2014年08月23日

艦これ、2-4-1周回中 その2

以下は、望月長月で。長月旗艦の艦隊でしばしば華麗にMVPをかっさらっていく望月の姿が印象的でして。



     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



 そよと、風が室内に入りこむ。涼を運びこむかと期待されたそれは、炎天の下、蒸し暑さだけを伝えて絶えた。じっとり汗ばむ気温の室内で、二人の人物が向き合っている。

 一人は軍服に身を包んだ男。ぴっちりと閉じたボタンをわずらわしげに、提出された報告書に目を通している。

 もう一人は腰まで伸びる緑髪が特徴的な少女。紺地に長そでの水兵服を着込んでいるが、特に気にした風もなく、きりりとした表情で口頭での報告を述べている。

 少女の説明は簡潔かつ必要十分であり、男は途中、一つ二つ質問を挟んだ程度で、室内には少女のきびきびとした、けれど事務的な口調が響いていた。

 報告が一段落するや、男は書類から目を上げてにやりとした笑みとともに少女に声をかけた。

「今回のMVPは長月か。さすが我が基地のエース」

 長月と呼ばれた少女は照れるでもなく誇るでもなく、短く否定を返す。

「我らがエースは謙虚でおられる」

 おどけてみせる男に対し、少女は顔をしかめる。

「私の貢献はあくまで駆逐艦としてのもの。戦艦や空母の仲間たちには及ぶべくもないのだが」

 男は、それをこそ謙虚というのだと、言う。

「確かに、特大の火力で薙ぎ払う戦艦や航空優勢下の空母たちの活躍は派手で目立つ。けれどその陰で、小回りを活かして支援に、撃破に、活躍する駆逐艦の存在を見落としてはいないつもりですよ」

 自分を褒めそやす男を、少女は冷めた目で見つめていた。そして、話に区切りがついたと見るや、すぐさま声を割り込ませる。

「無駄話はそれくらいにしてくれ。これ以上の話がないのなら、私は退室させてもらう」

 男はその言葉で初めて、一方的に話しすぎていたことに気付いたようだ。明日の出撃までの休養を指示すると、退室の許可を出した。


 少女は執務室を出ると、まっすぐ自室に向かった。その足は意識されることもなく、いくぶん早足になっている。

(エース? ああ、私を凌駕する艦はいなかったさ。あくまで今日の任務では)

 少女の心中はさざ波立っていた。それは男の無神経な言葉を思い返すたびに強くなっていく。

(あの男は、わかった風な口を利くくせに何もわかっていない。今回の戦果はほとんどあいつの支援に乗っかっただけに過ぎないというのに)

 歯の浮くような言葉を聞いているうちに少女の脳裏に浮かんできたのは一人の仲間の姿。任務に対してだるいとはっきり口にし、うしろから小突くようにしてやらねばまったくやる気を見せないあの人物。戦場での動きも機敏とはとても言えなかったにもかかわらず、気付けば少女の戦果のほとんどを演出してのけた駆逐艦。

(そうだ。望月、あいつこそが真に駆逐艦のエースと呼ばれるにふさわしい。だが……)

 それでも、少女にも自負がある。練度では基地内の誰にも引けを取らないずだと。なにより、やる気のかけらもない仲間に劣る自分を、許せそうにはないと。

 眉間に浮かんだしわをほぐすと、大きく息を吸って、吐き、少女はいつものようにさっと自室の扉を開けた。





 数日後の執務室。今日も暑い日になりそうな朝の陽気の中、そこには一人の男と二人の少女の姿があった。先日と似た構図ではあるが、ひきしまった空気は存在せず、かしましい声が響いている。

「司令! これはなんですか? うわ〜、わたしのこといっぱい書いてあります!」

「雪風、それは部外秘の調書なんだから、あんまりのぞかないでくれ」

 嬉々として部屋の中を漁りまわるのはおかっぱ頭の少女。それに対し、男はたしなめるようでありながら、強いて制止しようという様子はなかった。一度火がついた少女の好奇心はちょっとやそっとではおさまらない。自らの評定に記された「落ち着きがない」の言葉にしょんぼりしたかと思うと、次には別の棚に移ってそちらの書類をのぞきだす。

「こっちは図がいっぱい……。司令! これ、わたしが来てすぐの頃にやった演習の図面ですよね?」

 見つけたものを片端から見せに来る少女に対し、男は仕方ないなと苦笑しながらもどれどれと相手になる。それがまた少女の探検心を高めているのだが、男は気にした風もない。

「そうそう。雪風が仮想敵との出合い頭に撃沈判定を食らったあの時の」

 本人はそのことをすっかり忘れていたらしく、指摘されて思い出した不名誉な戦績にきゃいきゃいと言い訳を述べはじめる。男はその様子をほほえましく思いながら受け答えしていたが、やがて少女がまた棚の書類に関心を移すと、机上の書類の相手に戻った。

