2019年07月11日

オペラ座の恋人(1)・(2)

オペラ座の恋人(1) (オパール文庫) オペラ座の恋人(2) (オパール文庫)
オペラ座の恋人(1) (オパール文庫) オペラ座の恋人(2) (オパール文庫)

オペラ座の恋人@ |オパール文庫
オペラ座の恋人A |オパール文庫

「私は、貴臣さんのものです。貴臣さんの、ペットのウサギですから」(2巻199ページ)

最高すぎる。最高すぎる……。読みだしたら止まらなくなった。それどころか、読めない時間にもあの場面その場面が思い出されてきたり、つづきではどうなっていくんだろうという思いが浮かんできて日常生活に支障をきたすレベルにまでなってしまった。夢にまで出てきた気がする。こんなにまでのめりこむような読書体験はどれくらいぶりだろうか。すっかりハマりこんでしまった。

ちょっと尋常じゃないくらいのおもしろさ。読んでる間、顔がにやけまくってやばいこと。ほとんどずっとにやけっぱなしになるから、30分・1時間ほども読んでいると顔が疲れてきて休憩をはさまないとしんどくなってくるとかいう意味不明なレベル。外で読むとか絶対ムリ。不審人物まちがいなし。でも読んでいるとこの物語の世界が最高に素晴らしくって、時間も忘れて雰囲気に浸りきってしまうんですよね。

この物語の魅力はなんだろうかと考えてみると、大きくはふたつであるように思えるんですよ。高級感も次元が違えばただただ呆然とさせれてしまうレベルの桁違いのセレブ感と、そんなお相手に選ばれたのが普通の女子大生であるという不釣り合いさから生じる歪さを抱えたふたりの関係性と。

物語の主役となるヒロインは、クラシック音楽が大好きな普通の女子大生・鳴海結花。お相手となるのは、ひと回り以上も年上で世界的な企業の御曹司である独身貴族・久世貴臣。普通に生活していれば出会うこともなかったはずのふたりが、同じクラシック趣味の日本人同士、ベルリン国立歌劇場の公演で偶然に席が隣り合ったことから関係がはじまっていく物語。

この作品、セレブのディティールがかなり具体的なんですよね。身につけているもののブランドや高級な食事のメニュー、ラグジュアリーなホテルの様相など、自分には縁遠くてピンとこないものばかりなんだけど、具体名を出して描写されるとそれだけでなんだかすごいものという気がしてくる。一つひとつはまるで呪文のようなんだけど、ずらずらと並べ立てられることで脳裏に浮かびあがってくるイメージは燦然とした格の違いを伝えてくるようで。

しかもお相手が桁外れの御曹司なものだから、実家の応援も相まって平然と超高級品をこれでもかと繰り出してくること。ホテルでのVIP待遇のなんたるかを体験させられるわ、文化財クラスの着物が出てくるわ、普段の食事がまずく感じられるほどの食べ物の味を覚えさせられてしまうわ……。おまけに、諸事情あったとはいえ大学受験に失敗したことで抱えていたコンプレックスも、日本の大学なんて目じゃないレベルの貴臣の学歴を示されればなんだかどうでもよ思えてきてしまうという。

ここまでくるともう笑っちゃうレベルというか。普通の女子大生である結花が肩身の狭い思いをするのもわかる。いちお、派手派手しいものではなく落ち着いた品のいいものを選んではいるようだけど、よく見ると実はすごくいいものであると他人の指摘で知らされるのは、ひと目でわかる高級品を贈られるよりインパクトが強いんだよなあ。

貴臣と付き合っていくうちにセレブなお友達やお知り合いもできたりしてるけど、みんなそれぞれに強烈だからとんでもない。読んでるうちにだいぶ自分の中での「リッチ」の感覚がずれてきたような気はしてるけど、でも周りの人の話を見てる感じ、貴臣さんまだ本気を出してはいないみたいなんですよね。もともと金に糸目はつけてないけれど、慣れない結花を驚かせすぎないようにだいぶ加減してるっぽいというか。そんなところでも桁違いのセレブぶりを感じさせてくれるからやってくれること。

けれどその一方で、住む世界が違うレベルでの貴臣のセレブぶりを実感すればするほどつらくなってくるのは結花のほうであって。

はたから見れば、目も当てられないほどの溺愛ぶり。数多の女から好意を寄せられながらもそれをうっとうしくはねつけていた氷の独身貴族がついに恋人を見つけた、過労死も危ぶまれていた仕事人間が仕事もそっちのけにしかねないほどのお気に入りぶりに逆に悩まされることになったなんていう実家周辺のコメディカルなやりとりにも象徴されるように、わりとすぐに結婚一直線なほどのイチャイチャぶりになってはいるんですよね。

けれど、その最大の難関は結花のほうであったという。

最初は貴臣がどこの誰かわからなかったからこそ、異邦の地で会った同好の士でありかつ互いにいいなと思いあう男女として、思いきって一夜の関係を持ててしまったりもしたんだけど、彼が誰だかわかってしまうと途端に一歩身を引いてしまわずにはいられない。普通の女子大生である自分が隣に立てる相手ではないと思えてしまう。それでも彼に引っ張り出されて逢瀬を重ねるにしても、おもしろおかしく噂にされるのを避けるためには人目をはばかる関係にならざるをえない。そうしてできあがるのは、表面的にはセレブな彼の愛人以外の何者でもないという関係であって。

結花本人としてはそれでもかまわないと思ってはいる。もともと釣り合わない相手だと思っているから、彼がそばに置いてくれるならその関係はなんだっていいとも思っている。彼がいつまで自分を気に入っていてくれるのかだってわからない。でも貴臣に愛されていれば、貴臣に愛される自分でさえいられれば、そこに何物にも代えられない幸せを感じることができる。

なんとも歪ですよねえ。お互い相思相愛で、貴臣のほうは結婚だってじゅうぶん意識している。けれど、結花のほうがその未来を期待していない。むしろ必死になって否定してさえいる。自分はただ気が向いたときだけ貴臣に愛されるペットのウサギでいいと、貴臣相手だけでなく口にしさえする。この切ないほどの想いがたまらない。ジャンル的に現代ものであるはずなのに、ある種の主従ものめいた感覚すら感じられてしまう関係性。こんな、こんなの大好きに決まってるじゃないですか。

そのうえ、そんな関係でセックスだってしてしまうからもういろいろとやばい。体を重ねる行為だって、貴臣がまったくの初めての相手だったというわけではないけれど、これっぽっちも知らなかった感覚を次々に教えこまれ、貴臣相手にはすぐにその気にさせられてしまう体にさせられて。今だけ愛してくれればそれいいからと刹那的なまでの快感に奉仕することに喜びを見出したり、焦らすような責めに耐えられなくなってささやかれるがままに(むしろそれ以上に)いやらしい姿態でのおねだりを意識することなくするようになっていたり。愛する人に開かれ塗り替えられていく快感ですよね。

お嬢様学校の出身ではあるけれど本人としては取りたててお嬢様という育ちでもなく、ただ他人よりクラシックが好きというだけの純粋な女子大生だった結花が、別世界の住人であるかのような貴臣に出会って愛を知り、香水をつけることを覚え、お酒の味を知り、愛を交わす幸せを知り……。本人はあまり気づいてないけれど、極上なまでの御曹司によってすこしずつ引き立てられ、美しい女へと磨き抜かれていく変化の過程を見ていると、この先の展開がものすごく楽しみになってくることといったら。

帯の惹句の「運命の出会いはベルリン――」とか「極上の男に躾けられる快感」とか、買う前に見かけたときはあんまりピンとこなかったんですけど、この1・2巻を読み終わった後で見直してみると、ものすごくしっくりくるフレーズに感じられますね。

あと、この作品、600ページというページ数も関係ある気がするけどそれ以上に、もとがWeb小説だからか、一冊のうちに山場的な盛り上がりを感じる場面がいくつもある。章的な区切りの入る部分はほとんど盛り上がって終わるというか、読んでるこちらの感情曲線を振り切るようにして小休止を入れてくる感じがものすごくよくって。上げて上げていったん幕、みたいな感じになるからもう次が気になって気になって、でもちょっと休憩ほしいみたいな心地いい疲労感を何度も感じさせられる読書体験という、なんとも素晴らしいひとときを楽しませてくれること。

