2013年08月22日

氷と炎の歌(2)王狼たちの戦旗〔改訂新版〕(下)

王狼たちの戦旗〔改訂新版〕 (下) (氷と炎の歌2) [文庫] / ジョージ・R・R・マーティ...
王狼たちの戦旗〔改訂新版〕 (下) (氷と炎の歌2) [文庫] / ジョージ・R・R・マーティン (著); 目黒 詔子 (イラスト); 岡部 宏之 (翻訳); 早川書房 (刊)

第一部が区切りらしい区切りのつかない終わり方だったので予想はついていましたが、やはり第二部も区切りのつかない終わり方をしてきましたね。でも、一部の視点人物が生死不明な状態に陥っていたりしていることを考えると、第一部の時以上にもどかしいところで第二部の幕が下ろされた形ですね。今ならばすぐにでも第三部に手を伸ばすことも可能ですが、出版当時に読んだ人からしてみれば、ここで区切られるというのはいかにも生殺しな状態ですよね。

その一人がシオン・グレイジョイ。前回のアレで急所を直撃するような打撃を与えてくれた視点人物ではありますが、それだけに非常に気になるところです。前回のアレは、妄想的な都合のよい未来図を描くことでショックを和らげていたところがあったのですが、当の本人がいきなりそんなに性格が変わってしまえるはずもなく、それどころかあれほどの目に遭っていながらまるで身の程を思い知ってはいなかったんだからもう悲鳴を挙げたくなってしまった。全体の戦略を考慮しない独断専行、それでいて他の将兵の援助を当てにしきった進軍計画、それに加えて部隊の向き不向きを顧みない用兵。素人目にもこれはやばいというのがはっきりわかる無謀ぶりですよ。しかも本人はこれで一族郎党に自らの才覚を知らしめてやるつもりなんだから救いようがない。ここまでくると、もういっそこれ以上の生き恥を晒す前にスパッと死を迎えてほしいとまで思ってしまいましたよ。ところが、救いようがなかろうと悪人だろうとなかなかしぶといのがこのシリーズの人々であるようで。死ぬときは結構あっさり死んだりもするんですが、むしろ決死の覚悟を固めて死地に赴くよりも生きようと足掻きに足掻く人の方がしぶとく生き延びてるような気もしていたり。どんなもんでしょうか。それはともかく、このシオンも自ら招いた窮地で足掻いてみせるんですよね。守る兵の少ない城を乗っ取り、貴族の子女を人質に取って奪還に迫る将兵と対峙することになるんですが、その姿はどこからどう見ても悪人のそれでしかなくて。話が進めば進むほど憎悪の念は募るばかり。とはいえ、ここで悪人として開き直ってしまえば、それはそれで散り際に華を咲かせることもできたのかもしれませんが、シオンという人物はどこまでも肝の小さい男で。自らが招いた窮地にも他者に責任を転嫁するばかり。その上、自暴自棄になって要らぬ敵まで増やす始末。もう本当に見るに耐えないところまで落ちぶれている感がありました。思うにシオンという人物は、グレイジョイ家で前半生を、スターク家で後半生を育てられてきた若者であることからか、暴力で以って何もかも奪い取るというグレイジョイ家の気風と正義感を胸に誇り高くあらんとするスターク家の気風とを両方、感覚として頭の中に入れてはいるんですよね。ところが、その相反する気風をうまく消化できていないためか、どちらをとっても中途半端な人間になってしまっている。残虐であろうとしても旧知の人間の命を奪ったことに心苛まれずにはいられず、誇り高くあろうにも小狡い考えばかり思い浮かべている。両者を複合させても大悪党にしかならないような気もしますが、しかし現実を見ると、どちらにも似ず神経が細いんですよね。どうしてこうなってしまったのか。目先の欲に釣られたからでしょうか。最終的に生死不明な状態に陥ってはいるのですが、個人的にはこの際はっきりと死亡を確認したいところ。頼むからもう出てこないでほしいです。

もう一人の生死不明者ダヴォス・シーワース。こちらは逆に生きていてほしい人物ですね。スタニスが腹を割って話せる臣下であり、主従としての壁はもちろんありますが、王となった自分に媚びへつらう者ばかりであることにうんざりしたスタニスが彼との話に心をスッとさせていたのが印象的であったり。ダヴォスの場合、スタニス自ら爵位を与えられたこともあってコロコロと仰ぐ旗を変える諸侯たちと比べてスタニスへの忠誠心は揺らぎようのないものですし、そうであるがゆえに王の機嫌が許す限り直言もせずにはいられないという人柄は、スタニスからしてみれば安心できる存在ではあるでしょう。とはいえ、王位継承戦争への挙兵自体に反対の立場だったので、どうしても耳触りのよくない会話になってしまって結局機嫌を損ねがちなのがやるせないところではありますが。

