2011年05月03日

雪蟷螂

雪蟷螂 (電撃文庫) [文庫] / 紅玉 いづき (著); 岩城 拓郎 (イラスト); アスキ...
雪蟷螂 (電撃文庫) [文庫] / 紅玉 いづき (著); 岩城 拓郎 (イラスト); アスキーメディアワークス (刊) bk1はこちら

龍花さんのMADを見て興味を持ち、読了。

かつて続いたフェルビエ族とミルデ族の間での戦。二つの山の民の諍いは十年前に停戦の約定が結ばれた。そしてその約定にもとづきフェルビエの族長アルテミシアとミルデの族長オウガとの婚姻が行われようとしていたが、暗雲が立ち込め出し――という感じのお話。

すごくいい。ときに蛮族のそしりを受けるフェルビエの女たちの恋は、とてつもなく美しい。生涯で一度きりの恋情を、身を焦がすほどの想いを、刹那に込めて吐き出すさまは、刃物のように冷え冷えとした鋭さをしていながらも切り裂かれて噴き出る血潮はその想いに応えるかのように熱い。雪国という舞台だからこそ描ける身を切るような劣情と、その寒さすら吹き飛ばす激情に、ただただ圧倒されるばかり。「あなたを食べたい」。野蛮なことこの上ない愛の告白は、けれど渇望してやまない切なさを表すこの上なく適切な言葉でもある。素朴な蛮人たちにのみ成しうる、自らのすべてをかなぐり捨て相手に叩きつけずにはいられない愛の果てが、ただただ尊い。お伽噺のようでありながら、我を忘れてぼうっと見入ってしまう美しい物語でした。

言葉多く書けば書くほどこの作品の持つ美しさを損ねてしまう気がするんですが、書かないと落ち着かない性分なので蛇足までにもう少し。

ロージアの恋。それはいわば殺したいほどの想いというものだろうか。付け狙ってやまない敵、他の誰にも譲りたくない敵。どうしようもなく物騒な恋慕だけど、己のすべてを懸けた一撃は刹那の生死の交錯でありながらもまぎれもない愛の告白であり、命のやりとりはそれこそが愛の語らいのようで。この二人の愛の行く末はたまらなかった。「あなたを食べたい」という言葉を最も鮮烈にイメージさせられるのは間違いなくこの二人。切ないなあ。そしてその儚い最期にしびれた。刹那の激情にすべてを込めるフェルビエと永遠にその想いをゆだねるミルデの伝統が習合したような死に際。決して許されるものではなかっただろうが、両族の融和を最も象徴的に表していたのもあの姿ではないだろうか。

一族長に過ぎないアルテシアを陛下と呼んで敬うルイ。本人の口からも語られていたように、彼女がアルテシアに対して抱く感情は信仰といっていいものが感じられた。でなければあのラストはありえない。崇敬する主人に自らのすべてを差し出す喜び。それは己を供物として捧げるような自己犠牲的な忠誠。一体なにが彼女にそこまでさせるのだろうかと疑問にも思ってしまうが、それを勘繰るのは不粋だろう。それはともかく、彼女にも訪れる生涯でただ一度の恋。恋多き女でありながらも真の恋情を捧げるに足る相手を見つけれずにいた彼女が見出した唯一人の男。信仰するアルテシアに対してさえ意見せずにはいられなくなるほどの想いは、恋なのでしょう。

アルテシアのクールさは恋なんて似合わないよなあというか、そもそも釣り合う男なんているのかと思ってしまうほどだったけど、そういうことかと納得のラスト。トーチカの言う通り、欠けることのないたった一人の女王陛下だったんだなあ。彼女に訪れる次の春は、美しいに違いない。

『ミミズクと夜の王』は合わなかったんですけど、これはすごくよかったですね。作者が女性であるからか、どこまでも女たちの話。刹那の想いを紡ぐ女たちの話。冬の寒さをその身に感じながらこそ楽しみたい物語でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 16:14| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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