2013年09月12日

タムール記(5)冥界の魔戦士

冥界の魔戦士―タムール記〈5〉 (ハヤカワ文庫FT) [文庫] / デイヴィッド エディングス...
冥界の魔戦士―タムール記〈5〉 (ハヤカワ文庫FT) [文庫] / デイヴィッド エディングス (著); David Eddings (原著); 宇佐川 晶子 (翻訳); 早川書房 (刊)

この、一場面一場面は間違いなく面白いのだけど、はっと気づくと文字数の割に話があまり進んでいない感じ、Web小説を読んでいてたまに感じるのと同じものでしょうか。もう少しサクサク進めてもらった方が本筋の話がビシッと締まりある感じになるんじゃないかと思うのですが、かといって削ろうにもどこを選んでもキャラクターの魅力を目減りさせることになってしまいそうで。なんとも悩ましいところですね。

さてそんなわけで、敵側の仕掛けてきた一手にスパーホークが怒り狂うかと思いきやさにあらず。やんちゃは抜けきらないとはいえ彼もいい年ではありますからね。爆発しそうになる感情を抑えて為すべきことに考えを集中させるだけの自制心を持ち合わせてはいますよね。むしろベリットが怒りに我を忘れそうになってしまったり、他の皆も多かれ少なかれ敵に怒りを抱いているのが伝わってくるのは、エラナ様のさすがの人望によるものでしょうか。まあ危害を及ぼされたのはエラナ様だけではないのですが。あらましを知った一同の中から次々と恋人を苦しめた仇への復讐に名乗りをあげる人々が現れるのは、いわくエレネ人らしさの現れですかね。愛する人のためにと惚気半分で仇の死をプレゼントしようなんて血なまぐさい言葉が飛び出すんだからもうさすがすぎますね。とはいえ個人的にもエラナ様に手を出した時点で慈悲はないという感じなので、誰かがこんな感じに殺してやると口走るたびに「これはよいことを言う」とか思ってるところだったり。ここまでで神々も含めて両手で収まりきらなくなりそうなほどの数が乗りをあげているので、まあ安らかな死が訪れることはなさそうですね。

エラナ様不在のこの時にダナエちゃんが王女の風格の片鱗を見せてくれたのはなかなか感慨深いものがありますね。その気になれば見た目は可愛らしくも威厳ある態度も取れそうなだけの経験はあるはずですが、まだまだそこまでを求められることってありませんでしたからね。とはいえスパーホーク一行には権威越しでないということを聞いてくれない強情な人もいて、そういう親しい人に対してエラナ様ほどためらいなく権威を笠に着れる人物もいないわけで。そこで自分の出番とばかりにとことこと登場してぴしゃりとやってくれるダナエちゃんの可愛さ……じゃなかった、頼もしさときたら。エラナ様の次の女王としても、今から期待できるんじゃないでしょうかね。

そんなダナエちゃんの秘密について、彼女に目をつけられていることもあって、タレン少年がそのうち知らされていくことになるのかなと思っていましたが、それ以前に目ざとい方々の間には何やら引っかかるところがあるようで。細かいところにまで目端の利く人物としてはタレン君も相当なものですが、ちょっと分野が違いますがカラードも彼に勝るとも劣らない人物ではありますからね。しかしそうとわかってくると、カラード以外にも気づいてはいるけど黙ってる人って案外いるのかもしれませんね。それを加味すると、ダナエちゃんの将来はちょっと読めないところなのですが。

それはそれとして、今回いちばん印象的だった場面はなんといってもダナエちゃんとフルートちゃんが対面したところでしょう。あなたたちなにしてるんですかと。何かとんでもないことが起きやしないかと体をこわばらせもしましょうよ。しかも二人で会話までしちゃったりするんだからもう大変ですよ。ミャアならずともぶるぶる震え上がっちゃいますよ。突然足もとの地面がなくなったような不安にも駆られるというものですよ。事情を知ってる人ほど微笑ましく思うどころかパニック起こしそうになりますよ。いや本当に心臓に悪いイベントでした。

「頭の中に腹がある」というのはなかなかに面白い表現ですね。確かに、飢餓感とまではいかずとも、好奇心にしろ必要に迫られてにしろ、何かを知ろうとして情報を詰め込むことは頭の空腹を満たすと言ってもそれほど的外れな表現ではないように思える。そして頭で何か考えることは、本能に突き動かされて生きるだけではない人間にとって食事をするようにごく自然のことだったりもする。腹の中の腹の飢えを満たすことが生活のほぼすべてといってもよさそうなトロールならではの解釈ともいえるのでしょうが、なかなかにいい表現ですよね。それに気づくブロクはじつにすぐれた狩人ですよ。

ベヴィエさんちょっと演技に入り込みすぎじゃないですかね。生真面目であるがゆえに手を抜かない性質と演劇経験が相まって、もう完璧別人になりきってますやん。最近円くなってきてたとはいえ頭が固いくらいの篤信者だったはずが、もう人を殺したくてうずうずしてる殺人犯にしか見えませんよ。彼自身、戦の経験もあるだけに凄味があって、ありゃあ何度も死線をくぐってきた猛者じゃなきゃびびってしまうというもの。

カルテンとアリーン、いいなあこの二人。敵地でこっそりと二人だけにわかる符牒でお互いの存在を伝えあう、なんて素敵な場面だったか。脇役のキャラが掘り下げられることはあまりないとはいえ、いつの間にかお互いにとってのみ特別な意味を持つ歌とか、そういうものができるまでになっていたのですね。あれ、でもそもそもアリーンからの求愛からして歌でだったっけ? なんにせよいいものいいもの。カルテンはスパーホークのやんちゃ仲間としてけっこう脳筋なイメージもあったのですが、とっさにあれだけの機転を働かせるのを見せられると、実は見所たくさんある人だったんだなあと思わされますね。以前に小さき母上を慰めたことといい、このシリーズでの株の上げようときたら。エラナ様の人物眼もたまには違えることもあるということでしょうか。なんにせよ、アリーンてばいい人を捕まえたものですよ。

そんなこんなで、次回ついにシリーズ完結らしいですが、ぼちぼちと読んでいきたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:02| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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