特にベルリン。貴臣とイチャイチャして、セレブなお友達とワイワイして、貴臣とイチャイチャして……。ひたすらに幸せいっぱいな時空が展開されっぱなしなものだから、にやにやさせられっぱなしで、そのうえで場面の区切りは思いっきり後を引く余韻を残してくれるような感情の振り切りをしてくるものだから、何度放心状態に陥らされそうになったことか。

控えめに言ってやばい。普段ならとりあえず同月刊行の本はまとめて読んで、その次はまたダイス振ってその目が出たとき読むかという流れになるところなんだけど、ちょっとこの作品へのハマり具合は尋常ではないので、もうこのまますぐに3・4巻に突入する所存。その前に、取り急ぎこの感想だけ書いて投稿しておきます。

ただし、本の感想は前に読んだ本があってこそ次の本の感想があると思っているので、いずれこの本の前に読んだ本の感想が書けたら、ブログの投稿日時か公開日時かをいじってそちらの後ろに移動させる予定。

(以上、6月3日)

――――――――――――――――――――

(以下、7月11日)

予告通りに順番入れ替えを行おうとしたんですが、あらためて感想を読み返してみると、どうにも記述が漠然としてるというか、あの場面、この場面、いい場面がいっぱいあったにもかかわらず、これでは思い返す役にも立たないので、もう少し追記してみることに。

ただし、一冊で話に区切りをつけつつなんて考えられてないだろうWeb小説の書籍化なので、1・2巻でまとめての感想を書くというのが個人的に難しく。なので、読み返しながら、ここと思った端から書き出していく感じで。


まず、なんですけど、この作品、出だしの場面からして引きこまれるものがあったんですよ。羽田の空港で流れるおしゃれなアナウンス音声からはじまって、観光よりも仕事でその場を行きかう人々の様子が記され、それから、そんな人たちに混じって海外へと飛び立とうとするヒロインの姿が描かれだす。これだけでもう期待感を高めてくれるに十分なハイソな雰囲気が伝わってくること。

ヒロインは上流階級の出身ではないけれど、そんな雰囲気とも相性抜群のクラシック音楽やオペラ観劇の趣味は筋金入りなのが伝わってきて。曲名とか、()で補足されるくらいの略称をバンバン使ってくる感じはとても通っぽい。そして、そんなところからも感じ取れる、念願のヨーロッパ旅行(遠征と言ったほうがニュアンスは伝わるかもしれない)に出かけるワクワク感がその雰囲気と合わさると、こちらまで浮き立つような気持ちにさせられる、そんな素敵な冒頭でした。

ダメ押しでファーストクラスの様子(by貴臣)も描かれるものだから、いやでもテンションが上がるというもの。自分、どうもこういう、ハイソな感じというか、エリートな感じの雰囲気、好きみたいですね。この作品の場合、それがシリーズ全体にただよってるわけなので、やばいことやばいこと。

そして、ベルリンの国立歌劇場でふたりが出会い、同好の士として打ち解けたところで出てきたセリフがこれでしたね。

「……あの、もしかして……、ちょっと夜食に女子大生でも食べてみようかなとか、思ってますか……?」(1巻22ページ)

後々においてもそうなんですけど、結花さん、基本的には初心で恥ずかしがりやな女の子なのに、たまにすごく大胆になる瞬間がありますよね。この場面だと、シチュエーション的に完全に男の前に据え膳出した格好なんですけど、本人たぶんそこまで深く考えてはなかったんじゃないかというか。思い切って一夜の関係を持つのに勇気を使いすぎて、そこまで気が回ってなかったのではないかという気が。

でも、これがあったからこそ、ハマりこんでしまうような魅力に満ちあふれたセレブな恋愛物語を楽しませてもらうことができたのであって。それを思うと、結花の勇気にいっそ拍手さえ贈りたい気持ちにさせられることで。

1巻の表紙絵は、この場面ですね。貴臣の膝の上に腰かけて、見た目的にも自分の体を差し出した格好。

ここであらためてふたりの初めてを読み返してみると、最初かららしさ全開の関係性だったんだなあと思わされておもしろいものがあったり。初心な結花の体に快感というもののなんたるかを教えて、快感が募っていく感覚にこわくなってくると(後にはもどかしくなってくると)焦らして自分からさらなる刺激をおねだりさせて、真っ赤になりながらそれでも我慢しきれず懇願してきたところで煽られた欲求を上乗せして悪い子の体を味わい尽くしにかかる感じ。

このシリーズにおける行為描写のうまいと思う部分は、この、男の欲求が煽られる瞬間をしばしば描いてくれるところにあると思うんですよ。ただ体を重ねていれば、絶頂に達していればエロいかというとそんなことはなく。理性が吹き飛んで欲情や快感に押し流される、その瞬間のぐらっとくる感じのエロさというのは、読んでいるこちらまで当てられてしまいそうな魔力のある一瞬だと思うのです。

それをもろに被る貴臣としては、思いがけず部屋に連れこむ形になってしまった結花から誘いまでかけられて、どうしたものかと頭を抱えかけてた当初の様子もどこへやら。一度どころかたっぷりと「夜食」を味わわずにはいられない気持ちになってしまうのもうなずけようというもの。いやまあ結花に煽るようなこと言わせたのは貴臣自身なんですけど。そりゃこんなプレイばっかりしてたら貴臣さん、毎度のごとく年甲斐のないがっつきぶりを発揮することになってしまいますわ。

そして事後の朝にツヤツヤしてる貴臣に対して、ぐったりしてるけどゆっくり休んでもいられなくてお眠な結花という、これもこの後に何度も見たような記憶のある構図も最初のころから。ほんとこれ、社会人というよりも学生のそれではという気が……。これはこれでなかなかいいものではあるんですけど。


第二幕になると(正確にはその前奏曲から)、舞台は移って日本。ここでふたり以外のキャラクターが何人も登場してくるんですけど、結花との逢瀬にウキウキな貴臣を見る秘書のリアクションがまずめっちゃ笑わせてくれるのでして。

ハイスペック・ハイステータスすぎていたるところで女に狙われまくって嫌気がさした結果、ここ最近は周りから心配されるくらいに女っ気のない生活を送っていたという上司が、ひと回り以上も年下の女子大生相手に甘ったるい声でご機嫌を取っているのを見たら、そりゃまあ人が変わったのかと驚愕もしようというもの。秘書の運転する車の中で甘いやりとりをはじめる貴臣も貴臣なんですけど、そんな上司の姿に気味の悪いものを見るような目で心中ツッコミ入れまくる野元も、たいがい失礼なやつだよねという。

そしてここからが貴臣の住む世界の違いぶりが結花の面前にまざまざと現れてくる話でもありまして。ベルリンで会った彼がどんな人物かと調べてみれば、世界的な企業の創業家の直系にして、グループの会社で役員を務めるというエリートぶり。デートをするにも運転手付きの車で迎えにあがり、超高級ホテルでVIP待遇を受けながらとなるほどの上流階級ぶりをいかんなく見せつけられるんですよね。

貴臣本人としては、結花を委縮させたくないためにあまり仰々しくしたくはないんだけれど、ビジネス界での知名度・影響力的にあることないこと噂の種にされることを避けるためには致し方のない措置であるというのがポイントで。これはどちらかというと貴臣よりも結花を護るための措置ではあるんだけども、それでもそんな配慮が必要になってくる関係というのは、一般人にはプレッシャーを感じるなというのが無理な話でありまして。その意味で、ふたりの関係性がこじれていくのは必然ではあったでしょうか。

でもそのVIPな待遇それ自体は、すごくセレブ感にあふれてておもしろかったんですよね。読者としても、別世界をのぞき込んでいるような気分になれるというか。特別なお客様のための特別待遇の、なんと快いことか。なんだかプチ旅行気分にでも浸れるようではありました。

