2018年03月01日

エルフ皇帝の後継者(上)(下)

エルフ皇帝の後継者〈上〉 (創元推理文庫) -  エルフ皇帝の後継者〈下〉 (創元推理文庫) -
エルフ皇帝の後継者〈上〉 (創元推理文庫) -
エルフ皇帝の後継者〈下〉 (創元推理文庫) -

エルフ皇帝の後継者〈上〉 - キャサリン・アディスン/和爾桃子 訳|東京創元社
エルフ皇帝の後継者〈下〉 - キャサリン・アディスン/和爾桃子 訳|東京創元社

ゴブリンの王女との子という出自によって父帝からうとまれ、片田舎に追いやられていたエルフ帝国の第四皇子マヤ。そんな彼のもとにいきなり継承のお鉢が回ってきて、帝王教育もなにも受けていない状態から皇帝としての歩みをはじめていくことになる話。

これ好きなタイプの話ですね。新帝となる主人公マヤの視点にただよう自信のなさ。政治において儀礼的な面においても知識がなく、皇帝という立場は荷が勝ちすぎているのではないかと痛感させられる力不足感。ただ目の前で決められていく物事に唯々諾々と従っているのがいちばんではないかという思考がよぎる卑屈さ。けれど、それでも位に就いたからにはいい皇帝になりたいと願う気持ちはたしかに持っているのであり。自信のなさと前向きな気持ちの間でたびたび揺れ動くマヤの視点でつづられる、期待度ゼロの新皇帝の物語。すごく好きな感じの描写の調子でした。

それというのもマヤの育ちがいかにも不遇で。皇子として生まれていながら、主となるべく乗りこんだ宮廷において、まずそもそもその宮廷に不慣れであることが露呈するレベル。誰かと密談するならどこか、誰が権力を握っているのか、人間関係は等等、これから帝位に就こうというのにそれらの知識もなく、かといって信頼できる相談相手もいないところからはじまる宮廷生活。政治的な会議に出席してもなされる話はさっぱりわからないことばかりで、かといって質問しようにも初歩的な質問で話を遮るのは時間を無駄にすることでしかなく、また誰かに相談しようにも、親密な態度の者ならともかく、そのたび無知に呆れられるのはたまらなく恥ずかしい。劣等感を抱きながらも頼れる相手はろくにいない。臣下が皇帝を立てるのはあくまで帝位に対する敬意があるからであり、個人としてのマヤを見てくれる人はほとんどいない。いたとしても、個人としての信頼を寄せるよりもまず帝位に対する畏敬から一歩距離を取ってしまう。無能で、孤独で、どうしようもなくて、けれどそれでも自分が皇帝になってしまった。なってしまったからには、失敗しながらもすこしずつ皇帝としての歩みを進めていくしかない。ときには成果をあげて、すこし自信をつけて、けれどすぐにまた自信を失ってしまうような事態が起きて。全体的に自信のなさは変わりがない。それでも、そうして手探りしながらもすこしずつ進められる歩みはちらほらと認められだしていくもので。苦しい時期が長いほどにそのありがたさはじんと胸を打つものがあって。今はまだごく一部の近しい人たちだけであっても、いつかだれの目からもはっきりと立派な皇帝として認められる日がくるのではないか。そう思わせてくれるラストもあり、のちの名君による治世初期の苦労の日々を描いた話のようで、とても心地のよい物語でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:06| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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