2013年02月09日

マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust――排気 〔完全版〕

マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA) ...
マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA) [文庫] / 冲方 丁 (著); 早川書房 (刊)

ディーラーのアシュレイを相手にしたブラックジャックがめちゃくちゃ熱かった。ウフコックによるカウンティングの補助を受けながらも、それを打ち消してしまうほどの巧妙さで場の流れを支配される中で、急速に勘所をつかみ取り対していく展開は、それはもう面白かった。バロットが消耗戦のようにじりじりと押されながらも食い下がっていく展開にドキドキしっぱなしだった。前の巻から腕に覚えのあるディーラーを相手取って調子よく資金を増やしてきていただけに、あのカジノの最終兵器とも言えるアシュレイのプレッシャーに晒されてどうなってしまうのやらと思えば、とんでもないポテンシャルを見せてくれるものですよ。ウフコックによるアドバイスや電子干渉(だったっけ?)の能力をフルに活用して、それまで以上に冷静に深く場を感覚していく。既出のカード、アシュレイのカード操作テクニック、心理など、場を支配される圧迫感の中でそういった情報の奔流に晒されながら場の全てを感覚していってしまうのだ。それこそが真骨頂。並ぶ者なきアシュレイの巧みなディーラー技量による場の支配に対して、場の一切を自らの感覚下に置くことで、初めはうっすらとも見えなかった小さな小さな勝利の可能性を見つけ出す。しかも、まぐれでも勝てばいいということではなく、その中から確実に勝利をつかめる局面を正確に嗅ぎ当て、見事ものにしてみせたのだ。終始ペースを崩さずプレッシャーで押し潰そうとするアシュレイと、それをかいくぐってナイフで急所を一突きにしてやろうとするかのようなバロットとウフコックという図式の対決。油断したらその瞬間に死が待っているような真剣勝負だった。なんとも手に汗握る一戦だっただけに、勝利を収めた瞬間の高揚感は半端なかった。押し潰されそうになりながらも必死に食らいついていく姿はそれだけでも見ごたえのあるものだったけど、やっぱりここが一番成長を感じさせるポイントだったというのも大きいですね。嫌なことや怖いことがあると心を殺し殻の中に閉じこもるようにしてそれが過ぎ去るのを待つだけだったバロットが、最後まで歯を食いしばって立ち向かい乗り越えることができるようになったのだ。一番の山場はここだったように思います。カジノで成長したと言うと不良っぽいですが、人が集まりさまざまに関わり合う場であればどこだろうとドラマは起きるものということで。というか、バロットって境遇的には割と底辺に近いところの人ですし、カジノというのはなんというかドリームを感じさせる場所としてなかなかいい所なんじゃないでしょうか。

そうして暴力的なまでの圧力で大切なチップを奪おうとするアシュレイに立ち向かい、大切なものを守るという経験を積んだバロットにとって、次のボイルドとの戦いはいわば基礎編に続く応用編。より直接的な力でより直接的に命を奪おうとする相手に対し、奪わせず乗り越えようとする戦い。それに留まらず、1巻では力に溺れ暴走してしまった反省や殺すための道具であることを嫌悪するウフコックを尊重する思いから、殺して止めるのではなく制すて圧することを旨とした戦い。アシュレイと対峙した直後でバロットも読んでる自分としても疲れが残る場面なのだけど、ここもまた手に汗握る戦いの場面。戦闘用に作り変えられたサイボーグとも言えるボイルドをも圧倒することができたらそれはもう俺TUEEEな快感があったのだろうけど、さすがにそれは今後の課題ということになりますか。今回だけで相当な山場を乗り切ったように思うのですが、どちらも辛勝に近いものではありましたからね。特にボイルド戦は紙一重の勝利という感じ。さらに上手の者と相対することになった時、その成長が問われるといったところでしょうか。ラストシーンを読んでて感じたのですが、あれだけの危機を乗り越えてようやく命の危険におびえることなくマルドゥックシティで生きていけるようになった。すなわち一介の住民として暮らせるようになったということなんですよね。どれだけ過酷な都市なんだって話ですよ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:26| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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