「司令、この部屋にも神棚があるんですね! あれ、でも広間のとはお札の文字が違います?」

 しばらく、雪風と呼ばれた少女が彼女にしては静かにしていると気付いた男が室内を見回すと、少女は来客用の椅子にさらにみかん箱を二段三段と積み上げ、その上に立って神棚をのぞき込んでいた。

「雪風、危ないからすぐにそこから下りなさい」

 ぐらぐらとする足場を見かねた男が立ち上がる。大丈夫ですからと返す少女だったが、振り向いた拍子に後方に平衡を崩してしまった。倒れそうになる中、少女は何かにつかまろうとするが、その手は何もつかめない。近づく床の気配に目を強くつぶったが、衝突の寸前で男の腕にすくい上げられるのを感じた。

「大丈夫か、雪風」

 少女は男の声にうっすらと目を開ける。遅れて助かったのだと実感するが、落下の恐怖の余韻から声が出ない。そっと床に降ろされさすられる背に少しずつ安心感が湧き上がる。ようやく少女が大丈夫の一言を告げると、男はほっとしたようだった。

「好奇心旺盛なのは構わんが、危ない真似はするな」

 すぐに忘れてしまうだろうがと思いながらの男の言葉に重ねるように、別の少女の声が続いた。

「そうそう。任務でもないのにけがするなんて、めんどくさいじゃん。それにしても、あんまりうるさいから、のんびり寝てられないんだけど」

 茶色がかった髪を伸ばした眼鏡の少女だった。寝起きの目を擦りながら、今の今まで自分で使っていた薄手のふとんを勧める彼女に、男はあきれたように声をかける。

「望月、あの騒ぎの中で寝ていられる図太さは評価するが、執務室は寝る場所じゃないぞ」

「いいじゃん、いいじゃん。あたしの部屋と違ってここは静かなんだしー。それに、仕事の邪魔しないならいいって、言ってくれたじゃん」

 己の言葉を引き合いに出されて男は言葉に詰まる。望月と呼ばれた少女は、こういうところで抜け目のなさを発揮する。執務室に用もなく立ち寄る仲間はいなかろうと、騒がしい仲間たちとの相部屋を抜け出してここに押しかけているという点でもそれは察せようか。

「ほう。そんなにここを昼寝部屋にしたいなら、どうだ、いっそ秘書艦になってみるか」

 そう水を向ける男だったが、望月は余裕綽々で答えてみせる。

「別にいいよー。それで昼寝させてくれるならね。雪風よりは役に立てる自信があるし」

 本気で寝るつもりだろうと理解できる男には、冗談だと返すしかできない。雪風より役に立てるとは、先ほどから彼女に付き合わされ通しの男の姿を見ていればわかる通り、なにもしないならば邪魔をするよりはましという意味なのだろう。至極もっともではあるが、そんな秘書艦はいてもいなくても同じものだ。なにを言っても無駄とあきらめた男は、望月に雪風の介抱を任せて、先ほどからまったく進んでいない書類仕事の続きに取り掛かることにした。二人で寝ることになるのかもしれないが、もはやなにも言うまい。静かにしていてくれるならば。

 そうして執務机の椅子に腰かけるやいなや、開け放たれた執務室に、廊下からまた別の少女の声が聞こえてきた。

「司令官! こちらに望月か雪風は来ていないか」

 長月だ。その声を聞いた途端、望月は弾かれたように起き上がった。近づく足音にきょろきょろと辺りを見回した望月は、男の方に目をとめた。

「司令官、ちょっと匿って」

 ぼそっと言うや、望月は執務机の足の懐に身を隠した。その直後、長月が入室許可とともに執務室に入ってくる。雪風がいるのを見た長月は、重ねて男に望月の所在を知らないか問うた。

「出撃任務の集合場所に望月が現れないため、雪風を探しに出したのだが……」

 長月ににらまれた雪風は首をすくめて繰り返し謝る。男がちらりと机の下に目をやると、望月は手を合わせて拝むように、男を見つめていた。苦笑した男は、長月に目を戻して答える。

