2019年05月20日

リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義

リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書)
リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書)

リバタリアニズム|新書|中央公論新社

リバタリアニズム。それは上からの権力を取り除いて、さまざまな領域で自由の拡大を志向する政治思想。経済的な規制を排除して自由を志向する面では保守派に見えるが、社会的なマイノリティーなどの不平等を排除して誰もが自由に生きられるよう権利の向上を志向する面ではリベラル派にも見える。左派や右派、保守やリベラルといった区分では分類しきれない思想であるその自由至上主義について、本場アメリカを中心にして、その思想の持ち主たちを何人も訪ねながら、そのさまざまなあり方を紹介する一冊。

なかなか興味深い本だった。リバタリアンなるものについては、ピーター・ティール関連の本を何冊か読んでいるうちに興味を抱いていたところではあったのだけど、その内実としては彼ひとりの来歴を追うだけではとうてい理解しきれないほどに幅広いあり方があるようで。特に彼の場合は左右でいえば明確に右派の人物なので、もっと左派的なリバタリアンというものも当然ありえたわけで。

実際、アメリカでは、その本場だけあって、それなりの数のリバタリアンがいるらしい。本書で取り上げられている調査では、有権者の「おそらくは10〜12%」ほどがリバタリアンであると推定されているという。リバタリアン党というそのものずばりな政党もあるそうだが、選挙においては民主党・共和党それぞれの候補に広く分散して投票する傾向にあるとのこと。さすがに二大政党制に割って入れるほどの勢力ではないので、合理的な選択としてはそうなるかというところ。

とはいえ、本書において紹介されるリバタリアンの人たちの政治との関わり方を見ていると、固定的な政党支持よりも政策単位での各党への働きかけという形によって、自分たちの望む社会の実現を目指しているようで。草の根的に集まって自分たちの理想の社会を作りだそうとしたり、シンクタンクで活動してよりよい社会政策を提言したり、さまざまな活動が行われているとのこと。主義主張的には多分に理想的な印象も受けるけど、実際の活動は現実的というか。本書執筆にあたって著者が選んだのがそういう人たちだったという傾向の話なのかもしないけれど、ラディカルに社会を変革させようとするよりも、自分たちの理想に向けて漸進的に改良していこうとするムーブメントのような印象を受ける部分もあり。数としては多くないのでそのくらいの活動が現実的なレベルな気もするけれど、その一方でよくも悪くも有力な人物も存在しているようなので、推定人口割合的にもアメリカ社会に対して小さくない影響力を持っているのかもしれない。

個人の自由を尊重する観点から、移民やLGBTQといったマイノリティーへの差別に反対するという考え方は納得のいくものだったけど、その延長というか、個々人の自由意思の集合体としての民意をも重視することから、国家や地域の一方的独立にも賛成する立場であるという一面には驚かされずにはいられない。まあ理屈としてはそうなるかと理解できないではないけれど、紹介されてる事例がだいたい南北問題の関わるものなので、その一面を無視しての同意は難しく感じられるところであり。

ともあれ、自由な発展を目指す思想というのは面白さを感じられるものではあり。その発展の先にどういった社会が見えてくるのかというのは興味深いところ。さらに理解を深めていきたい気にさせてくれる一冊でした。

あと、個人的におもしろかったのは、パトリ・フリードマンによるシーステッド構想が紹介されていたところ。ピーター・ティール関連の本ではそういった構想もあるらしいという程度には記述があったけどそれ以上の情報はなかったので、実際に計画が進展しているらしいと知ることができたのは、物語の続きが見られたような楽しさがあり。どうも、現地政府の協力を得ながら経済特区としての発展を目指す方向性っぽいので、「国家からの自由」とはまたすこし違った感じに進んでいるようにも思うけど、ひと月ほど前に別件でタイの国家ともめたシーステッドの事例を見かけただけに、堅実な一歩ではあるだろうか。
ラベル:渡辺靖 中公新書
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:24| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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