2014年07月31日

艦これ再開しました

以下、とねちくでお送りします。どの程度公式の設定に準拠できているか不安はありますが。



     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



 一羽の海鳥が海面から飛び上がった。そのくちばしの間に獲物はない。一声二声、鳴き声をあげると、海鳥は近くの山に沿って舞い上がり、そのまま空のいずこかへ飛び去った。

「……空は高い」

 山の尾根に、座ってそれを見送る人影があった。軍の制服に身を包んだ少女だ。小柄で、背中の半ばを過ぎるほどの長さの髪を高い位置で二つにまとめている。その表情は心ここにあらずといった風情で、半ばぼんやりと口を開けたまま、空から戻した視線は海に向けられている。辺りに響くのは微かな波音と海鳥の鳴き声にセミの合唱。季節は夏。木陰であっても昼日中の暑気はたいへんなものだ。しかし彼女はもう一時間も、こうして見るとなく海を眺めていた。

「……喉が渇いたな」

 その一言とともに、眠りから覚めたように彼女の顔に表情が差した。

「いかん。いかん。ここに来ると時間が経つのを忘れてしまう」

 言って、苦笑しながら伸びをする。そこに、近づく人の気配があった。

「姉さん!」

 先の少女と同様の制服に身を包んだ少女だ。姉と呼ばれた小柄な少女よりいくぶん背が高く、髪は縛らずその背に流している。その少女が駆け寄ってくるのに気付くと、小柄な方の少女は苦笑を自信に満ちた笑みに変えて彼女を迎えた。どうやらこちらが平素の顔らしい。

「よいところに来た、筑摩」

 筑摩と呼ばれた少女はその言葉にきょとんとする。だが、腰のポーチから水筒を探り出して中身をごくごくとされるに到ってわかったらしい。

「もう……。いくらお気に入りの場所だからって、この暑い日に水も持たずにいたら調子を崩して倒れてしまいますよ」

 呆れたような口調でありながら、それ以上に心配の色をにじませた声がかけられる。だが、姉と呼ばれた少女は気のない調子で「次からは気を付けるでな」などと返すばかりであった。中身の半分以上減った水筒を戻されて言うだけ無駄と悟った筑摩と呼ばれた少女は小さくため息を吐く。

 そうなのだ。この利根という人は、普段は見た目同様、子供っぽいところがあるのだ。そのせいで筑摩とどちらが姉かわからないと言われることも少なくない。けれど、妹として誰よりも近く接している筑摩にはよくわかっている。利根という人の大きさが。

「それより、どうしたのだ? 吾輩を探していたのであろう」

 その声にはっとした筑摩は姉に話したかった一件を思い出した。

「新しく着任された提督について、姉さんはどう思いますか?」

「ああ、あやつのことか」

 数日前、ここ「ブイン基地」に二代目の提督が派遣されてきた。なんでも内地の将官の子息であるらしい。

「着任時の挨拶以来めったに姿を見せませんが、姉さんは提督に間近で会ったことがありますか?」

「一度だけな」

 その男が基地の艦娘たちの前に姿を現すことはほとんどない。通達によると、半年近い提督の不在期間があったため、しばらく業務の引き継ぎとも言えぬ引き継ぎに当たっているとのことだ。だが、基地内にはまことしやかにささやかれている噂があった。

「やっぱり、先任の更迭の影響でしょうか」

「確か、『せくはら』……だったかと噂されておった件だったかのう」

 ただの噂と言ってしまえばそれまでだ。しかし、先の提督の解任はそれだけ謎も多かった。成果はなかなか上がっていなかったが、業績不振で半年近くもこの基地を提督不在のまま放置するとは思えない。何か不祥事を起こしたのではないかとの推測が持ち上がり今に到っているのだ。

