たちを前にした激情の表明、ものすごく熱い気持ちを伝染させてくれることで。

けれどそれをしてのけた主人公のヘリアンというのは、平和な日本で生まれ育った一般人でしかないのであって。まして、人を率いた経験もあるわけではない学生の身。あるのはただただVRのシミュレーションゲームで王としてプレイしてきた数年の経験のみ。それだけでこれほど心に響く演説をしてのけるのだからすごいというか。

でもそれは、なによりその演説に乗せられた感情が心の底から沸き立ってとめどないほどの身を焦がすような思いであったからで。

この世界に転移させられてきたヘリアンは社会経験のない学生の身でありながら、臣民たちの上に立つ王としての立場で振る舞うことを余儀なくされた。ゲーム世界からヘリアンともども連れてこられた臣民たちは、リアルでのヘリアンのことなど知る由もなく。けれどゲームのくびきからはずれたキャラクターたちはプログラムの制約からはずれて生身の人間のようにイレギュラーな立ち回りを見せるようになって。

ゲームの世界での記憶を持っているので、ヘリアンへの忠誠はあり、信頼して命を預けてもいる。けれどその信頼は絶対ではないのであって。ヘリアンが仕えるに足る王とはみなされなくなってしまえば、リーダーシップなんてよく知らない学生としての素が出てしまえば、その信頼はどこまで崩れてしまうかわからない。まして、ゲームでは所詮バーチャルな世界のこととしておそれることのない苦痛や死についても、ここでは現実世界のような恐怖がつきまとう。

臣下だからこそ弱みは見せられない。それでいて、仕えるべき王としての威厳や正しさを失うわけにもいかない。異世界に転移させられたことを受け入れるや、そんな孤独な苦しみに疲弊していくヘリアンの心理はとてもいいものではありまして。

けれどだからこそ、王としての崇高さにとらわれずに接することのできる、国の外の人間というのは、この状態のヘリアンにとってはかけがえのない存在ではあって。王と臣下といった絶対的な関係ではない、対等な友人のような存在に出会えることの、なんとありがたいことか。

そしてそれだけに、そんな存在が不当に害されることの、なんと許しがたく憤ろしいことか。

ヘリアンごと転移してきた都市って、今回登場してきた勢力と比べればめちゃくちゃ強力で、復讐の様相はまさに虐殺と呼ぶにふさわしい展開ではあったんですが。そこに最強もののような爽快さは微塵もなく、ただただ生かしてはおけない仇敵をひとり残さず屠らずにはいられない怒りと哀しみが同居する蹂躙戦。はたから見ればどっちが悪役かわからなくなってきそうなくらいなんですけど、そうせずにはおけない心情もわかってしまうのではありまして。

ただ、それでもやっぱり復讐では失ったものを取り戻せるわけではなくて。どれほどの力を持っていようと、覆せないものは覆せない。親近感を持った友のような人物の喪失が、王として以前のヘリアンにとって、どれほどの罪悪感をもたらしたことか。償いのために文字通り命を削って〈秘奥〉を連発する姿はもうやめてくれと懇願したくなるような痛々しさではありました。

正義をなすのが王であり、己の口にした約束は命を削ってでも果たすのが王であるというのが、ヘリアンの拙くも譲れない王のあり方であるというのが、これでもかと伝わってくる展開。ただでさえ孤独で精神的に疲弊していっているのに、身体までこんなに痛めつけてしまっては、体がいくつあっても足りるものではないでしょうよ。けれど、そこまでしても自らの思う王としての正しいあり方を貫こうとする姿は、それこそまさに人の上に立つべき者の理想像をかいま見ずにはいられない思いを抱かされてしまうんですよね。本当に、熱い気持ちを抱かされる“王”ですよ。

そして、それほどの思いが報われたかのようなラストは、もううれしくてありがたくて、こみあげてくる熱いものをとめようがありませんでした。男泣きのヘリアンのイラストが最高に素晴らしかったです。

最高に、最高に熱量のこもった物語でした。こんな物語を読んだら、好きにならないなんてありえませんよ。

そのほかにも、キャラでいえば、ヘリアンの側近であり第一軍団長のリーヴェもなかなかに気になるキャラではありまして。主のヘリアンを敬愛し、転移直後の動揺するヘリアンにいつにない身体的接近・接触をされてこちらも内心動揺しまくってる様子がかわいかったですね。人狼系種族らしく忠犬ぶりを発揮して、ヘリアンの指示や判断をあれこれ裏を考えては持ち上げてくる感じもくすぐったいような、けれど憎めない感じが悪くないところで。

前半は内向的なヘリアンの心理と持ち上げ系忠実臣下たちのキャラクターがおもしろく、後半は物語の熱量にあてられるようにして一気に読みきってしまう、そんな感じの話でした。ものすごくおもしろかったです。この一個前に上半期ベストな小説作品に出会いましたが、これもベスト級な作品でして、こんなたてつづけにものすごくおもしろい作品に出会えていいんだろうかと、幸せすぎて不安になってくるぐらい。

ともあれ、オススメできる戦記作品。ぜひ二巻以降も期待したいシリーズですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:15| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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