2013年08月17日

タムール記(4)暗黒の魔術師

暗黒の魔術師―タムール記〈4〉 (ハヤカワ文庫FT) [文庫] / デイヴィッド エディングス...


表紙のイラストから漂うこのTUEEE感。いやまあこれは、相手を圧倒する演出を絵で表現したものなのでしょうが。今回はこのイラストにも描かれているように、まさにザネティアが圧巻の魔術の冴えを見せてくれました。思えばスパーホークの一行は、これまでも長距離移動についてはフルートちゃんやダナエちゃん及びベーリオンの力に頼り切ってきた部分が大でしたが、ここにきて敵方からの情報収集に関しても自然の理を超えた、恐るべきといっていいほどの手段を備えた仲間を得てしまったことになるのですね。

前回までで、エレネ人お得意の尋問とそこからの推論とでちょっとずつ敵の正体やその目論見について当たりがつけられてはいましたが、どうにも核心に近づけないままであり、計画中の粛清劇もその打開策の一歩ではあっても解決策とは言いきれないものだったんですよね。しかしそれも、ザネティアの加入で敵の先手を取れるようになりました。敵の主要な構成員とその計画が判明し、さあここから反撃の始まりだというところなのですが、どうやらそうもいかないようで。筋書きがわかったところで、陰謀はすでに何年もの仕込みの上で実際に動き出しているのですから。個人としてはどれだけ優れた力を持つ仲間がいても、群衆を相手にするにはやはり実働部隊が必要となります。それが不足しているとなると、採りうる手段はどうしても限定されてしまいますか。いきなり本命に向かうのではなく潰せそうなところから敵の戦力を削ぎつつ味方の余剰人員を確保しにかかるというのはなんとも迂遠な手立てのように思えますが、実際そこまで事態が切迫しているわけでもなさそうなんですよね。どうもこのシリーズは、エレニア記に比べてゆったり進行のようで。あるいは、スパーホーク一行の人員が整いすぎてて何があってもどっしり構えていられるというか。安心して読んでいられるところではありますね。

ダナエちゃんに“愛の目守り手”の称号を与えてはどうか。スパーホークを連れて、何組ものカップルの逢い引き現場を見守るダナエちゃんを見てそんな益体もないことを考えてみたり。それはともかく、何組もの逢い引き現場の中でもやはりストラゲンとメリデールのカップルが最も印象的でしたね。そのほかの組はわかりやすく愛を囁きあったり二人の間に横たわる障害について議論したりしてたのですが、この二人だけは言葉面だけ眺めているととても恋人同士には見えなかったというか。ストラゲンの方が一方的に契約を押し付けられただけのように見えるのですが、脅し賺されて完全にペースを握られた上での交渉ではあっても、その中身が結婚であってみればそれはもうニヤニヤと見守るしかない展開ですよね。泥棒たちの親玉の一人ということで様々な悪事に精通しているようでありながら、メリデールが示した手札に動揺を露わにする姿は、彼女も言うように確かに可愛らしいところで。その後はそういう落ち着かなさが目につくたびににやけてしまって仕方がありません。

それにしても、メリデールもそうですが、このシリーズの女性はその気になれば、時に野蛮とも称されるエレネ人の男どもでさえ震え上がってしまうほどに思い切った言動をしてのけるものですね。今回特にそれが顕著だったのがセフレーニアだったでしょうか。前回まででも時折そのような一面はありましたが、長年騙され傷つけられてきた人物に対して露わにする残忍なまでの復讐心ときたら、これがあの、これまで何度も無益な人殺しを諌めてきた小さき母上なのかと何度唖然とさせられたことか。あまりにもびっくりさせられすぎてもはや、ああまたかと慣れてしまった感もありますが。ともあれヴァニオンには同情したいところです。彼女の行き過ぎを諌めるのは彼の仕事なのですから。とはいえ、彼女の怒りもわからなくはないのですよね。彼女の心はそれほど深い傷を負ったわけですから。普段流血を好まないのは、それが必要性もなく単に男連中の趣味嗜好からもたらされるものであって、女性たちが冷酷なまでの仕返しを望むのは、それが受けた傷に対する相応のお返しだからなのでしょう。非道な仕打ちをしてきた相手に同情の余地などあろうはずもありません。自らの受けた苦しみを相手にも味あわせてやりたいと思うのは正当な感情でしょう。お返しには往々にしていくぶんかの利子が付くものであるようですが。

そういえば、エラナ様の血みどろ政治講座inマセリオンはついにその試験の時を迎えた形になりましたね。思ったほど流血沙汰にはなりませんでしたが、エレネ人ほど政治的闘争が激しくないタムール帝国のサラビアンとしてはあれくらいが無理のないところでしょうか。エラナ様としても及第点を与えられる出来だったようで、こうしてエラナ様の薫陶を受けた専制君主が東方の帝国に誕生したことになるのですね。めでたいめでたい。とはいえやはりまだ教師の目から見るとひよっこであり、エラナ様の指導に助けられることが大なのは仕方ないところでしょうね。そしてそちらの方で、エラナ様とその側近たちは実に見事なまでにエレネ人の流儀を持ち込んでいるわけで。いやはや生まれながらの専制君主としての貫録を見せてくれますよ。しかし、サラビアンも帝国の大臣たちを相手取ってはかなりやり手になってきているようで。それまで被っていた無能の仮面を外して相手を驚かせて楽しんでるのは実に楽しそうですね。まあそれを臣下からあからさまに揶揄されて拗ねてみせるまでがお約束化されてきてて、こちらとしても恒例のネタとして楽しいところではあります。

ベーリオンの力は本当におそるべきものですね。ちょっとした頼み事で天変地異を引き起こされてしまった日には、もう冷や汗だらだらですよ。非常に有用な同盟者ではありますが、頼りすぎはよくないと心から思わせれる場面でしたね。とはいえ、娘を誇る語り口は一人の親のようで好感が持てそうな雰囲気すら漂わせていましたが。でも、ここまでやられてしまうとちょっと笑いごとで済ませられないというか。何でもないことのような口ぶりで途方もないことをしてのけるちぐはぐさは、さすがこの世の至宝と思わしめるところではありますが。

この作品の感想を書くに当たって、安っぽい感じが出てしまうので「チート」という単語は冗談以外で使わないようにしてきたんですが、アフラエルの口から公式チート宣言とも取れる発言が飛び出してしまったので、そろそろ解禁してもいいかなと思ったり。とはいえ、それはまた保留ということで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 00:07| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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