そしてそんな超高級ホテルでの密会のご様子としては、人目をはばかる「密会」という状況も手伝ってか、初めて体を重ねたときと比べて段違いにいやらしい雰囲気がただよっていたのでもありまして。

口移しでお酒。とてもアダルティーですよね。最初は互いに舐めるように。くちびるに、舌に、口内に、残るウイスキーの味を楽しむように舌が這わされ、食んで吸われ、酔いと快感でとろりと表情がとろけてきたところで、たまらなくなってどちらからともなく行為に移っていく。愛を交わすというよりもただただ快感を求め合うかのような流れが、まだ二度目なのにと思うととてもいやらしく思えたことで。

しかも、結花さん完全に酔いが回ってるから、羞恥心なんてどこへやら、貴臣に促されるまま自分で快感を探って、それどころか無意識のうちに自身の内に納めた貴臣を煽りたてるような動きを見せたりもして。経験豊富な貴臣をして余裕のない声をあげさせる魔性の片鱗ぶりを見せつけてくれたとでもいえるでしょうか。これまたぐっとくる場面でございました。

あと、このころから、貴臣によるプレゼント攻勢もはじまってたんですね。デートのときのお酒や紅茶をはじめとして、服やバッグなんかも贈られたりして、気づけば身の回りに貴臣やその周囲から贈られたものがあふれていき、塗り替えられていくという。囲い込みの第一弾というか。その変化が起こる以前を知る友人の目に映る変化の様子が生々しくていいですよね。

そしてそんなこんながあった話の中で飛び出てきた貴臣さんの名言(迷言?)がこちら。

「気にしないでいい。あれはヒトではない、秘書だ」(1巻146ページ)

こんな傲慢なセリフが気取ることもなく飛び出してくるのが貴臣であって、けれどこんなセリフも似合ってしまう選ばれし人間なのも貴臣であって。結花に対しても、人に命じることに慣れた様子で指示を出す姿はまさに支配する側の人。それがさまになっているからこそ、出される指示が的確であるからこそ、だんだんとそれに従うことがなによりの選択だと思わされてしまう支配者気質の持ち主。

……なんですけど、これはさすがにシチュエーションがアレすぎますよねというところ。あー、貴臣様、困ります! 車運転してる秘書の視界の内でいちゃつきだすのは、あー! 事故が起こりかねません、困ります! 結花のほうだって、そんな気にするななんて言われても、全然安心できませんから!!

さて、この作品、幕のラストとか前奏曲とかでわりとシリアスな展開をぶっこんでくることが多かった気がしてるんですけど、その最初の象徴的なひと幕は第三幕の前奏曲だったでしょうか。

結花と貴臣の関係、住む世界が違いすぎて、連絡先がわかっていても、結花のほうから連絡を取る気にはなれないほどに気後れを感じてしまう、忙しく働きどおしている貴臣の邪魔をしてはと思うと必要以上を求めることはおそれおおく感じられるほどの立場の違いが立ちはだかる間柄。

とはいえ、それでも結花としては貴臣とのつかの間の逢瀬を楽しんではいたんですよね。ひと目で惹かれた相手ではあるし、求められることにはうれしさを感じられる。それまで見たこともないような高級な世界のそれこれも、貴臣といっしょに体験するなら楽しく受け入れていくことができる。

貴臣としても、必要以上に遠慮はしない、引き替えに何かを求めてもこない結花と過ごす時間に安らぎを感じていた。年齢的にはちょっと離れているけれど、ほかの誰にも代えられないお似合いのふたりと、この時点ですでに見えていたんですよ。実家のほうもおもしろおかしくしつつも歓迎姿勢ではあったし、最短ならこのままゴールインもありえるように見えた。そのはずだったんですよね。

にもかかわらず、そこで厄介な仕込みをぶっこんでくるからたまらないわけでして。ひそやかにではあれどよろこびに満ちた逢瀬を重ねていたふたりのうちの結花のほうの心の奥深くで、自分なんかがいつまでもこんな幸せを味わい続けられるはずがないという、まるで呪縛のような気持ちが芽生えていく。

ふたりの住む世界の違いを思えばわかるものはあるし、こういう内向きに沈んでいくタイプの心理は大好きなものではあるんですけど、ここから関係性がいびつにこじれていったことを思うとどうしてこうなったと頭を抱えずにはいられませんね。いやまあくりかえしいいますけど、こういう、いい子を演じながら心の痛みにひとりそっと蓋をしていく展開は本当に大好物なんですけれども。


第三幕では、それがさらに加速する。

結花と貴臣の関係は、すくなくとも日本では、おおっぴらにはできない。なぜならそれは、ふたりの住む世界がまるっきり違っているから。貴臣本人には隣に立つことを許されても、周りがそれを許してはくれない立場なのが結花だから。言葉にはされずとも理解できてしまうそれを、はっきりと突き付けられるとなれば、どれほどのショックを伴うことか。それは貴臣になぐさめられてもすぐに気分を入れ替えれる程度のものではなく。けれど、ふたりがまじめにその壁の向こうに進んでいくことを望むなら、避けては通れない問題でもあるんですよね。

ただ、そんなときであるにもかかわらず、いや、むしろそんなときであるからこそ、夜の場面はより一段といやらしさを増して感じられるからたまらないのでして。気後れしてしまうほどの立場の違いを一定以上に痛感しだしたことで、リードする側とされる側、導き導かれる関係はさらに一歩進んで、快楽を与える側と与えられる側、ペットと飼い主の関係へと移行する。

ここにいたると、それまででさえエロさにあふれていたふたりの関係に、さらに倒錯的な雰囲気がまとわりついて、めちゃくちゃにいやらしい場面が目の前で展開されること。足にアンクレットという名の鎖がつけられ、首にはネックレスという名の首輪がつけられ、背には鬱血痕がつけられ。目立たない部分からではあるものの、結花の体のそちこちに所有の印がつけられていく。

それは貴臣による結花への欲望の証であり、束縛と独占の証でもある。結花だけでなく、貴臣のこの執着心の強さも健全とはいいがたいものを感じる部分ではあるんですけど、結花からしてみればそれは飼い主からの寵愛の証であって。それに心の底からうれしそうな表情を見せてくれるものだから、男の側はまたたまらない気持ちにさせられるところであって。

セレブ感が見どころの恋愛ものだと思ったら、ずんずんソーニャ文庫もびっくりな歪んだ関係性に入りこんでいくことといったら。もうね、やりました! こういう展開、大好物です! と、ひとりガッツポーズしそうな勢いで、ページをめくる手が加速していくこと。

一般的には引かれそうなプレイであっても、貴臣にされるものなら恥ずかしがりながらも受け入れて、与えられるがままに快感を受け取ってしまう結花と、そんな結花の快感に対する正直さやそうして快感に浸りながらも一心に自身を求める健気さに欲望を煽られる貴臣という組み合わせもあって、一度倒錯的な方向に進みだしたらふたりだけでどんどん転がりだしていってしまう様子は、ふたりの相性のよさのいいところというか悪いところというか。ちょっと悩ましいところではあるけど、これがまたいいものでして。

なんといっても結花って、このあたりから大人の階段を一段また一段と登っていく様子が折に触れてわかるようになってくるものだからたまらない。それはエロい方面に限ったことではなく、むしろそれ以外の面で、貴臣と食事をしながらすこしずつお酒の味の違いを学んでいき、貴臣に贈られた香水によって愛らしい香りをまとうようになり、世間知らずな女の子として素直なかわいらしさが目立っていたその表情にはときに憂いの陰が差すようになり……。気づけばすこしずつ大人っぽさを身につけていくものだから、だんだん目が離せなくなっていくことで。


そんな空気で短編集のベルリンの章に突入するわけですが、この章は既述の通り、東京での重苦しさから解き放たれて、どこからどう見てもお熱いカップルぶりを見せてくれるんですよね。ペットと飼い主の関係はさらに明確化された感がありますが。でも、そんな関係でもふたりの様子はなんの不足もなく幸せそうで。この章は基本的に読んでいて本当に楽しかったですね。

