2017年02月26日

本好きの下剋上 〜司書になるためには手段を選んでいられません〜(2)神殿の巫女見習い(3)

本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜 第二部「神殿の巫女見習いIII」 -
本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜 第二部「神殿の巫女見習いIII」 -

やばい。すごく面白くなってきてる。神殿で巫女見習いとして働きはじめたことで、いち兵士の娘であったころよりも着実に見える世界が広がって、確実に面白さが増してきてる。いいなあ、このシリーズ。

階級・職業の違う人たちの世界をのぞけばそこには確かな違いのある別個の世界が広がっている。細かいところでそんな情景を感じさせてくれる描写がたまらないんですよ。今回でいうなれば、前回からひきつづいての貴族社会と、改めて見直した平民階級について。

まずいきなりテンションを上げてくれたのが、前の巻でのマインと貴族の子弟との間で起きた揉め事の解決法。あれから少し時間が経って、改めてこんな感じで処分が下ることになったと伝えられるかと思えばもうすでに執行済みの事後報告がされるだけという。しかもその内容が主犯の処刑という想像以上に重いものだったから、ぞっとさせられること。マイン視点で物語を読んでいると、てっきりマインに不快な思いをさせた償いとして処分を下すのかと思っていたんですけど、これもう完全に貴族の面汚しに対するみせしめの意味のこもった刑罰になってるじゃないですか! 人ひとりの命がこうもあっさり飛ぶのかと。しかも、一方の当事者であるマインには処分の妥当性の確認なんてなにもなく、後になってただ処刑されたとだけ知らされる。貴族こええ……。どのレベルの人々によって処分が検討されたかはわかりませんけど、奪うは一瞬とばかりの権力のすさまじさを感じさせてくれることで。

それと、貴族の中でも相当な魔力保有量であると知れたマインの身を狙ってうろつきだしたあやしい影についても。神官長やひきつづきベンノさんたちが慎重すぎるくらいに周囲に気をつけていることもあって、今のところ大きな危険には遭遇していないのだけど、その一方で失敗した下手人や神官長たちにマークされた人物が次々と不審死を遂げていくこの不気味さ。どう考えても口封じされてるんですけど、その死に方もどうも拷問や尋問をきらっての自死というより上層部や依頼元から見切りをつけられての処分なのではないかと思えるむごたらしいものが散見されて。ここでも人の命があっさりと……。なんでしょうね、この世界の貴族階級の人たちは、人間なんてそこら辺から生えてくるとでも思ってるんでしょうかね。替えなんていくらでも利くとでも。なんというか、本当に命が軽い気がしますね。いち兵士の娘時代は想像もつかなかった世界ですけど、ファンタジーな世界としては個人的にとてもいい感じだなあとも思ったり。

そんな感じで、マインの接する相手が貴族階級や裕福な商人たちとの関係が中心になってきたことで、改めてマインの実家の周りの裕福ではない平民階級の人たちの暮らしぶりを見つめ直して気づくこととしては、ああ、やっぱり現代人からすれば極端に不衛生な環境なのねといういまさらのような気づき。思い返せばマインになってすぐ、体が弱いにもかかわらず家の掃除をしまくったり、料理をするときはしっかり手を洗うことを徹底したりしてましたっけ。でも、転生ものではわりと定番的な部分でもありますし、そうはいっても無視できるレベルだと思ってたんですけどね。でもそれもマインのお母さんの出産場面でここまでしっかり描写されてしまうと、脳内で描く情景としてもごまかせなくなってきますわ。第二部になって急に現れてきたように感じていた理想化されてないファンタジー世界としての景色って、貴族階級がかかわってくる部分だけでなく、平民階級まで含めて実はそうだったんですね。前の巻で感じていた断層は、これで徐々に埋められていくことになるかと。ただそうすると、今度は難点として浮かび上がってくるのが、これまでの誤解の一因にもなってきたと思うところなんですけど、イラストの絵って、それにしてはきれいすぎるんじゃないでしょうかというところ。イラストはイラストで華やかでいいんですけど。どちらに合わせるのがいいのかという点は悩ましいですね。

あと、それに関してわりと真顔になってしまうのが、不衛生な環境を当然のものとして暮らすご近所さんを、マインがどうも嫌悪あるいは忌避しているらしいということ。出産の場面とか読んでても、現代人からすれば卒倒しかねない衛生観念の欠如ぶりではありましたけど、父母や姉は当然のようにこなしている近所づきあいを、マインはほとんどする気が見られない。これは、もともと病弱であることからくる自衛の一面もあるのかなと思いますが、それ以上に、やっぱり現代知識のあるマインとそうでない人たちでは考えに違いがありすぎて正面から接したらあらゆることで衝突が起きてしまうという一面もあるのではないかと思ったり。気ごころ許したルッツ相手にならどんな話もできるけど、その家族相手にでさえ、あんまり理解されてないままそういう性格だからで押し通してた節がありますから。常識的な知識の差はなかなか埋めづらいからしかたない部分もありますよねというところ。ただ、現代人の目から見て科学的に正しいのはマインの方になるんですけど、周囲の風習に対する嫌悪感や、むりやりにでも追い出されなければ自分の知識・やり方こそが正しいとひき下がらななかっただろう態度を見るにつれ、それらの風習を劣ったり誤ったりするとんでもないものと思ってるのがうかがえてしまうんですよね。事実としてそういうところもあるんですが、そんな意識を抱きながらの関係って、それはそれで健全・良好とはいいがたいというか。もう何歩か進むと差別感情と呼べるものになるのではないかなーとも思えたり。この辺は、貴族と平民と階級差によるものではなく、知識・教養の差からくる感情とでもいえましょうか。そういえば、マインが神官になりたいと言ったとき、マインの父親が急に怒りだしたことがありましたっけ。あれも、孤児は憐れみの視線を向けられる存在という感覚がうかがえたようにも思えたり。貴族は平民をさげすんで、平民は貴族をお貴族様と揶揄してみせて。けれど同じ平民同士の中にも職業や経済状況などで見下すような目線が存在しているということなのだろうかという。なんというか、どこの層も愉快じゃない部分があるんですねというか。でも、その世界に人々が息づいているというのは、案外こういうことなのではと思うところもあって。読んでいてとても素晴らしいファンタジー世界だと感じますね。

まあ、そうはいってもマインのまわりでは彼女の性格もあいまって結構コミカルにやわらいだ雰囲気になってる印象があるんですが。そして物語がマイン視点で進む以上、ある程度からは想像で好き勝手補ってるところでもあるんですが。

それでも、個人的な心地のよさやテンションの高揚を感じさせてくれる数々の場面を有した、理想化されていないこの異世界。そんな雰囲気を十分に感じさせてくれるこの第二部。世界が広がるにつれてこれまで見えてなかった部分も見えるようになってきて、ますます楽しみが広がってきている感覚があります。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:42| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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