それはともかく、ダヴォスを生死不明に陥らせた計略、あの場面は実に見事でしたね。あそこはスタニス軍側のどこが拙かったかと責めるよりも、あの計略を立案したティリオンを称えるべきでしょうね。ティリオン視点で色々準備している情報が入っていたので、こちらとしてはもしかしてと当たりはついていたのですが、そうでもなければちょっと予測がつかなかったでしょう。しかし、あれほどの打撃を与えてもまだスタニス軍側が優勢に戦を進めれてしまうというのはやはり、前々から指摘されていたキングズ・ランディングの防備の弱さのせいですかね。守備兵の質が悪く、住民たちも暴動を起こしてしまうとなれば、籠城戦の利点なんて消し飛んでしまいますか。前者に関してはサーセイに責があるような気もしますが一朝一夕で何とかなるものではなかったし、後者に関してはジョフリーに責があるような気もしますがそうでなくとも暴発寸前ではありましたから、始まる前からスタニスが勝利する未来は生半可なことでは動かしがたいものだったと言えるでしょう。ティリオンもついには決死の覚悟を固めて出撃せざるをえなくなりましたし、これはもうだめかと本気で思ったりもしましたが、なんとなんとしぶといこと。彼が退場しなかったのは実に嬉しい。彼は、与えられたキングズ・ランディング防衛の命を果たすために、時に国王ジョフリーをひっぱたいてみせたり、時に体を張って敵中に突入してみせたりと、今回だけでも気持ちの良くなるような活躍をたくさん見せてくれましたから。それも、おそらく〈小鬼〉と馬鹿にする人々を見返してやりたいという個人的な理由からよりも、とにかく父から与えられた課題をこなそうとする義務的な気持ちから。頭脳だけでなく、いざとなれば戦場で獅子奮迅の活躍もできる人なのかと、ますます魅力的に思えてきたところですものね。しばらく復帰には時間がかかりそうですが、これでだいぶ株を上げたでしょうし、またの活躍が待たれます。

タイウィン・ラニスター。この人はやはり侮れませんね。亡きエダードやロバートよりも年長であり、ロバートが王位に就く以前より隠然たる勢力を抱えてきた老獪なるラニスター家の当主。配下であるグレガー・クレゲインらによる略奪を躊躇なく指示していると思われるところなどからして、将軍としての性格は勝利のために効率的なことはなんでもやるという印象を受ける人であり、ロブたちの軍勢によって押され気味とはいえ、絶対このままでは終わらないだろうなと思わせるだけの油断ならなさを感じさせる人ではありましたが。あの急襲は、なんといっても思考の死角を突かれましたね。北にスターク軍、南にスタニス軍を迎えて、二正面での軍勢の展開はさすがに厳しいだろうと思っていたら。いやはや、なんともいやらしいタイミングで現れてしまうものですね。一体どのあたりであの動きを決断したのか。視点移動間の時間の経過はよくわからないところがあるのですが、北の動きをつかんだ直後と考えるのが妥当なところでしょうか。なんにせよ、完全に虚を突かれた形のエドミュア・タリーの胸の裡やいかにというところ。

そういえば、今回ロブ・スタークの登場が一切ありませんでしたね。伝聞としてわずかながらその動静は伝わってきていますが、旗色が急激に悪くなったてきたこの時に至って何を考えているのかは気になるところ。

レディ・メリサンドルは本当に不気味ですね。この人はなんらかの魔術を行使しているのは確実ですが、ウェスタロス大陸では極めて珍しい魔術師が何の目的でスタニスに接近しているのか、気になるところです。彼女のおぞましさを奇跡としてではなくそのままおぞましさとして認識しているほぼ唯一の人物であったダヴォスが生死不明状態なのが不安を煽ること。スタニス軍にはいまだこの人ありと思うと、まだまだ南方情勢は気が抜けませんね。

サンダー・クレゲイン。この男、やたらサンサにつっかかるよなあと思っていたら、なんだツンデレか。というか、気になる子に意地悪しちゃうあれか。って、あなたいくつだと思ってるんですかー。屈折した育ちしてきたのは知ってますけど、その、ロリに手を出すのは感心しませんね。まあ彼も、自ら〈犬〉を名乗ってはいましたが騎士として心から求められたいと願った人がいたのかなと思うとちょっとしんみりとした気分に……はなりませんね。

そういえば、サンサもアリアも危地にあって救いの手を差し伸べる騎士となる人物と出会っていた形になるのですね。とはいえサンサの方のは実に頼りない。一縷の望みにもかけてみたくなるような嫌な思い出だらけのキングズ・ランディングではあるけれど、逆にさらなる危機に陥る未来しか予想できなくて、けど迷いながらもその手を取ってしまいそうでこわいところ。アリアの方のは実に恐ろしい。命を助けられた返礼に誰かの命を奪ってやろうと言う。しかもそれを有言実行してしまう。けれど、なんやかんやでそこから勇気を得てしまえるのがアリアの図太いところというか。相も変わらず、これ本当にウィンターフェルまで帰れるんだろうかな現状ではありますが、なんだかんだいろいろ糧になってそうなのが安心材料ではありますね。

そんなこんなで、肩入れしてるスターク家にとってあまりよろしくない状態になってきているのは確かであり。この世界に悪を打ち倒す正義は存在しないのかと叫びたい気持ちも湧き上がりつつありますが、歯を食いしばって第三部も読んでみたいと思います。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:11| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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