「ここには来ていない」

 その様子を見ていた長月は、つかつかと執務机を回り込み、望月の姿を暴き出した。

「やはりここにいたか。さあ、いくぞ。まったく、毎度毎度……。ほら、きりきり歩け」

 役立たずと男を罵りながら連れ去られていく望月の姿に、男は申し訳なさをこめた表情を向ける。しかし任務は任務。男自身が課したものである以上、こうなればあきらめてもらうほかない。ただ、去りゆく長月に一つ聞きたいこともあった。

「出撃の予定時間は、もう少し先ではなかったか?」

 それを聞いた長月は、けげんな顔をして振り向く。

「はぐれ深海棲艦の艦隊が南西方向の沖合に現れたから、その対応に出ている仲間たちとの交戦海域を回り込むために時間を繰り上げたんだ」

 それも雪風に報告を頼んだはずだがと続ける長月に、雪風は再度謝罪を繰り返す。事情を悟った男は、雪風の評定書に書き加える文言を考えながら、二人を送り出した。

「長月、望月。戦果を期待する」

 残された雪風にはひとまず、望月が出しっぱなしにしていったふとんの片付けが命じられた。





 しんとした部屋にかさりと、紙面をめくる音がたつ。夜更けの室内にて、うすぼんやりとした明かりに照らされるのは机に向かう緑髪の少女。長月だ。その手元には、今日の出撃における海戦中の敵味方の艦の動きが記された図と、この部屋に保管されている資料がいくつか。ノートになにやら書き込んでは、沈思し、唸ったすえに大きくバツを上書きし、紙をめくってはまたなにか書き込んでいく。

 多くの者が寝静まった基地内で、いつまでとも知れず作業に没頭していた長月の顔が不意に上げられる。そして、先ほどから自分を見つめている男に振り向くと、不快げに声をかけた。

「何の用だ。見世物ではないんだがな」

「ああ、気付いてたか」

 それならばと、男は向かいに腰かけ、手に持っていたお盆から湯呑みの一つを長月の方に差し出す。男のせいで集中力が切れたとばかり、長月は手元の資料をわきに寄せ、湯呑みに手を伸ばす。口に含んだぬるめの麦湯にのどの渇きを気付かされた長月は、そのままごくごくと中身を飲み干す。

「ありがたい」

「いえいえ、どういたしまして」

 男はへらへらとした笑みを浮かべると、自らも麦湯をあおり、長月の分とともにやかんから替えを注ぎ足している。その様子は普段通り、提督らしい威厳などかけらもない。

 この男が差し入れらしきものを持ってきた理由は察しがつく。明日の出撃に備えて無理をさせないためだろう。長月自身にもその自覚はあったが、こればかりは譲れない。なんと言って追い返したものかと考えながら男の言葉を待つ長月だったが、男は切り出し方を考えあぐねるように、なにか言いかけてはやめ、その間に茶ばかりぐいぐいやっている。しびれを切らした長月は、自分から言い出してやることにした。

「で、結局何の用だ」

 男はようやく、追いつめられたように湯呑みから離した手を組み、おずおずと口を開く。

「あー、うん。それなんだがな……長月、努力で追いすがるにも限界があると、私は思うんだ」

「……は?」

 男の口から発せられた言葉は、長月の予想外のものであった。しかしそれは、長月の心に引っかかって抜けないとげのようなもの、その核心でもあった。

「それ、今日の海戦の図だろ? MVPを望月に取られた時の」

「そうだが……」

 それは長月にとって触れられたくなかった傷口。しかし男は、遠慮なくそれを暴き立ててきた。

「長月が必死になって勉強してるのは知ってる。でも、どれだけ頑張っても、その気になった望月は軽々とその上を行く。無理して頑張っても、最後にはあなたが倒れるだけだぞ」

 そう。望月は、あのやる気のない様子に反して、戦場ではおそろしく抜け目がない。戦局の勘所を見抜くとでも言おうか、長月には後から振り返ってようやく気付けるような場面で、戦いの流れに無視できない影響を与えていることがままあるのだ。場の流れを読むかのような直感力はさながら未来が見えているかのようでもある。それでいてめんどくさがりな性格はあの通りであるため、仲間の動きまで見越したうえで、最小限度の働きで大きな戦果をあげてしまうのだ。それは、望月の要領のよさによるものだと、長月は考えている。目を離すとすぐにさぼりはじめる望月だが、要点だけは常に外さない。細かいところまではそうでもないようだが、だからこそというべきか、意表を突くような戦果を残すことも珍しくないのだ。それは、長月にはできないことであった。しかし長月にも負けっぱなしではいられない自負がある。だから、自分の不足を補うべく、必死に勉強している。それを、この男は無駄だとでも言おうというのか。

