2014年04月22日

ヴァルデマールの使者(3)天翔の矢

「そうはいっても、〈使者〉も人の子である」とは、前回のあらすじでも述べられているところですが、これは確かにそうなのですよね。物語の中心人物はほとんど〈使者〉なので忘れそうになってしまいますが、この三部作の一巻でも二巻でも、タリアが窮地に追いやられるきっかけとなった、〈使者〉ならぬ人々の存在があったのでした。〈使者〉とそうでない人々の違いといえば、せいぜい〈共に歩むもの〉に選ばれたか否かというくらいなのですが、選ばれるということがヴァルデマール王国に公正無私に仕える素質ありということを意味するために、〈使者〉というのは一種のエリート階級なんですよね。〈共に歩むもの〉の目には狂いがないために実績もばっちりなのですが、〈使者〉が重要な地位を占めれば占めるほど野心家の貴族はなんとか彼らを排除してそこに割り込みたいと思うもの。そこで目を付けられたのが〈女王補佐〉として選ばれた少女、タリアだったということなんですよね。まあ、愚にもつかない権力争いではありましたが、それを通して一巻ではどこか壁を作ってしまっていた〈学院〉の仲間達との距離を縮め、二巻では〈天恵〉の御し方を覚えと、着実に〈使者〉として成長していく様子が頼もしくもあったんですよ。そしてこの三巻では、今までに学んだすべてを駆使してその裏に控えていたオーサレン卿と対することになるのでした。

このオーサレン卿、三部作の最後の巻で立ち塞がるだけあって前回までの壁をはるかに上回る手強さでしたね。数の力、妥当な提案、角の立たない態度などなど、国を想う忠臣としての印象を崩すことなく宮廷での発言力を高めてきたのですから。この辺は、〈使者〉という特殊な人々が重用されていながらも、やはり人が動かす国なのだと思わされましたね。〈使者〉は有能だし〈使者〉同士の繋がりも深いのですが、王以外の領主はいないようなので、宮廷を構成する人員の多数派は貴族になるのですよね。そうなると、よりものを言うのは派閥の力になるわけで。〈使者〉のような〈天恵〉はなくとも彼らの頭を押さえつけてしまう、卿の老獪さには舌を巻く思いでした。只人の力量も捨てたものではないのだと。エルスペスまでもがその心の隙につけこまれた時は、どうなってしまうのかと不安で仕方なくなったものです。ただ、その一方でだんだんとタリアの前で襤褸を出していくのを見ると、なんでこの程度の人物にあんなに引っ掻き回されていたのかとも思えてしまい、なんだかちぐはぐな印象が残るところです。

物語としても、一区切りついているといえばいますけど、まだ尾を引いてる問題がないでもなし。というか、まさに一番大きなところがそれなんですが、ともあれその点については、シリーズの別作品で綴られてるといいなあというところで。

さて、今回エルスペスがつけいられた悩みですけど、彼女が世継ぎの王女であることを考えるととても大事な問題を提示してくれてたんですよね。そうなのです。彼女は政略結婚を決定付けられた身。色恋に興味が出てきても、付き合っていい相手、いけない相手を誰よりも厳しく計算に入れないといけない立場なんですよね。平民生まれのタリアとは違うのだというのは厳しい言葉でしょうが、それが王女様というものなのですよね。その辺で悩み、痛い目を見かけるんだけどそれでも心配して追いかけて、叱ってくれる人がいるというのは、まだまだ発展途上のお姫様という様子で、可愛らしくもありました。

恋の方面でいえば、忘れてはならないのがダーク。この巻で最も動向が注目された人物ではありましたが、なんというか、その……空回りぶりがひどかったですね。まあ、無理からぬことだったとは思うんですよ。ダークってよく言うと奥手なところがありましたし。親友とはいえあの誠実な色男クリスと二人っきりで一年半も過ごし、すっかり親密な雰囲気になって帰ってくれば、察するものもあろうというもの。それにダークはというと、過去の恋で心に傷を負った経験があったみたいですからね。臆病にもなろうというものですよ。ただ、そのせいでどんどんどつぼに嵌まっていくダークには散々やきもきさせられましたとも。というか、ただのストーカーになってましたよね。よくもあんなにまでなって見捨てられなかったものだとも思いますが、〈絆〉というのはそういうものなのでしょうね。それはともかく、無理矢理にでもそんなダークの軌道修正ができたという意味でタリアの窮地も悪いことずくめではありませんでしたね。実際、あそこがどん底でしたからね。

喜びと、悲しみと、でもやっぱり喜びが勝るラスト……だったとは思うのですが、ここまで振り返ってみると、あんまりあっと驚く展開はなかったかなあという気がします。ただ、それでもどの場面においても読みごたえたっぷりに楽しませてくれるのが、この作者の物語なのですよね。

とりあえず、次はタルマとケスリーの話に取り掛かりたいです。というか、もう読み始めてるところなのですが。

しかし、この巻の原題が“Arrow's Fall”で邦題が『天翔の矢』で、翔ぶのか落ちるのか一体どっちなんだと思ったりもしましたが。原題は三部作で「女王の矢」が、射放たれ、獲物に突き立つ様子を表してるのかなーとか、邦題はタリアが〈使者〉として一人前になったと証し名実ともに〈女王補佐〉となったことをして天に向かって羽ばたきだしたと表してるのかなーとか考えたりもしましたが、どうなんでしょうね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 12:27| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。