2014年04月11日

ヴァルデマールの使者(2)宿縁の矢

正式な〈使者〉となったタリアは先輩〈使者〉のクリスを指導員として実務研修の旅に出る。期間は一年半。時に苦しみながらも、タリアは確実に〈使者〉としての経験を積んでいく。そんな流れ。

これがとてもよかったのですよ。どこがよかったかというと、クリスや〈共に歩むもの〉であるローランとの絆が。特にローランとのものが。泣きだしてしまうほどに苦しいときも、うまくやれた喜びを噛みしめるときも、振り向けばじっとそばにいてくれている。言葉は交わせないながらも、確かに寄り添っていてくれるのを感じられる。この、馬のいる空間というのが、たまらなく癒されるんですよね。この少し前に読んだ『影の棲む城(上)』での、馬と過ごせる使者の仕事を心から楽しんでいる風だったリスのことといい、なんだか無性に馬に対する憧れじみた気持ちが湧き上がってきましたよ。

この巻でのタリアは、『女王の矢』における、〈女王補佐〉としての特異な才覚によってあれもこれもこの上ないほど見事に解決してのけた活躍ぶりから一転、かなりの苦境に追い詰められましたからね。そしてその原因は、彼女の力が〈使者〉としても異例なものだったことにあるようで。つまり足元を掬われたような形になってしまったんですよね。なまじ珍しく強力なために、〈学院〉では期待され、実際に成果も出して誉めそやされてもいましたが、それが仇になったというのは、つらい展開でしたね。

これまでは何事もなく扱えた〈天恵〉が、ちょっとした心の強ばりから統制を失い、それが恐怖心を煽ってますます冷静さを失っていく。それは、タリアならずとも恐怖を感じずにはいられない出来事だったでしょう。制御できない力は、強力な分だけ危険になる。その危険性を見落としていた〈学院〉の教官にこそ、一番の非があると言えなくもないのですが、誰を責めるよりもまず現状を改善するのがタリアにとって、また同行するクリスにとっても急務でした。

その過程でのクリスの親身な対応――問題の原因を探り、解決まで妥協することなく指導していったこと――は、彼の誠実さを改めて印象づけられるものでしたね。彼女の指導員であるがゆえに、彼女の不足を埋めるためには甘やかすことなく。けれど彼女もこれまでの自信が粉微塵になるまでの不安を抱えているがゆえに、無理に追い立てることなく、気遣いながら優しく指導をしてくれる。この辺は、彼の好青年な印象を強化してくれたでしょうか。時に指導の厳しさに泣き出してしまうこともあるタリアでしたが、この人なら自分の弱さをさらけ出しても頼ることができると、信じられたのでしょうね。そういえばクリスって、異性にモテる色男でしたっけ。外見については文章だけではなんともですが、この人柄なら頷けるかなあと。乗り切ったと見たら太鼓判を押して、漠たるタリアの自信に確かな形を与えてくれたのも、感慨深くてよかったですね。

とはいえ、タリアの恋の方面については、むしろ次の巻に期待というところですね。

それと、あの“わがまま娘”もついに正式な世継ぎの王女となれたようで。『女王の矢』での矯正過程を見てきたゆえに、こちらも感慨深いものがありましたね。ただ、彼女の〈共に歩むもの〉グウェナについては、何かよくないことを連想させる描写も見られたので、これについては注意しながら読んでいくべきでしょうか。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 10:09| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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