2017年01月02日

ドラゴンの塔 (上)魔女の娘 / (下)森の秘密

ドラゴンの塔 上巻 魔女の娘 -  ドラゴンの塔 下巻 森の秘密 -
ドラゴンの塔 上巻 魔女の娘 -  ドラゴンの塔 下巻 森の秘密 -

すごく面白かった。世界観、キャラクター、そして主人公の物語、そのどれをとっても素晴らしいファンタジー作品だった。もともとアメリカのSF・ファンタジー系のいくつもの賞で話題になっているのを目にしてて気になっていたのですが、期待にはずれぬ面白さで、いやもう満足満足。

なにがよかったかって、一番はやっぱり主人公であるアグニシュカが魔女としての道をかきわけ進んでいくことになる彼女の物語ですね。

魔法使いとしては、彼女の最初の師である〈ドラゴン〉を含めて何人も登場するのですけど、その中で彼女、完全に異質なんですよね。異端的ともいいますか。この世界の魔法使いというのは基本的に理論だった魔法を使うようで、国に登録されている魔法使いは皆、得意不得意はおそらくあるにせよ系統立てられた魔法を覚え使っているんですね。ところがアグニシュカの場合は完全に我流で、長年にわたって積み上げられた理論なんておかまいなし。呪文がところどころ間違ってようが効果自体は発揮させちゃったりするものだから、そんなことがあっていいはずがないと〈ドラゴン〉がキレそうになってたりしてておかしいのなんのって。上巻の前半はそんな感じのコミカルなノリもあったりして、楽しい場面も多かったですね。

とはいえ、話の舞台となる世界はそんなに楽しいとばかり言っていられるようなところでもなくて。主人公の生まれた村は深い森に接しているんですけど、この〈森〉というのがたいそうおそろしいところでして、穢れを宿しているんですよ。魔物が生み出されて付近を襲ったり、穢れを周囲にまき散らしたり。それらの対処を誤れば、文字通りに近くの村が飲みこまれてしまいかねないという。そんな邪悪な〈森〉との戦いがこの作品の大きな側面のひとつでもありました。

〈森〉絡みの事件が起これば主人公にとっても他人事ではなく、大切な人たちが巻きこまれることになる。役に立ちそうな魔法なんてろくに覚えていなくとも、事態を打開できるかもしれない選択肢があるなら手をこまねいてなんていられるはずもなく。ただただなんとかしなければという気持ちにつき動かされる中で開花していくアグニシュカの魔法の才能。それこそが感覚派の彼女の覚醒の瞬間でもありました。筋道だてられた理論ではなく、感覚で答えを見つけてしまう。誰にとっても唯一の正解ではなく、解答ありきでその時々によって自在に変化する解法を見出してしまう。再現しろといわれても難窮してしまう、おそらく当代で彼女にしか使えない魔法を駆使して〈森〉と戦い、その真実に近づいていくアグニシュカの姿は、まさに魔導書を通した彼女の魔法の師である〈妖婆ヤガー〉を彷彿とさせる魔女でした。

言ってしまえばこの話は、アグニシュカが魔女としての生を歩むようになるまでの物語だったといえるのかもしれません。〈ドラゴン〉や〈ハヤブサ〉といったこの国の魔法使いたちと彼女とではかなりの違いがありましたし、生まれからも魔法の能力からも〈森〉ほど彼女の魔法を活かせる道はあまりないことでしょう。正統派の魔法使いたちからすれば異様であやしげなイメージは免れられないかもしれませんが、それでも彼女の成し遂げたこと、その物語は深い印象を受けずにはいられないのです。その後の世界で彼女の名が歴史の奥底に埋もれていってしまわないといいなと思いますが、どうなることやら。訳者あとがきにて触れられているラストのちょっとしたネタのように、ひょっとしたらこの世界の民話の中に生きつづけるようになるのかもしれませんね。

それと、忘れていけないのは、アグニシュカの親友であるカシア。このキャラクターの存在が、自分をこの物語に没入させる要因になってくれたとも思っています。

カシアはアグニシュカと同じ村で生まれ育った少女で、すぐに服をぼろぼろに汚してしまう特技(?)の持ち主であるアグニシュカとは違って、辺境の村育ちにしては品があって、見た目はきれいだし、料理もうまいという非の打ちどころのないヒロインで、物語の始まった当初、領主である〈ドラゴン〉が領内の村から10年に一人召し上げていく娘はこの少女になるだろうと誰もが思っていたというのもうなずける人物像。けれど実際に選ばれたのはアグニシュカだったというところから話が進んでいくのですが、そのままフェードアウトして〈森〉に襲われる村娘Aみたいな立ち位置になってしまうかと思えばそんなことはなく、その後もアグニシュカの親友として、ほとんどヒロインといってもいいくらいの見事な役割を果たしてくれました。

特に上巻の山場が彼女の危機にあったのは間違いないでしょう。〈ドラゴン〉に召し上げられてからしばらくぶりに会ったカシアは、自分が選ばれると思っていたにもかかわらずそうはならず代わりに選ばれたアグニシュカに対してなんらの含むところも見せることなく、それどころか突然領主の塔で暮らすことになったアグニシュカを気づかうことまでしてみせて。あんまりにもいい子なので、彼女のことを失ってしまいたくはないと、なんとか助かってほしいと、アグニシュカともども願わずにはいられませんでしたね。上巻の山場というか、シリーズのクライマックス以上の山場だったような気すらしてますが、それはともかく。

その後も、物語の舞台が都に移ったりした後においてもカシアは結構キーになる役割を果たすんですが、そんな中でも持ち前の気丈さ、勇敢さを失わず、アグニシュカを助けながら立ち回る彼女は本当にこの物語のヒロインだったと思います。でも、思い返せば彼女、いちばん最初から、純粋に〈ドラゴン〉に目をとめられたアグニシュカをかばって自分の身を差しだそうとしたり、きわめて献身的な少女ではありましたね。彼女も彼女で、状況的に物語のその後ではいろいろ大変なことになりそうですが、きっとなんとかしてしまうことだろうと思わせる強い少女でもあります。というか、その後がいちばん気になるのはアグニシュカよりも彼女だったりします。

そんな感じで、ネビュラ賞・ローカス賞・ミソピーイク賞受賞の話題のファンタジー作品、とても楽しませてもらいました。周りに読んでいる人が見当たらないのが寂しいですが、個人的にはライトノベルを読んでる人にも勧めれるのではないかと思っています。特に、ひと頃の少女小説、今だとWeb小説からの書籍化として出てくるような一部の作品を好きな方に向けて、でしょうか。なぜかロマンスな描写が出てくるので児童向けとはとても言えませんが。

ともあれ、ドキドキハラハラしながらも最後にはあたたかな気分になれる、訳者あとがきより「おとなのためのお伽ばなし」。東欧はポーランドの民話をもとにしたという物語。気になる方はぜひぜひ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 13:42| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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