2013年12月14日

チャリオンの影(上)

チャリオンの影 上 (創元推理文庫) [文庫] / ロイス・マクマスター・ビジョルド (著);...
チャリオンの影 上 (創元推理文庫) [文庫] / ロイス・マクマスター・ビジョルド (著); 鍛治 靖子 (翻訳); 東京創元社 (刊)

やはり王女様はいいものです。いいものです……。しみじみと言わずにはいられない一冊でした。作中での訳語は「王女」ではなく「国姫」でしたが、「国主」の下に「藩侯」が位置付けられるなら、「国主」は公以上ではないかと推測して、その娘には「プリンセス」の号が当てはめれないかなあということで、そういうことにしておきたい……無理があるなあ。

そういうわけで、あざとい萌えを狙って作られてはいないと思うのですが、何度も何度もこちらのツボを突いてくる国姫に悶えさせられまくりでしたよ。この国姫、イセーレときたら、見識はまだ年若い娘らしくいろいろ足りないところもあるし、政治的なバランス感覚については危ういぐらいに身についていない。でも、不正を嫌う正義の心はしっかり持っているし、いやらしく近寄ってくる見下げた男に仕返しをしてのける行動力も持っている。そのため、時に後先のことまで考えを巡らせれないままにとんでもないことをしてのけるから、見ててハラハラさせられることといったら。四六時中見張ってないといけないような気にすらなってくるのですが、それでも彼女が肝を冷やされるような行動に出るのは、決まってそれが表立ってではなくとも人々に望まれているときでもあるだけに、頭ごなしにそういうことをしてはいけないと言えないのが悩ましいところなんですよね。

そして、一方の主人公がどういう立場の人であるかというと、国姫の教育係なのですが、この立ち位置がまた絶妙なのですよ。宰相や元帥として辣腕を揮えるほど有能な人ではなさそうなのですが、これまで積み重ねてきた半生の経験から、国姫という地位に群がる人たちとの距離の取り方や政治的なバランス感覚を教え導いていくくらいのことはできる、その様子がなんともいいもので。その目線から国姫の成長を眺めていると国姫が自慢の教え子のように思えてきて、まるで父親のように目を細めずにはいられないというか。実際、主人公であるカザリルとイレーネの年齢差は親子ほどもあるのですが、それでもカザリルがときおり年若い娘であるイレーネやその侍女であるベトリスのふとした仕種にどきりとさせられたり、そうした動揺を表に出さないように努力するものの微妙に隠し切れてなかったりするのを見ると、なぜだかガッツポーズしたくなるような素晴らしい場面に出くわしたような気になるんですよね。まあ国姫の頭を抱えたくなるような行動にもときどきグッと拳を握らさられてましたが。

なんだか、最近の好みは王女様と教育係という関係にありなのかなと思えてきましたが、それはともかく。クライマックスはやはり、後半の、国姫が死を願うほどに嫌がる出来事を前に、己の命を投げ出してまでそれを妨害しようとカザリル一世一代の賭けに出た場面ですよね。あれは本当に、国姫の悲嘆ぶりを目の前にしてしまったら、もうなりふり構っていられなくなりますよ。必死に考えを巡らしても、切羽詰まっているがゆえに他の手段が思い浮かばずだんだんとその考えに取り憑かれていくカザリルの心理が自分のそれをそのままなぞるようで。そんな不幸に囚われた国姫を見るぐらいなら、もし失敗してもこの世にいられなくなるのだからちょうどいいとまでに追い詰められ捨て鉢になる様子がとても真に迫っていましたね。

その後も物語は続き、どうなっているのかよくわからないところを残したまま下巻へと繋がっていくのですが、本当にどうなってしまったんでしょうね。気になるところです。

あと、国姫とその教育係の関係萌えに気を取られて国姫の弟である国子、テイデスのことを忘れていました。この子、なかなか先が心配な子なんですよね。根はイセーレのようないい子のはずなんだけど、カザリルのような人生経験を重ねた教育係が与えられず、取り入ろうと近づく佞臣たちとうまく距離を置く術を覚えきらないまま欲望渦巻く宮廷に身を置くことになっているわけですし。そんなテイデスのことを姉として心配し、けれど相手が国子であるがゆえに教え諭そうにもあまり聞く耳を持ってくれなさそうなことを歯がゆく思っている国姫がやはりいいものですねと、どうにも結論はここに落ち着くようで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 10:10| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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