2013年05月24日

エレニア記(6)神々の約束

神々の約束―エレニア記〈6〉 (ハヤカワ文庫FT) [文庫] / デイヴィッド エディングス ...
神々の約束―エレニア記〈6〉 (ハヤカワ文庫FT) [文庫] / デイヴィッド エディングス (著); David Eddings (原著); 嶋田 洋一 (翻訳); 早川書房 (刊)

エラナ様、この人は名女優ですね。彼女が目覚めてからこの方、ほとんどあらゆる人たちを相手に自分の願いをそのまま通してしまったようにすら思えますよ。家臣たちに対しては病み上がりであることと、なにより女王の権威をもって。権威だけでは主張を押し通せない他国の王や司教たちに対しては加えて、侮られるとともに甘く見られる理由でもある若い女性であることを逆手にとって。つまり、目下の者に対してはいざとなったら強権の女王の役を演じ、同等以上の者たちに対してはまず経験や才覚で劣る未熟な女性のように振る舞い、相手が警戒を緩めた隙に雄弁家になり替わって一気呵成に意見を通すところまで持っていってしまう。この演じ分けが実に巧みなんですよね。油断すると痛い目を見る女性だとわかっていても、婚約者であるスパーホークに情熱的な様子を見ていると、ついつい恋に浮かれる女性のように思えてしまうんですよね。でも、そうかと思っているといつの間にか恋する女から巧妙な策略家へとなり替わって意表を突いてくるから油断がならないんですよ。スパーホークともどもいったい何度驚かされたことか。しかし考えてみると、優れた政治家というのは俳優のように巧みに役柄を演じ分けてみせる演技力を有しているものなのかもしれませんね。そういう意味ではエラナ様はなんといっても一流でした。どんな役柄も、他の役柄があるなど思いもよらないほどの自然さで演じきってみせましたから。公的な場でも、私的な場でも。とはいえ、「演じる」と書くと本心はまた別のところにあるように感じられてしまうかもしれませんね。ですが、彼女の場合はそのすべてが本心であったように思えるんですよね。私的な面ではいわずもがなですが、女王となるべくして育ってきたのですから、女王としての立場もそれほど苦にはしていないのかもしれません。実際はまた違ったのかもしれませんが、少なくとも重圧を感じている素振りを見せることはありませんでした。唯一、アザシュと戦うためにスパーホークがゼモックに向かうことになった件に関してだけは、行かせるべきだという公の立場の考えと、行かせたくないという私の立場の考えが拮抗して、自分で自分の気持ちを持て余してしまいましたが、これはむしろ普段から切り替えのよすぎるエラナ様としては彼への愛の深さを証づけるものとして、より人間的な好感を抱かせる場面になりましたね。

そんなエラナ様に対してスパーホークはというと、見事に押し切られた感もありますね。情熱的に愛を告げるエラナによってかつての子供ではなく大人の女としての印象に塗り替えられたようでもありますが、スパーホーク本人としては子供時代から魅かれ続けたがゆえの落着として納得したようでもあり。ただ、これも見ようによってはエラナ様にうまく丸めこまれただけのように思えなくもないんですよね。まあ、そこまで弁が立つというわけでもないスパーホークがエラナ様に議論で勝とうなんていうのがそもそも無理な話だったのですが。なんにせよ、女王様に子供時代から好かれ続けた挙げ句に大人になってから迫られるままに結婚までしちゃうとか、なんて素晴らしい展開だったでしょうか。もうこの流れだけで、シリーズ終盤の5・6巻を素晴らしかったと言ってしまってもいいくらい。その上、エピローグでは女王様との甘い新婚生活というご褒美的な後日談が……って、フルートちゃん何しちゃってるの!? ここまででも散々という言葉を使いたくなるくらいに活躍してくれましたが、まだ登場するのかと。そりゃあ、いつか別れなきゃいけないキャラだと思うと出番が回ってくるたびに再会の嬉しさと別離の悲しさが合わさったような気持ちになったりもしてましたが……、だからって最後の最後にとんでもない爆弾持ってきやがって! 小さき母上も怒りますよ、そりゃあ。あんなの、どう受け止めろっていうんですか? 続編の『タムール記』を読まないなんて選択肢はこれっぽっちもありえなくなっちまいましたよ。まあもともと、一連の話は終わりましたが、登場人物たちのその後は興味のあるところではありましたからね。特に、色んな人から将来を嘱望されるようになってきたタレン少年の行く末が。

アザシュとの戦いにまだ触れてませんでしたね。とはいえ、ここまで書いてきたことに比べると、読んだ通りという感じにしか書けそうにないんですよね。クライマックスらしく一番迫力ある場面だったとは思うのですが、いかんせんその後のフルートちゃん・ショックが大きすぎて、色々吹き飛んでしまった感。

そんなわけなので、引き続きの『タムール記』シリーズが楽しみでなりませんということで一つ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:43| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。