「もっとひどい噂もありましたが……」

「なんにしても、その話はそっとしておくに限ろうな」

「ですね」

 初代提督は任期の末頃、「愛宕狂い」を自称しだした。愛宕も当初こそ、秘書官に抜擢されたこともあり、好意的に接していたが、ある時を境に軽蔑の目を向けるようになった。解任はそれからまもなくのことであった。関連性を疑うのは自然のなりゆきだろう。この件について、愛宕本人は口をつぐんでいる。わざわざつらい記憶を掘り返そうとする者もいない。新提督が秘書官を任命する気配がないことも噂に信ぴょう性を与えていた。

「それはそうと、筑摩は新しく来た提督と会ったのか?」

「そうなんです。それで、ずばり聞くのですが、あの人は信用できると思いますか?」

 先ほど基地の格納庫で艦載機の点検をしていた筑摩は、思いもかけず新任の提督とすれ違った。軽くあいさつをして、その際に二言三言言葉を交わしたくらいだが、筑摩は提督になんともいえぬ嫌な印象を受けた。着任挨拶の時もいい印象は受けなかったが、これだけで人を判断したくはない。しかしこのままでは部下と上官としての信頼関係を築く前にその土台がぼろぼろになってしまうのではないか。そこで、人を見る目にかけては筑摩が及ぶべくもない姉の利根に意見を聞きに来たのだった。だが、

「できる」

 利根の答えは筑摩の印象とは逆だった。

「どうしてですか。あの人が私たちを見る目。そこに不信感が映っていると思うのは考えすぎでしょうか」

 筑摩は重ねて尋ねた。着任挨拶の時の提督は、口ではよろしく頼むと言いながら、態度から派遣人事を喜ばしく思っていないことがうかがえた。それに、どことなく艦娘たちに対する警戒心をその目に宿していたように思う。いずれ出撃任務が再開されるだろうが、艦娘たちと直接会って一人一人の性格や能力を把握しようとする様子は一向にない。つい先ほども、あいさつ程度はしたが、できればそれ以上関わり合いになりたくなさそうな気配をまとわせていた。別の仕事が詰まっていたのかもしれないが、感じが悪いには変わりがない。それが筑摩から見た新提督であった。しかし利根の考えは違うらしい。

「筑摩は聡いのう。だが、だからこそ信用できるのじゃ」

 そう自信ありげに言う。

「それではわけがわかりません」

 この姉は物事を直感で捉えているところがある。筑摩などにはちらとも気付けないことにどこでともなく気付いてしまうのだ。その推察が間違っていることは少ないために普段ならばそうなのだろうと信じる姉の言葉だが、今回は納得がいかなかった。口で説明するのが苦手な人だとわかってはいたが、もどかしさからついつい答えを迫ってしまう。

「ならば今から会いに行ってみるか?」

「え?」

 すると、利根はいたずらっぽい表情を浮かべながら告げてきた。筑摩は意表を突かれて固まってしまった。しばらくして我に返ると、今度は引き止めるための言葉が次々と湧き上がってきた。これまで何人かの仲間たちが執務室を訪ねていったが、たいていは忙しいの一言で追い返されたという。それでも諦めなかった者もいたようだが、怒鳴り声をあげて追い出されたとも聞く。そんな提督が、重大な用事でもないのに自分たちに会ってなどくれるだろうか。むしろ、叩き出されるのが関の山ではないだろうか。利根は何と言って提督を丸め込むつもりなのか。一度会ったことがあると言っていたが、もしかして筑摩の知らぬ間に提督と個人的に親しくなってでもいたのだろうか。もうしそうだとしたら、筑摩としては面白くない。

「行ってみればわかる」の一点張りで妹を制した利根は、筑摩の手を取り基地の建物へと駆け込んだ。いざとなったら身を挺してでも姉を守ろうなどと密かな決意を固める筑摩をよそに、利根に気負ったそぶりはまるでない。そして、提督室の扉の前までたどり着くと、ためらうことなくその扉を叩いたのだった。

「提督、ちと用がある!」







「やっぱり、あの人は信用できません」

「そうかのう」

 一時間ほどの話を終え、提督の執務室から二人の部屋に戻って開口一番、筑摩は不機嫌にそう言った。利根がこれでわかっただろうとでも言いたげな顔をしていてむっとしたのもある。だがやはり、執務室の中で知った提督の性格によるものが一番だろう。

