2015年04月24日

ヴァンパイア・サマータイム

ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫) -
ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫) -

いい。この雰囲気、かなりいい。ヨリマサと冴原のやりとり、そのあいだに流れる間、すごくいいじゃないですか。お互いのことが気になって、いっしょにいる時間は楽しくて、けれど関係を深める肝心な一歩は踏み出せなくて、ただただ今の時間が居心地よくて。このじれったいくらいの絶妙な描写。他の人も絶対書いてると思いますけど、石川博品こんなのも書けたのかって、これまでのギャグよりにぶっ飛んだ作品の数々を知ってたら驚かずにはいられませんよ。けど、ネルリの頃にも、変態的な主人公の思考の傍らで青春っぽい空気を感じさせてもくれてましたっけ? それを敷衍させていったのがこの作品だというなら、配分次第でここまで変わる作風に驚かされずにはいられませんよ。

ヨリマサは昼の時間に生きる人間。冴原は夜の時間に生きる吸血鬼。名前を知る前は互いに接点ともいえない接点しかなかった間柄で、それがふとしたきっかけから昼と夜の境目、人間と吸血鬼の生活時間が交わる時間帯に短い時間、やりとりをするようになって。けれど初めは用事があったからこその関係が、その片が付く頃にはある程度打ち解けて、それどころかお互いのことを意識するようになってるんですよね。いてもたってもいられないほどにではなく、かといってなんとなくという程度でもなく。それは相手を異性として意識したというレベルのことのようでありながら、互いの時間に仲のよい友人との場面も描かれていることから、相手を特別な存在と考えだしたことは明確で。どこから二人の恋が始まったのかははっきりとはしないんだけだも、気付いたら気になっているという距離感がまたいいんですよ。

いったん意識しだすと、二人の様子はちょっとずつ変わっていくんですよね。親しくなったから気安いやりとりもできるようになった。でも、変なやつだと思われたらと考えると迂闊なことまでは知られたくない。お互いに相手に実像とは違う理想を見ながら、けれど確実に自らの好意だけは自覚を強めていく。恋する少年少女の楽しい青春模様の始まりですよ。相手のちょっとした一面をもとに自分一人で熱を上げていく様子は、現実を知る読者としてはつっこみをいれずにはいられないところであり、それでも本人たちにとってはそんな想像すらもが幸せな時間であり。相手を理想化して盛り上がって、もっと知りたいと思う。それは自分にとって都合のいい想像ではあるんですが、その何にも煩わされずに恋を楽しんでる様子は微笑ましいものがあるんですよね。らしくない言動をとっちゃっても他人に指摘されるまで自分ではそれに気付けなかったりとか、すごく可愛いじゃないですか。青春の勢いというか、まだお互い知り合ってそれほどまもない間柄だからもっともっと知り合っていく過程に楽しみがあることを思わせてくれて。

二人の意識が強まれば強まるほど、青春模様はどんどん面白くなっていくんですよ。ヨリマサも冴原も、どっちも相手のことが好き。そういう自分の気持ちは否定しがたいまでになって、けれど一歩を踏み込むのは図々しいことではないかと思うとそれ以上に関係を深めるのには躊躇してしまって、それでもやっぱりそんな状態では満足しきれないものがあって。この作品で一番よかったと思うのは、やっぱりこの雰囲気ですね。実はお互いに好きあっているのに、じれったいくらいの臆病さ。けれどそれは、相手の気持ちなんてわからない、どこかで間違えたら取り返しのつかないことになってしまうかもしれない、そんな考えを振りきれないほどに好意が募っているからなんですよね。ちょっとやそっとのことなら大丈夫だなんて言えるわけがない。そんな青春の葛藤ですよね。心臓が破裂しそうになりながらのヨリマサの「ヒント」も、実質的な告白でありながら、会話の流れ的にそういう意味だよねというくらいのかなりなあいまいさでしたし。

その空気感が絶妙で絶妙で。そういう雰囲気を感じだした辺りからはもう、ページをめくる手が止まらなくなりましたよ。告白さえしちゃえば、あとは両思い。ハッピーエンドかと思えば、物語はまだ終わらない。昼の人間と吸血鬼が同じ時間を過ごす難しさを感じさせられる場面がちらほらと出てくるし、なにより冴原がヨリマサに抱く欲情は単純に二人が人間のように愛しあって幕を引く結末に不安を抱かせるに十分なものがありましたから。幸せな幕引きになるならそれはいい。けれどもし、その本能を肯定する形に話が進むとしたら、それはなんとほの暗く甘美な物語になるだろうか? そんな期待にワクワクする気持ちを押さえられませんでしたよ。

ラストは最終的にあんな感じで、過程の面白さからすればやや静かすぎて物足りなさもあったのですが、あとがきを読んで、そういうことならあれでいいんだろうなあと納得してもいます。とても楽しませてくれるお話でした。

これを読む前、石川博品といえば「ネルリの作者」というイメージでしたが、本作はそれに勝るとも劣らない代表作と呼べる作品だと思うのですよ。いやまあ、今では他にも後宮楽園球場とかあがると思いますが、まだ読めてないので。なにはともあれ、ますます注目していきたい作家さんですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:40| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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