2017年04月26日

後宮饗華伝 包丁愛づる花嫁の謎多き食譜

後宮饗華伝 包丁愛づる花嫁の謎多き食譜 後宮シリーズ (集英社コバルト文庫) -
後宮饗華伝 包丁愛づる花嫁の謎多き食譜 (コバルト文庫) -

いい話だった。偽りの花嫁なのに、一時だけの関係でしかないはずだったのに、いつしかこの上ない似合いの妃として収まっていく。この流れがよかったんですよ。

前回も実質的には三話構成だったとのことですが、今回はもっとわかりやすく三章構成で、それぞれの章がひとつの話として、いい感じにふたりの関係がステップアップしていってたんですよね。一章目では、身代わりの花嫁として宮殿に向かわされた料理人の鈴霞とその夫となる皇太子・圭鷹が、料理を接点に打ち解けていくようになり、二章目では、圭鷹を通してその兄弟たちとも接点が増えていき、三章で幸せな結末を迎えることになる。こう書くといかにも順調に圭鷹やその家族との関係を深めていったようにも思えるところだけど、鈴霞がもともと圭鷹の妃として定められた名家の娘の替え玉であったというところがアクセントとして利いていたのでした。

本来嫁ぐはずだった人物ではない鈴霞にとって、市井の料理人であった背景は秘匿せねばならないものでした。けれど、そうはいっても貧民の出自は付け焼刃でごまかしきれるはずもなく。一度ぼろを出してしまうと、ご法度とされた反動もあってどんどん厨房に入り浸ってしまうのはご愛嬌。圭鷹の食生活がわかりやすいくらいに謎な偏食ぶりを発揮してましたし、料理人として黙っていろというのが無理な話。ただ、それでも料理を通して距離を縮めていくふたりのやりとりは悪くない感じで、見えてくる圭鷹の為人も、食生活は変わっているし、鈴霞に対して言うことも素直じゃなくてわかりにくくはあるものの、悪い人ではないというのがわかってきて。鈴霞がほとんど素の彼女になっていくにつれて、もうくすぐったいくらいに甘々なやりとりをしだすもだからたまらない。はたから見ていて恥ずかしくなってきそうなほどの初々しさですよ。

それを成り立たせていたのは、ふたりの相性の良さに起因するもので。圭鷹って、ここまで感想を書いててわりと困ってることなんですけど、言ってしまうと地味、なんですよね。悪い人でないことは確かなんだけど、言動に目を引き付けられる華はないし、皇太子ではあるものの父帝から特別に目をかけられているというふうでもない。かといって政務では有能なのかというと、その辺はあまり描かれないからよくわからない。これといってはっきりした長所を見つけにくい人なんですよね。それは当の本人にとっても同じであったらしく。こんな自分が未来の皇帝としてうまくやっていけるのだろうかと、どこか陰のある性格を形作る要因にもなっていたわけで。けれど、鈴霞にはそんな圭鷹のいいところがしっかりわかってしまう。優しい人だと。そんなことはないと自嘲する圭鷹に、実感をこめて、くりかえし何度も肯定の言葉をかける。圭鷹にとって、それがどれほどの救いになったか。花嫁として現れたのが鈴霞だったことがどれほどありがたいことだったか。むしろ優しいのはどっちだといいたくなるくらいですけれど、ともあれこのふたりの関係は優しくて、和やかな雰囲気で、心地のいいものだったんですよね。

けれど、ふたりの関係にはすでに何度も書いているように一時的な関係という前提があって。圭鷹が鈴霞のことをよく見ていたことには、鈴霞が圭鷹のことをよく見ていたことの一部にも、互いに対する警戒心があったはずであって。それなのに、偽物の花嫁である鈴霞に恋心を抱いてしまったという、そんな流れがとてもよかったのでした。関係が深まれば深まるほどに、ふたりがお似合いに思えてくる。けれど、いつまでも身代わりの花嫁をそのままにしておくわけにもいかない。そんな相容れない事情を改めて思い出させられたところでの、あの三章の章題が、素晴らしかったんですよ。ふたりの優しい関係が崩れてほしくない。けれどずっと隠しとおしてもおけない。いったいどうなってしまうのか……。そんなはらはらさせてくれる展開のあとのあの章題でしたから。ぞくぞくとこみあげる喜びに、震えが走る思いでしたね。この上ない、確固たる想いが現れた言葉でしたから。そしてその後、それを成し遂げた圭鷹の覚悟も、すごくよかったです。鈴霞と過ごした時間があって、鈴霞の見出した圭鷹らしさがあって、だからこその決断。父帝が言うように、決してその前途は明るいものばかりではないでしょうけれど、その行く末に幸多からんことをと祈りたくなるじゃないですか。本当に、圭鷹にとって似合いの妃でしたよね、このヒロインは。いい関係のふたりでした。

あと、タイトルからはわかりにくいですが、同一世界観のシリーズ2冊目で、前回の主役キャラも登場してましたね。とはいえ、ここからでも問題なく楽しめるかと。というか、むしろ前作を読んでると悲しい部分があったりしたんですが……。まあ、長い作中時間を扱うシリーズの醍醐味ではありますね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:36| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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