2013年08月11日

氷と炎の歌(2)王狼たちの戦旗〔改訂新版〕(上)

王狼たちの戦旗〔改訂新版〕 (上) (氷と炎の歌2) [文庫] / ジョージ・R・R・マーティ...
王狼たちの戦旗〔改訂新版〕 (上) (氷と炎の歌2) [文庫] / ジョージ・R・R・マーティン (著); 目黒 詔子 (イラスト); 岡部 宏之 (翻訳); 早川書房 (刊)

ぐへえ……。これは心折られた。先を読むのが怖いという展開は1巻でもたまに見られましたし今回もなかなかしんどい場面はあるんだろうなとは思っていましたけど、読んでるだけでここまで精神的にダメージを食らうとは思いもしませんでしたよ……。その後も、ぽっきり逝った部分を接ぎ木したようにして騙し騙しやってなんとか最後まで読み終えましたけど、すっかりぐんにょりへろへろになってしまって、気力を取り戻すのに思いのほか時間を取られてしまいました。最近しばらく更新が止まってましたが、だいたいこいつのせいです。

具体的に何があったかというと、アレです。自分、恥をかくことに慣れてないんですよ。視点人物が家来たちの前で情けなくも恥をかかされる場面なんて、耐えられるものじゃありませんよ。その視点人物が嫌いであれば、そんな場面でもざまあみろとしか思わなかったでしょうが。でも、このシリーズの視点人物って、その一人一人が何かすごいことをしてくれそうな魅力を持っているように感じていたから、ずいぶんと肩入れした読み方をしてしまってたんですよね。それと、ここ重要ですが、その視点人物が女を口説きにかかってたから、色っぽい展開を期待して、自然と普段の傍観者的な読み方じゃなくて視点人物に自分を重ねるかのような無防備な読み方に切り替わっちゃってたんですよね。そこで、愚鈍さを嘲られた挙句、口説き文句に使った恥ずかしい台詞まで混ぜ返して顔見知りたちの面前で笑いものにされたとあっては、まるで自分がそんな目に遭ったみたいにしばらく立ち直れなくなってしまいますよ。その前からも何カ所か、昔の失敗を思い出して奇声を上げてしまうような場面があって精神的に疲弊してたところでそれだったので、完全にとどめを刺された形でしたね。この本は自分を殺しにかかってるのかとまで思えましたよ。いやはや。Wikipediaで作者の項を読んでたら、一つ一つの場面を真剣に読み込んでもらうために視点人物にはしばしば辛い事態が待ち受けている的なことが書かれていて、ホント注意深く読まないといけませんねーと思わされた次第。

つらい記憶を振り返るのはこれまでにして別の話題を。

総じて振り返ってみると、ロバートやサーセイやエダードなどの錚々たる面々が玉座を賭けた権謀術数のゲームに身を投じた1巻と比べて、若く未熟な視点人物が多く、ややこじんまりとした印象を受けたのが今回の話でした。また、何人もの視点人物を通して一筋の歴史が浮かび上がってくるかのような壮大なドラマを感じさせた1巻と比べて、同時並行的に進む視点人物たちの直面する事態を一つ一つ丹念に追っていくことで、歴史よりもいくつもの個人の体験を紡ぎ出すことに焦点を当てたファンタジーであるかのような印象を受けるようになったのも今回の話でした。マクロ的な話が中心かと思っていたらミクロ的になってきたというか。それに伴って、というわけでもありませんが、1巻でなんとなくつかめたと思っていた何人もの人物たちの為人がまたぞろわからなくなってきてもいます。とはいえこれは、典型的なレッテルを貼ることで分かった気になっていいほど人は単純ではないということなのでしょうね。またちょっとずつ登場人物たちがどのような人たちであるかの把握に努めていきたいものです。

東の空にたなびく赤い彗星。それは善きにつけ悪しきにつけ、何か重大なことが起こることを予感させます。七王国の全土に落ち着かない雰囲気が立ち込める中、第二部は幕を開けました。この彗星はいったい何を知らせようとしていたのか。第一部からのつながりを考えるとデナーリスが何かしてくれるのかしらと思ったりもしましたが、どうも彼女の出番はまだのようで。どうやらこのシリーズは全七部構想のようですし、彼女には期待するところ大であるがゆえに、満を持して乗り込んできてほしいところではありますね。

というか、〈紅い女〉ことレディ・メリサンデルが初っ端からいきなり不穏な空気を増幅してくれますね。多神教信仰の七王国に〈光の王〉の教えをもたらす一神教の女祭司であるとのことですが、何か企みを持ってこの地にやってきているのは確実であって。スタニス・バラシオンを一見無謀な王位継承戦争への参加に踏み切らせてみたりと、油断のならない人ではありますよな。まあスタニスはスタニスで、故ロバート王のすぐ次の弟でありながらそれにふさわしい待遇をこれっぽっちも受けていないと長年の間不満をため込んでいたようで。挙兵する大義名分と勝利できるというそれなりの理屈が用意してやりさえすれば、反対意見がどれだけ挙がろうと押し切って挙兵するのも無理はないと思わせるところがあったのですが。なにせ、亡くなったエダード・スタークやジョン・アリンが気付いたように、本当なら王位を継ぐべき人物は彼なのですから。待遇に不満があれども兄が王位にあればこそ、不当に玉座を占めているジョフリーや、弟でありながら己を差し置いて諸侯の支持を集めるレンリーの下風に立ってまで冷遇され続ける未来など耐えられるはずもないという考えは、理解できなくもないだけに厄介な代物ですよね。とはいえ、その後の進軍経路などを見てるとちょっと意図が読めなくて困惑してしまうところ。ラニスター家の者たちの喜ぶ顔が見えるようだというキャトリンの嘆きに同意したくもなるというものですよ。