シリアスな先行きの心配をすることもなく、ヨーロッパのそちこちの歌劇場や市場へデートに出かけ、滞在先のホテルでは何度となく朝晩愛しあって。そんな生活を、結花の大学二年の冬の最後の講義が終わった翌日から、三年の春の最初の講義がはじまる前日まで、二か月にもわたって、並みの文庫の一冊分も使って延々と見せつけてくれるわけですよ。これもうただのハネムーンかな? 最高でした……。

しかも、それだけの期間が描かれるわけだから、いろんなイベントが発生するわけですよ。貴臣始点だったり、結花始点だったり。けれどそうした何もかもがふたりの関係をさらに深くして、結花をさらに成長させていく。この前後を思えば本当に理想的な時間だったと思います。そりゃあ出会いの地であることに加えて、ひときわ思い出の地にもなりますよね。

まあ、着いて早々朝っぱらからいやらしい行為に及んでいるのはちょっとどうなの貴臣さんと思わなくもないですが。でも、空港で熱烈なキスを交わしているうちに顔も体もとろとろになっていく結花さんというのは、相当にそそられるものだと思うので、わからなくもな……いや、やっぱりアカンでしょ。

追記分の冒頭部と合わせて思うのは、このシリーズ、作中における外国語の扱いがうまいなあというところ。うまいというか、好みに合ってるというか。フランス語とかドイツ語とか、もろにその言語でつづられると理解できなくなってしまうところはあるんだけど、それでも伝わってくるのは、そうした言語に精通し流暢に意思疎通できるキャラのエリート感。そして高級な(イメージのある)言語が作中の随所で登場することによる、作品全体の雰囲気に与えるおしゃれで洗練された空気感。特定の人だけで通じ合う言葉で秘密のやり取りをしたりとか、いかにも洒脱で好みのツボを押さえまくったような雰囲気ですよね。

そして御登場するセンチュリオンのブラックカード。これをポンと渡してくる貴臣さん、すごすぎる……。さすがに無駄遣いできないように制限もされてると言うけれど、むしろその制限のかかる項目のレベルが高すぎて、金銭面での住む世界の違いが理解できてしまうからもう笑うしかない。

登場といえば、カレンの登場もここ。ベルリンの章に入る前に現地でできた友だちにふりまわされているという記述はあったけど、どんな女の子かと思ってみれば、結花からすればやっぱり住む世界が違うレベルの資産家のご令嬢であったというからびっくり。日本での唯一の友だちである絵里もなにげにお嬢様ではあったけど、結花さん、なにかそういう層の人たちを惹きつけるオーラでも発してるんでしょうかという。

貴臣の姉である千煌さんもこの章。千煌さん、本当にいいキャラなんですよね。綺麗で、かっこよくて。「姉がいるというのも悪くないものだ」(1巻533ページほか)とはまさにその通りの独白。貴臣にとってほとんど唯一といっていいくらいに頭が上がらない存在。名家に生まれて海外の社交界を渡り歩き、磨き抜かれた気品を備える凛とした美女。けれど結花にとっては親身になってくれる大人の女性でもあり、貴臣の姉ということは義姉になるはずの人なのでもあり。そんな結花との関係を見るにつけても、姉がいるというのはやはりいいものですよねというところ。

そんなセレブな人たちとの出会いを通して、絵里には高校出たてのあか抜けなさをそれなりのところまで引き上げられたというし、貴臣もなにかと甘やかす、という言葉では伝わりきらないほどのスケールでなにくれと世話を焼きたがるし、カレンも日本好きの女の子として日本人の友だちを引っぱりまわして自家用ジェットまで持ち出してあちこち連れ立たせてみたり、千煌は千煌で貴臣とすら対峙しうる存在として結花の庇護者を自認しだしていったりと、上流階級の人たちに愛される存在としての結花の様子がうかがえて。

本人としてはやたらパワフルな彼ら/彼女たちに一応の抵抗は示しつつも流されるままになるほかない境地なんでしょうけど、でもそうしてかわいがられてる姿は、やっぱりかわいいですよねという。

「結花に家事能力はない」(1巻390ページ)と、地の文でいきなりdisされてたりもしたけれど、ここで唐突に、世の中には二種類の人間がいると思うわけですよ。ヒロインの家事能力の高さに高得点をつけるタイプと、逆にその低さに高得点をつけるタイプと。そして、あえていうならば自分は後者であるということで。そんなエピソードにもいいものいいものとにやつかせてもらったり。

ことこの点に関しては、貴臣さんもどうやら類似の嗜好の持ち主らしく(?)、飼い主に失望されないかとびくついていたところになけなしの家事能力を発揮することを求められて涙目になっていく結花をながめて目を細めている様子に、いいご趣味ですねとひとりうなずいてみたりするのもいいものであり。

桃の香りの香水も、ベルリンにいる間にすっかり結花を象徴するアイテムになりましたよね。結花といえば、愛らしい、おいしそうな香りをまとった女の子といった具合に。もとはといえば貴臣から贈られたものであり、貴臣としては自分の証を結花にまとわせる行為の一種。けれど結花にとっても、それは貴臣から与えられた寵愛を身にまとう行為の一種であって。その匂いをただよわせていることがすなわちふたりの結びつきの象徴にもなるという、なんとも思い出深いアイテムになったことで。それゆえのすれ違いもあったりしましたが、だからこそに感じられる思い入れもあり。いいですよね。

一方で、一度傾きかけたペットと飼い主の関係が、決定的に強化されていったのもこの章ではありまして。熱く愛を交わしまくるふたりではあったけれど、そんなふたりきりで過ごすベルリンでの時間というのは、観劇の時間を除けば、恋人同士がともに同じ時間を過ごす穏やかで心地いい時間よりも、貪るように体を重ねたり快感を通して所有の関係を確かめあう時間のほうが多かったように思うんですよね。

当人たちの自覚はともあれ、恋人同士ならセックスしたりもするでしょうというのはいえることだと思うけど、それにしたって愛をささやき合うよりも快感を求めあう時間が勝ってた印象になるのは、まだこの段階では何か違うんじゃないかという気がするというか。いやまあそれはそれで好きなんですけどね。がっついた関係、いいですよね……。

ただ、それはともかく、貴臣としては、住む世界が違うことを思えば恋人という関係性を受け入れさせるのにもそれなりのステップが必要と考えてたのではあるだろうけど、その後を思えばやはりこの段階でもっとステップを進めておくべきだったかなとは。

表面的にはふたりで楽しく満ち足りて過ごしてたように見えるけれど、いっそ婚前旅行気分の貴臣に対して、いつ終わりを迎えるかわからない関係でありその原因は自分の恋人としてのつり合わなささにあるとして自虐的なまでの思いを成長させていく結花というすれ違いが水面下で進行していたのがわかるのは、割と手遅れになってからなのでありまして。

これも、ぶっこんできたのはベルリンの章の終盤なんですよね。とても楽しいハネムーン旅行記をどうもありがとうございました、と思っていたら……ですからね。結花だって貴臣と楽しく過ごしてたように見えていたのに、どうしてこうなった、どうしてこうなった……と、頭を抱えずにはいられませんでしたね。

まああとから思えば、結花のほう、いつフェードアウトしても構わないように、関係性の継続の可能性を探るよりも即物的に求められることにこそうれしさを見出していた感があったとはいえるでしょうか。そしてそんな結花を前にすると、貴臣としては年甲斐もなく旺盛になって流されてしまわずにはいられなかった面も否定できなさそうな。となれば、「夜食」に夢中になってた貴臣の落ち度ということもできそうな?

