2017年04月11日

左遷も悪くない(1)

左遷も悪くない〈1〉 (アルファライト文庫) -
左遷も悪くない〈1〉 (アルファライト文庫) -

悪くない。それどころかむしろ、めちゃくちゃいい。

単身、地方に追いやられた武骨な軍人ウリセスが、赴任先で嫁を取り、新たな家族との交流を通してあたたかな関係が築かれていく。そのエピソードの一つひとつがすごくいいんですよ。結婚して、新しい家庭がはじまって、お互いの理解を深めていって、相手の家族とも交流してと、書いていくとなんでもないことのようなんですけど、それでも実際に読んでみると心あたたまる話にしあがってるのは、人と人の物語だからこそでしょうか。

当初のウリセスの心算としては、本人も言っていたように、特別な期待なんてなにも抱かずに決めた結婚だったはずなんですよね。そろそろ身を固めてもいい年齢だと、そんなくらいの気持ちで。結婚してもなにが変わるでもなく、それまで通りに仕事をこなすだけだと。そう思っていたはずなのに、すぐにその結婚生活を悪くないと思うようになり、妻となったレーアやその兄弟たちとの交流が重なっていき、いつしか新たな家族を交えた生活が日常になっていく。仕事ひと筋だった実直な男が、家族とにぎやかに過ごす時間に幸せを覚えるようになっていく。この変化がものすごくよかったんですよ。見合いもなにもなく決まった結婚だからというのもあるのでしょうけど、結婚する両者にはそれぞれに身に着けてきたペースがあって、積み重ねてきた人間関係があって。それがすり合わされていくのが結婚生活なんですね。おおげさな言い方をすると異文化交流みたいなところがあるようにも思えますが、人と人との物語ということでしょうね。今ちょうどこういうの大好きなんですよ。家風というといいすぎですけど、言動の端々から、それぞれの家に形成されてきた人のあり方がありありと浮かぶようなというか。

それと、レーアのほうでも、父から話を聞かされていた憧れのウリセスと結婚できることになって、けれど彼の妻としてふさわしい女としてふるまわねばとプレッシャーを感じていたのを、ウリセスの言葉をはげみにがんばって、いつしかすっかり年下の弟たちをはげます側に回れるようになっていく流れもとてもよくて。仕事ひと筋で生きてきたウリセスのメソッドはどうにも上官と部下の関係のようでおかしくはあるんですが、ウリセスに対して愛情よりも憧れが先に立つレーアとしてはこのうえない激励のように感じている心情がとてもほほえましくて。そんなレーアもラスト付近ではすっかり違和感なくウリセスの妻としての立場に収まってて。これも結婚を通しての変化ですね。よいものよいもの。

とはいえ変わらないところもあって。その筆頭はなにをおいてもウリセスの仕事に対する誠実さでありまして。それが望外の結果として結実した新実の儀のエピソードは胸にしみる素晴らしい話でした。

そんな感じで、たいへん素晴らしい余韻にひたれる一冊。ありがとうございました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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