2019年02月28日

Who Gets What(フー・ゲッツ・ホワット) マッチメイキングとマーケットデザインの経済学

Who Gets What(フー・ゲッツ・ホワット) マッチメイキングとマーケットデザインの経済学 (日経ビジネス人文庫)
Who Gets What(フー・ゲッツ・ホワット) マッチメイキングとマーケットデザインの経済学 (日経ビジネス人文庫)

Who Gets What(フー・ゲッツ・ホワット) | 日本経済新聞出版社

よりよいマーケットデザインが市場をより有効に機能させるのでり、その基礎をなすのがマッチメイキングの理論である、という感じの内容だっただろうか。

伝統的な経済学においては、需要と供給の一致によって左右される買い手と売り手の間の均衡点としての価格が注目されてきたが、本書の著者らは価格だけでは均衡が定まらない市場において買い手と売り手をマッチングさせる仕組みについて研究を深めてきたのだという。そして、本書の著者であるアルビン・E・ロスとロイド・シャプレーの両氏は、このマッチング理論とそのマーケットデザインへの応用によって、2012年にノーベル経済学賞を受賞している。

読みはじめる前には、これは経済学なんだろうかという疑問もあったけど、読んでみればマッチング理論の根底にあるのは数学的な組み合わせであり、ゲーム理論からの発展によって実社会のマーケットデザインへとつながっていくとのことで、これはまぎれもなく経済学の分野ですわと納得できました。

詳細な理論に立ち入ろうとするとさまざまな数式に立ち会うことにもなるのでしょうけど、本書においては特に数式は登場せず。事例を紹介しながらわかりやすい言葉を用いた説明によってマッチメイキングとマーケットデザインの経済学について、その概要を伝えてくれます。進学や就活や臓器移植など、(特に本家のアメリカでの)実社会においていくつもの場でこの理論が応用されているようで、たいへん興味深くなってくるとともに、身の回りに存在している種々のシステムについてもこうした視点を向けてみると面白いのではないかとも思えてくる。知的な好奇心を与えてくれる、とても有意義な一冊だったと思います。

本書の構成としては全四部。第一部では伝統的な経済学では扱いきれない市場が存在することの指摘からマッチング理論の実例が提示される。第二部では、市場の失敗の事例が原因ごとにいくつか取り上げられ、マッチング理論によって小さいながらも改善がなされた点が記述される。第三部ではいよいよいよマーケットデザインの大きな成功事例として、研修医の勤務先選択や高校選択におけるマッチングシステムなどが、その解消された問題点ともども紹介される。第四部では、実社会においてはまだ導入されだしたばかりのマッチング理論についてのさらなる応用の可能性や、その背景にあるエンジニアとしての経済学者のあり方についての可能性が記されて終わりとなる。

数式が用いられていないことから特に初学者にやさしい仕様だが、原註も収録されているため、さらに学びを深めたい人への足掛かりもしっかり備えられているといえるだろうか。参考文献は全部英語なので、ステップアップというにはややハードルが高いかもしれないが。

最後に、本書を読んで印象に残ったのは、著者の経済思想であった。エンジニアとしての経済学者の可能性を検討することは、それはすなわち市場を所与のものではなく管理可能なものと捉える考え方である。市場の失敗事例をあらためて持ち出すまでもなく、神の見えざる手はどんな市場にも必ず働くわけではない。市場がより効果的に作用するためには管理改善が必要である。しかし、かといって統制の必要性を説いているわけではない。よりよいマーケットデザインがなされれば、市場は適切に機能する。その助けをするのがマーケットデザインであり、その基礎をなすのがマッチング理論であるということなのだろう。興味深い一冊でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 16:51| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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