「わかった風な口を利くのだな」

 ぽつりと漏れ出た言葉はせいいっぱいの虚勢の表れか。しかし、それに対する男の答えに、長月は神経を逆なでられた。

「私も、兄に追いつこうとして思い知ったからな」

「そうか……。そうか、つまり、ただ先輩面をしたかったということだな」

 男の噛んで含めるような態度に、長月は違和感を抱いていた。長月の知る限り、この男は部下であるはずの仲間たちの心に踏み込むような接し方はしてこなかった。それは、こちらを理解できていないことの表れでもあるようだが、仲間たちの自律心を期待しているようでもあった。それなのに、今のこの男は、どこか得意げに、長月の心に土足で上がりこむように言葉をまくしたてていた。それはつまり、

「勝手に自分よりも格下と思った者を、上から目線で憐れむのは楽しいか、司令官?」

「いや、そんなつもりは……」

 しどろもどろに否定する言葉が白々しい。男にも、心の隅でその自覚はあるのだろう。これだから、この男を上官として敬うことなどできないというのだ。

「先人の言葉はありがたく受け取らせてもらう。ただし、そのなれの果てがこれでは、まったくあやかろうと思えないがな」

 男は押し黙ってしまった。まだ何か言いたいことはあるかとにらみつける長月に対し、男はしばし言葉を探って苦慮していたようだが、結局、悪かったとの言葉を残し、すごすごと部屋を辞していった。再び一人になった部屋で、長月は思う。

(確かに、その気になられたら勝ち目は薄いのかもしれない。だが、それであきらめていいはずがない。あきらめたら、みじめになるばかりなんだ)

 残された湯呑みの中身を一息に飲み干すと、長月はまたノートに没頭するのだった。





 基地の港、帰投した船がいかりを下ろすその場所に、傷ついた六隻の艦があった。夕暮れの中、曇りがちな表情をして陸に揚がってくる少女たちを出迎えるのは一人の男。この基地の提督だ。男は帰投の挨拶を受けると、少女たちのうち二人、長月と望月を残し、他の者たちには船渠行きを指示した。

「こんなところで報告か?」

 他の者について船渠に行きかけた望月の襟首をつかんで引き留めながら、長月は問う。男は、先夜の醜態をどこかに置き捨ててきたらしい。何の確執もないかのように気安く話しかけてきた。

「小演習を終えたところにあなたたちが帰ってきたので、もののついでにと」

 正直に言うと、今、長月は虫の居所が悪かった。そのせいで、あまり冷静な報告ができそうにない。頭を冷やすべくなんでもない話題で時間を稼ごうかとも思ったが、この男を相手に任務以外で話したいことなど特に浮かばなかった。なにより、隣に望月がいては気持ちを切り替えることなどできるはずがない。その望月はといえば、先ほどの扱いへの不満を訴えていたかと思えば、早く寝たいとあくびをもらしている。こちらの気など知った様子もない。観念した長月は、つとめて私情を挟まないよう気を付けながら、報告を始めることにした。

「沖合に出てしばらく航行していると、偵察隊が進行方向に敵艦隊を発見。敵に空母なしとの電信をもとに航空機動部隊による爆撃を加えたのち、これを殲滅すべく距離を詰めて砲雷撃戦に突入した」

 そうだ。今回の任務の幸先は悪くなかった。爆撃機による先制攻撃で敵艦一隻を沈め、長射程の戦艦による砲撃によってさらに一隻を撃沈させた。だが、そこから風向きがおかしくなった。

「なんか、扶桑さんの動きが鈍かったんだよねー。撃つのは撃つんだけど、避けるのがワンテンポ、ツーテンポ? 遅れてたっていうか」

 望月が続けたその言葉通り、今日の扶桑の調子はおかしかった。疲労や不調を周りに気取られまいとする人であるために、後から思えばいくつかあった前兆を見落としてしまったのだ。敵旗艦による主砲の直撃を受けたかと思うとますます速度を落とし、敵の集中砲撃にさらされることになったのだ。

「急いで部隊からの離脱を指示したが、本人も悔しそうにしていた。あれは、旗艦の私のミスでもあったのだが……」

 痛切な思いをにじませる長月の言葉を、男は黙って聞いていた。

「んで、その後しばらくは扶桑さんの穴を埋めようと、向こうの攻撃かわしながら必死に撃ちまくってたんだけどさ。今度は運悪く祥鳳さんが被弾しちゃって」

 浮かびかけた感情をしずめようとしていた長月の言葉を、望月が引き継いだ。それを補足して、長月も再び口を開く。

「待て。その間に、お前が一隻、敵駆逐艦を沈めていただろう」

 早く報告を終わらせたいのは長月も同じだが、そのために話を端折っては後々差支えることになりかねない。細かいことはいいじゃないかと漏らす望月の、あいかわらずのおおざっぱさに腹が立つ。長月はこれ以上感情的にならないよう、この先は要点のみ簡潔に告げることにした。

