2012年06月28日

北の舞姫  芙蓉千里 U

北の舞姫 芙蓉千里II [単行本] / 須賀 しのぶ (著); 角川書店(角川グループパブリ...
北の舞姫  芙蓉千里II [単行本] / 須賀 しのぶ (著); 角川書店(角川グループパブリッシング) (刊)

●少女時代は終わりを告げ、フミは芸妓として、女として、一人立つ。

面白い。実に面白い。なんでこの作品はこんなに面白いんだろうと考えていたのだけど、それは一冊の中で人生におけるいくつもの佳境や転機が描かれているからではないかと思った。いわゆる「ライトノベルレーベル」の作品では、例え十冊分以上話が進んでも、主人公の人間としての芯はほとんど変化しない。変化するとしても最後に少しだけというくらいのものが多い印象を受ける。少なくともこれまで読んできた作品では。それらと比べるとこの作品は、そうした何冊もかけてのゆったりしたものに慣れきってたところで、一冊の内で怒涛のような人生の変転を見せてくれる。一人の人物の一生における、ある一時期を切り取って凝縮させてみせたこの展開の充実ぶりは、大河小説であってこその面白さだよなぁと。

一巻の感想では、一巻から面白いから二巻ではさらに盛り上がってくれそうで楽しみだ、みたいなことを書いたけど、二巻を読みだしていきなり驚かされた。一巻末時点からいきなり四年(だったか)が経過している。フミが芸妓として勤めていた酔芙蓉は跡形もなくなっている。苦楽を共にしてきた女郎仲間もほとんど縁遠くなっている。あまりの変わりように驚くやら戸惑うやらだったのだけど、しばらくして、そうかこれは大河小説だったのだなと納得させられたのであった。それと同時に、なら一巻の話はフミの少女時代を描いたものだったのだなと思い到った。未熟ゆえの苦労はあっても、あらゆる可能性に満ちた前途への希望がそれを上回っていた輝ける時代。だが、そんな時代はもう終わってしまった。未来への可能性は狭まり、選んだ道で挫折を味わっても、這ってでも進み続けなければならない。苦難と、それを乗り越えた先にだけ栄耀が待ち受ける時期。この巻からのフミは女将の膝下から放たれて、一人立ちした女の立場。そこでは毀誉褒貶はすべて己の肩にかかり、甘えは許されない。旦那の黒谷に助けられかつての縁故を頼りとしながら、なんとか芸妓としての稼ぎを続けるフミの姿からはどんよりとした閉塞感を感じずにはいられなかった。それでも懸命に精進を重ねる様は健気さを感じさせはするものの、スランプに陥ってしまったり、大陸情勢なども向かい風が続いて難しい状況が一転する兆しは見られない。人生に運の良い時期・悪い時期があるとすれば、これはまさしく下降基調。

だが、そこからの脱出が、よかった。転機を掴もうとして普段とは違うところに行ってみたりするも、結局は徹底的に自己改造を図るという王道に帰りつく。恥を掻くことになろうとも、崩れ去った自信は一度まっさらにしてもう一度築き上げることでしか立て直せない。都合のいい奇跡なんて起こらない。自らの努力で這い上がるしかない。突きつけられた現実に持ち前のまっすぐさで正面から立ち向かう姿には、ますます夢中になってしまうような執念が感じられ。そうして立ち直っての大舞台では、苦難を乗り越えての渾身の舞に感極まらずにいられなかった。碓氷が武臣に有無を言わせぬ迫力で見ろと迫るのもむべなるかな。彼女のことを知る者は、見なければ損をしたと言えるほどの一世一代の舞。貴明は本当に惜しいことをしたよなぁと思わずにはいられない。そして、嵐のような絶賛を受ける彼女を誇らしく思えるのは、物語に没入していた読者の特権でもあり。

しかし、そうして余韻に浸っていると、またしてもフミは転機を迎える。それはフミ自身が決めたことだが、エリアナの言っていたように、本当に突然終わったものだよなぁと。惜しいといえば惜しいけど、一つ所にとどまらないのが、その時その時を精いっぱい生きてきたフミのらしさでもあると思えたり。この決断の行く末は、まだまだ右に転ぶか左に転ぶかもわからないけど、それだけに続きが気になる。たとえ辛い目に遭っても、くよくよと後悔はしないと信じて。


posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 00:13| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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