2019年01月09日

検証 長篠合戦

検証 長篠合戦 (歴史文化ライブラリー)
検証 長篠合戦 (歴史文化ライブラリー)

検証 長篠合戦 - 株式会社 吉川弘文館 安政4年(1857)創業、歴史学中心の人文書出版社

『長篠合戦と武田勝頼』においてはどちらかというと騎馬兵の合戦における立ち回りがクローズアップされていた印象があるが、こちらでは当時の鉄炮の運用についてより詳しく記述されていた印象。二冊そろって当時の合戦の姿というものをより正確に描きだそうとする研究は、その一部をあちらこちらでかじっていたとはいえ、まとめて読むと古いイメージで固定されていたのが否めない身には新鮮で面白かったこと。とはいえこれでもまだ研究途上のようですし、軍事史的観点から見る戦国時代というのもなかなか興味深いテーマではありそうで。

本書を読んでいて浮かびあがってくるのは、当時の鉄炮の使い勝手の悪さでしょうか。後代のあと知恵をもってすれば、鉄炮の採用は時代の変革であり、いち早くそれに手を付けるのは先見の明の表れであったのだろうなんて思えたりもするけれど、どうもそれほど決定的なアドバンテージがあったようには読み取れないのですよね。まず調達するだけでコストがかかる。鉄炮本体の国産地はかなり限られているため、輸入分を合わせても数をそろえるのには大名直属の鉄炮衆だけでなく家臣団からもかき集める分が欠かせなかったようで。また、本体のほかに弾丸や火薬などの消耗品も必要になってくるけれど、これも必ずしも勢力圏内で賄いきれるものではないので輸入して取り寄せなければならないものも発生する。しかも、それらは揃えるだけ揃えてあとは合戦のときだけ持ち出せばいいかというとそんなことはなくて、鉄炮衆の質や練度の向上のための訓練が重要になってくるため日常的に消費する分の調達も欠かせなくなってくる。実戦投入の前段階からしてやたらとリソースを要求されるのが伝わってくるんだけど、その上そうまでして鉄炮衆を配備しても、実戦の戦況に与えられる影響はそれほど決定的ではなかったりするようだからたまらない。よく言われるように連射性に難があるので射撃の合間には隙が生じるし(そのために多段撃ちがあるにはあるけれど)、そもそも雨が降れば使えないし……。鉄炮の採用に有用性はあるけれど、実戦での効果は局面的なものでしかなかったのではないかとも思わされる。けれどそれでも戦国時代の各勢力のもとで鉄炮が普及していったのは、矢合戦よりも遠距離から戦端を開ける有効射程の長さを有する都合上、敵がそれを持つからには、こちらも持たないことには一方的な戦とならざるをえなくなってしまう事情があったからではないかとも思ったり。

長篠の戦いの主要勢力の主である武田氏と織田氏にとって、鉄炮に関してのいちばんの相違は、地理的な両者の領国の位置がもたらす鉄炮本体や玉薬の調達しやすさにあったといえるだろうか。輸入原料が存在する関係上、西高東低な傾向が現れるのはある程度しかたのないことだったろうけれど、三千挺ともいわれる鉄炮衆を打ち崩すことができずに敗北を喫した長篠の戦いの結果を見ると、地理的な資源へのアクセス性が勝敗に与えた影響は無視できなさそう。

合戦における武田勝頼の敗因としては、そのほかにも鳶ヶ巣山砦の陥落などがあげられていたけれど、そのなかでも個人的には敵軍情報の誤認がいちばん大きかったのではないかと思えたり。鉄炮の装備云々以前に単純な兵力数の段階ですでに倍ほどの差があったにもかかわらず、それに気づくことなく思ったよりも小勢だぞとあなどってしまっていたようなので。諜報の失敗ともいえそうだし、裏返せば信長側による欺瞞作戦の成功ともいえそうで。そしてどちらにせよ、これは純粋に勝頼自身の決断の失敗なのであったという。父信玄から武田の負の遺産を受け継いだ悲劇の将としての勝頼像を否定する内容でもあるでしょうか。まあでも著者の平山先生はこの後著『武田氏滅亡』でも述べていたと記憶しているように、この合戦を滅亡の原因としてはいないのだけれども。

その他、鉄砲玉の成分の解析から東南アジアにまで広がる当時の貿易事情が見えてくるのは興味深かった。ここ、もっと深堀りした本はないだろうか。

そして、ポルトガル船からの鉄炮伝来以前の中国からの鉄炮の導入をさらっと既知の事実のごとく記す記述に衝撃を受けていた。いやまあそんな説もあるとかないとか見かけた記憶もあったように思うけど、自分が学校で習ったのはたしか1543年説だったっけ……。研究の進歩による新説との遭遇には驚かされるばかりですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:31| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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