「その後で、祥鳳が敵の砲撃を滑走路に被弾。機動部隊の発着が制限されることになった」

 主力二隻の被害によって、部隊の攻撃力は大幅に低下した。決定打を欠く撃ちあいに、敵艦隊の殲滅から退却に追い込むことへと作戦目的を変更しようかと長月が考えはじめた時、再び形勢を味方にたぐり寄せたのは、望月だった。

「あたしの雷撃が敵の……なんだったっけ、重雷装巡洋艦? とにかく、直撃したみたいで、沈没。それで敵さん、退却を始めたってわけ」

 至近弾を多数観測していたこともあり、じわじわと敵艦の体力を奪うことはできていたらしい。一発当てれば何とかなると電信で伝えてきた望月の言葉の通り、消耗戦の様相を呈しだした中での魚雷の直撃は敵艦の装甲に致命的な破裂を与え、そのまま浸水による轟沈に追い込んだ。

 あとは、数で優位に立ったこちらのものだった。退却を開始した敵艦を追跡し、追撃戦で長月が一隻、そして望月が最後に残った敵旗艦を仕留めた。しかしその過程で、最後の抵抗を見せる敵によって味方の島風が危うく沈没寸前の被害を受け、曳航することでなんとか母港まで帰り着くありさまだった。

「以上が、今回の任務における戦闘の概略だ。私が判断を誤ったがゆえに仲間を命の危険にさらさせたこと、弁解の余地もない」

 そう言って、長月はしめくくった。いらだちを表に出すことはなかったはずだ。だが、己のふがいなさに自責の念を抱かずにはいられない。それにひきかえ望月は、海戦の趨勢に決定的な戦果をあげるとともに、長月の指揮の穴を埋めるような連携すら取ってみせたのだ。

「ふむ……とりあえず、今回のMVPは望月、あなたのようですね」

 口を挟むことなく二人の報告を聞いていた男は開口一番、そう告げた。

 長月にもそれはわかっていたが、悔しさはいかんともしがたかった。望月に負けぬようにと陰で努力を重ねているにもかかわらずの体たらくに、感情が高ぶる。

「あたしが一番だなんて、どんなぬるい艦隊なんだよ。ま、いいけどー」

 それは、望月にとってはなにげない言葉だったのだろう。だが、今の長月にとっては聞き捨てならない言葉だった。長月に率いられた艦隊など所詮はその程度でしかないと、自分が旗艦であればこんなふがいない結果にはならなかったと、そう言われたような気がしたのだ。

 長月は、反射的に望月をにらみつけた。こちらの気も知らず男と軽口を叩きあっている姿にはらわたが煮えくり返る。手の平が真っ白になるほど拳に力がこもり、抑えがたい感情が口から漏れそうになる。

 直後、我を忘れかけていたことに気付いた長月は慌ててそっぽを向き、つい先ほどの自身を望月に見られていないことを祈った。望月の潜在力を恨めしく思う長月の気持ちは、これまで必死に隠してきた一方的なものだ。みじめさをこらえ、当人ともなにも引け目などないように接してきた。男には気付かれていたようだが、もし望月にまで知られてしまったら、この先どんな顔でこの基地にいればいいのかわからなくなる。

 だが、望月には見えていた。いつも班長ぶって自分を任務へと引き連れまわす長月の、爆発寸前な負の感情をあらわにした顔が。それが何に由来するかまではわからなかったが、どうやら自分がその元凶であるらしいというところまでは見て取れた。それを目にした瞬間、望月のうなじから背筋にかけて、しびれるような快感が走るのを覚えた。

(おお? なんか楽しい、これ。ちょっとやる気わいてきたかも)

 執務室への道すがらいくつか質問をしようか、などと言っているらしい男の言葉を話半分に聞き流しながら、望月は気丈を装う長月を尻目に、次は何をすればまたあの表情が見られるだろうかと、そんな考えにふけるのだった。



     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



以上。登場キャラ(名前だけも含む)の現在のレベル。長月43、望月43、扶桑28、祥鳳28、雪風16、島風16。


posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 00:54| Comment(0) | TrackBack(0) | ゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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