2014年01月19日

Frosty Rain (作者:Allen)

http://ncode.syosetu.com/n8111v/

最高でした。終盤の展開がストライクゾーンど真ん中というか。こういうのが読みたかったんですよという、本人でさえ気付けてなかった願望に直球で答えてくれた話でしたよ。

というわけで、さっそく感想を書いていこうと思ったのですが、いつも以上にネタバレなしでは書けなかったので、段落下るごとにネタバレ濃くしていきます。これ以上はバレしすぎと思ったらすみやかに離脱することをお勧めします。



あらすじは、ページを開いてもらえばわかりますがそれも織り交ぜつつ、主人公について触れていきましょう。主人公、氷室涼二は異能者集団ユグドラシルに一時属していながら、後に離脱した復讐者でした。ユグドラシルで培われた縁を忘れがたく思いながらも、それでも、姉の仇とわかった人物と同じグループに所属することには耐えられない、潔癖な男でした。組織を抜けた涼二が新たに仲間としたのは、同じように復讐を狙う少女と男。彼らもまたユグドラシルの一員によって、あるいは自らの体を実験道具にされ、あるいは家族を犠牲にされた人たちであり、憎悪の念に軽重をつけるのは不適切なことかとは思いますが、過去の背景だけ見るとこの三人の恨みにそれほど大小の差は生まれないように思えました。けれど、結果的には違いがありました。涼二は、心の奥底に二人を遥かに上回るほどのそれを眠らせていたんですよね。中盤まで、彼は仲間たちや幼馴染みたちとも普通にわいわいと賑やかな時間を楽しむことができていました。対人関係においてはよき兄貴分のような役割を担うことが多く、何も言わずに脱退したユグドラシルの友人たちからもいまだに信頼され続けてましたし、ちょっとしたきっかけから預かることになった静月雨音にも家族のように慕われるようになっていきました。そうなるのも頷けるだけの、悪く言えば甘さ、よく言えば仲間思いなところがありましたから。それが、いざ仇を目の前にすると、それらは上辺だけのことに過ぎなかったかのように、もっと奥底から湧き上がってくる憎悪に押し流されてしまうかのように、誰もが近寄りがたい破滅的な精神が前面に出てくるんですよね。いきなりの豹変に驚かずにはいられなかったのですが、幼馴染みの言葉によるとどうもそちらが本性であったようなのですよ。あとから思えば、仇はユグドラシルにいたんだし、身近なところにいて機会を窺うこともできたはずなんですよね。嫌うものを嫌い抜く彼の価値観は、こんなところからすでに現れていたんですね。



というところで一端切って。この話、一応いきなりこの作品を読んでも楽しめるようにできてるとは思うのですが、作者が書き続けている「超越者たちの物語」シリーズに包含されているように、根底の部分で前作『IMMORTAL BLOOD』に通じるところがあるんですよね。あれはつまりこういうことで……なんて書いていっても仕方ないとは思うのですが、一点、“超越”の設定については知っておいた方がより物語を楽しめると思うのですよ。この作品内での説明はやや薄いような気がして。ただ、あちらで“超越”に到るのって「ニアクロウ編」くらいだったでしょうか。結構そこまで長いんですよね。なのでこの場でちょっとだけ。シリーズにおける異能の最終形態だけど、人であって人でなくなってしまう悲しい階梯でもあるんですよというくらいは、知っておいていいと思います。(『神代杏奈の怪異調査FILE』は読了済み、『IMMORTAL BLOOD』は最終章を読んでいる途中での印象ですけどね)



クライマックスはそれこそ涙ながらに読んでたんですけど、雰囲気としては「総括」にて作者が書いているようにエロゲのグランドルート的な終盤なんですよね。エロゲは久しくプレイしてないんですが、確かにこういう泣かせる展開はありそうだし、好きそうではあったはずなんですよ。ホント、ど真ん中でした。



というところで、涼二の本性についてです。露わになったその精神は、それはもう極まりきっていました。虚無感と復讐の念だけが、そのすべてでした。なぜなら、この世界で未来永劫にわたってもっとも大切だったはずの人はすでに失われてしまったのですから。大切な人を失わせた世界が呪わしくて、それでものうのうと生きている自分が憤ろしくて……。仇さえ討ち果たせればあとはこの身がどうなろうと構わないというまでに振り切れた心は、たとえ負の方向であろうとも、そこまでに思い詰められることに讃嘆を禁じ得ないのです。自分にはそこまで至れない、そんな極まった精神に到る人物には虜とされずにはいられません。しかもその振り切れた心が、異能のさらなる高みへと彼を導くのですから、狂おしいほどの想いにただただ圧倒されてしまいましたね。そしてその高みへと至った能力が生み出すのは、思いが思いだけに悲しい世界で。その奔流とともに迎えるラストはもう涙を堪えることができませんでしたね。悲しい終幕と、残された希望と。もう本当に、どれだけ自分好みのクライマックスだったんだと。淡々としたエピローグも含めて完璧すぎますよと。



しかし、話がエロゲ的ということは、これは姉ルートとも言えるのでしょうか? 確かに姉さんの仇とは何度も言ってましたけど、家族の仇という意味かと思っていたら、最愛の人の仇ときたものですよ。それまでずっと慕われる兄貴分的な描かれ方をしてたのに、一皮むけてみればシスコンかよ! そしてラストまで突っ切っちまうのかよ! すげえ!
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 09:26| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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