2019年08月02日

愛玩調教 過保護すぎる飼い主の淫靡な企み

愛玩調教 過保護すぎる飼い主の淫靡な企み (ムーンドロップス文庫)
愛玩調教 過保護すぎる飼い主の淫靡な企み (ムーンドロップス文庫)

主従な関係のヒーローとヒロインの恋愛譚。まあ好きに決まってますよねという。

ヒロインはヒーローの一族子飼いの“番犬”のひとりであり、主人に絶対の忠誠を誓いながら主人の身を護ったり命じられるまま工作活動に携わる諜報員のような存在。ヒーローのほうは、そんな“番犬”を何人も抱えて規模を拡大させてきたマフィア的な企業の跡取りとして、各所に敵を抱えながらも着々と勢力を広げるやり手の御曹司。

このヒロイン・ローズからの主人・オースティンへの敬愛ぶりがすごくよかったんですよね。なによりも主人が第一な忠義ぶりと、直接本人へは伝えられないながらも描かれていく内心によってこれでもかとばかりに伝わってくるオースティンへの恋心。それらが合わさって、主たる一族への忠誠を骨の髄から叩きこまれる“番犬”たちのなかでも際立った主人への情愛の念を感じさせてくれるのがこのローズというキャラでありまして。

好みのファッション、好きな食べ物……。そういった、自分自身の記憶や感覚によって選り抜かれるはずのものでさえ、オースティン抜きにして思い浮かんでくるものはなく、徹底してオースティンありきでしか自分というものを考えることができないヒロイン。その首まわりにはオースティンの手ずからつけられたチョーカーが光り、専属として常にオースティンのそばに侍ることに意義を見出してもいる筋金入りの忠犬。オースティンから求められれば体を差し出すこともいとわないし、結ばれることの許されない主従の間柄を考えればそれはなによりのよろこびでもある。

そんな、秘めた恋心に身を焦がすヒロインが主人公の恋物語。あらためていいますけど、好きに決まってるじゃないですかというところで。

ヒロインは報われることのない恋心を胸に秘めた“番犬”で。けれどそれに対して主人が彼女のことをどう思っているかは、初めのうちはいまいちわからない。

任務で情人のフリをすることを命じられたかと思えば、恋人っぽく言い寄られたり、物陰で慰めを求められたりもして。ローズとしては恋心を抱くオースティンにそんなことをされればドキドキさせられっぱなしになってしまうところではあるけれど、一方のオースティンは演技でそんなことをしているのか、そのついでにちょっとした余興のつもりで楽しんでいるのか、その真意まではローズにはわからない。主人に与えられる快楽は至福の心地であるはずなのに、とまどいの気持ちが消しきれない。そんなうれしさと困惑が入り混じった頼りない心理状態がたいへんによかったのでありまして。

しかも、話が進むにつれて、ローズの側からはますますオースティンの考えがわからなくなっていく展開。オースティン抜きでは自分のことすらわからないのに、そんな自身の内面を掘り下げることを求められるような課題が次々に与えられ、オースティンのそばにいることが一番の存在価値なのに、オースティンから離れた世界で拠って立つ拠り所を身につけることを求められるような任務が課されるようにもなってくる。

もしかして自分はもう用済みになってしまったのだろうか、オースティンに捨てられてしまうことになるのだろうか。そんな不安から、せっかくできた友人とも悄然としてしか過ごせず、逆に主への募る恋心を意識せざるをえなくなっていく心情がすごくよかったですね。

ただ、オースティンの側から見れば、ローズを突き放したくなる気持ちもわかるというか。ローズをはじめとした“番犬”たちの主たる一族への忠誠心って、刷り込みレベルの教育による賜物以外の何物でもないんですよね。ローズがオースティンを慕う気持ちをとっても、彼がローズの専属の主だからという事実が根底の何割かにあるのは否定しがたい部分があって。

“番犬”としてのローズならば、オースティンが命じればどんなこともする。けれど、命じられるがままの人生にどれほどの幸福があるのか、ローズのことを大切に思えば思うほどにそこには疑問が湧き出てこずにはいられない。

そんな心理から生じたすれ違い。じれじれとした展開がとてもよかったです。

とはいえ、どれだけオースティンの側から突き放すようにしても、そうされるほどに彼への気持ちを募らせていくローズに対しては要らぬ心配だったところでもあり。どこまで突き放されようと、オースティンなしの人生なんて選べないローズの健気なほどの想いが発露する展開はたいへんいいものでした。

収まるべきところに収まった、とてもいい主従恋愛譚でした。どうぞお幸せに。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:26| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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