 驚くべきことに、突然訪ねてきた二人を見た提督はしぶしぶながらであったが入室を許した。そして実際に話をしてみて、筑摩にとっての提督の印象は変わった。ただし、それはいい方向にではない。

「だって、いい年をして家族へのコンプレックス丸出しじゃないですか」

 そうなのだ。利根の話に釣られるようにして、時にぶっきらぼうに、時にばつが悪そうに語られたのは提督の家族のこと。その端々から頭の上がらない家族への過剰な意識が感じられたのだ。提督自身はどうやらそれを表に出さないようにしていたらしいが、あれではよほど鈍い者でなければすぐにそれと知れただろう。

「反抗期という奴じゃろうて。立派な父や兄を持って苦労しておるのだ」

 提督の父は現役時には将官まで上り詰めた人物で、兄は幼時から将来を嘱望され今では若手出世株の佐官の一人だと聞いた。そんな人たちの家族として育ち、才気溢れる兄と比較され続けていては、人並みの域を出られない凡人にはたまらないだろう。むしろ、並よりはいくぶんなりと優れているという自負があるだけに、どれだけ努力しても越えられない壁が常に眼前に立ち塞がっている絶望感たるやいかばかりだろうか。しかし、そう考えてみても、やはりあの提督のすね方は子供っぽすぎないだろうか。父と兄の所属である陸軍を避けるように海軍に在籍している、という時点でその駄目人間ぶりがわかろうというものだ。筑摩には、父の息子、兄の弟として認識されることの何が不満なのかわからない。利根の妹であることは筑摩の誇りでもあるのだ。

 提督との談話は、筑摩に提督への信頼感を全く与えてくれなかった。それなのに、利根は最初からそうだとわかっていたかのようにますます信頼を深めたようだった。筑摩にはそれが気に入らない。

「姉さん、やたら提督の肩を持ちますね」

 不平を鳴らす筑摩に、利根はまるで物わかりの悪い妹に対しているかのような、けれどそれも仕方ないと言うかのような苦笑を浮かべるのだ。これには筑摩も鼻白んだ。疎ましげに家族のことを話すような人間を、どうして信じられるというのか。確かに、利根と筑摩もまったくけんかをしないというわけではない。今も口げんかの寸前だ。だが、筑摩には姉と距離を置くことなど到底考えられない。利根に守られて生きてきたという思いがあるからだ。むしろ、利根にとっての筑摩がお荷物になっていないかと時に不安になっしてしまうくらいだ。

 それなのに、姉は自慢げにこう言うのだ。

「ふふ。吾輩にも筑摩という過ぎた妹がおるのでな」

 その口ぶりにおどけた調子はなかった。けれど、筑摩にはそれが冗談だとわかった。いや、そうだと思うことにした。そうでないと、姉にとっての自分の存在が、自分にとっての姉のように大きな大きなものであると、うぬぼれてしまいそうだったから。

「もう、姉さんはすぐにそうやって煙に巻く……」

 なんとかそう返したが、しどろもどろになった筑摩の頭ではそれ以上意味のある会話を紡ぐことはできなかった。







「見よ。吾輩と筑摩は同じ隊だぞ」

「昨日そう聞いたばかりではないですか」

 翌日、二日後の初出撃における皆の所属艦隊が掲示された。といっても、昨日の時点で概要は聞かされており、二人にとって目新しい情報は特にない。利根が第一艦隊の旗艦に据えられているが、あくまで実戦演習部隊の一番艦であり、以前の秘書艦としての役割はないという。加えて、その旗艦の位置には主要育成艦が持ち回りで就く予定であるとも。

