2014年06月13日

裁きの門

裁きの門 (創元推理文庫) -
裁きの門 (創元推理文庫) -

復讐を終え、傭兵としての再出発を果たしたタルマとケスリーの次なる物語はどんな話になるかと思えば、これがまた仇討ちとは。解説にもあったように、アマゾネスには復讐の組み合わせが映えるということか。けどなんにせよ、今回の復讐譚も素晴らしかったです。前の巻の「女神の誓い」のような、短編を連ねたような形ではなく、一冊すべてをひとつの物語に費やして、「剣の誓い」のようなおそろしく必要な箇所以外を削ぎ落とされた仕立てではなく、あらゆる場面を丁寧に描きながらそれでいて無駄な場面など一切なく長編として描ききられている。この二通りの敵討ち、これほど手を替えつつもしっかり楽しませてくれる物語に、甲乙なんてつけられません。どちらも面白かったと言うのみです。

どの場面がよかったかというと、何も考えずに挙げていくとどの場面もよかったということになりかねないのですが、特に挙げるとすれば、復讐の誓いを交わす場面とタイトルの裁きの門が顕現した場面でしょうか。

まず、oathbreakerすなわち〈誓いを破りし者〉に対して復讐を誓った、〈追放〉の儀式の場面。原書のタイトルにもなっている語であり、タイトルを見た時にはタルマとケスリーがなんらかの誓いを破ってしまうのかと不安にも思いましたが、そうではありませんでしたね。誓いを破りし者が指すのは今回の復讐の標的であり、破られた誓いとは復讐の原因となった謀、それにおけるあるべき姿に反した不実かつ不逞な行いのこと。儀式の場面は実際かなり引き込まれましたね。しばらく探りを入れていた動静に対し、おそらくはそうだろうと予想していた最悪の事情が判明してしまった。しかも下手人は、タルマたちの恩人に対し、非情な辱しめまで与えていたとわかった。その行いを、許すことはできない。そんな輩がのうのうと権力の座にあることを、許すことはできない。報いを、与えずにはいられない。その場で爆発寸前な怒りに明確な指向性が与えられていく様子は凶気そのものでしたね。そして、悲報に接した仲間たちがタルマたちに劣らぬ静かな怒りの火を心中に燃やして続々と駆
けつける流れに、事態は非常に剣呑ながらも高まる期待を禁じ得なかったことといったら。確かに、それまでに描かれていた彼女の為人は、評判高い一団の長を務めるに十分な面倒見のよさを窺わせるに余りあるものでしたからね。その恩に報いる最後の機会となれば、あちこちから人が集まる集まる。この人望、戦場での確かな活躍。むしろ彼女こそが王の器だったんじゃないかとも思いますが、実家と関わらないようにしてたみたいだから仕方ないか。

ともあれ、そうして大勢の縁故者が集まった末の報復の場面。対象を捕らえて裁きの門が開かれたときの達成感といったら。その後どうなるかは書かれずともわかるというのに、やり遂げたという喜びの感情がふつふつと沸き上がってきたんですね。それに、やってよかったという、後ろめたさのない気持ちも。

その後を見ててもそうなんですけど、この二部作において、復讐は決して空虚なこととしては描かれてませんよね。むしろ、それ以外のことを考えられなくなってしまう程の激しい怒りに囚われたとき、そのことを吹っ切って先に進むためにも必要な儀式として描かれているように思うんですよ。もちろん私憤ではなく共感できるだけの理由あっての憤りなのですが、ともあれこういう味付けはたいへん面白かったです。

二人の夢に関してもめでたしめでたしなわけで、「誓いと名誉」二部作もすごく面白かったーというところですが、まだタルマとケスリーの話では短編集があるようで。そちらも楽しみですが、ひとまず刊行順に、次は「最後の魔法使者」三部作にいってみたいです。

あ、それと、タルマたちと吟遊詩人の腐れ縁はこの話でもまだ続いてて笑いました。義人としての評判を広めてくれるのだからそれはそれで嬉しい、はずなのだけど名声自体はすでに手に入れている二人からしてみれば、残り必要なのは金であり、そうなると無償の活躍を言いふらすレスラックは厄介者でしかないというのがややこしい構図。しかも痛い目に合わせようがすぐに復活して詩人としての活動を再開するのでお手上げ状態といったところ。でしたが、そんな彼の問題も最後にはすっきり解決の見通しが立っちゃったんですよね。本当に何から何まで、いい門出を期待させるいいラストでしたよね。

忘れそうになってましたがそういえば、この二部作の特徴として、作中で結構な時間が経過しますよね。今回の復讐も、レスウェランに向かって出発してから数えると二年くらい掛けてたはずですし。あまり時間が経過してしまうと、そのキャラクターのものとして用意しうるエピソードの余地が減ってしまうとは思いますが、この二部作の場合、特に時間を掛けてたのは町から町への移動なんですよね。そうだとすれば、ある程度時間をかけなければならないほどに地域間の距離があるということで、これは世界の広さを感じさせてくれることになりました。この二部作においてヴァルデマール王国はあまり出てきませんでしたが、その隣、さらにその隣にも膨大な物語の余地があるんだなあと感じさせてくれました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:56| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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