2014年01月21日

チャリオンの影(下)

チャリオンの影 下 (創元推理文庫) [文庫] / ロイス・マクマスター・ビジョルド (著);...
チャリオンの影 下 (創元推理文庫) [文庫] / ロイス・マクマスター・ビジョルド (著); 鍛治 靖子 (翻訳); 東京創元社 (刊)

カザリルさんがすっかり病弱キャラになっておった。病弱な教育係とそんな彼を慕う国姫様というこの構図、どこかで見たことあるぞ? うん、あっちのシリーズも大好きですからね。こちらも国姫やその女官であるベトリスが、心配しすぎなくらいにカザリルを気に掛けた様子を見せるたびにニヤニヤが止まりませんでしたよ。うへへ。まあ実際、そんなに長くは生きられないだろうとまで言われてましたからね。歩いてるだけなのに脂汗かいてるところなんて、誰がどう見ても普通じゃない状態でしょう。ただ、それでも歩みを止められないほどに切迫した事態が重なりましたからね。国姫のために最後の御奉公をとばかりに体に鞭打ち動き回るカザリルの、なんと涙ぐましかったことか。そして、自らの命を諦観しながら無理をするカザリルに対し、勝手に逝ってしまう自由などお前にはないのだとまなじりを吊り上げる国姫様の言葉のなんとありがたかったことか。その言葉だけで寿命の延びる思いだったでしょうよ。逆にもう思い残すこともなくなってしまいそうな人もいる気もしますが、まあそれはともかく。本当に素晴らしい主従ですこと。

しかし、この巻の序盤のイセーレ様は不幸が続きましたよね。カザリルが死病に犯されたかのようになり、続いては弟であるテイデス殿下まで……。身近な人たちの不幸はそれだけでも平静を失ってしまいかねない事態ですが、この国姫様は一時取り乱しながらも情勢が一刻の猶予もならないと察するや即座に冷静な決断を下し行動に出始めましたよね。上巻ではやや考えの足りない行動の目立ったことを思うと見違えるような思いですよ。これがカザリルの薫陶の成果なのかと思うと、なぜか自分のことでもないのに誇らしい気持ちにもなったり。そして、そんなイセーレ殿下に送り出されたなら、信頼に応えないわけにはいきませんよね。わずかな供のみで一世一代の大舞台に乗り込み、見事に完勝を収めたカザリルの、なんと達成感に満ちていたことか。思いもかけない縁があったとはいえ、一筋縄ではいかない相手に難しい条件を引っさげた交渉は緊張感に満ちていましたから、あれを越えれたときの、これですべてをやり遂げたんだという感覚は実に快いものでしたね。加えて、残りのページ数的にもしかしたらと思ってまさにその通りだった時の愕然とした思いも。

クライマックスの超然とした感じは、そういう展開というか描写に慣れないせいかちょっと乗りきれませんでしたが、それでも筆舌に尽くしがたい大いなる力、その片鱗を確かに垣間見せられる描写はよかったですね。

そして、事件が片付いた後の、イセーレによるカザリルの処遇も、やはりこの主従の関係は最高だなあと思わずにはいられないやりとりでしたね。実に素晴らしい物語でしたね。

この上下巻にて、物語は綺麗に決着がついておりますが、『五神教シリーズ』として連なる作品群には、まだ続きがあるようです。シリーズ第二作目は、主人公をイセーレの母であるイスタ様に替えて綴られていくそうで。イスタ様といえば、チャリオン国の幾代か前の国主フォンサの系譜に連なる者として、血とともに伝わる呪いについて知ることとなり、それゆえに狂人として閑居させられている儚き国太后でした。それが、すべてを諦めていたかのような彼女の心にも、今回の物語で再び光が灯りだす予感もあります。これは次も期待するしかありませんよ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 09:08| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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