2013年01月16日

天地明察(下)

天地明察(下) (角川文庫) [文庫] / 冲方 丁 (著); 角川書店(角川グループパブリッ...
天地明察(下) (角川文庫) [文庫] / 冲方 丁 (著); 角川書店(角川グループパブリッシング) (刊)

世に重大な意味を与える改暦という一大事業を成し遂げようとする春海たちの情熱は最後までとてつもない熱気に満ちていて素晴らしかったです。あまりの熱気に中ってしまいそうで、途中で二、三度クールダウンをしないといけないほどでした。事業に関わった人が亡くなるたびにずしりと重みを増していく責任感が、守旧派層からの悪罵にあいながらも成就させたいと自然に思えるようにさせていくことに、積み重ねられた人の縁の有難さを感じます。関や道策のような誰に頼ることなく革新的な境地を拓きだす天才ではなく、鬱屈の末に見出した道で、幾度も失敗を繰り返しながらも多くの人との出会いに助けられ励まされてきたそれまでの描写があったがゆえになおさら。

途中までえんに対しては頭の上がらないヘタレぶりを見せていたのが、どっしりと構えていられるようになった辺りが春海の円熟味を感じさせるところだったでしょうか。関の弟子に対して、かつての自分がガチガチになりながら受け取った言葉を、なんの気負いもなく口に出すようになっていたあたり、改暦という重責はいつのまにか春海自身と一体のものしてしまえていたように思われます。これも「士気凛然、勇気百倍」の効果がじわじわと出てきてのことなのだろうか。なんにせよ、とても面白い話でした。

ただ、一点不満を挙げるのならば、終盤の綱吉派の人たちをこきおろすような書き方が、いい雰囲気に水を差してしまっていたように感じました。渋川春海の伝記のような構成なので、最後に暗雲立ち込めるような終わり方をさせる必要なないのではないかと思ったのですがどうなんでしょう? 


感動が中途半端に冷めたついでに蛇足として。

貞享暦はめでたく採用されたわけですが、明治の頃にはまた暦のずれの問題が浮上してくるんですよね。現在のグレゴリオ暦を導入する際、グレゴリオ暦の1月1日から始めることにしたら、前年の12月がたった数日しかなくなってしまったという。とはいえこれは、月の満ち欠けを基にする太陰太陽暦と地球の公転周期を基にする太陽暦の違いから起きたことなのですが。というか、調べてみたら貞享暦以後にも江戸時代のうちに何度か改暦がなされていたようですね。

それと、五代将軍綱吉による生類憐みの令についても、天下の悪法とするのが定説でしたが、確か再評価する動きもありましたよね。戦国以来の荒々しい気性を残していた当時の武士たちに生命(人も含む)を大切にする価値観を根付かせようとした、という感じだったでしょうか。まあ、作中でもこの法令に抗議するために犬50頭を斬り殺すなんていう乱暴な人が描かれてましたし、人々の心としてはまだ保科正之が目指した武断から文治への移行が十分に成されていたとは言えない時期ではあったのでしょうね。


ラベル:角川文庫 冲方丁
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:28| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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