![マルドゥック・フラグメンツ (ハヤカワ文庫 JA ウ 1-11) [文庫] / 冲方 丁 (著); 寺田 克也 (イラスト); 早川書房 (刊) マルドゥック・フラグメンツ (ハヤカワ文庫 JA ウ 1-11) [文庫] / 冲方 丁 (著); 寺田 克也 (イラスト); 早川書房 (刊)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51pRdkwfLWL._SL160_.jpg)
短編集形式。いくつもの起伏を経ながら最終的にそれらが一つに合わさって大いなる流れとして最終場面へと流れ下るような長編がこのシリーズ持ち味だと思っていましたが、こういうのもなかなか悪くないですね。短編でだって、「マルドゥック・スクランブル“104”」での、そんなところからとあっけにとられた次には度肝を抜かされるようなアクションの駆け引きや、「マルドゥック・スクランブル“-200”」での、意表を突かれた隙に手の届かないところにまで事態が推移していってしまう驚きの終盤のように、しっかり楽しませてくれる山場がありました。短編の分量という制限から、山場となる場所はここぞという場面に集中されてあり、かつそこまで長丁場にもならないのですが、それでも十分なインパクトで楽しませてくれるんですよね。
あと、09メンバーが研究所から外に出て間もない時期の話が多く、その時期の有用性を証明しようと張り切るウフコックはやっぱり愛嬌があってかわいいなあと、血腥い事件の合間に和まされてました。その愛嬌は依頼人の人たちにも、特に女性や子供にはよく認められるようで、すっかり09メンバーのマスコットのような役どころに収まってて、それでも本人は俺に任せてくれといわんばかりに張り切ってたりするのが微笑ましくもあり。
『マルドゥック・アノニマス』についての事前情報もちらほらと。なるほど、バロット、ボイルドの話ときて、シリーズ三部作のラストを飾るのは、彼ら二人のどちらにも大切な仲間として愛されたウフコックの話となるわけですか。煮え切らない男であるこのネズミが、このマルドゥック市で何を目にし、それに対し何を思うのか。気になるところですね。ちょこっとしたネタバレもありましたが、この本に収録されている『マルドゥック・スクランブル』や『マルドゥック・ヴェロシティ』の雛形的な話も、完成版として世に出たものを読んだうえで見てみるとちょっと違うものだったりしましたので、そこまで神経質になるほどのものではないのかなと。それに、『ヴェロシティ』では『スクランブル』を読んでいればある程度、結末の予測はついてたわけで。それでもそこに至る過程の悲しさやるせなさをたっぷりと楽しませてもらえましたからね。そこは出来上がってくるものを楽しみにしたいです。なにやら次は勝海舟を書くとかいう情報を見かけたりもしましたが、近いうちに『アノニマス』を書いてくれるんですよね? まあでも、このシリーズとしてはやっぱりあっと驚かされる話を期待したいところなので、時間はかかっても、また書き終えた後に嘔吐してしまうような納得のいくものをお願いしたいところです。(というか、このシリーズのあとがきのせいで吐きながら書いてる作家さんみたいなイメージが出来上がりつつあるんですが、どうしたものか)