まあでも、その深刻さを周りで気づいてる人はいても指摘する人は誰もいなかったようなので、後々致命的な事態に陥るのもしかたないことだったのかもしれないということで。

いや、でも、乱暴にされるくらいに求められるならむしろその方がいいって思考の結花の誘い方は本当にやばかったと思うんですよ。いっぱいいじめてやろうという気でいたら優しく甘やかしてやりたい気にさせられて、優しくいたわってあげたい気になったところでいやらしい行為を懇願される。男の気持ちの振りまわしかたが半端なくて、優しくていたわりのある大人の仮面をかぶっているのがばからしい気持ちにさせられることといったら。

けど、貴臣も貴臣で、優しい大人の仮面をかなぐり捨てたうえで、そんな悪い子におしおきをするように、結花のさらなる色気を引き出すことにかけての手管の優秀さを見せつけてくれたりするのでして。それに羞恥を覚えずにはいられない結花の様子もあって、そんなふたりのプレイときたらとてもエロティックな光景でありまして。そのうえで体の疼きをこらえきれなくなった結花に自分からさらなる刺激をおねだりさせたりなんかするものだから、そりゃまあ貴臣のほうも我慢がきかなくなってしまいますよねというところ。いやもう本当に最高な流れですよ。

そして体を重ねるごとに増えていくキスマーク。このころから標準装備になっていったんでしたっけ。おそろしや……。

それにしても久世家のプライバシーのなさよというのを象徴する使用人たちのやりとりもあったりして、自分のあずかり知らぬところでプライベートな場面が漏れてる結花の気持ちはいったい……というところでもあるんだけど、その一方で、使用人や秘書の目から見た、それ以前を知るからこその、貴臣の常軌を逸したまでの浮かれぶりがつづられるのも、またそのたびに笑わせてもらえるものがあって。やっぱりたいがい失礼なんだけど、第三者目線から見て、気味が悪く思えるくらいの溺愛ぶりが伝わってくるというのは、それはそれでいいものであり。

ベルリンにいる間、何度も体を重ねて、そのたび新しいシチュエーションが描かれていくわけだけど、それが毎回新鮮なエロティックさを提供してくれるのもまたすごいところであり。

夜にして、寝たと思ったら起き抜けにもまたしだすのは、本当に若すぎると思うのだけど、でも誰のせいか朝に弱い結花が、ねぼけていつもの恥ずかしがる様子もなく素直にもっとと快感をねだる姿は、貴臣ならずとも逃すには惜しいと思わせるものがあり。ただ、その……ですね、貴臣さん、だからといって、おはようの挿入はさすがにドン引きものですよという。いやまあ、起きて早々の快感に、わけもわからないまま一気にのぼりつめて息も絶え絶えになる様子が最高にそそるのは否定しませんけれども。

ロンドンでの衝撃的な一夜でも、激昂する貴臣におびえながらも、それでも懸命に飼い主に奉仕する姿はいじましい淫靡さを感じさせて、それでいてどれほどひどくされても貴臣に与えられる快感には反応を示さずにはいられない体の素直さはいとおしいほどのいやらしさに満ちていて。

まあさすがに貴臣も冷静になったところで反省してくれたのではあるけれど。仲直りはしっかり甘々で、けれど外野の仕込みによる意趣返しのような趣向がたいへんに秀逸な焦らしプレイだったからたまらないのであり。お預けにお預けをくらわされたうえで、くすぐったいくらいの愛撫をこれでもかと施されるというのは、貴臣にとってはなんと拷問的な仕打ちであることか。そうしながらの結花の態度がいつになく甘えたであるからなおさらに焦らされている感がやばい。裏で某人ともども笑ってしまうよねという。まあ最終的にはいつも通りになったんでしょうけど。

けどその一方で、特典SSでその凌辱的な行為から発展させたプレイをちゃっかり習熟させていってるのを見せつけられると、転んでもただでは起きないというか、ちゃっかりしてるというか、もうどんなリアクションをしていいのやらというところ。しかもそれが純粋に快楽を追求する行為、描写になっているものだからぞくぞくするような官能的な場面になっていて。あんな行為すらもお楽しみな記憶によって上書きされていくのなら、もうなにをかいわんやというラブラブぶりであることで。

というか、これに関しては、貴臣さん、その場であれこれと意味不明な理屈を並べては結花に恥ずかしい行為を覚えこませるの好きすぎるでしょうとツッコまざるをえないところ。そして、逆らわずに貴臣の要求通りの痴態を取る結花の姿というのは、隠しえない恥じらいもあいまって、とんでもないポテンシャルを見せつけてくれるのであって。そりゃまあ貴臣もいろいろ教えこみたくなって、その手の知識はなにもなかったはずの結花がどんどんいやらしく育ちあがっていくことになるはずですよという。


そんなこんなでいろいろあったベルリンも、終わるときにはさっさと終わって2巻からは第四幕がはじまっていくわけですが、その前奏曲でさっそく入るは絵里による外見チェック。二か月、ベルリンで貴臣とべったり過ごしてから帰ってきて早々に、上から下までさっと目を通しただけでも見て取れてしまう、容姿や服装から雰囲気までいろいろと貴臣好みに塗り替えられてきた結花の様子が生々しくていいですね。

服はわかりやすい派手さはないものの質の良さがばっちりわかる高級品。おまけに首には、行く前にはつけてなかったはずのネックレスという名の首輪が下げられていて。確実に女性としての魅力を身につけつつある結花に対して、明確に誰かのものであることを見る者に宣言する、独占の証としてのアクセサリー。

そんなものを、これ見よがしにぶら下げて、絵里から指摘されればさっと顔を真っ赤に染めてしまう結花。これは、うん、首輪つけておかないとなんて、ベルリンで過保護ぎみに心配してた貴臣が、実は正解というか。セレブの世界ではまだまだかわいらしい女の子にすぎなくても、大学内ではすでに人目を惹かずにはおかない危うい魅力の持ち主と化しつつあるじゃないですかという。


そんなところからはじまって、第四幕はここまで誰の邪魔も入ることなく強化されてきてしまった結花と貴臣の、ペットと飼い主という関係が完成にいたる話。

まだあれ以上があったのかという気にもなるけれど、あったんだなこれがというところ。ベルリンの章までのふたりの関係は、久世家の内部では多少知る者もありながら、おおむね結花と貴臣のふたりだけの間における関係であって。けれど、表向きには恋人、かどうかはともかく、付き合っているふたりではあった。

しかしこの幕でふたりは、やむをえない事情があったとはいえ、それをふたり以外の人にも明かしていくことになる。しかもそれは、うしろめたさを感じながらではなく、誰に恥じるものでもないと、これこそがふたりにとっての至高のあり方であると、誇りすら感じさせるような態度とともに、宣言されていく。それが記事冒頭の引用部分。この場面はもう、その場に打たれて立ちすくんでしまうかのような、神聖さすら感じさせられるものがありましたね。この二冊のいちばんの山場はどこかと聞かれたら、個人的にはここでしょうと答えたい。そんなお話が第四幕ではありました。

そんな第四幕がどんな話だったかというと、幕題の通りの話。けれどそのほとんどが苦い気持ちを伴うできごとであるから、幸せ満載だったベルリンとの落差に愕然としてしまうわけで。

ここでカレンが日本でも結花の友だちとして合流。春休みの間にベルリンで知り合ったと思ったら、春休み明けには結花の大学に編入してくるという驚くほどの手回しのよさ。なんというスピード……と思えば、そこは高級リゾートホテル一族の令嬢らしく、寄付金によって「こころよく」受け入れてもらったという、知りたくもない資本主義社会のコネクションというものをのぞかせてくれるからさすがというか。

カレンさん、ベルリンでもジェットセッターぶりを見せつけてくれたけど、お金持ちならではの選択肢というものを一般人である結花に隠すこともなくどんどん見せてくれる人ですよね。貴臣のほうとしては一応、やりすぎて結花に引かれないよう抑制してはいるんだけど、そんなカレンの豪快さを目にしていると、だんだんとまあ同じ資産家の貴臣もこれくらいできてもおかしくないよねと感覚が麻痺してくるところがあって。完全に貴臣の思惑にはまってるんだけど、そうして意図せず「普通」の感覚がずれていく結花さんもいとおしくあり。