「だが、木曾と最上が組んでいる相手は昨日聞いておったものと違うぞ。なにやら『きそまる』だか『あきもが』だか言うておったではないか」

 そうだ。昨日、提督はそんなことを口走っていた。それが前任の提督の末期を思い出させて筑摩にはっきりとした嫌悪感を抱かせもしたが、どうも提督自身の発想ではなくその兄の推薦であるらしい。才人であると聞くその人の人物像が途端にわからなくなってしまったのだがそれはまた別の話。ともかく、利根と筑摩、千歳と千代田、木曾とまるゆ、あきつ丸と最上、望月と長月の十人が主要育成艦、北上・隼鷹・龍驤らといった先制爆雷撃の役割や極めて高い火力を期待される者たちが準育成艦とされていた。全く考えられていないわけではないようだったが、まるゆとあきつ丸というまだいない艦娘の名前が含まれている辺り、何か深い意図があるのか単に手腕の不足の表れなのか判断に苦しむところである。筑摩は後者と断じた。

 だが、そんなことよりも大事なことがあった。

「私と姉さんが一緒にいられる。それがわかっていればいいではないですか」

 その言葉に、利根は力強いを笑みを返してくれる。

「うむ。頼りにしておるぞ」

 姉がやる気になっているのだ。そうである以上、いくら提督を好きになれそうになくとも、筑摩に否やがあろうはずはない。

 再始動に向けて動き出した基地にはすでに活発な空気が漂いだしていた。かつての緊張感あふれた日々を思い出させる、懐かしい雰囲気だ。しかし筑摩には心残りもある。

「……姉さんは、提督がいなかった頃に戻りたいとは思いませんか?」

「あの頃は平和だったからのう」

 提督不在の半年間は、戦いの日々がうそだったかのような静かな毎日だった。初代提督時代、出撃が続く中、筑摩は戦後を夢見て苦しい戦いを乗り越えてきた。姉と夜通しそのことを話し合ったこともあった。それなのに、戦いが終わった後にこそ待っているはずの平穏は、ある日突然手に入ってしまったのだ。すぐに失われるとわかっていても、その生活を心から楽しまずにはいられなかった。

「出撃するということは、私たちも沈められるかもしれないということです」

「筑摩が提督につっかかるのはそのせいか」

「そう……かもしれません」

 戦いのことなど何も考えず、大好きな人と好きなように一日を過ごすことができる。まさに夢のような日々だった。しかし、新たな提督の到来とともに穏やかな日々は終わりを告げてしまったのだ。あの男は、筑摩にとっては災いの使者のようでもあった。

「我々はこの基地所属の艦娘じゃ。いつまでもただ飯を食らっているわけにいかん」

「ですが……」

 深海棲艦との戦いは沈むか沈められるか。いつ自分が死ぬかもしれない。大切な人が永遠に失われてしまうかもしれない。平和な生活に慣れてしまった筑摩に、それは恐怖だった。以前は出撃任務を当然のことと受け止めていた。しかし、今はそのことを考えただけで足がすくみそうになっている。そんな自分に気づき、さらに不安が募る。こんな状態で、二日後の出撃任務は本当に大丈夫なのだろうか。一人では収拾がつけられそうにもないほど動揺する筑摩を、けれど利根が見過ごすことはなかった。弱い妹の震えを、利根はいつだって優しく止めてくれるのだ。

「吾輩が利根を沈ませはせん。それに、支えてくれる仲間もおる」

「姉さん……」

 その言葉に筑摩がどれほど勇気を与えられてきたか。

 実は練度において、筑摩は利根よりも優っている。初代提督が筑摩を優先的に運用していたからだ。だが、そんなことは二人の姉妹関係には何の意味も持たなかった。

 間近に寄った姉に抱きしめられる。大丈夫だと伝えるように背中を叩かれる感触と、穏やかでゆるぎない瞳に見上げられる感覚。筑摩は恐怖感がすうっと薄らいでいくのがわかった。なによりもこんな時、筑摩は利根の大きさを感じるのだ。この小さくも偉大な姉の匂いはいつだって筑摩を安心させてくれた。今もそうだ。体の震えが止まり、安らぎに満たされる。

(姉さんがいれば私は何にだって立ち向かえる)

 利根に優しく包まれる幸せに、筑摩はそっと目を閉じ身を浸すのだった。



     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



以上。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:39| Comment(0) | TrackBack(0) | ゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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