2017年03月23日

裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル

裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA) -
裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA) -

「コミュ障サブカルオタクに見せかけて依存症サイコパスだったとか、勘弁してくれ」(作中より引用)

いい……。向う見ずに突っ込んでいきがちな鳥子のセーブ役になるかと思いきや、むしろ鳥子がいないとだめになってく空魚(そらを)ちゃんかわいい。これは百合、といいきれるものかどうかはわからないけど、空魚の鳥子に対する感情はとてもいいものだと思うのですよ。

というかですね、この空魚というキャラ、ややネクラ入ってるぼっちでキョドりぎみの女の子という、それだけでもかわいいキャラなんですけどね。第一シーンの鳥子との遭遇場面でも、自分の世界に入っていたところに鳥子がやってきて。表面的には普通っぽくやりとりしてるけど、キョドってるのとまだまだ自分の世界から戻りきれてない感じのモノローグがおかしなテンションになってるのがまずおかしくって。というかこの話、全体的にネットスラング寄りの語彙(といっても2chとかよりもTwitterあたりのものな印象)がそこかしこに登場するんですよね。その辺は、空魚というコミュ障サブカルオタクなキャラのモノローグで語られるからこそでしょうか。すぐに大学ぼっちな事実も判明するんですが、ところどころで対人コミュニケーションに慣れてなさそうな雰囲気が伝わってくるのがかわいい。そんなキャラなんですよ。

だからこそですよね。空魚が鳥子に精神的に寄りかかっていくことになるのは。人づきあいの苦手な空魚にとって、鳥子って現状でただ一人の友達なわけですよ。こう書くと小桜さんがかわいそうになってくる気もするけど、どう見ても空魚の中で彼女と鳥子とは同格ではないのであって。ぐいぐい距離を詰めてきて、つれられるままに何度も裏世界にいっしょに行き来する仲で。デンジャラスにも銃器を使いこなせる武闘派だけど、その実、危なっかしいところもあって、空魚の都市伝説知識と合わさることで裏世界を探検するいいコンビになっていって。何度か命を落としそうな経験もしていくうちに、最初は警戒心もあったのがそのうちにすっかり裏世界で命を預けれるまでの間柄になっていってたんですよね。ぼっちだった女の子が、わずか数週間の間にですよ。そりゃあ、空魚にとって鳥子は特別な存在になりますよ。というか、空魚って鳥子の容姿にも惹かれてるような部分がありますし、もともとそちらの気があるんでしょうかね。まあそれはともかく。

その一方で、鳥子が空魚のことをどう思ってるかというと、空魚と同じく信頼できる仲間だと思っているのは間違いない。でも、同じく同様にたった一人の特別な存在とまで思っているかというと、そんなことはない。まだおそらくいまのところは。鳥子にとって唯一特別な人は別にいる。鳥子が空魚をつれだして裏世界に赴く理由は一にも二にもその人なのであって。つまり、空魚と鳥子の互いに対する感情は、だんだんかみ合わないものになっていってたんですよね。それが表に現れた第4章が、素晴らしかったんですよ。自分以外の人のことばかり考えている鳥子のことはいやで、でも鳥子に置いていかれてしまうのはもっといやで。一人で行ってしまった鳥子を助けるためには小桜さんを無理にでもつれだすわ、泣き言をいわれてもこきつかうわ、鳥子が見ていた幻を「ぶっころ」するわと、もう振り切れたような鳥子ひと筋ぶり。そりゃまあ、冒頭に引用した感想にもなりますわという。とてもかわいい。最終的になんだかいい雰囲気になったっぽく終わってますけど、正直なところ、その辺の気持ちのずれはまだ解消されてませんよね。一時先送り的な解決というか。そのうちまた再燃しそうでこわいんだけど、それはそれでぜひ見たいので、2巻もぜひ出してほしいところ。

あと、都市伝説をテーマにしていることもあってか、ホラーっぽいテイストでもいい感じのところがあったり。怪異を見つめているうちにそれを深く深く認識してしまって、その認識がものすごいスピードで意味の不明瞭な文章となって口から垂れ流しになる様子とか、それと第4章のMIBのところとか。こわいというかびっくりするというか、こういうのもいいですよね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 15:38| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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