というか、結花の感覚のズレとしては、そういう金銭的な感覚以上に、味覚の感覚のもののほうが印象的だったというか。この第四幕での学生のコンパで集まった飲み屋で飲むお酒や食事についての描写が、おいしくなさそうだったんですよね。場の雰囲気の問題もあったんでしょうけど、ベルリンで貴臣に連れられてあちこちの一流の食事の味を覚えさせられた結果、安居酒屋の飲食物ではどうしても味気なく感じられてしまうという。ひとたび上のランクを知ってしまうと戻れなくなるとでもいうような、すっかり貴臣によって感覚が塗り替えられてるのがうかがえるのがいいですよね。

それにしても、この第四幕の話は、本当に嫌な気持ちになってくる展開が多くて。興味もないのに言い寄ってくる男や同性からの嫉妬。性格品格ともに惹かれずにはいられない極上の男を知っていれば軽蔑せずにはいられないような人たちとかかわりあいになることを余儀なくされる展開が次々と起こる。

手遅れになる前に貴臣が排除することになるとはいえ、そうした展開は読んでいるだけでも神経がすり減っていくような気持ちがしてくること。べったり過ごしたベルリンでの記憶がまだ新しいだけに、なかなか貴臣のそばにいられないことを寂しく思わされる話つづきなんですよね。まあだからこそ、救世主よろしく現れる貴臣に、涙が浮かんできそうなほどのありがたさを覚えさせられるのですけど。いや、でもやっぱり、つらいですね。

それに、会えたときの甘えようにはより拍車がかかっていとおしい存在になるわけで。貴臣のほうも、久しぶりに会ったら、車に乗り込んだ瞬間にくちびるを貪ったりして、顔を合わせるだけでは満足しきれない深い欲求をうかがわせる態度がとてもアダルトな雰囲気を感じさせてくれること。

貴臣は仕事の予定をむりやり変更させて、結花は友だちとの予定もキャンセルして、そのまま気の収まるまで愛しあう。もうその流れだけで、めちゃくちゃいやらしいですよね。しかも金曜の夜から月曜の朝までで、そのまま御出勤・御登校となるというから、やばさが半端ないこと。

結花の甘えたが進行する一方で、貴臣の入れこみぶりがますます明らかになってくるのもこの話。なまじハネムーンじみた春休みを過ごしてしまったばかりに、普段の生活が味気なく感じられてしまう様子はもうぞっこんと言っていいでしょうね。

そして、花開きはじめた結花の魅力を前にして言い寄ってくる男の気配に対抗するように、鎖だけでは飽き足らず、ついには目に見えるところにまでキスマークをつけだす貴臣さん。自分のものだと主張するためではあるのだけど、それはそれで余計に結花に卑猥な雰囲気をつけ足してる結果にもなってるんだよなあという。いやいや、これはこれでとてもいいものなんですけど。

とはいえ、貴臣が自分のものに手を出されそうになって不機嫌になるのはこわいものがあって。ロンドンでの出来事があるだけに、とばっちりでまた結花がひどい目にあわされてはと、びくびくせずにはいられないのだから。本当に、心の底から、どうでもいい人には視界の中に入ってこないでほしいとすら思うんだけど、そうそう都合よくフェードアウトしてくれないのがこの作品でして。そのたびに飼い主の顔色をうかがうように関係がゆがんでいくのがこの幕の話であるという、なんとも悩ましい展開。

まあでもそんなできごとがあった後に記憶を上書きするように、執拗なまでに体のあちこちに貴臣の手で快楽が施されていく様子はとてもいいものでしたよね。ねっとりと舌を這わされ、くちびるで吸いつかれ、歯を立てられ……。そうした刺激の一つひとつにぞくぞくとした快感を感じ取っては体を火照らせ、欲情に疼かせていく結花の姿がそれはもう淫靡そのものでして。

決定的な快楽は与えられず、中途半端に焦らされた熱にもどかしくなっておねだりしてもまだ絶頂に導いてもらえず、恥ずかしさも忘れて自分から貴臣を求めるまでに欲しくて欲しくてどうしようもなくなったところで、失神してしまうほどに何度も何度も止まることなく犯されぬく。限界を超えた悦楽にただひたすらに喘ぎ声をあげるしかなくなっている結花がとてもとてもいやらしかったです。

そしてここで御登場あそばすのが腕時計。なんの変哲もない腕時計では当然なく。それどころか、それまで貴臣がつけていたという、男物のブランドの腕時計。そんなごついアイテムが結花に貸し出されて、その細い手首に巻かれることになるという。想像するだに外見的にミスマッチで、それだけに「彼氏」から借りてます感がバリバリという。

これは、足の枷、首輪につづいて、体よく腕にも鎖をつけらたも同然でして。どこかの男のものという主張がますます強まってますよね。ちらりとのぞくキスマークと合わせると、どれだけ執拗に愛されてるかがいやでもうかがえてしまって非常にやばい外見にしあがってるようにも思うわけですが、結花としてはそうすることでより貴臣に気に入ってもらえていることを実感できて幸せそうな感じなのでなにも言えない感じ。いいと思います。

けれどその一方で、そうしてご満悦な貴臣さんははっきり言って浮かれすぎだったので、藤崎さんのツッコミには拍手を送りたいきもちでしたね。河合しかり、野元……はだんだん頼りなくなってくけど、ここの秘書は、放っとくと際限なく結花のことしか考えなくなってく貴臣に対する辛辣なツッコミが冴えてていいんですよね。というか、貴臣さん、結花の香水の匂いが移ったまま出社してるのはやばいですよ!?

さて、展開的には視界にも入れたくないようなキャラによる気分の悪い展開も入れこんでくる本作ですが、それらが結花と貴臣のふたりの関係に重要な意味を持ってくるから一概にそうした展開を否定もできないのが本作でもありまして。特に、結花が貴臣のとなりに立つ存在としての自分のつり合わなさを内心だけでなく他者からも突き付けられるのに、そうしたキャラが決定的な役割を果たすことになるんですよね。

それだけに余計に印象が悪くなっていく部分もあるんですけど、けれどそうした他者からの指摘に対して結花がこの幕で見せた対峙のしかたは、上記の通りで、この巻のクライマックスと呼ぶにふさわしい、素晴らしいものだったと思うんですよ。いやまあ思いっきりいびつな関係そのものではあるんですけど、幸せの形は人それぞれ。本人たちがそれでいいと思っていることに他者が口出しするいわれなどないのだというのはひとつの正論ではあって。

そして結花が貴臣の「お気に入り」以上の存在になる決心がつけられない現状では、これがひとつの到達点ではあるんですよね。ペットと飼い主であれ、彼氏・彼女であれ、なんであれ、ともかくふたりはそれぞれの意思でもっていまの関係をつづけているのだと、積極的にではないけれど他者にも宣言していく。結花にとってはこれだけで、なんの不足もなく幸せな状態であって。その意味で、本当に象徴的で素晴らしい場面だったと思います。

ついでにいうと、そんな場面でもなお普通の女子大生として貴臣の金銭感覚に異論を申し立てる結花さんはさすがおもしろい子ですよという気持ちにもなれたりしたんですが、それはそれ。というか、そんなときでも耳をカリカリされると反応せずにはいられない体になってしまってるのがいやらしくあり。

足枷をつけて、首輪をはめられて、腕に鎖をまかれて、体のあちこちで飼い主の証を感じていて、なおそれでも足りないとキスマークをねだり、直接体を求められて、それでやっと満ち足りる。そうまでしてもらわないと満足できないほどに快楽というものを教えこまれてしまった。そんな結花の変化を、まだ一年もたたない出会ったころと比べられると、たまらない気持ちにさせられるような変貌ぶりですよね。

けれどそうして自分を変えられていくことを、飼い主から与えられるものならばどんなことでも幸せとともに享受する結花の無防備な信頼の発露こそが、なによりも男をその気にさせるんですよね。自分の痴態を恥ずかしく感じつつも、それでも貴臣に与えられる快楽を欲さずにはいられない、かわいいかわいいペットのウサギの姿こそが。

