2013年12月22日

円環少女(6)太陽がくだけるとき

円環少女(サークリットガール)〈6〉太陽がくだけるとき (角川スニーカー文庫) [文庫] / ...
円環少女(サークリットガール)〈6〉太陽がくだけるとき (角川スニーカー文庫) [文庫] / 長谷 敏司 (著); 深遊 (イラスト); 角川書店 (刊)

面白いなあ。キャラの行動原理にそれぞれの価値観が透けて見える。なぜそのような行動を取るのかわかってくると、その人物の目から見た世界の理が窺えるようになってくる(あるいは表面を見ただけでもいやと言うほど見せつけられることも)。何人ものキャラクターたちが、てんでばらばらの理屈で動いているはずなのに、それらが一つの事件のもとに関わり合いを持つことで、一つの大掛かりな物語の登場人物へと変貌していくんですよね。そして、偶然関わり合いになったようでありながら必然の出会いであったかのように、それぞれの人々に小さくない爪跡を残して終息していく。この流れがたまりませんでしたね。この後、世界に大きな影響がもたらされるであろう予感を与えられてはいるものの、そうでなくともこの事件に関わった人々にとっては忘れられない出来事だったろうと思わされます。

価値観とは、突き詰めれば世界をどのように捉えているかということであり、強固に固められた価値観とはすなわち世界の理でもある。この巻では価値観を前面に押し出すような戦いがいくつも見られたこともあり、そんなことがふと思い浮かびました。ただ、そうして突き詰められる価値観はあくまで主観的なものにすぎないのですが、思えばこのシリーズに登場する魔導師という存在は、その主観的な理を通して魔術を行使していたのでしたね。世界を主観的に捉えることで理を見出し、その理に従って世界を歪める業、それが魔術。それを当たり前のように使いこなす者ということはつまり、その価値観を体現する者ということになるのでしょうか。

その点で今回いちばん印象に残ったのは、《茨姫》オルガ・ゼーマンでしたね。お互い手の内をほとんど知り合った仁との戦いで追い詰められ、八方塞がったかと見えたら、次の瞬間には常軌を逸した手段でそれを切り抜けてみせる。自らの命を顧みる様子のないそれは、何年も修羅場をくぐり抜けてきた仁にとってすら正気を疑う異常な手札。けれど、オルガにはそれを躊躇った様子は寸分たりともなかったんですよね。命懸けの戦いの最中にそんな余裕なんてあるわけないのかもしれませんが、当然の結果を導くように恐れなどおくびも見せずにその手段を取る姿を見ていると、どこまでが理の内なのかと畏れの心すら抱かされるのですよ。狂っているようで理性的。賭けに出ているようで計算済み。そんな印象を抱かされるのは、自分とは異なる価値観を突き詰めているからなのでしょうね。

今回の事件は誰にとっても苦しい戦いだったと思いますが、そういう意味でいちばん印象に残ったキャラというと、エレオノール・ナガンでしょうか。(1巻を読んだのが何年も前なので記憶が曖昧なところもありますが)かつてどこまでも聖務に忠実だった少女が、道を外れてしまい、かつての隊の仲間たちに刃を向けられることになる。これだけでも哀しい展開なのに、彼女の場合はその転向が、自ら望んだようでありながら他人(《公館》員他だったか)によって仕組まれたものなんですよね。この点が《公館》メンバーに個人的な好感を抱けない原因にもなっていたりしますが、それはともかく。それでも、そうと知らないエレオノールにしてみれば、かつて正義の名の下に打ち捨ててきた生命を救うことは、挫折からの再出発として崇高なものに見えているはずなんですよね。けれどそれは騎士団の目的とは相容れない。理念に忠実であればあるほど理解を求めることすら難しい。そうとわかっているからこそ、相対すれば言葉で決着をつけることはかなわない。本当に、苦しい道に乗り上げてしまったものですよね。

仁も、《鬼火》とか王子護とか、自分の信じた道を貫こうとする途上に立ち塞がる敵が強大で苦しい展開が続きましたが、これはまあ主人公補正かなあと思えばこのくらいでちょうどいい気も。というか、再演大系が強力すぎる……。躊躇なく使えれば今回の事件も難なく解決できちゃったような気もするけど、でもそうしちゃうと今回あったあれやそれやが見れないことになっていたはずなので、きずなのように魔導師としての心構えも何も身についていないキャラが発現者でよかったと思う次第。この辺、きずなが今後、魔導師の世界とどんな接し方をするようになっていくのかというのは興味深いですね。

歴史風景としての国木田絡みのあれこれについては、何か言いたい気もしますが何を言ったらいいのかまるでわかりませんのでパスで。

そんな感じで、この《東京地下戦争編》は苦しい展開続きでしたね。そんな中で、メイゼルちゃんのサディスティックな嗜好はたいへんよいものでした。苦しい展開が続くために仁みたいにしんどそうな表情をしながら読んでいたのですけど、そうするとメイゼルちゃんが「その泣きそうな顔、ぞくぞくしちゃう」みたいな声をかけてくれるので、なんだか嬉しくなっちゃいましたよ。しんどい展開もそれはそれでいいものですけど、途中にこういうご褒美があると、より楽しめますよねということで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 08:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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