2016年11月16日

年刊日本SF傑作選 さよならの儀式

さよならの儀式 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫) -
さよならの儀式 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫) -

タイトルには入ってないようですが、2013年版。

素晴らしい短編SF小説の数々だった。ひとつひとつがおすすめ級になりうる傑作が16編。本当はそれほどSFが好きというわけでもないんだけど、第一印象があまりよくない作品でもせいぜい数十ページだからと思えば読み流せるし、好みに合う作品がくればひとつだけでたまらない満足感にひたることができる短編小説が10以上も楽しめるという。まさに至福の読書時間。この傑作選シリーズで手に取ったのはこれが2冊目だけど、1冊でも読む前よりも読んだ後、1冊目を読んだ後よりも2冊目を読んだ後のほうがよりSFっていいなという気持ちが強くなっているのを感じる。そういう意味で、短編集ってジャンルの布教に実はかなり有用な形態なんじゃないか。そんなことも考えたりしますがほかで応用できるあては特になかったり。

以下、これはと思った作品をピックアップ。

「ウンディ」(草上 仁)
ウンディという異星の生物が楽器として使われている世界を舞台とした音楽SF。もっというと、音楽の中でもバンドもの。ライブシーンの高揚感がですね、素晴らしかったんですよ。最初の一音目を出していくところからはじまって、徐々に徐々に曲の調子が高揚していって、クライマックスでは勢いに任せて空中を飛び回るような浮揚感、疾走感に包まれる。この感覚にどっぷりとつからせてくれる描写がみごとでした。それでいて、異星生物というSF要素は要素だけにとどまらずしっかりとクライマックスにも関わってきていて、そういう意味でも音楽とSFのふたつが絶妙に組み合わされた音楽SFでした。

「エコーの中でもう一度」(オキシタケヒコ)
立体音響技術を用いて依頼人の依頼を解決していく感じの話。内容自体からはすこしそれるんですが、バイノーラル録音とか立体音響とか、個人的に2年ほど前からはまってる耳かき音声で聞いた技術がさらに発展してSF小説のネタになっていることにちょっと感動してしまったり。

「食書」(小田雅久仁)
タイトル通り、本のページを食べてしまうことに取り憑かれる男の話。SFというか、ホラーテイストな不思議な話。タイトルの時点で展開はある程度予想できてしまったんですが、それでも、目の前で巻き起こる異常なできごとに目が釘付けにされてしまうサスペンスな展開。五感からダイレクトに伝わる幻を通して現実との境があいまいになっていく感覚。ぐいぐいとひきこまれる描写の魅力。持っていかれました。こういう、わかっててもなお瞠目させてくれる筆致は好きですね。というかですね、いきなり肉感的な姿態の女性が現れて失禁してる場面はインパクト強すぎて卑怯ですね。

「イグノラムス・イグノラビムス」(円城塔)
人類よりもはるかすぐれた思想を有する超越的な異星人の体に入りこんでしまった男の意識が彼らとの対話を通じて思索する感じの話? すいません。円城塔はほかにもひとつふたつだけ読んだことがあるんですが、話の筋を理解しきれたためしがありません。でも、不思議なことに面白いんですよね。人類よりもはるかに高度な思想を持つがゆえに、どこまでも人類の枠組みでしかない自分には理解不能な論理が目の前で悠々と展開されて、けどなんとなく雰囲気だけはわかったような気になれるとそれがなんだか無性に面白い。そんな感じの読み味なんですよね。実際どういう話だったか聞かれたら、さっぱりわからなかったというほかないんですけど。

「神星伝」(冲方丁)
文句なく傑作。未来世界の木星を舞台にしたSFロボットアクション大作……という理解だけど、わずか50ページの中に詰め込みに詰め込まれた設定は要約しての説明なんてとてもしきれるものではないのでこれはもうただ読んでくださいとしか言う術がない。ただ、それでもあえて言うとしたら、ジャパニーズ・パンクでスペース・メカニックな世界観の魅力とでもいいましょうか。作品全体の雰囲気を醸し出す造語や単語のチョイス、ガジェットの数々がとてもイカシてるんですよ。ぱっと抜き出してきても、浮世(ウキヨ)に淑景舎(シゲイシャ)士道(シドー)に陰陽(オンミョー)ですよ。そしてアクションシーンでは人型の具足(グソク)に乗りこみ馬具(バグ)を装着し、刀(カタナ)を起動させてぶん回す。けどそれらひとつひとつが文章の中に自然と溶け込んでひとつの物語世界を構成してるんですよね。そのセンスの妙ですよ。それでいて、キャラクター的には息子大好きお母さんがいたり、主人公にとって特別な存在となるヒロインがいてその関係性に期待させてくれたりと、もう本当にカオスな世界観で。たった50ページの短編ひとつで幕を閉じてしまうにはあまりにももったいない奥行きを感じさせる設定の数々。読んでる間わくわくしっぱなしで、終わってからこの分量では全然物足りないと思わせられる期待感。いやこれ本当に、どこかで続編かもしくは長編としてリメイクしてくれませんかね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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