2020年03月16日

レコンキスタの実像 中世後期カスティーリャ・グラナダ間における戦争と平和

何年も積んでたんですが、やっと読めました。
レコンキスタの実像: 中世後期カスティーリャ・グラナダ間における戦争と平和 - 黒田 祐我
レコンキスタの実像: 中世後期カスティーリャ・グラナダ間における戦争と平和 - 黒田 祐我

タイトルが実に簡潔にテーマを説明してくれてますね。中世後期のカスティーリャ・グラナダ間における戦争と平和をめぐる諸活動からレコンキスタの実像を描きだす一冊。たいへんに面白い本でした。

著者も述べているように、そもそもレコンキスタを扱いながら中世後期をメインにした日本語の文献自体が貴重なんですよね。学術誌まではあまり手が出せていないものの、書籍として一般に刊行されているものとしては中世盛期までの記述がメインなものが大半を占めるのが現状でして。というのも、中世後期におけるレコンキスタはどうしてもそれ以前までのダイナミックな展開に欠けるところが否めない。大国と化したカスティーリャ王国に対して、風前の灯火のような小国グラナダ王国が対峙するのみの情勢では、消化試合のように扱われたとしてもしかたのないところ。個人的にも、この時期はいまいち地味で魅力を感じられないなと思っていました。

しかし、本書はそんな中世後期におけるレコンキスタにも興味深い側面があったことを豊富な史料をもとに伝えてくれるたいへん面白い一冊でした。

1246年のハエン協定から1492年のグラナダ陥落までおおよそ250年にもわたる期間、その一見して停滞しているかのようなカスティーリャ・グラナダ間の関係をつぶさに見つめることで浮かび上がってくるものは、キリスト教国家とイスラーム国家が境を接する地域で織り成される、ときに両住民間の宗教的な相違をも超える協力と対立、まさに異教の接する前線地帯で生じる現実なのでして。それが妥協的な産物であれ、必要に応じて生み出されたものであれ、そうした社会のありようこそがレコンキスタの時代の面白さのひとつなのだと思うのですよね。
そしてそれを象徴するのが、本書のテーマのうちのひとつである、カスティーリャとグラナダそれぞれの王宮廷の意向にときに背きながらも最前線地帯で独自に構築される外交関係や相互の協力を前提とした社会慣習などの存在なんですよね。

戦争が起これば真っ先にその影響を被ることを免れない前線地帯においては、戦争を見据えた社会が構築されていかざるをえない。しかし両国間の国境は広大で、そのすべてをカバーしうるリソースはどちらにもない。となれば、不足する資源を確保しようとして略奪は頻繁に発生し、誘拐や殺人などといった暴力的な事件もたびたび起こり、前線地帯では危険と隣り合わせな日常が過ごされることになる。これがエスカレートしていけば、国家間の戦争にも発展していきかねない。

ただし、そうなるともっとも被害を受けるのは前線地帯に生きる人々自身になってしまうのであり。そうした暴力の応酬には一定程度のところで歯止めをかけてやらねばならない。そこで、互いに落としどころを探ったり、ときには独自に休戦協定を締結することさえあったというから驚きで。

キリスト教徒とムスリム、両者、互いに聖戦を行っている敵同士なわけですよ。そうした宗教の相違さえ超えて、前線地帯では協力関係が成立するという。しかも、それを為さしめたのは、宗教対立の時代にあって稀有な寛容の精神であったという学説も提起されているけれど、著者によればそうではなく。むしろそれは、過酷な現実が迫る必要に応じた妥協の精神であったというのであって。現実的というかプラグマティックというか、とにもかくにもこうした社会像はとても面白く映るのですよね。そうした社会像を、豊富な事例をもとに存分に堪能することができて、とても楽しい読書でした。

また、辺境の地グラナダに追いやられたムスリム勢力を、レコンキスタ初期にアストゥリアスの地に追いやられたキリスト教勢力と対比させる記述はなかなかに興味深かったですね。当時のアストゥリアス・後ウマイヤ間も、征服するのはコストにリターンが見合わないからと略奪遠征主体で済ませてよしとされてたんだったかと思いますが、本書のカスティーリャ・グラナダ間も同様のものだったのかなと思うとイメージしやすいものがあって。王国間休戦協定もその略奪的な経済関係の延長線上と言われると納得できるものありましたね。

ただそうなると、それじゃあカトリック両王による「グラナダ戦争」はどうして生じたのかという疑問が浮上してくるところであり。本書では終章にて西欧世界で醸成された反異教の空気感がカスティーリャ王宮廷にまで広まったことによる不寛容な対決姿勢によるものとしていましたが、この点に関してはまだ根拠があいまいでやや疑問が残るように感じました。

ともあれ、異宗教国家が接しあう前線地帯における現実的な戦争と平和の実像を描きだした論説として、たいへんに面白い一冊だったと思います。レコンキスタに興味がある方はぜひ……と言いたいところですが、さすがにレコンキスタの中でも一部のテーマに特化しすぎているかなという気もするので、まず概説的なスペイン史の本でレコンキスタの流れを押さえて、さらに詳しく知りたくなったところで読んでみるのがいいと思います。


posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:08| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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