2012年05月24日

暗黒錬金術師伝説 暗黒!マリーのアトリエ (作者:D・W・W)

暗黒錬金術師伝説
暗黒!マリーのアトリエ


タイトルからもわかる通り、『マリーのアトリエ』の二次創作です。知ってる人はそれだけで大まかな流れまでわかってしまうかもしれませんが、自分のような未プレイ者向けに物語の出だしを記してみるならば、「錬金術アカデミーの卒業試験で歴代最低点を取ってしまったマルローネ(通称マリー)が、再試験として5年間の期限でアカデミーの卒業生として認められるようなものを作り出すべく、与えられたアトリエを拠点に勉強や材料の採取や実験に励むこととなる」というもの。つまるところ出発は底辺、すなわちレベル1からということ。RPGとしてはごくごくありふれた出だしではないでしょうか。そしてこのマリーという主人公。一話の時点では、歴代最低点なんてものを叩きだしてしまうあたりからもわかるように、どこかぽわぽわしてて頭はよくなさそうなんですが、それで腐ったりはせず、心配してくれる人と接するにも愛嬌がある。可愛げがあって、応援したくなってくるキャラクターとでも申しましょうか。そんなだから、周りの人たちもそんな彼女をついつい応援してあげて、色んな人に支えられながら錬金術の高度な域にまで達するのかなと、ほのぼのしたストーリーを想像したくなるもの。ですが、そこはD・W・W氏が書き出した物語。そんなのほほんとした展開にはなりませんでしたね。タイトルに「暗黒」なんてついてる時点で推して知るべしというところですが、それはもう清々しいほどにギスギスした空気を漂わせてましたよ。そこが気に入ってるんですけどね!

2カ月くらいかけてちまちま読んでたので、前半の方の記憶がだいぶ怪しいところではありますが、それでもこの感想を書くにあたってざっと振り返ってみますと、落ちこぼれだった当初からは随分遠いところに辿り着いたんだなぁと感慨に耽らずにはいられませんね。本作品において一番惹かれた点は、善悪を超越して錬金術の高みに向けて駆け上がるマリーの揺るぎない精神だったのですが、それが初めて発露したのは第二話においてと言えるでしょうか。嫌味な奴を撲殺する場面を想像しながら何度も何度も杖の素振りをして悦に至る女の子って……。それまでも、アカデミー入学前は大人に交じって狩りなどをしていた経験から、世間知らずのぼんぼんなどよりはよっぽど地に足付いた思考をしてましたが、彼女の異常性がその片鱗を覗かせたのはそこが初めてだったと思います。そのシーンを読んだ時は、マリーと一緒に黒い笑いを浮かべながら「ついに来たか」などと胸の内で快哉を叫んでいたものです。でも、読み進めていくうちに、そんなのはまだまだ可愛いものだったんだと思い知らされたんですよね。大きな成果を上げたり難しい実験に成功すると、そのたびに暴力的な衝動に駆られて暴れ回る暴れ回る。それこそ森に分け入ってして動物を殺す、賊の討伐にことよせて人を殺す。原始的な衝動を剥き出しにした先に、殺戮の宴を何度も現出させやがりますよこの子は。そうして恐怖と共に広まった通り名が「鮮血のマルローネ」。あまりにもしっくりきすぎて、もう原作のあの可愛らしい絵柄でイメージできないんですが……。しかし、その反社会的な性向も、錬金術師としての力量の向上と表裏一体に現れてきたものなんですよね。すなわち、歪みを抱えた天才というやつでしょうか。マリーに言わせるならば、何かを極めようとするということは非人間的になっていくということ、らしいのですが。そしてその言葉通り、なんら愧じることなく暴力的な衝動を発散しながらも錬金術師の高みに近付いていくのだから恐れ入る。といっても、天才的なひらめきによって二段三段飛ばしで駆け上がっていった訳では決してない。年頃の女の子なら興味を持つだろう恋やおしゃれを端から眼中に入れず、与えられた時間の許す限り、体力に任せて、自分はこれで身を立てるんだという覚悟をもって錬金術に打ち込み、血のにじむような努力のもとで一歩一歩しっかり踏みしめながら上達していくんですよね。時間と努力は裏切らないといいますか。それに、暴力衝動の描写のせいもあってか、より上のステージに上がるほどに、手掛けるプロジェクトもやりがいや達成感が増していくように見えて、その楽しそうなことといったら。仕事の楽しさってこういうものなのかななんてことを思ったり。

また、マリー以外の人物についても、原作のかわいらしいイラストから想像できそうな華やかなイメージとは程遠く、野心のために多くの血が流され、巻き込まれて悲惨な末路を迎える者もいた。この作品における世界では、人間は竜をも狩ることができる地上最強の種族でありながらなお、生きていくには優れた能力と社会の中で立ち回る才覚が要求されてるんですよね。優秀でなければ、野心家の陰謀に巻き込まれ、あるいは捨て駒として消費されていくだけ。優秀であっても、上には上がいるということになれば、当初の目論見を曲げられて、思い通りには運べない。けれど、結果としてみれば、優秀であるに越したことはない。しかも自分一人の絶対的な話ではなく、他人と比べた上での相対的な話だ。幼い頃よりごく自然に悟ることとなったであろうその原理こそが、錬金術師の高みへと邁進するマリーの原動力だったとも思うのだが、とにもかくにもシビアな世界ですよホント。でも、そんな世界なのにワクワクするような夢を見させてくれるんだからこの物語はすごいんだよなぁ。

そして、思い返してみると色々あった、マリーにとって激動のこの五年間の締めくくりも、本人の人生にとってのゴールには程遠いんですよね。まだまだ先がある。まだまだ高みに至れる。この話はここで幕を閉じても、マリーの人生の物語はまだ終わらないんですよね。けど、この時点で、マリーは錬金術師としてもう稀代の傑物ですよ。一体ここからまだ何をやらかしてくれようっていうんですか。この話はこの五年間を切り取ってきただけのものに過ぎないとなれば、それはもう想像を掻き立てられるものがありますよ。エピローグにおいても希望と可能性に満ち溢れたマリーの背中は、とてつもない輝きを放っているように思えました。

色々書いてきましたが、一言で言うならば大好きと言い張れる作品でした。残り五話を切った辺りからは本当に、読みきってしまうのがもったいなく思えて、ただでさえゆったり目のペースがさらに落ちてしまって。けど、なんとか読み終えることができて、物語が本当に終わりを迎えたわけではないのだと知ることができて、それまででも既にそう思ってましたが、この作品に出会えてよかったという気持ちをより一層強くしました。
ラベル:D・W・W
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 04:23| Comment(0) | TrackBack(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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