ただまあ、そうして久世家のご厄介になった挙句に使用人たちに無言でお熱いカップルへの「配慮」をされるという羞恥プレイをされた結花さんは泣いていいと思う。

ところで、この幕で入る結花のお胸の増量に対する指摘は、これもまた貴臣と出会ってからの結花の成長の一部ではあるんだけども、その原因は貴臣による餌付けのおかげなのか、貴臣やカレンに連れられて行ったスパによるものなのか、貴臣に揉みしだきまくられた賜物なのか……。はっきりわかるものではないけれど、いちばん最後の線が否定できないのがまた卑猥さを感じさせてくれるところであり。

新学期になってからたてつづけにいやな出来事がいくつも起きて、GWになってようやく貴臣とゆっくり過ごせることになり旅行に出かけるふたり……まではわかるのだけど、旅行先の場面がいきなり致してる場面からはじまるのはちょっとどうなのとツッコミを禁じえないところ。

結花の水着姿には興奮せずにはいられないとか、貴臣さん、それだと、ふたりでのプールの楽しみ方がひとつに限定されてしまうですがそれは……。いや普通はひとつだろうけど、その「普通」のひとつにならないのはなんでだろうなあ……。というか、そもそもが結花さん、あちこちキスマークつけられすぎてて、貴臣とふたりきりじゃなきゃ水着姿になるのってほぼムリなんじゃ……。

でもまあやっぱり、ほかの誰にも見られていないとはいえ太陽の下で求められるのはどうしようもなく恥ずかしいと抵抗する結花を、快感を与えることでとろかせて、恥ずかしいんだけどそれ以上の刺激が欲しくてしかたがない気持ちにさせて、我慢しきれないくらいに焦らしまくった挙句に結花のほうから欲しがらせて、それを待ったうえで思いっきり快感を流し込んでいく展開はとてもやばいと思うんですよ。

そして、第四幕のラストもまたぶっこんでくるところでありまして。ここでもやらかしてくれたのでありました。

伏線は第四幕のうちにふつうにありはしましたけどね。でも、普通なら、そこまでのことが起こるなんて思わないじゃないですか。けれどそこは桁外れの資産家の貴臣のこと。やることのレベルが違いましたわ。

これはもう本当に呆然とするしかないというか。誰がそこまでしてくれと言ったか……。まあでもやれるならやっちゃうのがお金に糸目をつけない富裕な人間なんだろうなあと、頭真っ白になりながらも受け入れちゃうのは、やっぱりなんだかんだでそんなスケールの違う人たちの思考にある程度慣れてきてしまった証なんだろうか。

なんにせよ、これで結花の衣食住、生活のほとんどすべてが貴臣および久世家から与えられるもので成り立つにいたったわけで。これをしてペットと飼い主の関係性の物理的な完成形といわずになんというかと思うばかりの囲いこみよう。

いやしかしほんと、突然ポンとこんなされたら、驚きすぎて苦笑いも出てきませんわ。そろえられた家具とか食器とか電化製品の値段考えたらそれだけでおそろしいんですけど。結花、完全にびびっちゃってるんじゃないですか。自分の部屋のはずなのにおっかなびっくり過ごさざるをえないとは、なんて落ち着かない住まい。でも資産家的にはそのくらいが普通なんだとか。おそろしや……。

でもなによりおそろしいのは、そうして結花を引かせまくりながらも、ぎりぎりのところで断固拒否するまでにはいたらないラインをきっちり見極めてくるところ。結花に拒むことを惜しいと思わせるもろもろがさりげなく用意されていたり。なにより、結花のことが心配だからと、飼い主にはペットの安全を守る義務があるのだからと、心底から告げられれば、それで貴臣に気に入ってもらえていると実感できる結花としては、絹地でぐるぐる包まれて不自由を感じるくらいであったとしても、拒否はできなくなってしまうんですよね。

対等でない関係をしっかりと感じさせずにはいられない場面ではあるけれど、でもそうであるからこそ、葛藤の末にそれを受けいれる結花の心理がとてもいとおしくて。この関係性、本当に好き。

というか、千煌さん、久世家から離れて三十年以上もたつというのにいまだに久世家の使用人に信奉者がいるとか、やっぱりすごいですね。


そんなこんなで、第四幕でふたりの関係がひとつの完成形にいたった感はありますが、じゃあもうそのままになっていくかというと全然そんなことはなくて。あきれるくらいのいちゃいちゃぶりを見せられれば、周囲はそれがペットと飼い主の関係なんて思わずに対等な恋人同士と思うのは必然であって。それになんといっても、貴臣自身がそんな愛人まがいの関係に結花を貶めておくことをよしとは思っていない。

ふたりの間柄を定義するなら、そうした上下関係をうかがわせるものになるのか、もしくは対等だとしても、仲のいい男女くらいのものなのか、親密なお付き合いのある間柄なのか。結花は、貴臣は、それぞれどう認識しているのか。そして、この先にどんな関係性を期待しているのか。そんなところに焦点が当たるのが第五幕の話であり。

ということは、イコールとして、ベルリンのラストくらいから結花の心の深層で育ってきたこじらせた想いが浮き彫りになってくる話でもあり。そうした認識のズレに最高に頭抱えながらも楽しくて楽しくてしょうがなくなってくる幕でもあるんですよね。

長期休みのころとくらべれば当然、ふたりが会える日もめちゃくちゃ減ることになって、けれどその原因が何かと考えると、あちらこちらへ引っ張りだこになってしまう貴臣のビジネスエリートぶりに由来するものなのであって。そんな飼い主のペットとして気に入ってもらえている関係もいつまでつづくのかと、会えない日がつづく中で切ない気持ちを募らせる様子もものすごくいい話なのでして。

そんな第五幕のクライマックスは、なんといっても、結花による「すきなひと」発言でしょう。あれは、もう、そんなこととは露知らなかった貴臣の認識の甘さも含めて、秘書三人ともども、盛大にため息つきながら首を振ってやるほかない場面。どうしてこうなった、どうしてこうなった……というところでもあるけれど、まあ原因は言わずもがなそれまでの積み重ねによるものなので、どうしようもなくにやにやとした気持ちの悪い笑顔が収まらなくなってくることで。

結花って、自分と貴臣の関係を対等だとはこれっぽっちも思っていないから、自分から貴臣に何かを要求することって基本的にないんですよね。あれが欲しいこれが欲しいと言うことはないし、仕事の邪魔をしないように連絡をするのにも貴臣のスケジュールにすごく気を遣う。その唯一といってもいいくらいの例外が体を重ねているときで、貴臣に求められるままに、ときにはそれ以上に貴臣を求めたりもするのだけど、それだけで会えない日々も乗り越えられるかというとそんなことは全然なくて。

会いたいんだけど会えない。連絡を取ることさえままならない。そうしていると、余計に自分と貴臣との住む世界の違いを実感させられて、対等ではない関係がこの先いつまでつづけられるのかと不安に駆られずにはいられない。

それでも、そんなところを貴臣に見せてはうっとうしい女だと思われそうだから、切ない想いを必死に押し隠し、会えたときだけ、求められたときだけ、思いっきり貴臣に甘えかかる。気に入って執着してもらえているうちにめいいっぱいかわいがってもらおうと、精いっぱい貴臣に尽くす。

なんとも健気な姿ですよね。けれど、それで結花の不安が消えることはまったくなくて。かわいがられればかわいがられるほどに、いつか関係が終わりを迎えるかもしれない将来への恐怖がいやましていく。そんな悪循環のループのような結花の心理がどうしようもなくいとおしくて。だからこそその発露としての「すきなひと」発言(2巻450ページ)には、胸をしめつけられるような思いにさせられずにはいられない部分もあるんですよね。本当に、大好きな展開ですよ。

新しい「ウサギ小屋」で、貴臣(および久世家)に与えられた良質なものに囲まれて生活していても、となりに飼い主である貴臣がいなければ無機質で寒々しく感じずにはいられない。そんな憂いに満ちた様子がすごくよくて。

