2013年11月01日

烙印の紋章(12)あかつきの空を竜は翔ける(下)

烙印の紋章XII あかつきの空を竜は翔ける(下) (電撃文庫) [文庫] / 杉原智則 (著)...
烙印の紋章XII あかつきの空を竜は翔ける(下) (電撃文庫) [文庫] / 杉原智則 (著); 3 (イラスト); アスキー・メディアワークス (刊)

祝・完結!

前回、ついに皇帝へと至る気概を発しメフィウス宮廷人たちを圧倒してのけたオルバ。後はそれが口先だけのものではなく、真に実力に裏打ちされたものであることを証立てるべくアリオン軍と決戦が残るのみというところでしたが、見事にやってくれましたね。アリオン軍の強壮ぶりに関する事前の煽りようからすればちょっと出来すぎな感もありましたが、あとで綴られたようにこれが後に幾度も交わされる宿命の戦いの第一回目であるのならば、両者が互いに忘れようとも忘れ得ぬ敵として記憶に留められるにふさわしいファーストコンタクトだったのではないかと思います。将器についてはオルバに軍配が上がったように思いますが、今回の二人の衝突はカセリアからしてみれば偶発的なものであり、事前に敵を侮ること著しかった点もあるので、次にぶつかるときにはオルバとしてもこうまでうまくすることはできないのではないでしょうか。なにせ国力ではアリオンに分があるようなので、油断ない布陣で来られるとどうなるかというところ。オルバとしても今回は勝てたものの到底、気を抜くことはできないでしょうね。今後は、遠く本国にあろうとも互いの動静を意識しあう相手として、本当にいい宿敵になりそうだなあと思えますね。それこそのちの世まで語り継がれるくらいにとか。

そんな感じて、雌雄を決する一大決戦だったかというとそうではありませんでしたが、オルバの将器がまた一段と深みを増していることを見せられる一戦でもありました。これまでのオルバといえば、皇太子どころか貴族の出身でもない出自ですから、ここぞというところでは他人を使うよりも自分自身が動かねば気が済まない性質が抜けきらなかったように記憶しています。その点、皇太子になり代わった者としていつまでも無茶を続けてはいられないと頭ではわかっていても、最後の最後で恃むのは己のみという感じだったのは、他人に気を許せない環境とか、剣闘士奴隷としての実績からくる自分の実力への信頼とか、そういうのによるものだったのでしょうが。また、一読者としても、西方編での一兵士としてのオルバの活躍が純粋に華々しいものであったがゆえに、ついついオルバ本人の活躍を期待してしまうところがあったのですが。でも、「皇太子ギル・メフィウス」として、皇帝と対峙する道を選んでしまうと、もう自分一人では身が足りないくらいにここぞという場面が増えていってしまうんですよね。とはいえ、己のみを恃んできたオルバにすぐに気持ちを切り替えるのは難しい。挙兵後には、他人を信頼して任せるしかない場面が必然的にいくつも出てきたのですが、わかっていてもそれに合わせた思考が即座にできないことに苦しんでもいましたね。シークの死はちょうどそんな過渡期の出来事だったでしょうか。それでも、そんなシークやビリーナが、オルバに心からの信頼を託していったんですよね。メフィウスの宮廷で見せた気概は、その託された思いが為さしめたものだったとも言えるのかもしれませんね。そう考えると本当に感慨深いものがありましたね。ともあれ、そういった流れも経てきたオルバは、今回カセリアと対峙しても自ら決着をつけることにこだわりませんでしたよね。しかもそれが自然体でできていた。その背景には、今回の目標が敵の撃退であって敵将を討ち取ることにあったわけではないということもあったのでしょうが、今書いてきたようなところからのオルバの心構えの変化が窺えるように思うんですよ。それは、騎士物語に語られるような、戦陣の最前線での華々しい活躍からは遠ざかるものなのかもしれませんが、しかしオルバが人を統べる王へと至る階段を確かに登りだしている証左だと思うのですよね。

そんな感じで、公人としてはついには帝位への道筋をつけるまでに至ったオルバですが、私人としてはまだまだこれからなところだったり。ちぐはぐな感じではありますが、皇太子の成り代わりをさせられることになって、まず自分がこの世界においてどんな足場の上に立っていくかという根本的な問題に悩まされ通しでしたからね。その問題をヒロインと一緒にではなく自らのもとに集う者たちの無言の信頼に支えられながら解決してしまったというのがオルバらしいところだと思いますが。そんな中でもビリーナは散々振り回してきた相手でもあるので、しっかり真摯に向き合ってあげましょうねというところ。そういう意味では、まさにオルバの戦い(?)はまだ始まったばかりだという感じもしたり。とはいえ、これまでろくに腹を割った話し合いなんてしてないはずなのに、すっかり互いに敬意を払いあってるような二人なので、たまに言い合ったりなんかしながらも互いへの信頼が深まることこそあれ、傷つくことなんてないんだろうなあと信じています。というか、終盤すでにいい雰囲気してるというか。あの雰囲気、すごく心地よい感じで、いつまでも浸ってたいと思わせるものがありましたね。まあなんというか、英雄の道を歩んできた少年が、ようやく一人の人間として隣りに立つ少女に向き合うことができるようになったという、結局はそういう話ということで?(むちゃくちゃなまとめ) とにもかくにも「オルバの物語」として書ききられたシリーズでしたよね。

本当に、本当に最後まで楽しませてくれるシリーズでした。オルバがここまで至る過程を思い返すと感慨もひとしおですよ。シリーズ前半とかあまりにも男臭すぎて、これでよく続いてるものだと感心してしまうくらいでしたが、よく無事にここまで辿りついてくれていたものですよ。今となっては、もっと読んでいたかったと寂しい気持ちすら感じてしまいますね。とはいえ、作者の方でもしれっと続編あるかもと書いてますし、今回怒涛のように展開されたSF的な方面でもまだ展開の余地が多分にあると思いますし。これはこれで綺麗な幕引きになっていたと思いますが、続編が来るならばそれもまた歓迎ということで。ひとまずこれにて、素晴らしいシリーズに出会えた感謝とともに。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 12:54| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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