2013年11月15日

SAMPLE (作者:日吉舞)

http://ncode.syosetu.com/n9553f/
http://www.pixiv.net/series.php?id=45203
http://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&all=34524
(Arcadiaの版でしか読んでいないので、改訂箇所があるか等ほかとの違いはわかりません)

これは純粋にそれぞれの都合がぶつかり合う人と人との関係、すれ違いがちな家族との和解を描いた話として面白かったですね。

あらすじとしては、近未来の日本で、瀕死の重傷から極秘の軍事サイボーグ化手術を受けることで生還を果たした未来(みき)が、サイボーグ技術開発計画の闇部と向き合うことになっていく話とでもなるでしょうか。舞台設定としては近未来SF。アクションの道具としてはミリタリー。話の核としては人の感情と尊厳と。

いきなりですが、かなりフラストレーションのたまる話でした。主人公の母親と、直属の上司で開発計画のリーダーたる大月女史が、未来(みき)のことを考えてなかったり、考えてもその上でいいように利用したりと、自分の都合ばかり押し通す人たちでして。未来(みき)としても親に強く出られなかったり、迷いがあったりして、戦いには勝利を収められても、中盤から辛い状況が結構続くんですよね。全部で4章あるんですけど、その半分にあたる3章4章がほとんど悩み苦しみ通しだったから、しんどいことしんどいこと。でも、未来(みき)が悩みの底に辿りついてから好転を迎えるラストは、そのギャップもあって、とてもいいものに感じられましたけどね。だからこそ、やっぱりその苦悩が一番の見所だったように思うのですよね。

その苦悩の種はなんだったかというと、大きく分けて二つだったと思います。一つ目は、サイボーグ化されたことで人間ではない化け物になってしまったのではないかという恐怖。二つ目は、自分の都合を押し通す人たちと接する抑圧感。前者はサイボーグ技術が社外秘の先端技術であることや未来(みき)自身も他人に寄りかかることをよしとしない性格であるために、なかなか他人と共有することができません。後者も関わりを断つことは状況が許しませんし、相手に変わってもらおうにも自己主張をすることで社会的な立場を築いてきた人たちなので折れてくれそうにありません。そうしてこれらがどんどん未来(みき)を精神的に追いつめていくんですね。しかもすっかり参ってしまっても、ストレス源たるこれらはゆっくり休む暇すら与えてくれません。労りもなく結果を迫り、そのことがますます未来(みき)の精神をすり減らしていく。読んでて本当に辛かったですね。

未来(みき)の支えになってくれる人物がいなかったわけではありません。杉田医師が未来(みき)の心の奥深くに踏み込む決意をしてくれたのは、何にも代えがたい希望でした。一人で何でも解決しようとする人には、弱さを見せれる人がいるのといないのとではかなり違ってきますからね。うだうだ言う杉田をぶん殴って決意を促した生沢医師にもグッジョブと言わざるを得ません。

ただ、大月女史はやはり難敵でしたね。彼女にとって未来(みき)は己の目的を果たすための道具の一つに過ぎないのですから。ひどくイラつかされる人物ですが、彼女の行動原理は複雑ではありません。それは出世欲・名誉欲といったものであり、そのために他人を利用することに躊躇はありません。相当に恨みを買っていることは確かであり、自身もそのことは知っているようです。厄介なのが、他人からの攻撃的な態度に対して、反撃する術をよく心得ていること。逆に弱みを突いたり有無を言えないように権限の行使をするなど、相手に得意気な顔をさせたままにしておかない強さがありました。暴力を使えば一矢報いれるのかもしれませんが、あとで何倍返しにもされそうな感じというか。まあ、その世界のすべての人が主人公のために生きているわけではなく、摩擦を起こすような人物も存在しているというのはわかりますが、この人は本当にどうしたらいいのかわからなかったですね。一応の決着はつくのですが、この人についてだけはもうちょっとうまく収めることはできなかったのかという疑問が残ります。大月女史の結末としてはありかもしれないけど、未来(みき)の物語における決着としてはどうなのかな的な。物語は主人公のためのものという観念に囚われてるのかもしれませんが。

なにはともあれ、心の問題が片付く契機となるのは問題が顕在化したときというか。そこまで追い詰められるからこそ本音に近い話し合いができるというか。そうして、底に辿りついてから一段一段また心の核となるものを積み上げ直していったのかなあと思いながら最後のエピローグを読むと、感動もひとしおなのですよね。

どうやら小説家になろうの方で続編もあるらしいのですよね。まあラストもこれから新生活の始まりだ、みたいな感じでしたから、あそこで切れてもいいですが、続ける分にも問題なく続けられそうで。そのうちそちらも読んでみたいと思います。

一点。未来(みき)という名前は現実にも珍しくないものだとは思いますが、一般名詞にもあるものを名前として使われると紛らわしくてちょっと困ります。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:47| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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