2018年09月02日

王位と花嫁

王位と花嫁 (講談社X文庫)
王位と花嫁 (講談社X文庫)

http://wh.kodansha.co.jp/new/detail_201802_03.html

めちゃくちゃ面白かった。話の筋がとにかく好みで、最後まですごくいい雰囲気で。とにかく大好きです。

この話、悪者がひとりもいないんですよね。ヒロインは、王太子から婚約破棄を告げられても相手を恨むどころか真に愛する人との幸せを願って背中を押せるいじらしい公爵令嬢で。その王太子にしたところで、世間知らずなところはあるもののそれを指摘されればすぐに改める素直さはあるし、なによりも一度心に決めたことに対してはその想いのほどがよく伝わってくるひたむきさがあって憎めない。その王太子の想い人も、身分目当てに近寄ったわけではなく、職務上何度も顔を合わせているうちに互いに惹かれあってしまったというものだから、これも素直に祝福することのできるカップルであって。

けれど、根はいい人たちが婚約破棄ものの筋書きに沿って行動したらそれだけでどこにも角が立たないかというとそんなことはなくて。ヒロインのロザリンドからしてみれば、彼らの幸せを願うからこそ見過ごせない問題があるのに気づかないではおられない。彼らの幸せと引き換えの関係になるからこそ、自分のその後の境遇についてはおいそれと言い出せない。根はいい人だからこそ、自分のうちだけで抱え込もうとしてしまう。

いい人すぎて見てられなくなってしまうほどのお人好しぶりで。だからこそ報われてほしいと思わずにはいられない。それがこの話のヒロインであるロザリンドというキャラで。

で、この話のヒロインが彼女であるというならば、当然にそんな彼女の心をすくいとってくれるお相手が現れるものなのであって。

謎の騎士として現れるエクウスという男がその人物なのですけど、それまではいい人たちで固められてたロザリンドの周囲のキャラクターと比べてみれば、初めのうちの印象は悪いこと悪いこと。いちいち失礼な物言いをしてくるし、弱みを握れば脅迫まがいのことまでしてのけて、苦い気持ちを味わわされる。印象が悪すぎて逆に忘れられないキャラなんですよね。

けれど、その不躾さはいい人にすぎるロザリンドの心の奥底に押し込められた不満を代弁してくれるものでもあり、また不本意ながらも行動を共にしていれば強引さのうちにひとり奮闘しようとするロザリンドの努力を認め背中を押してくれる頼もしさもあるのがわかってきて。ロザリンドと似たタイプのキャラではない。でも、今のロザリンドに必要なのはこういう人なんだろうなあと思わされるキャラであって。ひとり強がるキャラに誰言うとでもなくそっと救いの手が差し伸ばされる。この物語の筋が、とてもあたたかく、優しさに満ちて感じられるんですよね。

そして、ふたりがだんだん惹かれあって、すれ違いの末のクライマックス。これが、もう、とんでもなく巧妙で。王太子とそのお相手と、ロザリンドとエクウスと。皆が皆、心奪われる人を見つけて、ここまでのところで、ロザリンドと王太子の婚約破棄計画から始まる物語は幸せな着地点を見出だせたかにみえる。でも、実際のところそれだけではまだ足りなくて。王太子は王太子で、ロザリンドは公爵令嬢で、ただ好きあった相手がいればそのまま結婚にまで至れるかというと、そんなことはない。王族、大貴族の結婚にはしがらみがつきもので。最終手段としての駆け落ちは当初から想定されていたものの、そのエンディングは将来の不安と隣り合わせになるのは避けられなくて。それどころか、そこまでには至らずとも、なまじ身分の高い生まれであるがゆえに、付随するあれこれのために愛が形を歪めてしまいかねないものもあって。

ではどうするか。というところでの、二組の結婚を正式に決めたあのクライマックスの(だと個人的に思う)場面だと思うんですよ。四人の将来に寸分の貶めもなく、その後を思えば祝福以外の念を送りようもなく、そしてこじれかけた愛をまっすぐに伝えて一点の曇りもなく。すべての問題を解決し、すべての不安を祝意に変える。読んでいて心にしみいり、心をふるわせる、それは求婚の告白でした。

めちゃくちゃよかったです。素晴らしい話でした。オススメ。

いちおうピンクの背表紙ですし、レーベル内での扱いはティーンズラブ作品ということなんでしょうけど、そういう場面は一度だけですし、ページ数的な場所的にもおまけ的というか。むしろ、そういう場面よりも、イラストでのヒロインのお胸の大きさに、そういえばそういうアピールも地味に大事なタイプの小説作品なんだっけと思うところだったり。なので、濃度のうすいところからのTL作品への挑戦を考えている方にはぜひにどうかという次第。そうでない人にも、もちろんオススメの作品ではあります。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:08| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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