2014年07月19日

Babel (作者:藤村由紀)

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(作者サイト)http://unnamed.main.jp/words/babel.html

なんといってもAct.3後半の話がよかったですね。オルティアが過去の罪を背負いつつ女王になっていく展開には心動かさずにはいられませんでした。

Act.3前半のオルティアといえば、気紛れで人を苦しめたり命すら奪ってみせていた残虐な王女でした。雫との口論を重ねながらの付き合いで心に抱える傷も見えてはきましたが、それでも非道な行いを止める気配はありませんでした。そんな彼女が女王の座に就くことを決意する。それは、王族としての順当な流れではなく、権力欲からの動きでもない。他人をいいように使い捨ててきたオルティアは、けれど自らもまたいいように利用されたあげく捨てられようとしていることに気付いてしまった。いうなれば、それは生きるための戦いの道。酷薄なままでは玉座に就いてもすぐに廃されてしまう。王として、人の上に立つ者として、民や家臣から信託を受けるに足る能力や人格の持ち主であることを示し続けねばならない。だけど、オルティアにはその土台がなかった。能力については十分なものがありましたが、それで退屈しのぎに人を苦しめて楽しんでいたという拭いきれない黒い経歴が積み重なってましたから。そこからの逆転劇ですよ。人は、どんな過去があってもやり直せるんだって、そんな可能性を見せてくれるじゃないですか。優しい物語ですよね。とはいえ、それはほとんど対抗者の失点によるものであって、オルティアとしては人々の失望を買わないようよき君主であり続けないといけないことは変わらないんですよね。以前に買った恨みが消えることはありませんから。この後の、命を狙われながらもそれを過去の報いとして受け止めつつ、けれど国のためにあれをやりたいこれも手をつけたい、だから死ねないと敢然と生きていく姿がとても印象的だったんですよね。

主人公である雫との絡みでいうと、一連のオルティアの変化を促したのはほとんど彼女でしたよね。自らの信念に関わることになると途端に頑固なところを見せる雫は、人の命をなんとも思わないオルティアとは、連れてこられた当初から衝突が絶えない関係ではありました。よく殺されなかったものだと思えるくらいに機嫌を損ねまくってましたが、引き下がっちゃいけないと思ったときの雫の気迫は並大抵のものじゃなかったですからね。首をはねるよりも、そこまでいうなら口先だけじゃないところを見せてみろと返したくなるくらいというか。この辺、今から思うと雫も絶妙な態度でぎりぎりの線上を渡ってたようにも思えますが、そうして結果を出していくうちに、オルティアからも口うるさいが一目置く友人として信頼されるようになっていったんですよね。雫としても、口論を重ねるうちに、オルティアに酷薄なだけではない一面を見るようになって。狂気に片足を浸していたような彼女でもやり直しはできるはずだと、今からでも別の人生を歩みだせるはずだと、そんな可能性を口にしだした時はおおいに驚かされましたが、瀬戸際に立たされたオルティアも、雫から後押しされたからこそ決断できたように見えるところもあって。優しい物語を導いてくれたこの二人の関係も、とてもよかったなあと思うところ。

上にも書きましたが、因果応報は覚悟しつつもよき女王であろうとするその後のオルティアは、その覚悟の裏の危うさも含めて魅力的で、その後の結婚事情とかでは短編「勿体無いの気持ち」での雫にも深く同意したくなるのです。でも本人があれで満足してるならそれでもいいかという気持ちも。

そんなこんなで。同じ世界でいくつも話を書いてるからか、数人なんだったんだろうと思えるキャラもいましたが、それも含めて別作品にも手を出してみようかどうしようかというところ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:04| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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