そのラニスター家ですが、やっぱりティリオンは憎めないですね。視点人物にスターク家の人物が多いせいもあり、彼らと敵対するラニスター家の人間にはあまりいい感情を持てないでいるのですが、ティリオンだけは別ですね。人質に取られている形のサンサをことあるごとに折檻するジョフリーとそれを止めようともしないサーセイについては、次第にもうくたばってしまえという気持ちが強くなってきてるところなんですが、王となったジョフリーをやりこめて折檻を止めに入るティリオンのなんと痛快だったことか。彼こそまさにキングズ・ランディングの希望の星ですよ。スターク家にとって敵なのは確かだけれど。それに止めに入った理由も戦場に与える悪影響を見越してということであって、サンサを可哀想に思ってということはなさそうなのですが、それはそれとして権力に固執したりそれを求めて群がる人々の中で、権力よりも父から与えられた任の遂行を前面に押し立てるティリオンを見ていると、ついつい肩入れしたくなってしまいますよね。まあ彼も役得を手にしていないわけではないし、キングズ・ランディングの他の人たちにもその人なりの心積もりがあったりもするのでしょうが、視点人物がティリオンとサンサに限られてしまうとどうも皆が皆彼のやろうとしていることを妨害しようと企んでいる悪い人たちに見えてしまうのですよね。ヴァリスとピーター・ベイリッシュは有能であるがゆえに本気で油断ならない人物ではあるようですけど。それにしても、ティリオンという人物は軍や政治の舵取りに加わった経験なんてなさそうでありながら、意外な才能を見せてくれるものですね。容姿だけで侮られがちであるがゆえに、頭を使うことで処世術を見出してきたからでしょうか。特に密告者を炙り出した手口は実に見事でした。一部の信用を落とした気もしますが、まあ彼らなら私情で判断を違えたりはしなさそうな人たちではありますし、それが故に奇妙にも信頼できる人たちでもありますから。とはいえ、そうしてちょっとずつキングズ・ランディングの防衛拠点として整備されていっているようではありますが、それでもレンリーの軍勢を見てると不安が募るんですよね。対スタニス軍との消耗次第ではいけるかもというところのように思えますが……って、ラニスターを応援をしてどうするのか。いやいやもう、スターク家の人は皆苦難を乗り切ってほしいですし、ティリオンも一族の人々を見返すような活躍を見せてほしいところではありますし。肩入れしたい人物が多くて困ってしまいますよ。

一方のスターク家。アリアの境遇が、一時を思うとひどい落差になっておりますことで。ここのきょうだいで最も貴族の子供らしくないのは誰かとなったら、一年前でもアリアと答えられていたのでしょうが、これ無事にウィンターフェルまで帰りつけるんでしょうか。故郷を出てからのたくましい育ちぶりは目を見張るものもありましたが、しかしなんといっても彼女自身思い知らされたように小さな女の子に過ぎません。気を抜くと次の瞬間には命が危なくなってそうで怖いこと怖いこと。今回だけで何度肝を冷やされたことか。本当に心配をかけてくれる子ですよ。もう恨みとかよりもとにかく生きることを優先してくださいと言いたいところですね。

ブランは、何やら不思議な力を得つつあるようですね。魔法は存在しないとされている七王国ですが、ところどころにそれらしきものが見え隠れするのも事実ではあり。スターク家の大狼はやはり神々の恩寵なのでしょうかね。

シオン・グレイジョイは、うん、利口ぶってみせても隠しきれない青二才ぶりが見ててつらいところですね。スターク家で人質という名目の被後見人として十年を過ごし世の中に揉まれてきたような顔をして故郷に帰ってはきたものの、しょせん平和なウィンターフェルで公子たちと兄弟同然に過ごしたぬるま湯のような十年間は、臥薪嘗胆の故事よろしく雌伏してきた故郷の一族郎党たちの過ごしてきた十年間には遠く及ばないものだったということなのでしょうか。とはいえウィンターフェルが平和であったがゆえに荒事の経験が足りないだけというようにも思えますし、地道に経験を積み重ねていけばすぐにとはいわずともちゃんと認めてもらえるようになるんじゃないでしょうか。頭が冷えるのにちょっと時間が要るかもしれませんが。

今回ページ数の割に動きに乏しかったようにも思いますが、下巻では一気に動きが見られたりするのでしょうか。


posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:02| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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