
アカイロ/ロマンス〈5〉枯れて舞え、小夜の椿 (電撃文庫) -
え、秋津依紗子、マジすか? いよいよ物語の核心に迫っていくとのことでしたが、今回かんぺき秋津依紗子回だったじゃないですか。
まず明らかになったのは彼女の生い立ち。繁栄派の首領である神楽の娘として、枯葉や景介たちに敵対する勢力を動かしてきていた秋津依紗子でしたけど、序章で明かされた事実を目の当たりするとがらっと印象が変わりましたね。それまでは、ときにいやらしい手を使って枯葉を苦しめ、かと思えば景介にちょっかいをかけてきたりと、何を考えているかわからない食えない敵ではありました。展開次第では味方になることもありえそうだったというか。けれど、そんな印象は一気に吹き飛びました。彼女、素であれだったのかと。なら、もうダメだなあと。人として決定的に折り合えないなあと。そんなことを思わされてしまいました。
さらに、物語はその事実が明かされたことと歩調を合わせるように、彼女から事態の主導権が離れていって。それとともにだんだん秋津依紗子の立場には脆さが見えてくるようにもなりました。実際に彼女が有する戦力はそれほど突出したものではなく、状況をうまく利用して手札を揃えていたんですよね。けどそれもだんだんと目減りしていって、手元の戦力の乏しさに一転して弱々しさすら感じられるようにもなってきました。それはひとえにこの巻の血みどろな展開のせいでもありましょうが、常に自信をみなぎらせていた彼女の不安を覚えさせる状態は、かえって魅力的にすら感じられました。
そうして可愛さを覚えてきたところでの終幕、あの結末ですよ。あれはもう、なんと言っていいか、最高じゃないですか。物語の展開上、あれ以降の活躍は難しいでしょうし、景介を本当に自分のものにしようなんてましてできるわけがない。ならあの展開は、あのとき採りえた手段の中でもっとも鮮烈でもっとも直接的な愛の告白だったと思うんですよね。まさに秋津依紗子ルートエンドというか。衝撃的すぎて、次の最終巻が手に入る目処が立ってないこともあって、本当にあれで終わりでもいいんじゃないかとすら思えてしまうんですが。このまま秋津依紗子ルートのハッピーエンドを妄想して満足してしまってもいいかもしれませんね。ただ、ここまでの展開を踏まえると、どうしても二周目の話としてしかイメージできなさそうではありますが。