でも、なんで結花がそんな思考の悪循環にはまっていってしまうかというと、結花って、自分が魅力的な女性だとはまったく思ってないんですよね。絵里によって身だしなみに気をつけることは多少できるようになったし、貴臣に世話をされて服や装飾品なんかもいいものを身につけるようにはなった。けれど、それらをまとう結花自身は、どこまでも普通の女子大生のままのつもりでいて。

だからこそ、女性をより取り見取りに選べる貴臣ほどの男が、どうして自分なんかを気に入りつづけているのかがわからない。だから、いつかは飽きられてしまうだろうとおびえずにはいられない。

出会ってから、着々と魅力的に磨き上げられている様子を思えば、なんでそんな思考になるのかと首をひねってしまう部分もあるのだけど、そんな自分の魅力をわかっていない無邪気さも結花のいとおしさの一部ではあって。

けれどだからこそに、久しぶりに会えたふたりが貪るようにお互いの存在を確かめあう様子はとてもぐっとくるものがあるのでして。

会った瞬間に、ビジネスの電話中であるにもかかわらずディープなキスをはじめて、そうするほどにどうしようもない欲求に体を疼かせる。顔はすっかり発情しきって、ベッドまで行くのも我慢できずにことをはじめじずにはいられない。あらためて、これ、片方が社会人のする逢瀬じゃねーだろと思わずにはいられない。

でも、それがすごくいいんですよね。久しぶりの密着にめまいがしてきそうなほどの快感に貫かれて、喜びに胎内を震わせるとその期待に応えるように欲情した表情で性急に貪られて。時間も忘れて何度も何度も互いを求めずにはいられなくなっていく。最高にやばい。

はっきり言葉にはしないものの、結花のほうでも貴臣不足な飢餓状態が翌朝もうっすらしぐさに現れてたりしたのは、ものすごくいやらしかったと思います。

それはともかく、絵里とラリーの関係って、実はもうこのあたりからはじまってたんですねと、読み返していて初めて気づいた感がある。貴臣に押しきられっぱなしな結花の恋路を生ぬるくながめていた絵里にもにやにやしい展開が訪れたのかと思うと、より一層生ぬるく見まもりたい気持ちにさせられるものがありますよねという。

そして、第四幕にひきつづき第五幕でも、いやな人間によるいやな展開は起こるもので。でもまあそれについてはどうでもいいんだけれども、貴臣さんご登場のサプライズ感はすごくよかったですね。

結花がこっそりセッティングしたはずの場に、来るはずのない人が突然現れる。その直前から、聞きなれた足音なんかでいやな予感を募らされたところで、ぽんと肩がたたかれる、あの心臓が飛び出そうになる感じの描写がいいもので。なまじ隠れて用意された場だけに、悪事の現場を見つかったように冷や汗が浮かんでくるように感じてしまう結花の内心のバクバク感がとても笑えておもしろかったですね。

まあ当然その後、おいたの過ぎたペットにおしおきがなされるわけですが、これがまた卑猥なプレイでして。作者さんもあとがきでちょっとアレなシーンと書いてましたが、男性向けと比べればそこまで過激でもないであり(比較対象がおかしい)、個人的にはいいと思いますということで。

それに、こういうおしおきのときに限ってプレイの幅が広がったりするからやっぱりうれしいところでもあり。恥ずかしい格好をさせられて、それを自分でも実感させられながら、もてあそぶような刺激でなすすべなく高ぶらされる。そんな結花の姿のなんといやらしかったことか。最終的に結花も貴臣も切羽詰まったように互いを求めあう流れはたいへんにいいものでした。

まあでも、それはともかくとして、貴臣に相談しなかった結花のほうの気持ちもわからなくはないんですよ。貴臣の仕事の邪魔はしたくないし、なにより自分と貴臣が対等な彼氏彼女の関係だなどとはとてもではないが思えない。ならば、誰かに彼氏役を任せてその場をしのぐのがいちばんいいと、そんな思考になってしまうのも。

そんな気持ちが詰まった「すきなひと」発言は、あらためて読んでもちょっと破壊力が高すぎて。いじましさに胸がいっぱいにさせられてしまうレベル。ありがとうございます。ありがとうございます……!

でも、こんなセリフが飛び出していたと知らされた貴臣としては、普通に恋人同士として、大学卒業まで待ってから結婚なんて浮かれたことを考えてたことを思えば、愕然とするレベルでの認識のズレに猛省をうながしたいところ。まあその辺は有能な秘書さんたちを抱えているので、うまいこと対応してくれるのではあるんですけど。

とはいえ貴臣に擁護できる部分がないわけでもないんですよ。だって、いくら結花が住む世界の違いに引け目を感じていたとはいえ、ベルリンを筆頭にしてあれほどイチャイチャしていた裏で、これほどまでに気持ちをこじらせていたなんて、想像できますかというところ。なまじ隣で結花のウキウキした表情を見てきただけに、難しいものがあったと思うんですよ。結花のほうも、ちょっと尋常じゃないこじらせぶりではありますし。

いつまでかわいがっていてもらえるのかという悩みはおよそ普遍的なものだとは思うけど、結花の場合はそれが思いこみレベルで根深くて、ちょっとやそっとのことでは解消できそうにない。なんでだろうと不審にも思えてくるんだけど、わかってみると無理もないというか。たしかに、子ども心には強烈だわなあというところ。結花って、勉強漬けで世間知らずな育ちもあって、年齢のわりには精神的に幼さが残るので、なおさらに。

第五幕では、おおよそふたりの将来にそびえるその障害が認識されて解決せねばというのが明らかになったところで次につづいていく感じなわけですが、なかなかに悩ましい状況になってきてるのはおもしろいところではあり。

恋人にはなれないと逃げる結花と、恋人どころかその先までの将来をも手に入れたくて逃がすまいとする貴臣という、まるでふたりの対立するかのような構図になってはいますが、基本的にすでに相思相愛ではあるんですよね。結花のほうがそれを受けいれられずに抵抗しているだけで。

自分のことを貴臣のものと宣言することには抵抗がない。自分以外の女性が貴臣にすり寄ってくることに対する嫉妬心もしっかり存在していて、貴臣から飼い主としての寵愛心理ではなく対等な恋人としての好意を告げられれば、心臓が止まりそうになってしまうほどのうれしさを感じずにはいられない。

それなのに、素直にその好意を受け取れない。幸せな時間を有限としか思えない。そんな結花の心理がどうしようもなくいとおしくて、幸福を願わずにはいられなくなってしまう。ものすごくいい雰囲気ですよね。まあその後の様子を見てると、恋人同士の甘い関係はまだ結花には刺激が強すぎたのかもしれないけど。

とはいえ、そんなこんながあってもしっかりすることはしてるから、お熱いふたりではあるんだけど。

「ううん。貴臣さんは、違うこと、……教えて?」(2巻582ページ)

結花さん、月曜の朝からそんなこと言って、大学行けなくなっても知りませんからねという。恋人になることには抵抗を示しつつも貴臣を溺れさせることは無自覚でしてのけるウサギ。やばいですよね。

そんなこんなで、やや不穏な展開を見せつつ3巻につづいていく流れ。当初はこれもまたなにかぶっこんできたのかなーとも思ったんですが、これで第五幕が終わったわけではなく、ただ単につづいていってるだけなんですよね。たぶん、全6巻のページ数をだいたい均等にするための措置。もともと一冊分の長さで区切りとか考えてなかっただろうWeb小説の書籍化ならではの事情でしょうね。


ともあれ、あらためて、めちゃくちゃに好みな雰囲気の話でした。スーパーセレブな人達の桁違いのスケールは笑うしかない感じだし、いびつなふたりの関係性は悩ましくってたいへんおいしいものだし、R18な描写もたいへん好みに合ってやばいぐらいだしで。ちょっともう本当に、久しぶりにここまで好みにドハマりしてる作品に出会いましたよねという喜びとこの先の展開の期待感に打ち震えずにはいられませんでしたよねというところ。

気になる方はいますぐ読むべきと力いっぱいにオススメします。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:43| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: